スパイダープラス株式会社(東京都・港区)はこのほど、「建設業における働き方改革関連法」に関するメディア向けセミナーを開催した。
講師には現役弁護士の高橋俊輔氏(同社執行役員法務担当)が登壇。法適用によって建設業がどう変わっていくのかを、法律の専門家の見地から解説。続いて、大林組グループの一員であるオーク設備工業株式会社生産統括部生産企画部グループ長の髙山郷司氏がDX推進で直面した課題や成功の秘訣、DXによって得られた効果、付加価値や働き方改革の最前線にいる成功事例を紹介した。
「建設業の2024年問題」は今や目前に迫っている。特に深く関わる「働き方改革関連法」は2024年4月から建設業でも適用される。法の適用により、労働時間の上限規制が設けられ、長時間の残業には罰則などが与えられる。そこで業界全体の生産性向上や効率化の仕組み作りが急務となっている。
「働き方改革関連法」の認知は建設従事者の6人のうち1人
高橋氏は、建設業界の抱える問題は長時間労働であり、他の業界に比べて年間350時間も長く働いているというデータを提示。これは月にならすと30時間近く長く働いていることになる。その上、20年後の建設業界は約40%も働き手が減少するという予測もある。
一方で、スパイダープラスは、建設業従事者2711名を対象に「働き方改革関連法」への認知度をスクリーニング調査したところ、「働き方改革関連法」の十分な認知は、建設従事者のうち16.4%にとどまり、これは6人のうちわずか1人ということになる。
高橋氏は、こうした「知らない」ことへのリスクについて、「法律違反による行政・刑事手続」「労働紛争による訴訟リスク」「法令違反によるレピュテーションリスク」を挙げる。

スパイダープラス執行役員法務担当の高橋俊輔氏
会社名も公表されれば企業ブランドの失墜も
まず知っておかなければならない点は、時間外労働に関して、罰則付き上限が初めて導入され、仮に上限を守らないのであれば刑事罰が与えられる可能性がある点だ。
元々、法定労働時間は「1日8時間、1週間に40時間」と定めており、この時間を超えて働くためには使用者と労働者の間で36協定を結ぶ必要がある。その結果、「月45時間、年360時間」の時間外労働が認められ、これをまずは「1段階目」の時間外労働と呼ぶ。次に、さらなる長時間の時間外労働も一定の条件の下で認められており、これを「2段階目」の時間外労働と呼ぶが、この「2段階目」の時間外労働が認められるためには、「使用者と労働者の合意」、「臨時的な特別の事情があること」が必要となり、次の4要件を守る必要がある。
- 時間外労働→年720時間以内
- 時間外労働+休日労働→月100時間未満
- 時間外労働+休日労働→「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」がすべて1か月あたり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度

法改正による時間外労働の上限ポイント / スパイダープラス
あってはならないことだが、法違反をしてしまった場合、どのような行政手続や刑事手続を受けるおそれがあるのか。まずは、労基署による企業幹部の呼出指導とその後の改善内容について全社的な立ち入り調査が実施される。労基署の指導にも関わらず改善が見込まれない場合や、そもそも相当に悪質な事案という場合には、企業名の公表が行われることになり、企業名が公表された場合はその企業のブランド価値は低下、著しく毀損されることから、非常に厳しい手続きと言える。最後には、書類送検、つまり刑事事件として検察庁に送致をされることになり、刑事罰を受ける可能性がある刑事手続に入る。
ちなみに、この「臨時的な特別の事情があること」とは、「予算・決算業務」「納期のひっ迫」「大規模なクレーム対応」「機械トラブル」などが考えられるが、できるだけ具体的な内容を決める必要がある。

法違反による「行政・刑事手続き」 / スパイダープラス
「悪質性」が高ければ罰金などの刑事罰も
法違反により刑事罰を受けるのは悪質性が高いケースに的が絞られるとも考えられるが、この「悪質性が高いケース」については、例えばある企業の複数の支店、事業所で残業時間が100時間を超えるようなケースや、うつ病や過労死といった事案が発生してるという事情があった場合などは「悪質性が高いケース」として刑事罰の対象になる可能性が高くなるのでは、と高橋氏は話す。
その上で、具体的な罰則の内容については、個々の事案の具体的な事情によって異なるとしつつも、基本的には罰金という刑事罰が多くなると予想。過去の労働基準法違反の事案では、検察庁が略式起訴という100万円以下の罰金等に相当する事件について書面審理だけによる簡易な裁判形式として処理をしようとしたところ、裁判所が認めず、正式裁判が実施されたということがあったという。正式裁判となった場合には、略式裁判に比して、より事件の内容等が社会に広く認知されるリスクも挙げた。
また、高橋氏は2024年4月1日までに「働き方改革関連法」への対応が間に合わない企業も一定数出てきてしまうと想定。その場合、事案によっては、法に違反した「企業名の公表」が行われることも可能性として指摘する。その後、一部の建設会社が摘発されることになり、そして、それを見た対応の間に合わなかった他の企業も含めて、法違反の状態によるリスクを認識し、時間外労働の上限を絶対に守らなければならないという意識変容をもたらし、対応を加速させるというシナリオを挙げた。
ウェルビーイングを目指す手段が働き方改革
続けて、オーク設備工業生産統括部生産企画部グループ長の髙山郷司氏は、社内での具体的な働き方改革の内容について説明した。
同社では作業所長面談を実施し、各現場の作業所長と本社部門や所属事業部内の各部門との定期的な面談を実施し、時間外労働の状況をお互いに確認、注意を促進している。また「現場事務支援グループ」の部署で、現場での事務作業負担軽減のため、社内にいる職員が、現場を訪問し、社内で現場事務作業を代行している。ほか現場ごとに時間外労働が増えないよう、夕方6時以降行っていた打ち合わせを昼に実施し、遠隔地の状況報告にオンライン会議システムを利用、スマートフォンのLiDARセンサーを利用したアプリの試行などを実施している。

オーク設備工業生産統括部生産企画部グループ長の髙山郷司氏
髙山氏はこうした働き方改革の社内周知は重要であるとし、社内イントラでの掲載、メールでの通知、「働き方改革関連法」についても職員が現場に出向き、現場職員一人ひとりに丁寧に説明するなどの活動も展開。理解を深めてもらうようつとめ、きめ細かい対応を実施しているという。一方で、働き方改革の目標を達成して、それで完了とするのではなく、継続が重要だとも指摘した。
特に重要な視点は、各職員の法の遵守やワークライフバランスを目指すという意識と語り、建設業界で働く人々の「ウェルビーイング(well-being)」を目指す手段こそが働き方改革といえるとした。
抵抗勢力に対しては「対話により理解を促す活動」を
さらに、髙山氏は「建設業界の働き方改革には推進派もいる一方で、抵抗派もいる。抵抗派にはどのように対応するべきか?」という質問に対し、「対話による理解を促す活動」が非常に重要だと回答。髙山氏の部署では、ITツールに関するヘルプデスク業務も担っていることから、職員から問い合わせがあった際にはどのようなツールを使うべきかアドバイスを挟むようにしているという。「部署は違っても目標は同じであり、地道な対話を続けていくことで、理解をしてもらえる」と話した。
そして、最後にこれから働き方改革を推進していく会社に対しては、「昔のように残業は当たり前だという気持ちを少しずつあらためてもらい、自分たちのワークライフバランスを守っていくことが大切だ。ITツールについても『私たちはこんなものを使ったことがない』という気持ちを変革し、チャレンジしてほしい」と語った。
この記事も所詮大手目線。
地元中小では応援人員がそもそも居ない。
契約工期と職人不足もあって長時間労働、休工無しは多々ある。
働き方改革は十分理解しているし実行したいがなかなか難しい。
役所の標準歩掛をちゃんと標準の基準数量に修正してもらって、ちゃんと直工内で利益出せるようにしてもらはないとただ給料下がるだけ。
結局責任の重さと報酬が合わない。
単価だけ上げても意味は無い。数字のマジック
弊社は残業は限界までつけて残りは別途手当をつけるというその場しのぎをすることに決まった。
残業代が出るだけ良い方なんだろうけど