大東建託株式会社(東京都港区)は、2×4用木材を安定調達するための新会社「大東カナダトレーディング株式会社(カナダ、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー市)」を設立し、2024年1月22日から事業を開始した。
バンクーバー市はブリティッシュコロンビア州(BC州)の最大都市。カナダは豊富な森林資源を持ち、現地製材所との連携を通じ、安定的で適正価格での木材調達が狙いだ。大東建託は、これからも持続可能な木材調達比100%を維持し、海外木材調達を担う新会社の設立で事業の安定性向上を図る。
大東建託が年間供給する約4万戸の賃貸住宅のうち、85%以上は木造2×4工法の建物で、その木材の多くはカナダから輸入している。近年、カナダで発生する山火事や虫害、伐採制限により、2×4工法に適するSPF(エスピーエフ)材の供給量が減少。さらに、新型コロナの流行や北米の製材需要の増加により、製材品の価格が乱高下する不安定な市況が続いている。カナダでの木材の安定的な調達は、大東建託の事業継続に不可欠なため、今回、カナダに新会社を設立した。
新会社の設立で木材調達網を拡大・強化でき、原木伐採や製材所の情報を収集し、現地製材所との連携を強化する。新会社の代表取締役社長には、加藤富美夫氏(大東建託 技術開発部長)が就任し、このほど記者会見を行った。加藤社長は、「安定的かつ適正価格での木材調達のため、カナダに現地法人を立ち上げた」と述べるなど、新会社設立の狙いを語った。
2×4工法の賃貸住宅着工は安定傾向も…
大東カナダトレーディングの加藤社長は記者会見で「住宅市場の動向」「木材調達リスク」「カナダ現地法人の目的と役割」の3点を解説した。
まず「住宅市場の動向」では、持ち家・賃貸住宅着工戸数の推移を2008~2022年で見ると緩やかに減少し、2022年度の住宅着工戸数は2021年度比で0.6%減の86万戸数だった。
賃貸住宅着工戸数の推移に絞ると、2000~2022年度全体から見ると減少傾向であるが、ここ数年は安定して推移し、2022年度の戸数は前年比5.0%増の34万戸で、2023年も安定傾向は続いた。また、2×4木造住宅着工戸数の割合と推移を見ると、20%前後で安定的に推移している。大東建託の2023年度の受注高累計(4月~11月)は、回復傾向が強まり、前年比27.2%と増加した。
2×4木造住宅着工戸数の割合の推移(2023年) / 出典:国土交通省「建築着工統計調査報告」をもとに大東建託が作成
SPF製材は減少傾向、価格は乱高下
次の「木材調達リスク」の最大の影響は地球温暖化だ。大東建託では木材の多くはカナダからの輸入が多く、中でもBC州産の木材を多く使用している。しかし、カナダは例年5〜10月にかけて西部中心に山火事が頻発するなどのリスクもある。特に2023年のカナダの山火事による焼失面積は近年で最も被害が大きく、1995年の2倍以上で日本の国土面積の約37%にあたる。「専門家は、この山火事発生は干ばつと気温上昇を要因に挙げている」(加藤社長)
一方、2×4工法に適した木材であるカナダSPF製材量は2016年には6000万m3だったが年々減少し、2022年には4500万m3を割った。今は価格が安定したものの、2020~2021年には二度にわたりウッドショックが発生し、製材品の価格は不安定である。今の価格は一服傾向だが、今後とも価格が安定するとは限らないのが現状だ。
「2×4工法に適しているカナダのSPF製材は、虫害(ちゅうがい)、山火事、伐採制限により減少傾向にある。赤い折れ線グラフ(※下記図)の部分では、北米の製材需要が増加したことにより製材品の価格が乱高下する不安定な市況が続いた。大東建託にとって、カナダでの安定した木材調達は不可欠であり、そのためカナダ現地法人を設立することになった」(加藤社長)
出典:大東建託
新会社の事業は1月22日から開始し、資本金は1万アメリカドル(日本円では約143万円、2023/12/19時点のレート)で、事業内容は建築用木材の購入や輸出販売業。カナダ事務所代表は佐藤洋生(ひろお)氏が就いた。佐藤氏はハウスメーカー勤務後、2016年に大東建託に入社。現地の製造所とのネットワークを広げている。
「前職も含めて15年ほど木材の購買に携わっている。現地では木材の価格交渉、木材の品質の確認などに力を入れたい」(佐藤氏)
カナダ事務所代表に就いた佐藤洋生氏
「SPF製材が一時的にせよ、なぜ乱高下したか。北米ではコロナ感染防止のため、自身の家をリフォームするにあたり、ホームセンターで材料を購入した。アメリカのバイデン政権では給付金を配布したが、第1回目の給付金の使い道は自宅のリフォームだった。製材所はホームセンターに卸したほうが儲かるので、価格が高騰した。しかし2回目の給付金ではリフォームに使われず旅行関係に使われたので、価格は思った以上に上がらなかった。こうした情報は日本にいるだけでは分からない」(加藤社長)
現地で情報収集し、的確な判断を下すことがウッドショックにおける大きな教訓の一つとも指摘した。
国産材の調達には、外国産材の情報収集が重要
同社設立の目的は、①現地での直接交渉による安定的な木材調達、②現地での迅速な情報収集によるBCP対応、③現地での直接交渉による適正価格での木材購入の3点で、取引先は北米や欧州の製材会社だ。
「現時点でもかなり密に製材所とは直接コミュニケーションを図っているが、現地法人によりさらに深い情報収集を行っていくことが肝要と判断した。調達だけではなく、品質、納期の問題も含めてさまざまな角度の情報収集を強化する」(加藤社長)
会見の最後にビジネスモデルの説明に移った。現状ルートでは、大東建託が北米や欧州の製材所と交渉し、調達をしてきた。新規ルートでは、まず、大東カナダトレーディングの駐在員が現地の伐採状況、規制、製材所の稼働状況、品質、災害や輸送を含めた物流情報などを収集し、大東建託本社へ共有する。次の見積関連では、カナダ駐在員が得た情報に基づいて、安定した木材調達を維持するため、取引先との関係を強化する。さらに発注・物流では北米の住宅市場、金利、木材価格の状況などを考慮し、適正な価格で木材を調達していく。
出典:大東建託
「発注や調達という仕事はこれまで通り大東建託が担当するが、現地の情報を吸い上げていく点については大東カナダトレーディングがその役割を担う。川上の情報を現地の駐在員がしっかりと吸い上げ、各製材所とのコミュニケーションを深めていく」(加藤社長)
一方、国産材の使用にも注力している。たとえば大東建託は、国産材100%の2×4工法建築物実現を目指してきたが、2024年1月31日に岩手県一関市で岩手県産のアカマツなどを使用した、100%国産ランバー材による2×4工法の賃貸住宅を完成している。世界情勢に左右されず安定供給が期待できる国産材の活用は必要不可欠ともいえる。
この点について加藤社長は、「量の程度は別としても、今後は適材適所の調達を考える。ウッドショックとはまったく別に2007年から国産材を安定・継続的に採用している理由は、地産地消を目的に実施しているためだ。今後、もし北米や欧州での木材の調達が遅れた場合、簡単に国産材の量を増やせないため、在庫管理も含めながらやっていく。そこで新会社から寄せられる生の情報は現状把握の観点では重要だ。ちなみに現在は9割強がSPF製材で残り約5%が国産材の比率となっている」と述べた。
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カナダBC州の森林大臣も歓迎
2月7日にはカナダで事業開始のオープニングセレモニーを開催、BC州の森林大臣、製材会社や取引先を招待した。さらに、北米・欧州の製材所と木材調達の交渉や新規取引先の開拓を開始していく。
2023年にはBC州のブルース・ラルストン森林大臣が来日、大東建託のカナダ進出に対し、「大東建託がバンクーバーで事務所を開設されること、大変喜ばしく思う。サステナブルに伐採された木材は、BC州での大東建託の事業の中核になり、この度開設される新事務所は、BC州の森林分野にも新たな好機をもたらしてくれるだろう。BC州、そして日本の人々のために建てられる住宅も含めた、今後の機会を楽しみにしている」と歓迎の言葉を寄せたことを見てもBC州が大東建託に大きな期待を寄せていることが分かる。
左から、大東カナダトレーディング 代表取締役社長の加藤富美夫氏、カナダ ブリティッシュコロンビア州 森林大臣・領事団担当大臣のブルース・ラルストン氏
大東建託は新会社設立を通して、木材安定調達を目指し、今後も持続可能な木材調達比率100%達成を維持する。サプライヤー企業に協力を要請し、木材のデューデリジェンスを強化していく。フランスの評価会社「エコバディス」が提供するシステムの運用を2022年9月から開始し、建材を供給するメーカーの持続可能性を評価し、さらに強化する方針を示した。
「安定的かつ適正価格での木材調達のため」
今後、市場の動向変化、災害発生などがあっても大東建託の根幹である2×4工法による賃貸住宅建築を円滑に施工するために、川上である木材をしっかり調達することは必至だ。
加藤社長は、「大東建託の85%以上が2×4工法の賃貸住宅。これらを完成させるためには、安定的かつ適正価格で木材を調達する。だからこそ今回のカナダ新会社における役割は非常に重要となる」と最後に胸を張った。
大東カナダトレーディング株式会社 概要
所在地:Suite #440 1040 WestGeorgia Street, Vancouver BC V6E-4H1(カナダ ブリティッシュコロンビア州バンクーバー市ウエストジョージアストリート1040 Suite #440)
代表者:代表取締役社長 加藤富美夫
設立:2023年9月8日
資本金:1万アメリカドル(約143万円 ※2023/12/19時点のレート)
事業内容: 建築用木材の購入、輸出及び販売業