千葉市内を拠点に、医療や介護、保育や障がい者支援事業までを幅広く展開している株式会社在宅支援総合ケアーサービス・株式会社さくらホーム・医療法人社団響心会・医療法人社団良弘会などを合わせた総合ケアーサービスグループを運営する依田和孝氏。2011年に設立以降、グループ全体で今や年商24億円、社員数500人の規模にまで成長している。
千葉市の稲毛区域で、障がい者事業も展開するほか、高齢者向け住宅などを建設する工務店事業をさくらホームは担っている。
社長の依田和孝氏はメガバンクの元銀行員。総合病院への融資を担当する中で、これからの超高齢化社会では在宅サービスが欠かせないと考え、今後の高齢化社会を支える担い手になると決意し、思い切って起業に踏み切った経緯がある。
工務店事業の右腕には長く建設業界で従事し、技術者として活躍してきた鈴木啓二朗氏を常務取締役として招聘し、さらなる事業拡大に余念がない。今回、依田社長と鈴木常務の両者が事業内容と高齢化時代における建設事業のありようについて語った。
メガバンクの銀行員から医療・介護などの支援事業をスタート
――安定したメガバンクの銀行員を辞められて、起業されたのはなぜ?
依田社長 当時は、稲毛支店と千葉支店に配属され、総合病院の融資を担当していました。その中で、基本的に先進医療やMRI、救急、小児、産婦人科などについては審査の点数が高かったのですが、その一方で、国は療養型病院を減らしていた時期で、「医療から介護へ、そして介護から在宅へ」と、自宅での介護に方針を切り替えていたタイミングでした。とはいえ、日本では在宅支援の体制が整っていなかったため、国からの後押しもあり民間企業が続々と参入していきました。
また、銀行としても当時は都市銀行の合併が続いていた時期で、ポストの空きもなくなっていました。こうした中、自分の将来を考えて、入行から12年で銀行員生活に終止符を打ち、株式会社の形態として医療業務が唯一可能な訪問看護ステーションを、稲毛駅前に開業することにしました。その後、訪問介護や訪問看護、福祉用具貸与、保育や住宅改修なども手掛けるようになり、介護・福祉事業をワンストップで、千葉市内を中心に事業を展開中です。今は赤ちゃんから高齢者まで世代を問わないケアに強みのある会社へと成長することができました。
看護小規模多機能居宅介護 Nursing Home八千代台
超高齢化社会でリフォーム工事は増加の一途
――順調な介護事業にとどまらず、「さくらホーム」を立ち上げて建設業界に参入された理由は。
依田社長 当初は、高齢となり使えなくなった和式トイレを洋式トイレに変える、また階段に手すりを設置するなど、介護の領域にかかわる小規模工事を中心に受注していました。これらは、介護保険から居宅介護住宅改修費(介護予防住宅改修費)として最大20万円の補助を受けられる、いわゆる”介護リフォーム”です。そこから波及して、屋根の修繕工事といった、介護保険の補助対象外の工事も合わせて依頼されることが増えたため、本格的に建設事業をスタートしました。
厚生労働省によれば、将来的に介護職員が60万人超も不足すると言われており、ご自宅での介護が中心となる流れは避けられません。今後、自宅で介護がしやすい住宅構造とすることがより重要となるため、私たちとしてもこの介護リフォーム事業を伸ばしていく考えです。
看護小規模多機能型居宅介護は稲毛東など3地区にある。
鈴木常務 快適な住まいのためのリフォームは、高齢者や障がいをお持ちの方をはじめとして非常に需要も大きいんです。千葉市稲毛区にはURの集合住宅がありますが、5~6階に住まわれている高齢者にとって日々の階段の上り下りは体力的にも難しく、引っ越さなければいけない場合も出てきます。
こうした方々に向けた住宅は確実に増えていきますので、今後はケアが必要な方向けの住宅デザインや設計という考え方はより重要になってくるかと思います。
通い・訪問・宿泊全てに対応したどなた様も利用が可能な介護施設
――超高齢化社会の到来で、住宅像も変わりますね。
依田社長 施設介護については、社会福祉法人や自治体が運営する公的施設の特別養護老人ホームは比較的安価ではありますが、それでも月に10万円前後の費用負担がありますし、そもそも希望者全員が特養に入居することはできません。とはいえ、民間事業者などが運営するサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホーム、認知症の方が入居するグループホームなどであれば、より高額の費用が必要です。
しかし、訪問介護についてもホームヘルパーの人手不足が続いており、すでに限界を迎えている状況です。そのため、親族の方がご退職されて介護されることも増えており、いまや年間10万人もの介護離職が発生している状況です。つまり、介護にかかる労力によって、これだけ日本の労働力が喪失していることを意味しています。
この状況を食い止めるためにも、駅から近く、コンパクトで、少ないヘルパーでの介護が可能なサービス付き高齢者向け住宅事業の推進を進めているところです。入居費は特養よりも安価で、建設費も一室あたりをコンパクトにすることで抑制できればと考えています。
介護領域のサービスを一気通貫で提供し差別化
――このサービス付き高齢者向け住宅事業は、どのようなビジョンで進めていきますか。
依田社長 私たちのような民間企業としてできることは、低賃料の集合住宅の建設・運営です。有料老人ホームとの違いは敷金・礼金がなく、介護サービスも受けられ、地域密着型で運営していける点で、これがもっとも経済的であるとも考えています。これらを、まずは千葉市の稲毛区、美浜区界隈を中心に、まずは5棟の建設に着手していく考えです。この地区は公営団地が多く、当社もヘルパーを派遣していますが、階段で回るためヘルパーにとっても重労働ですから。
鈴木常務 施工自体も「さくらホーム」が担当します。サービス付き高齢者向け住宅は他社の工務店でも施工することは可能ですが、医療・介護・福祉の現場を知っている私たちとしては、一気通貫で介護サービスまで提供できることが強みですし、住まわれる方もそのほうが安心できるかと思います。この一気通貫による価値提供で、先に話したように、日本の介護業界が抱える課題に貢献していければ嬉しいですね。