平岩 敏和さん(平岩建設株式会社 代表取締役社長)

平岩 敏和さん(平岩建設株式会社 代表取締役社長)

建築はBIM、土木はICTを使って仕事の質を変えていく

建築・土木だけでなく、海外事業も展開

平岩建設株式会社(本社:所沢市)に取材する機会を得た。1946年の創業以来建築メインでやってきた会社が、近年は、土木分野でのICT施工にチカラをいれているほか、ベトナムに現地法人を設立し、日本企業の現地工場を建築したり、台湾で飲食店経営を始めるなど、海外事業にも積極的に乗り出している。

そんな平岩建設を牽引するのが、3代目社長で一級建築士の資格を持つ平岩敏和さんだ。この記事では、平岩さんの半生を振り返りつつ、平岩建設の今後のあるべき姿などについて語ってもらった。

グループ売上180億円ほどの地場ゼネコン

――平岩建設はどういった会社ですか?

平岩さん 弊社は建築と土木を手がける地場ゼネコンです。完工高は約135億円で、そのうち建築元請けが約100億円、建築下請けが約20億円、土木が約15億円となっています。建築元請けのうちわけで言えば、新築が約85億円、リニューアルが約15億円になっています。土木のうちわけとしては、所沢市、埼玉県、国土交通省といった公共土木が約13億円、民間土木が約2~3億円といったところになっています。民間建築メインの会社です。

――関連会社もお持ちのようですね。

平岩さん そうですね。水道工事や空調工事などを行う平岩設備工業、土工事用の重機などを扱う平岩アテックがあります。ウチは6年ほど前からベトナムにも関連会社を持っていまして、日本企業の現地工場建築などを請け負っています。今期の完工高としては約30億円を見込んでいます。あとは、台湾にも飲食店を営む会社も持っています。平岩グループ全体の売り上げとしては大体180億円ほどの規模になります。

――建築では、工場や倉庫も手がけているようですね。

平岩さん そうですね。弊社では研究開発にもチカラを入れています。近年、工場や倉庫の新築需要が増えているので、「安い、早い、高品質」の「三拍子建築」というパッケージを開発して、営業展開しています。

――従業員数はどうなっていますか。

平岩さん 本体だけで言えば、130名ほどです。

家業を継ぐつもりはなかったが、「自分がやりたいことができる」と思い直した

――平岩社長はやはり、学校では建築を学んだのですか?

平岩さん いえ、当時は海外で働くエンジニアになりたいと考えていたので、大学では理工学部で資源工学を学びました。平岩建設は家業でしたが、建築に全く興味が持てなかったからです。「家業を継ぐのはイヤだ」と思っていました(笑)。

ただ、大学3年生のときに「やはり家業を継ごう」と考えを改めました。それで、同じ理工学部に土木工学科があったので、資源工学科の学生として4年生までやって、そこを卒業してから学士入学ということで土木工学を学びました。資源工学で学んでいたときに土木学科の単位も取っていたので、土木工学科は2年間で卒業することができました。なので、卒業証書を2枚持っています。

――建築ではなかったんですね。

平岩さん そうです。建築を選ばなかったのは、土木に比べ必修科目が多かったので、卒業までに3年、4年かかると考えたからです。あとは、建築図面がスゴく苦手だったというものありました(笑)。「家業を継ぐなら土木で継ごう」ということで、土木に行ったわけです。

――なぜ「家業を継ごう」と思ったのですか。

平岩さん 最初は、家業を継ぐということは、「自分をワクに収めること」であり、それは「ツマラナイな」と思っていたんです。ただ、父親と何度も話をするうちに、家業を継いでも、「自分がやりたいことができる」ことに気づいたんです。それで家業を継ぐ決心ができたんです。

図面を見るのもイヤだったが、なんとか一級建築士をとった

――土木を卒業して、すぐに平岩建設に入社したのですか?

平岩さん いえ、平岩建設がお世話になっていた準大手のゼネコンに入社しました。ゼネコンの人から「家業が建築メインの会社なのだから、建築をやりなさい」と言われたので、建築職として採用されました。「有無を言わさず」という感じでしたね(笑)。入社後は、大阪支店配属になり、現場監督を3年ぐらいやりました。

その後東京支店に移り、積算部と技術部でそれぞれ1年ぐらいお世話になってから、平岩建設に入社しました。それが20年ぐらい前のことです。そのゼネコンにいた間に、図面を見るのはイヤだったのですが、一級建築士を取りました。結局建築から逃げられなかったということですね(笑)。

――よく一級建築士を取られましたね。

平岩さん とりあえず図面の試験は一回落ちました(笑)。2回目でなんとか通りました。

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家業だったが、「社内で認めてもらいたい」という気持ちでやっていた

――平岩建設ではどのようなお仕事をしてきましたか。

平岩さん 前の会社で現場監督をやっていたとは言え、3年程度しか経験がなかったので、とりあえず、積算とかいろいろな仕事をしていました。周りは「変なヤツが入ってきた」と思っていたと思います(笑)。

積算と言っても、当時は、それなりに仕事はあったので、ガリガリ削るという感じではありませんでした、入社後しばらくして建築担当の役員になりましたが、役員といっても名ばかりで、やはり社員は「所長経験もないくせに」と思っていたと思います(笑)。このときはISO認証取得やCOHSMSの導入といった仕事を中心メンバーとしてやりました。この仕事をきっかけに、社内に自分の居場所が少しできた気がしましたね。

――現場所長経験がないと、後継ぎでも肩身が狭い思いがするんですね。

平岩さん 所長経験がないということは、現場仕事を極めたわけではないので、「やったことがない人間が経験者に偉そうなことを言うな」という雰囲気がありました。「社内で認めてもらわないといけない」という気持ちが強くありましたね。それもあって、建築関係の資格をたくさん取りました。

――たとえばどういう資格を取ったのですか。

平岩さん これまでに取った主な資格としては、こんな感じです。

  • 一級建築士
  • 一級建築施工管理技士
  • 監理技術者
  • ファイナンシャルプランナー
  • コンクリート技士
  • 建築積算士
  • マンション管理士
  • 宅地建物取引士
  • 測量士補など

自分が資格を持っているので、社員の資格取得支援といったこともチカラを入れてきました。それがきっかけで資格を取った社員もいます。

元請けの仕事を増やすため、自ら営業で回った

――経営のほうはどうでしたか?

平岩さん 私が入社して数年経ったころから、市場が成熟してきて、公共の新築工事があまり出なくなってしまいました。そこで、民間の新築工事をとりに行くしかないということになったのですが、それまで公共工事と民間工事の下請けをメインでやってきていたので、当時はノウハウがありませんでしたし、コスト競争力もありませんでした。

そこで、ある建材メーカーが運営する土地活用賃貸マンションの建築を請け負うようになったんです。当時はこの仕事をかなりやっていました。下請けなので、そのメーカーの制服をウチの社員が着て、そのメーカーの社員かのように仕事をするんですけどね。その後は別の住宅会社の下請けにも入りました。こちらは今でもお付き合いがあります。やはり社員は住宅会社の制服を着て仕事をしています。ウチの社内会議をすると、出席者の6〜7割が他社の制服を着ていた時期がありました(笑)。

――「ここはどこの会社?」と思ってしまいそうですね(笑)。

平岩さん 当時は民間営業のノウハウがなかったので、「営業にテコ入れしたいな」と思っていたのですが、建築担当の役員なので、営業に手を突っ込むわけにはいきませんでした。そんなとき、社長から「営業もみろ」と言われました。そこから営業に口出しできるようになり、自分でも営業に出るようになりました。当時私がやろうとしたのは「元請の仕事を増やす」ことでした。社員には「制服の比率を変えるんだ」とよく言っていました。そういった感じで、少しずつ元請の仕事を増やしながらやってきたわけです。

元請けさんやデベロッパーさんとは今まで通りお付き合いは続けていきますが、われわれの意識としては、独自の民間営業に集中していこうとしています。そのおかけで、最近は設計施工によるデザインマンションといった付加価値のある仕事も取れるようになってきています。

理想は「BIM内デジタル竣工」

――生産性向上のためになにをしていますか?

平岩さん BIMを使って、仕事の質も変えようとしています。これまでの2Dの図面だと、詳細がまったくわからなかったり、梁が明らかに干渉していたり、問題だらけな図面であることがしょっちゅうあるんです。これをちゃんとしたモノにするため、現場に大きな負担がかかっているんです。

BIMにしていえば、モノが干渉するということがそもそもありません。パネルをどうするとか、詳細なこともBIM上の設計段階で、下請け業者さんにも入ってもらうことで、ほとんど完成させることができます。つまり、BIMを使えば、仕事が早く正確に、そして楽になるわけです。なるべく川上で仕事を終わらせる、理想としては「BIM内デジタル竣工」をやっていきたいです。

――DXは時代の流れですからね。

平岩さん BIM内デジタル竣工のデメリットとしては、さきに下請け業者さんを決めなくてはならないことがあります。でも、それを上回るメリットがあると考えています。現場職員は、図面作成業務が減り、現場に集中できますし、余力を使って、お客様に追加提案するといった動きもやりやすくなります。そしてDX、働き方改革にもつながると思っています。

土木のICT施工は建築の土工事にも使えると思っています。正確に掘れる技術は、建築現場でも当然活きるので、積極的にやっていきたいですね。

もっと言えば、ウェアラブルカメラなどを活用することで、現場監督が現場と事務所を行ったり来たりするムダを撲滅したいと思っています。ちょっとした確認なら、カメラとパソコンがあれば対応できるので。ドローンを使ってマンションの各部屋の状況を把握するとか、いろいろなツールを駆使することで、現場監督は1日中自分の席にいても、現場が成り立つような職場にしたいですね。「在宅勤務の現場監督」もあり得ると思っています。

――DX以外で取り組んでいることはありますか?

平岩さん 建設ディレクターの活用です。建築の勉強はしていないけど、建築の仕事に興味があるという人はいるので、そういった方に現場をサポートしてもらうことで、仕事の質を変えていこうと考えています。平岩建設にはすでに、建設ディレクターとして採用した女性社員が2名います。

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当面の目標は金杉建設さん(笑)

――土木のほうはどうですか。

平岩さん 土木に関しては、埼玉県内に金杉建設さんというトップランナーがいらっしゃいます。金杉建設の吉川祐介社長とは埼玉県建設業協会の青年経営者部会の活動を通じて、お付き合いさせていただいています。

青年経営者部会の活動の一つとして、国土交通省や埼玉県、さいたま市と連携しながら、ICT施工の普及拡大について、さまざまな取り組みをしてきました。とくに小規模な工事へのICT施工の導入についてはチカラを入れてやっていました。これらの活動は、部会長でもあった金杉建設吉川社長にわれわれをリードしていただき活動しておりましたが、弊社としても、ICT施工やDXに関して非常に勉強させていただきました。

ICT施工やDXの実績という面では、弊社は金杉建設さんには到底敵いませんが、ヤル気という点では、金杉建設さんに追随して行こうという自負があります。私自身ふだんから、社員には「(必要なICT機器などは)なんでも買ってください」と言っています(笑)。ICT施工の指定があろうがなかろうが、自分が使いたいと思ったモノはどんどん使ってもらって、どんどん自分のモノにしていってほしいからです。

弊社では今、国土交通省の江戸川の河川工事をやっていて、どんどんICT機器を使いながらやっているところですが、発注者さんの評判も上々のようです。現状は土木の技術者が少ないので、年に何本も国交省の仕事を取ることはできませんが、いずれは本数も増やしていきたいと思っていますし、「土木の平岩」と言われるようになりたいですね。当面の目標は金杉建設さんです(笑)。

広報専属社員を確保して、リクルーティングにつなげたい

――土木の社員が少ないというお話がありましたが、リクルーティングはどんな感じですか。

平岩さん 建築も土木も定期的に採用していますが、土木は若干増えましたが、建築は増えていません。辞めてしまう社員もけっこういるからです。この問題を解決すべく、現在、会社を挙げて働き方改革の推進と業務改善に努めているところです。

そして、最近取り組んでいるのが、広報専属社員の確保です。会社の広報活動を通じてリクルーティングにつなげたいという思いがあります。

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