働き方改革に向け、国交省ではどのような取り組みを進めているのか
建設業の働き方改革のカウントダウンが始まっている。これまで適用が猶予されていた罰則(罰金)付きの時間外労働(残業時間)の上限規制の適用(2024年4月)まであと1年を切ったからだ。
この上限規制が適用されると、残業(1日8時間を超える分)が許されるのは、原則月45時間、年360時間までとなる。ざっくり言うと、1日当たり2時間以上の残業が続くとアウトになるということだ。これまで「残業が当たり前」だった建設業にとっては、高いハードルだ。この規制を遵守しようとすると、退社したことにして自宅で仕事をするといった「ヤミ残業」のリスクが懸念される。
国土交通省では現在、働き方改革に向けどのような取り組みを進めているのか、また、建設現場などの働き方改革への対応をどう見ているのか。本省で働き方改革関連施策を所管する建設システム管理企画室長の室永武司さんにお話を伺ってきた。
建設業界みんなで乗り越えるべきハードル
――建設現場などの働き方改革への対応について、現状をどうごらんになっていますか。
室永さん 2024年4月の時間外労働規制の見直しに向け、われわれとしては、発注者がやらなければならないことと、受注者さんが取り組まなければならないこと、この2つがあると考えています。
発注者がやるべきこととしては、たとえば、ムリのない工期設定、提出書類の簡素化など仕事自体の簡素化といったことがあります。受注者がやるべきこととしては、ICT機器などを駆使した作業の効率化、建設ディレクターを活用した書類業務の効率化、専用アプリケーションを利用した書類づくりの自動化などが考えられます。
建設業界内外の知恵を結集しながら、みんなで乗り越えていくべきハードルであると認識しています。今は、そのためのプラクティスを業界全体としてどんどん積み重ねていっているフェーズであると理解しているところです。
週休2日で休日の「質の向上」を実現する
週休2日対象工事の実施状況(国土交通省資料より抜粋)
――建設システム管理企画室として、働き方改革対応のためにどのような取り組みを進めているのですか?
室永さん 国直轄工事を対象に週休2日を確保するため、適正な工期設計や経費補正といった取り組みを計画的に実施しています。週休2日の実施状況としては、平成28年度が工事件数165件だったものが、平成29年度には1106件、平成30年度には2745件、令和元年度には4450件と着実に拡大してきました。令和3年度には7300件となっており、全体工事件数に占める割合で見ると、平成28年度が20%以下だったものが、令和3年度には90%以上に上昇しています。
ただ、これらの数字は、工期全体を通した通期として見た数字であり、月単位のものではありません。たとえば、工期が数ヶ月間ある場合、ある月は休みが多かったり、別の月は休みが少なかったりするということです。これを月単位で週休2日、4週8休にもっていくことが、これからの取り組みになります。われわれは、これを休日の「質の確保」から「質の向上」と捉えており、令和5年度から実施しているところです。
これを実現するための施策のパッケージを列記すると、下記になります。
- 週休2日を標準とした取組への移行
共通仕様書、監督・検査等の基準類を、週休2日を標準とした内容に改正 - 工期設定のさらなる適正化
天候等による作業不能日や猛暑日等を適正に工期に見込めるよう、工期設定指針等を改正 - 柔軟な休日の設定
出水期前や供用前など閉所型での週休2日が困難となった場合に、工期の一部を交替制に途中変更できないか検討 - 経費補正の修正
月単位での週休2日工事で実際に要した費用を調査し、現行に代わる新たな補正措置を立案できないか検討 - 他の公共発注者と連携した一斉閉所の取組を拡大
若い担い手確保には「有給休暇の取得」も必要
週休2日工事の発注方針(国土交通省資料より抜粋)
――働き方改革の中には、週休2日以外にも、年間5日間以上の有給休暇の取得といった内容もあるわけですが、有給休暇の取得への対応はどうなっていますか?
室永さん まずは月単位での週休2日を実現しようというところに注力しているというのが現状です。有給休暇の取得は労働者にとって当然の権利なので、有給休暇を取得するためにどういう仕組みが必要かについては、週休2日と並行して取り組んでいかなければならない課題だと認識しています。
私は、技術調査課に異動してくる前は、北陸地方整備局の信濃川河川事務所で所長をやっていたのですが、地元の建設会社の方々とお話しすると、「若い担い手を確保するには有給休暇の取得が必要だ」という声をしばしば聞きました。若い担い手の確保という観点からも、避けて通ることができない極めて重要な課題だと考えています。そのためには、現場を交替制にして仕事を回すといったことに取り組む必要があります。
――来年度に向けて「イケる」という手応えはありますか?
室永さん 発注者と受注者双方で実現しなければいけないと考えています。われわれとしては、常に建設会社の方々とコミュニケーションをとりながら、目の前の課題を協力しながら一つずつ乗り越えていくという心構えでいます。これを真摯にやり続けていくこと、これに尽きると思っています。
発注者と経営者が心を砕いて仕事を組み立てるしかない
――ヤミ残業がさらにヤミ化する懸念がありますが、どうお考えですか。
室永さん ヤミ残業は、そもそもあってはならないことだと思います。そのようなものが発生しないよう、発注者の立場から言えば、適正な工期設定や現場協議の効率化など、常に改善し続けるべき課題があると思います。
一方で、それぞれの建設会社の経営のあり方が問われる部分もあると思います。時間内に仕事を終わらせる、仕事量がオーバーフローしないようにするためには、業務の効率化など、会社としてもやれることはたくさんあるように思うからです。
そういうことが起きないようにするためには、発注者と経営者があらかじめ心を砕きながら仕事を組み立てておく、これに尽きるんじゃないかと思っています。
ひたすら詰め込む時間も必要だが、自由な時間も必要
――「休んでばかりでは一人前の技術者にはなれない」という声もありますが、どうお考えですか?
室永さん 私の個人的な話になりますが、私が国土交通省に入った20数年前は、残業がスゴく多かったです。終電がなくなって、タクシーで帰宅することも少なくありませんでした。ただ、ここ数年はそういうことはほとんどなくなりました。
では、今の若い職員たちが全然育ってないかと言えば、そんなことはありません。むしろ、今の若い職員は、プライベートの時間を有効に活用している人も多く、ITや国際など、建設業界以外の新しい知識やさまざまな人との交流を持っているので、われわれよりも広い視野を持っているように感じることがあります。
昔と今では仕事に対する価値観は違っていますが、「学びたい」とか「知りたい」という人間がそもそも持っている欲求は変わっていないと思っています。
職場以外の異分野の人とつながるという素地は、建設業界にイノベーションをより起こしやすいのではないかと感じています。若い人が育っていくためには、ひたすら詰め込む時間は必要かもしれませんが、自由に過ごす時間も必要だと思っています。今の時代はその両方をやっていくことで、トータルでの生産性が上がっていくのではないでしょうか。
来年度には当たり前になっているぐらいの勢いで取り組みたい
――自治体などの発注者との連携はどうなっていますか?
室永さん 先日、ある地方ブロックの県政令市の土木トップと意見交換する機会があったのですが、国と自治体で足並みを揃えて対応していきましょうということで、お互い一致していると感じました。
個人的には一般の市町村の取り組みも重要だと思っていて、市町村ともしっかり連携しながら取り組んでいきたいと思っているのですが、市町村とダイレクトに連携するのはなかなか難しいところがあります。そういう状況だとしても、都道府県を通じて、いろいろな働きかけ、支援などを行なっているところです。
――「週休2日、残業なし」が当たり前になると思いますか。そうなるのにどれぐらいの期間がかかると思いますか。
室永さん それが当たり前の建設業界にしていかなければならないと考えています。具体的に何年後かと言われると、答えるのが難しいですが、ただ、意気込みとしては、来年度にも当たり前になっているぐらいの勢いを持って、みんなで一緒に試行錯誤しながら取り組んでいきたいと思っています。