9月にあったハイウェイテクノフェアに出展。塗るゴムは関心を集めた。

9月にあったハイウェイテクノフェアに出展。塗るゴムは関心を集めた。

「使ってみて、塗るゴムは土木界のオロナイン。どんな傷にも効くのかな、と」

3年前に耳にした言葉がよみがえる。高速道路の維持管理の最前線、技術に熱くそしてシビアな現場に身を置く道路会社のエンジニアは言った。

「鋼面の防錆、コンクリート面や隙間部の止水に塗るだけ。使ってみて、塗るゴムは土木界のオロナイン、どんな傷にも効くのかなとも感じている。メタルにもコンクリートにも、今後も用途はすごくあると思う。早くNETISにも登録して、誰もが使いやすい環境を整えることで、同じように、物理的にケレン要らずで効き目がある対策を求めている個所とか、経済的にコンパクト施工が必須で本補修までもたせたいとか、そういう現場に役立てられるのでは」

無機形塗料を一貫して製造・販売してきたセラアンドアース(平良一夫代表)の主力ラインナップであるインフラ長寿命化材料シリーズ(セラマックスシリーズ)の新たな補修材料「セラマックスFT70(塗るゴム)」が7月にNETIS(新技術情報提供システム)への登録を完了した。

6年前に開発に着手、複数の高速道路会社から協力を得て、現場に即した施工性で高い施工品質が再現できる材料へとブラッシュアップを経て、2019年に上市した。市場投入後、NETIS申請書類作成と審査側との調整にあたった角和夫さん(日本インシークの技術本部技師長であり、セラアンドアースの技術顧問でもある)に、塗るゴムの概要や用途、NETIS登録などについて聞いた。

無機・有機のハイブリッドで、ゴム化する特殊な材料

――セラマックスFT70(塗るゴム)とはどんな材料ですか?セラマックスシリーズのセラマックスとは、無機材料(セラミック)を最大限(マックス)まで入れていますよ、ということを表したネーミングだと受け止めていたんですけれど、FT70ってゴムの指標か何かですか?

角さん 無機・有機のハイブリッド材料で低分子から常温で高分子化、つまりゴム化する特殊な材料です。反応型紫外線吸収剤と反応しているため、紫外線劣化に強く、下地(母材)を長期間保護するとともに、それ自体による密着性も非常に優れています。

そうそう、FT70とは何ですか?とよく聞かれます。FとはFuture、つまり未来(将来)を意味します。Tとは平良(または塗料の意味もあります)。70とはAgeの70。合わせると、平良社長が未来の塗料を70歳の時に開発した、というものです。

――そうなんですね。古希を寿ぎつつ、七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず、世の中のためになる良い材料みたいな意味に受け止めます。それで、塗るゴムのイメージはどんなですか?

角さん 図-1に示すように大気からの劣化因子となる雨、太陽光(紫外線)、その他窒素酸化物などからコンクリート構造物などを保護します。これまでは、表面被覆工(多層構造の塗装)により保護されていました。ご承知のとおり、表面被覆工は耐候性を付与するためのふっ素樹脂塗料などの上塗り、付着力を与えるエポキシ樹脂などの多層構造で施工されてきました。塗るゴムは、図-1に示すとおり、独自の付着力により1層構造で十分な耐候性を付与します。また、コンクリート構造物においては微細なクラックにも浸透し、硬化する過程で高分子構造となりクラックを塞ぐ特性を有します。

図-1 塗るゴムの防食イメージ

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耐候性、施工性、経済性、環境性に優れている

――それで、そもそもなんですが、NETIS(新技術情報提供システム)に登録する意義とは?

角さん まず、NETIS(新技術情報提供システム)に掲載されることで、技術のPRにつながります。まだ十分知られていない工法や技術についての活用検討機会が増え、施工条件などに適合する現場で当該技術が採用され、活用につながります。さらには、事後評価を行うための調査の実施と事後評価が行われます。

事後評価に伴い、

  1. NETIS(評価情報)に掲載され、技術の一層のPRにつながることとなります。
  2. 技術の評価により技術改善のヒントが得られます。
  3. 評価の結果、活用の効果が優れていた技術は有用な新技術(活用促進技術など)に指定されることになります。
  4. 有用な新技術は、NETISホームページで公表されるうえ、施工者希望型での活用により工事成績評定へ加点されるなど、現場での普及がより一層促進されます。

つまり、材料や工法のPRはもちろんのこと、事後評価が行われれば活用促進やより一層の改良などが促進されることとなり、いわゆる、工法や技術のスパイラルアップにつながっていきます。

NETISに関して一般的に勘違いされているのは、申請して登録されれば国から工法や技術を認めてもらった、ということです。そうではなく、あくまでもこういう技術や工法があり、比較対象があり(比較対象がない場合もある)、使ってもらう機会が用意された、と考えるべきです。申請技術・材料・工法などを使ってもらう機会が欲しければ発注者側に根気よく説明することが必須です。とんとん拍子で使ってもらった場合は、事後評価をしてもらい、さらなる改良や改善を加え、一本立ちの技術や工法に仕立て上げることが必要です。

――セラマックスFT70(塗るゴム)の比較対象となる従来技術はありますか?

角さん セラマックスFT70(塗るゴム)は、常温でゴム化し、なおかつ反応型紫外線吸収剤により紫外線劣化が起こりにくい材料です。それでは、どんな場所で力を発揮できる材料なのか、以下にご紹介します。

  1. 常温でゴム化する
    →表面被覆により外的劣化事象から本体を護る必要がある。
    →クラックが発生し、力学的、材料的な損傷から護る必要がある。
  2. 紫外線劣化に強い
    →紫外線劣化により劣化が進行する材料を護る必要がある。

以上から、従来、コンクリート構造物や鋼構造物の表面被覆材として使用されてきた塗装システムが対象となります。併せて、ひび割れにも浸透し、その後膨張してひび割れを塞ぐ機能も持ち合わせます。

図-2に比較対象となる技術と本技術を示します。

図-2 比較対象技術(表面被覆工と塗るゴム)

――そうなると、塗るゴムが従来技術より有利な点は?

角さん 表面被覆工法では、下塗りから上塗りまで最大3層(コンクリートの場合)~6層(鋼部材の場合)程度の厚塗り施工がなされます。塗料は、下塗りから上塗りまでそれぞれ役目を持っており、付着性を担保する塗料、耐候性を担保する塗料など、それぞれ重要です。表面被覆工は、構造物本体を保護するもので紫外線、水、塩分などの侵入を防ぐ役割を持ちます。最上層の上塗りは耐候性に優れたふっ素樹脂塗料を用います。中塗りには上塗りとの接着性を担保するエポキシ樹脂塗料を、下塗りには基材(母材)と中塗りの接着性を担保するプライマーを用います。

塗るゴムは、1層で付着性や耐候性を付与します。耐候性に関しては反応型紫外線吸収剤が入っていることにより表面被覆工の上塗り塗料(有機系)で問題となる白亜化(チョーキング)が起こりません。この結果、上塗り塗膜の劣化が起こりません。また、有機系塗料で問題となる揮発性有機化合物(VOC)がほとんど入っていませんし、希釈剤のシンナーも必要としませんから環境問題が発生しません。費用に関して言えば、材料費が若干高いものの、施工が一層で済むことにより通行規制費などの諸費用が大きく減り、従来の有機系塗料と同程度以下となります。

つまり、耐候性、施工性、経済性、環境性に非常に優れた材料といえます。

ゴム表面のひび割れを塞ぐ効果が期待できる

――そうなんですね。どういう個所に塗るゴムを使うのが良いですか?

角さん 塗るゴムは、耐候性、施工性、経済性に優れている材料であり、VOCの排出もほとんどない環境に非常に優しい材料です。ですので、コンクリート構造物、鋼構造物、木製構造物、FRP構造物、塩ビ管など多種多様な基(母)材に施工可能な材料です。具体的には、都市内高速道路の地覆や後打ちコンクリート、RC橋脚天端、その他各所で使用されています。最近では吊橋の大型伸縮装置の一部の防食にも使用されています。

図-3に示すように1回塗り、異なる基材に付着し、隙間を塞ぎ、さらに劣化を促進させる紫外線をほぼ100%カットする特徴を有します。

図-3 塗るゴムの強み

また、RC橋脚を事例とした塗るゴム施工前後のイメージを図-4に示します。

図-4 塗るゴムの効果(施工前後)

――施工実績はどんな感じですか?

角さん 阪神高速道路、首都高速道路、福北公社、地公体、民間施設などで実績を伸ばしています。実際にどういうところで使用されているのかを紹介します。阪神高速道路では、中央分離帯や路肩地覆部等の漏水箇所(写真-1)、壁高欄の天端等のクラック発生個所(写真-2)、伸縮装置からの漏水に対してRC橋脚天端部(写真-3)に使用されています。首都高速道路では、路肩地覆(写真-4)といった漏水などの対策で使用されています。

阪神高速・首都高速道路での施工事例

――それで、塗るゴムの施工はどうなりますか?

角さん 施工は非常に簡単です。図-5に施工要領を示します。最初に施工面の下地処理と清掃を行います。その間に塗料の調合(主剤及び硬化剤を攪拌・混合)を行います。その後、施工面に刷毛やローラーで塗るゴムを塗っていきます。

図-5 塗るゴムの施工要領

――塗るゴムは、ゴム支承のオゾン劣化や光酸化劣化に効果が期待できると聞いた覚えがあるような・・・ないような・・・。

角さん ゴム支承の本体ゴムや被覆ゴム(本体ゴムの劣化予防)劣化には2つの現象があります。1つ目は、大気中のオゾンの作用によってゴムが劣化するオゾン劣化。2つ目は、太陽光に含まれる紫外線によってゴムが劣化する光酸化劣化です。光酸化劣化は、太陽光に含まれる紫外線がゴム(被覆ゴム)に照射されることで化学反応を起こし、劣化する現象です。光酸化もオゾン劣化同様にゴム表面に亀裂が発生します。しかし、光酸化の場合、亀裂の方向に規則性がありません。さらに、ゴムの色が明るい場合、光酸化が発生し易くなります。このため、一般的にはカーボンブラックが混入され、黒色とすることで光酸化劣化の対策としています。オゾン劣化はゴムの色には左右されません。

――以前取材しましたが、うろ覚えです。オゾン劣化ってどういうことでしたっけ?

角さん 大気中のオゾンとゴムが化学変化を起こすことで、分子レベルでの切断が発生し、ゴムの表面に亀裂が走ります。亀裂は、応力が作用している部分へ垂直方向に、かつ無数に発生しているのが特徴です。特に、二重結合を主鎖にしている不飽和構造のゴムではオゾンへの耐性が低く、オゾンクラックが起こりやすくなります。

このため、オゾン劣化を防ぐためには二重結合の少ないゴムや耐オゾン性の優れたゴムを使用することが考えられます。同じ二重結合のゴムでも天然ゴムはオゾン劣化に弱く、クロロプレンゴムはオゾン劣化に強い傾向があります。

塗るゴムは、反応型紫外線吸収剤が入っていることから光酸化劣化に効果があります。しかし、オゾン劣化はゴムとの反応により発生することから効果が期待できません。しかしながら、発生したゴム表面のひび割れを塞ぐ効果が期待できることから現場での実証実験を実施する予定です。

ちなみに、私が本四高速で働いていたころに担当したしまなみ海道の長大斜張橋の多々羅大橋(完成時は世界最長スパンを有す)の支承には、超大型ゴム支承を採用しています。この支承では、ゴムの劣化防止と長寿命化のために7mm程度の表面被覆ゴムを設置しています。世の中の大きなゴム支承のほとんどに被覆ゴムが設置されています。ゴム支承は橋梁を支える重要な部材です。このゴムに万が一、亀裂が発生した場合、塗るゴムが活用されるよう願います。

NETIS申請で苦労した点と、塗るゴムの今後の展望

――NETIS申請で2年間くらい、当局側とやり取りをしていたと聞きました。どんなでしたか?

角さん 色々ありました。第一にどこの地整局で申請するか、ということです。過去の経験から非常にNETIS申請技術の審査に対して真摯に取り組んで頂けると評判の高い九州地整局(事務局は、九州技術事務所。代行は九州建設技術管理協会)にしました。実は阪神高速技術の技術次長をしていたころに「3Dレーザースキャナーを用いた変状・損傷計測システム」を申請・登録した経験もあり、苦労した点を挙げればキリがないのですが、箇条書きでご紹介します。

①技術の命名は?
やはり、新技術として分かりやすい命名が求められました。最初に書きましたが、「FT70(塗るゴム)」を変えませんでした。

②比較技術は?
新技術だからこそ旧技術があります。つまり新技術と比較できる対抗技術があるはずでは?と事務局から再三言われました。ですが、はっきりきっぱり申しますと、インフラ構造物の維持管理に長年携わってきた技術者としてこれまでの常識を覆す全く新しい材料を開発したわけです。塗るゴムは、環境に優しく、紫外線劣化もなく、施工過程(硬化)で低分子構造から高分子構造に変わります。これにより、劣化因子の通り道であるクラックを塞ぐことが可能となります。そのうえ、施工が簡単で1層施工で十分機能を発揮します。というわけで、塗るゴムは今までにない特殊な材料です。最後まで比較技術はないと言い続けましたが、相互理解に至らず、最後は表面被覆工を比較技術としました。

③技術の成立性の確認
表面被覆工法(や表面含浸工法)と適用範囲が被るのであれば「技術の成立性」を確認する必要があるということでした。技術の成立性とは、論理的な根拠があり、技術的な事項に係る性能や機能などが当該技術の目的や国が定める基準などを満足することを言います。

成立性の検証は、九州地区における土木コンクリート構造物設計・施工指針(案)(令和元年9月、国土交通省九州地方整備局)における塩害・中性化・ASR対策での必要性能を、また、阪神高速道路の制定した表面保護要領品質基準「中防食B種及びC種」に基づく促進耐候性試験、はく落防止性試験により、また、首都高速道路防水塗装の品質に基づく付着性・耐久性試験などにより性能を確認しました。

――塗るゴムの今後の展望はどんな感じですか?

角さん インフラ構造物の長寿命化を目指して新たな材料「セラマックスFT70(塗るゴム)」を開発しました。コンクリートあるいは鋼構造物の劣化の要因となる水、二酸化炭素、塩化物などを遮断する画期的な材料です。さらには、表面被覆工で耐候性を付与するふっ素樹脂塗料などの上塗り材の紫外線劣化に対し、塗るゴムでは紫外線カット成分を混入することで、紫外線を99.9%遮蔽できる材料です。また、従来の有機塗料に比較して有機溶剤の含有量が少ない塗料であり、VOC(揮発性有機化合物)の発生量も1/2以下(従来技術と比較して)となり環境に非常に優しい材料となっています。

しかしながら、昨今の地球温暖化による異常気象や災害を見るにつけ、社会環境により貢献できる材料、つまり、環境負荷を最大限に削減するために完全無溶剤化を目指して、ウレア結合の塗るゴムを試作中です。

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