東急建設株式会社はこのほど、相模原工場内の相模原蓄電所で開所式を行い、営業運転を開始した。同社と関西電力株式会社、東芝エネルギーシステムズ株式会社(東芝ESS)の3社は、相模原蓄電所で、蓄電池の寿命予測を行う「アセットマネジメントサービス」や蓄電池システムを常時遠隔監視する「スマート保守支援サービス」の実証も開始した。
同事業では、大規模蓄電池を電力系統に直接接続することで再生可能エネルギーの余剰電力の吸収や調整力の供出、電力事業ひっ迫時の放電などを各種電力市場で可能とし、国内の電力需給安定化や余剰電力の有効活用という課題解決に貢献する。
東急建設は、実証を通じて将来の系統用蓄電池事業の拡大を見すえた最適な保守運用に関する知見の獲得を行い、関西電力、東芝ESSの両社は、2024年度中の同サービスの事業化に向けた検討を加速する。東急建設が蓄電池を設置し、電気を売買するのは初の試みであり、注目が集まり、今後蓄電池事業を拡大する方針を示した。
開所式にあたり3社によるプレス向けに説明会を行った。
相模原蓄電所の本格運用で脱炭素加速へ
プレスに公開された相模原蓄電所の外観
国内では、2050年カーボンニュートラルを目指し、太陽光発電等の再生可能エネルギーの導入が急速に進む一方、発電量の変動が大きくなり、電力需給の安定化が難しく、その変動幅に対応する調整力の確保が課題となっている。また、多くのエリアで再生可能エネルギーの出力抑制が発生しており、余剰電力の有効活用が求められている。
東急建設は、長期経営計画”To zero, from zero.”で、提供価値の一つに「脱炭素」を掲げ、脱炭素社会の実現に一層貢献するためには、日本の再生可能エネルギー導入拡大における阻害要因を取り除く必要があると考えており、蓄電所事業もその一環となる。
東急建設での再生可能エネルギー戦略は、「エネルギー源の新規創出」「既存エネルギーの改善・活用」「蓄エネルギー設備の活用」が3本柱。将来的には3本の柱の活動で取得した設備を「仮想発電所(VPP)※」として総合的に活用することを目標とする。
※仮想発電所(VPP)・・・現在、多様なエネルギーリソースが稼働しているが、分散したエネルギーリソースを、IoTの力により集約し、リモートで統合管理することで、あたかも1つの大きな発電所のように機能させる。負荷平準化や再生可能エネルギーの供給過剰の吸収、電力不足時の供給などの機能として電力システムでの活躍が期待されている。
2020年10月、菅義偉首相(当時)の所信表明演説での「2050年カーボンニュートラルの実現」の宣言により、2021年10月の「第6次エネルギー基本計画」では従来の電源構成は大幅に計画を変更。再生可能エネルギー比率は2019年度の実績値では18%だが、38%と変更し2倍のシェアとする方針を示した。
政府の方針を受け、日本での再生可能エネルギー電源の導入は急速に増大。2022年度での再生可能エネルギーの電源構成に占める割合は24%に達し、2030年度の38%に向けさらなる増大が期待される。
一方で、今後は再生可能エネルギーの拡大により、「軽負荷時での余剰電力の発生」「既存発電所の稼働率低下による需給ひっ迫の可能性」「天候変動での周波数逸脱の恐れ」などの課題がある。
一つずつ見ていくと、再生可能エネルギー電源が大量導入された場合、電力需要が少ない時期に余剰電力が発生する可能性が高まり、対策をしなければ周波数が異常に上昇する。そこで一般送配電事業者では余剰電力を揚水動力で吸収し、再生可能エネルギーの出力抑制で需給バランスを維持する必要がある。
資源エネルギー庁は、2022年3月での検証で、再生可能エネルギー拡大に伴い、火力発電所の休廃止の増加により、今後、需給ひっ迫の可能性を示唆した。また、再生可能エネルギー比率が増えると、需給調整も困難になる点も指摘されている。
説明会では、再生可能エネルギー拡大での課題について、蓄電池事業は解決に向けて貢献できる点を強調した。冒頭、東急建設と関西電力から挨拶があり、今後の蓄電池事業の方針が示されたので紹介したい。
3社合同でアセットマネジメントやスマート保守サービス展開
まず東急建設価値創造推進室執行役員室長の信貴弘恵氏が挨拶した。
冒頭に挨拶する東急建設 価値創造推進室執行役員室長の信貴弘恵氏
東急建設グループは2021年3月、新企業ビジョン「VISION2030」を公表し、3つの提供価値「①脱炭素、②廃棄物ゼロ、③防災・減災」を定めている。うち一つの脱炭素の施策では、蓄電池の第1号案件を迎えることができた。脱炭素では再生可能エネルギーへの取組みを積極的に展開し、「オンサイトPPA※」「オフサイトPPA※」とともに蓄電池事業も主要な取組みで位置付けていく。
※オンサイトPPA・・・発電事業者が、需要家の敷地内に太陽光発電設備を設置し、契約期間中の設備所有・運営を行い、発電設備が発電した電力を需要家に供給する仕組み。
※オフサイトコーポレートPPA・・・PPA事業者と電力需要家である企業が長期契約を結び、電力を使用する施設の敷地から離れた場所に企業専用の太陽光発電所を新しく開発・設置し、発電した電力を環境価値と共に施設へ送るビジネスモデル。
系統用蓄電池は再生可能エネルギーの有効活用や普及、電力バランスの改善に寄与するものであり、同事業は、東京都のクールネット東京「系統用大規模蓄電池導入促進事業」に採択された。信貴氏は「公益性の高い事業のため、東急建設としては使命感を持って取組む。この相模原蓄電所を皮切りに今後ともさまざまな再生可能エネルギーの推進に貢献する」と語る。
挨拶する関西電力ソリューション本部副本部長開発部門統括の児玉智氏
続いて、関西電力ソリューション本部副本部長開発部門統括の児玉智氏が挨拶。
「この度、系統用蓄電池の新サービスで蓄電池の診断技術を活用し、『アセットマネジメントサービス』や蓄電池の運用・保守をサポートする『スマート保守サービス』の両サービスを相模原蓄電所で3社合同により試験的に導入を実証することになった。
関西電力の『グループ中期経営計画(2021-2025)』のVX(Value Transformation)では顧客や社会にお役に立つ、新たな価値の創出についてさまざまな取組みを展開しているところ。両サービスはVXの一環として邁進し、顧客の蓄電池事業での課題解決や事業をサポートし、顧客とともにカーボンニュートラルの実現に貢献する」(児玉氏)
再エネ拡大に対応可能な蓄電池事業のメリット
説明会では、東急建設が事業概要について解説した。再生可能エネルギー拡大にはさまざまな課題があるが、蓄電池は3つの電力市場(卸電力・容量・需給調整)に参入することで課題解決に役立ち、再生可能エネルギー導入の障壁を取り除くことができ、結果的に脱炭素につながるとした。
再生可能エネルギー拡大の課題に対応する蓄電池
卸電力市場では、蓄電力に余剰電力を充電し、無駄なく活用でき、再生可能エネルギー出力抑制を低減できる。次の容量市場では、蓄電池の充電電力を需給ひっ迫時に放電することで電力供給に貢献する。さらに需給調整市場では、蓄電池の充放電制御で周波数維持に貢献し、再生可能エネルギー出力変動による周波数変動を抑えられることにつながる。
相模原蓄電所の実施体制と各社の役割は、東急建設が事業主で設備の保有、関西電力は、運用を担当し、蓄電池の保守支援サービスやアセットマネジメントサービスを提供。また、設備の保安体制は、関東電気保安協会が行う。
相模原蓄電所については、直接電力系統と接続しているため、その電力を建設現場で使用することはないが、今後新たに建設現場に蓄電池を需要変動抑制のために導入することも視野に入れている。
続いて関西電力の説明では、これまでの経緯について解説があった。2022年11月に、関西電力と東芝ESSは、蓄電池劣化診断技術を活用した蓄電池分野でのサービスの創出に向け検討をスタート。2023年度にはEVリユース蓄電池システムを新たに構築し、大容量蓄電池向けのトータルソリューションサービスの確立に検討を深め、このほど検討の成果を深め、東急建設が保有する商用の系統用蓄電池システム向けにサービス実証を行うことになった。
まず「アセットマネジメントサービス」では、系統用蓄電池の運用データを分散型プラットフォームにより、取得・蓄積し、運転を継続させながら電池状態(電池容量、安全性、寿命)や運用状況をレポートする。また「スマート保守支援サービス」では、蓄電池システムの常時監視や異常時の迅速な連携、設備保守に必要な情報(実績・警報ログ画面、運転データの抽出)の提供で、顧客の設備保守管理をサポートする。事業化に向けたロードマップでは、2024年度中の両サービスの展開に向け推進する。
相模原蓄電所の実証概要
実証後は東急建設、関西電力、東芝ESSでの評価を踏まえ、さらなるサービスの充実を図っていく方針だ。
開所式にあたっては、東急建設代表取締役副社長執行役員の諏訪嘉彦氏が挨拶。
挨拶する東急建設代表取締役副社長執行役員の諏訪嘉彦氏
「蓄電池事業の目的は、電力の安定供給を実施する点にある。東急建設は蓄電池事業のトップランナーの自負があり、東京都から『系統用大規模蓄電池導入促進事業』に採択された事業の中で最も早くスタートし、採択以来1年たらずで実現した。今後とも皆様の支援を受けつつ、蓄電池事業の拡充につとめる」
トップランナーの意図については「単発の打ち上げ花火にせずに、ゼネコンでありつつ再生可能エネルギー事業を推進しているが、蓄電池事業のスタートが切れたということで意気込みも含めてトップランナーと表現した」と語った。
相模原蓄電所の設備概要
事業期間:2024年7月から15年を想定
設置場所:東急建設 相模原工場
設備容量:1,999kW/4,064kWh
電池種類:リチウムイオン電池
補助金:クールネット東京「令和5年度系統用大規模蓄電池導入促進事業」に採択