私は今、フィリピンで現場管理の仕事をしている。こっちに来て早一か月が過ぎた。この国で働くのは8年振り、今回が3度目だ。
フィリピンでの仕事や生活には慣れているので、それほど驚くようなことはないのだが、最近現場で感心したことがあった。
鉄骨組み立て時の臨機応変さ
ある日のこと。
床スラブから立ち上がったアンカーボルトが、既定の位置から常に少しずつズレて、大きいところでは20~30ほどアンカー芯と後から出した墨とでズレが生じてしまっていた。
アンカーは、スラブの下の柱から立ち上がったモノだが、柱の中心に据えることにのみ神経が集中し、柱の頂点間の距離を気にしていなかったために、結果としてアンカーがズレてしまったわけだ。柱の高さが約8mあるので、その中心にアンカーの芯を揃え、かつ柱の頂点間の距離も揃えるのは確かに簡単ではない。
この場所に立つ鉄骨は、柱が屋根の登り梁を支えていて、屋根の骨組だけを支えれば良いわけで、上階にさらに伸びるような鉄骨構造ではない。ゆえに、とにかく既定の鉄骨部材を繋ぎ、その接する部分と関係する部材のナットを緩め、上下左右に動かし、鉄骨同士がピタッと接するように組み上げれば何とかなる。
鉄骨の骨組は一方向だけで、その登り梁は母屋だけで繋げる構造になっている。微調整しながら一か所ずつ組み立てていけば、アンカー芯がズレて多少柱が傾いたり、柱脚プレートの高さが床スラブより浮き上がっても、全体としては何とかできるだろう!と色々と考えていた。
感心したのはここからだ。
そんな私の考えをよそに、現地の鉄骨職人(日本で言う鉄骨トビ)の連中は、一切悩むことなく、当たり前のような顔で微調整を繰り返しながら、信じられないスピードで3割ほどの組み立て作業を終了させた。
まだ柱を動かして微調整の可能性のあるところはシングルナットのままだが、この調子で行けば何とかなりそうだな!と感心するスピードだった。
微調整の必要を予測してか、柱脚プレートのボルトの孔は、日本の同程度のモノと比較して3倍の量のアンカーボルトが立ち上がっている。日本なら4本程度で十分な柱に、さらに8本程追加され、計12本程のアンカーボルトが立ち上がっていた。
確かにアンカーの数が多いほうが自在に傾きなどの調整も可能だ。その発想は、日本の現場では思い付かないことだろう。
初めて見た金ゴテ押さえ
もう一つ、感心したことがあった。
一辺が150mを軽く超える床の土間スラブの仕上げを4等分して打設するのだが、私が初めてその現場に行った時には4分の1が打設済みで、その日にさらに4分の1の打設を行ってる真っ最中だった。
そこには、日本では見かけない小型トラクターのような、下に車輪の付いた機械が4台ほど置いてあった。
何かと思って現地の人間に聞くと、車輪の下を指さし、クルクル水平にまわる仕草をしている。車輪の下を覗くと、コテ押さえ用の羽が二機付いていて、よく見ると車輪は取り外しができるようになっている。
恐らく日本では許可されていないのではないかと思われるが、車のように人が上に乗って操縦しながら、その車体の下で金ゴテの羽が回転しながら、コンクリートの土間やスラブ表面の金ゴテ押さえをする機械のようだ。
すでに打設が終わった表面を見て、「やけに密度濃く綺麗にできているな!見れば見るほど、こりゃ凄い!日本のコテ押さえより上だぞ!」と驚いていたが、それはこの機械のお陰らしい。
機械だけで700kgくらいあるので、その重量を掛けて表面を押さえると、当然密度は濃くなる。これまで私が見てきた仕上げの中で、一番の仕上がりだった。
日本でこの機械を使おうとすると、やれ免許がどうとか、そんなことが弊害になって使えないのかも知れないが、日本の建設関係者がこの仕上がりを見たら、かなり驚き、自分の現場でもぜひ使いたい!と言うに違いない。
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一風変わった誕生日の祝い方
余談だが、今回初めて知ったことがある。それは、フィリピンの誕生日は、日本と違う祝い方をするということだ。
日本では、誕生日には周囲から祝ってもらい、プレゼントをもらったりすることが多いと思うが、フィリピンでは、誕生日を迎える本人が周囲の人にご馳走を振舞うらしい。本人が相当な出費をしてでも、みんなにご馳走を振舞ったりするのが、この国の習慣のようだ。
「みんなのお陰で誕生日を迎えられた」という周囲への感謝の気持ちを込めて、みんなにご馳走を振舞うそうだ。他にも、自分が他人に対して良い施しをすれば、自分も幸せになれるという言い伝えからきているという一説もあると聞いた。
「良い話だな」なんてのんきに話を聞いていたが、実際、お金に余裕のある人とない人がいるわけで、お金に余裕のない時は、誕生日が近づくと戦々恐々としているそうだ…。
――海外に来ると、日本人の常識とかけ離れていることがたくさんある。だからこそ、「日本の常識に囚われず、もっと広い目で見よう!」と常に心掛けている。
新しい発見や文化に触れられることこそが、海外で仕事をする一番の魅力だと私は思う。