施工の神様 powered by 施工管理求人ナビ
  • 施工の神様とは?
  • 記事掲載・取材をご希望の方へ
  • キャリアを考える
  • インタビュー
  • 失敗を生かす
  • 技術を知る
  • エトセトラ
  • 資格を取る
  • 建設用語

地方の小規模吊橋への愛情を事業化

  • インタビュー
  • 技術を知る
根津 寿子
公開日:2024.04.24
  • シェア
  • Tweet
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0 コメント
  • メールで共有
橋と撮影した写真のご提供をお願いすると、意外にあまりなかったそうで、福岡県橋梁建設課長時代の九州長大橋調査(1995年9月頃)で熊本県の内大臣橋に出向いた際の懐かしい1枚を=左から福岡県職員、コンサル部長、角さん、九産大(故)吉村教授、同水田教授(現九産大 名誉教授)

橋と撮影した写真のご提供をお願いすると、意外にあまりなかったそうで、福岡県橋梁建設課長時代の九州長大橋調査(1995年9月頃)で熊本県の内大臣橋に出向いた際の懐かしい1枚を=左から福岡県職員、コンサル部長、角さん、九産大(故)吉村教授、同水田教授(現九産大 名誉教授)

目次
  1. ケーブルの中が見える化できると安心する
  2. 専門技術4ステップでケーブル余寿命を定量化
  3. 予算や技術者が少ない管理者さんはどうすれば?
  4. 観光シーズン到来。心に残る吊橋景観は?

本四公団や阪神高速をはじめ、出向先の自治体などで橋梁事業に従事してきた角和夫さんは、コンサルタント会社(日本インシーク=大阪市、小林祐太社長)に転職したのを機に、地方の小規模吊橋への愛情を「小規模吊橋健全度評価システム」として事業化した。

これまでの知見を余すところなく注ぎ、実際の現場に即した内容にまとめたことで、吊橋管理者の反応は早く、1年余りで事業は軌道に乗った。一般的に短期間で普及するものの特徴として利便性と効果ならびに費用、つまり実態に即した内容で取り入れることが容易であり、加えて効果が実感でき、納得できる費用であること、などが主な要素と言われるが、「小規模吊橋健全度評価システム」にはどんな工夫があったのか聞いてみた。

ケーブルの中が見える化できると安心する

作成:角さん

作成:角さん

――角さんの地方の小規模吊橋に注ぐ愛情は耳にしていましたので、国内にはどんな小規模吊橋があるんだろう?と検索してみると、観光名所近くの吊橋などを紹介する自治体さんのサイトをいくつも見つけました。地元の生活橋であったり観光資源であったりと地方の小規模吊橋はとても大切にされていると感じました。吊橋は特殊橋梁なので、維持管理においては一般的な桁橋などに比べて考慮項目が多いとも聞きます。「小規模吊橋健全度評価システム」ではどんな工夫をされましたか?

角さん 橋にはそれぞれ、「その部材」が損傷すると橋全体が崩壊する危険性がある重要な部材、いわゆるFCM(Fracture Critical Member;崩壊危険部材)があります。吊橋のFCMは何か。ずばりケーブルです。なぜかというと、吊橋にしても斜張橋にしてもケーブルが生命線であるからなんですね。ですから、小規模吊橋においても、主索(以下「ケーブル」)や吊索(以下「ハンガー」)の点検・検査と評価ならびに適切な対応の選択が生命線となるんです。

ですので、「小規模吊橋健全度評価システム」ではケーブルの腐食状態(断面欠損率)を見える化することと、その結果、いつまでに何をするべきか明確化すること、を必須にしています。この点が管理者さんたちの支持を集めていると実感しています。なぜなら、国や地方自治体の従前の点検は定期点検要領に準拠していて、外観目視で判定していますので、ケーブル表面のさび・腐食により評価していますから、おそらくですが、ケーブルの中の様子を確認したい、という管理者さんの潜在需要が大きかったのかな、と。実際に中の様子が見える化できると、管理者さんは安心するんです。

――そうなんですね。では、需要に対して供給がない状況のなかで、「小規模吊橋健全度評価システム」ができたので、「あぁ、こういうの欲しかった!出たんだ~」と普及した感じですか?技術的な問題でこれまでなかったとかですか?ケーブルの断面欠損率を捉えることで中の状況が見える化できると、なにがどうよくなるんでしょう?

角さん 鋼線の集合体であるケーブルを非破壊検査で見える化する技術として全磁束法が結構前からありました。これによりケーブルの断面欠損率を求めることができます。断面欠損率とは、鋼線の集合体であるケーブル中に発生している腐食部分の率、すなわち、ケーブルに作用する引張力に抵抗しない部分を率として表現したものです。こうした大規模な吊橋のハンガーロープや斜張橋の斜材で使われてきた技術を、小規模吊橋の主索に的確に使うことが「小規模吊橋健全度評価システム」の一つのポイントです。

吊橋、斜張橋の点検にあたっては、道路会社(首都高、阪高、本四や都市高速など)さんでは独自に点検要領を定めています。同様に政令指定都市の大阪市さんでも独自の点検要領を定めています。繰り返しになりますが、吊橋にしても斜張橋にしてもケーブルは生命線であるからです。これらの管理者さんは必要に応じて、臨時点検、詳細(精密)点検を実施するように規定しているんです。腐食が気になればケーブルの非破壊検査(全磁束法や渦流探傷法)を実施しているんですね。

【経験者歓迎】橋梁工事/土木施工管理の求人 [PR]

専門技術4ステップでケーブル余寿命を定量化

――それで、実際に「小規模吊橋健全度評価システム」ではどんな手順になりますか?活用技術については協力関係の会社さんとかはあるんでしょうか?

角さん 定量的な評価・診断と補修や架け替えを提案するための手順としては主に4ステップです。吊橋形状測量+ケーブル詳細調査(非破壊検査・張力測定)+詳細点検(特殊高所技術)+健全度評価です。また、必要に応じて(発注者さんの要望など)により補修・架け替え提案や補修設計を行います。

  • 吊橋形状測量・・・過去の設計図面、管理図などが残っていないのが普通です
  • ケーブル詳細調査・・・全磁束法による断面欠損率から残存耐力の推定をします
  • 詳細点検・・・ケーブル張力算定と補修設計用に実施します
  • 健全度評価・・・外力(死荷重+活荷重)と抵抗力(ケーブル残存耐力)の関係から保有安全率を算定します

必要に応じて、

  • 補修・架け替え提案・・・ケーブルの残存耐力を元に今後の運用方法や補修・架け替え提案を実施します
  • 補修設計・・・臨機応変に

詳細点検は安全で確実な技術を保有する特殊高所技術さん、全磁束法については本四の吊橋時代からの繋がりで東京製綱さんと技術協力しています。

そもそも吊橋は、橋が必要であるけれども橋脚が施工しにくいなどの架橋条件を背景として選択されている橋梁形式なので、同様に点検のための足場の仮設も困難かつ経済的合理性も低いことから、特殊高所技術で近接点検することとしています。

全磁束法は本四公団さんと東京製綱さんが共同開発した技術で、本四に代表される大規模吊橋のハンガーロープや斜張橋の斜材点検に利用されていますが、近年東京製綱さんは小規模吊橋の維持管理用途にコンパクト化したシステムを作って、これまでケーブルを納入された小規模吊橋のメンテナンスの要請に応えられていましたので、この技術を活用させてもらうことにしています。

――ケーブルの中を見える化することで、ケーブルの残存耐力、つまりケーブルの余寿命を定量的に示せるということですか?

角さん 管理者さんの潜在需要もそこなんですよね。安全とコスト、つまり管理者の仕事の根幹にかかわる部分ですからね。ですので、「小規模吊橋健全度評価システム」ではここで重要な、(1)あと何年ケーブルが耐えられるか、(2)ケーブル補修(例えば防食塗装)をしてどこら辺まで寿命を延ばせるか、(3)更新、修繕、架け替えのコストは、(4)撤去できないのか?というあたりを明確に捉えられるようにしています。

これらはまず、ケーブルの余寿命、つまりあとどれくらいでケーブルの安全率が基準の3を下回るか、ということが明確にできないと示すことができませんので、規模の大きい吊橋だけでなく、小規模吊橋でもケーブルの断面欠損率を見える化することは重要なんです。

小規模吊橋のハンガーはほとんどが細径でおおよそ外観目視で交換の判断が可能です。ケーブルは、太径であり、昭和30年代のものはダム工事などで使用されたワイヤーロープを転用しているケースが非常に多いです。多くが心材に麻ロープが、外周に鋼線が使用されています。見た目以上にロープ内部での腐食が多いです。昭和59年に日本道路協会が「小規模吊橋指針(案)」を発刊してからは鋼芯ロープが基本となっています。

つまり、小規模吊橋架け替えの原因は、そのほとんどがケーブルの劣化(外面腐食)です。その他の床版やハンガーは通常の舗装補修と同様に計画管理費的なお金を充当して修繕しています。ケーブルの安全率が3を下回ると、活荷重制限(車両や歩行者の通行制限)やケーブル架け替えが必要となり、コストも更新(=架け替え)に近い金額へと膨らんでしまいます。

小規模吊橋は、日本全国に1300橋以上あります。多くが1960年前後に作られたもので、すでに60年以上供用しています。長期修繕計画をもとに予算措置がなされ、予算がないのでⅢ判定をⅡ判定に落として報告したり、通行止め処置をしたりする例もあります。通行止めは安全対策上必要不可欠です。しかし、予算が足りないので通行止め期間を長引かせるほど橋の損傷は酷くなりますので、当初は補修工事で済んだものが、予算付けが回ってくる頃には架け替え工事になってしまって費用が膨張してしまうのも一面の真理です。

ですので、「小規模吊橋健全度評価システム」では、ケーブルの外観目視のみでⅢ判定やⅣ判定にするのではなく、しっかりとした非破壊検査とそれに基づく健全度評価を行い、本当に必要な補修方法等を提案しています。

次のページ予算や技術者が少ない管理者さんはどうすれば?

12»
  • この記事をシェアする0
  • この記事をツイートする0
この記事のコメントを見る0
こちらも合わせてどうぞ!
人と機械はどう補完? これからの橋梁点検
人と機械はどう補完? これからの橋梁点検
「アナログ規制撤廃」へ。橋梁点検はどう変わる? 人による近接目視を基本として始まった橋梁点検では近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)が促進されてきた。加えて、河野太郎デジタル相が就任した昨夏8月には人による目視...
「”最も映える”橋梁写真ベスト5」 橋梁写真家が自ら、今年撮影した作品を選抜
「”最も映える”橋梁写真ベスト5」 橋梁写真家が自ら、今年撮影した作品を選抜
コロナ禍の1年間で撮影した作品の中から選ぶ「ベスト5」 以前、橋梁写真家の依田正広さんについて、『 「国内76万か所の橋を全部撮る」 土木素人が”橋梁写真”に魅せられたワケ 』という記事を書いた。 1年半ほど経ったあると...
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
※本記事は『建設ITワールド』の許諾を得て掲載しています。 「BIMを活用したいけれど、人材が見つからない」「どう始めたらいいの?」—そんな悩みを解決するのが、ウィルオブ・コンストラクション(本社:東京都新宿区)が提供す...

この記事を書いた人

根津 寿子
この著者の他の記事を見る
橋の記事を中心に、公共事業の記事を書きます。読んでくださったかたに、お役立ていただける情報発信を心がけています。データサイエンスに関心があります。Master of Business Administration
地方の小規模吊橋への愛情を事業化 地方の小規模吊橋への愛情を事業化

施工の神様をフォローして
最新情報をチェック!

  • フォローする5388

現場で使える最新情報をお届けします。

  • 施工の神様
  • インタビュー
  • 地方の小規模吊橋への愛情を事業化
  • 施工の神様
  • 技術を知る
  • 地方の小規模吊橋への愛情を事業化

コメント(0)

コメントフォームへ

コメントする コメントをキャンセル


コメントガイドラインをお読みになった上で投稿してください。

email confirm*

post date*

あなたも施工の神様に記事を投稿してみませんか?
おすすめ記事
  • 【髙松建設】「古来の技術と新たな発想を融合する」世界最古の企業”金剛組”再生でベスト・プロデュース賞を受賞

    【髙松建設】「古来の技術と新たな発想を融合する」世界最古の企業”金剛組”再生でベスト・プロデュース賞を受賞

  • 点数稼ぎに走るのは「なんか違う」

    点数稼ぎに走るのは「なんか違う」

  • 「暗闇の先の光見て」コロナ禍の”希望のトンネル貫通写真”が心に響く

    「暗闇の先の光見て」コロナ禍の”希望のトンネル貫通写真”が心に響く

  • 「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

    「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

  • 建設業界をイヤになった主任技術者は”造園”へ急げ!

    建設業界をイヤになった主任技術者は”造園”へ急げ!

  • 人と機械はどう補完? これからの橋梁点検

    人と機械はどう補完? これからの橋梁点検

注目のコメント
  • 権力を振りかざす世間知らずの勘違い野郎どもは本当に消えていただきたいです。

    「○んでくれ」「くせーんだよ」 発注者からの脅迫・暴言集【実録】
  • 公務員なんて、甘ったれのわがまま人間の巣窟。特に、バブル世代にパワハラとかするのが多い気がする。

    「○んでくれ」「くせーんだよ」 発注者からの脅迫・暴言集【実録】
  • 34℃で湿度がどれくらいか判断出来ないが今日びの38℃超え猛暑に比べればまだまし。 皆が言う体調管理なんかで対応出来る範囲を超えている。 朝一番から警戒レベルMAXが普...

    最高気温36℃の”猛暑日”。舗装工事は中止すべきか?【熱中症対策】
  • 勝手に喫煙休憩するな→即飛び蹴り シュールなコントみたいだな

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 辞めていいんじゃねーか? 下請けの奴隷ならともかく、大手ゼネコンの現場監督ならやりたい奴いくらでもいるだろw

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 若くても無能なら要らない

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • そんな無能はやめた方が現場のためだよ

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 飛び蹴りは普通に罪にならないか?

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 休憩するなら水分取るだけで充分なのにねwタバコまで吸いに行き注意されると即飛び蹴りとはヤニ中毒は危険だな

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 結局本人の申告によるものでしかないので、無理がありますよ。 すべての作業員さんにカメラつけて録画でもするならば別ですが。 公共工事にしろ民間工事にしろ、昔からすれ...

    「チェックシートで熱中症を防ごう!」 それができたら誰も苦労しない
  • 熱中症チェックシートは本当に不毛。 挙句の果てに、それを書いていても熱中症が発生したら「管理が甘かったからだ!」といってチェック項目を増やしたり、記入内容の真偽を...

    「チェックシートで熱中症を防ごう!」 それができたら誰も苦労しない
  • 建設業界のパワハラと言うよりは特定の会社の特定の上司のパワハラ。

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 返信した人の日本語もわかりません。 やり直し

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 建設業界って 何処に業界のパワハラをかいてるの? やり直し

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 所長が部下の人間性を否定するような現場がうまく回るはずがない。 現場は信頼関係で成り立っている。 現場の雰囲気は主に所長がつくりあげあてしまう。そのような管理職が...

    65歳以上と外国人は、全員”安全弱者”のヘルメットバンドをつけろ!? 納得できない話
  • この著者は神様とは思えないです まず、職人は工程を縮めたいんじゃなく無駄が嫌いなんです。それは管理者もだと思いますよ。 無駄=損害ですからね。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • スーパーゼネコンの監督とは仲良くなれないな。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • まったく現場の事を理解していない! もっと色んな事を経験して、勉強して下さい。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • 不仲は横柄で生意気ななゼネコンのセコカンが原因だと思いますけどね。 舐められない様な教育受けているので仕方ない所もありますが。 職人さんも見栄えよりも工数へらして...

    「不仲説」 現場監督と職人
  •  不仲なら発注しない、請負わない。 お互い仕事できなくなればいい。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • キャリアを考える
  • インタビュー
  • 失敗を生かす
  • 技術を知る
  • エトセトラ
  • 資格を取る
  • 建設
    用語
【PR】施工管理技士の転職に特化した求人サイト
施工の神様ロゴ
  • 施工の神様とは?
  • 原稿募集
  • 取材ライター募集
  • 運営会社
  • PR・プレスリリース
  • プライバシーポリシー
  • 広告掲載について
  • お問い合わせ
Copyright © 2025 WILLOF CONSTRUCTION, Inc. All Rights Reserved  リンクフリー
施工の神様