意思疎通の場が減る建設現場
安全担当の役目で今のプラント現場に来て、もうすぐ2か月が経とうとしている。以前この会社に関わった時に比べ、様々な書類や手続きがますます「人間不在」のまま進められている印象だ。
私は建築の設計図・施工図・施工管理が本職で、海外での仕事も長かった。作業員に話をするのは海外も同じだが、特に日本の現場では効率化と称し、人と人が相対して意思疎通を図る場面がドンドン少なくなっていることに疑問を抱いている。
安全担当は、様々な書類を受け取り、中身を確認し、不備をチェックする。場合によっては書き直してもらい、新規の人たちに対し直接口頭で現場の説明や独自の決まり事などを説明するのだが、現場に来る人たちの経験や知識、理解度は多種多様だ。そんな彼ら全員に理解してもらうためには、一人一人の表情を見ながら理解度を推測し、分からない人には基礎的な話からしてあげるべきだろう。
今いる現場では新規入場者教育はかろうじて対面で話をしているが、それさえ今は、ほとんどの現場で共通のビデオなどを見せて終わりになってしまっている。これでは、話を聞く側もどこの現場も同じことを言ってるだけで新鮮味もなく、真剣に話を聞く気持ちにはなれないだろう。
電子化によって失われた機会
新規で現場に来る作業員は、健康診断書・資格者証・保険関係などの個人情報書類の提出が求められる。情報漏洩対策として、それらの書類は全部電子化され、紙ベースではなくデータでやり取りになったことで便利になったかもしれない。
しかし、電子化されたことで確かに個人情報を受け取る側の手間は省けたが、情報の中から疑問点を拾い出し、面と向かって質問する機会を奪ってしまったように感じる。
例えば、健康診断の結果、血圧が150以上だった人や年齢が65歳以上の人に対しては、相対して話をすることで顔を覚え、日頃から調子はどうですか?と世間話を交えて健康状態を把握する。そんな会話が大切だと思う。
珍しい名前や出身地などの何気ない話が印象として残り、名前を覚えるきっかけになり、安全指示・指導などより親密なやり取りができるようになる。これは安全担当だからできるわけではなく、現場を管理する施工管理の人間も同様だ。
余談だが、最近はどこの現場でも名前をヘルメットに貼るようになり、名前で呼ぶのは普通になってきている。これは非常に良い傾向だ。
個人データの一元管理による弊害
最近では、個人のデータを指定の会社(個人データを専門に取り扱う会社)に送ってもらい、そこで作業員のデータを一元管理する方法が増えてきた。一見便利なように思えるが、データでの処理は穴がたくさんあり、利点と言えば単に紙の量が減ったことくらいだろう。
例えば、健康診断は一般的に年1回受ける決まりになっているが、機械では健康診断の次回のタイミングを読み取ることはできず、結局は人間が一人一人の健康診断書をめくって確認するしかない。
他には、建設現場での作業には色々な資格がつきもので、本来は現場で常に資格者証の実物を携帯しなくてはいけない規則なのだが、実際それを実行してる職人はごくわずかだ。それらを一目で分かるようにまとめてくれれば楽なのだが、実際はドサッと出された資料から氏名・有資格者かどうかなど、色々資料をめくって確認しなければならない。
しかも、機械は中身の精査などはしてくれないので、中身に誤った記載があろうと抜けがあろうとお構いなしで、提出されたままの記録が残るだけだ。むしろ、情報が提出されてるからOKと判断されてしまう。
電子化は、綺麗にまとめられ、もっともらしい形に見えるが、データでの処理は穴がたくさんある。イザという時、「確認などはしていません!ただまとめただけです!」と言い逃れされるのが見抜けないのか?と私は感じている。
体裁だけ繕い、一見とても便利に見えるが、肝心なところが切り落とされ、それに気づく人がいるうちは良いが、省かれた部分は表面にはすぐ出てこないが大切なことばかりだと理解しておくべきだろう。
これも時代の流れか?
そんな機械やソフトの問題点もいずれは改良・改善されていくだろうが、人と人が相対して話をする場面はますます減り、意思の伝達が機械を通じてなされ、しかもその意思を伝える文章さえ人工知能で作る時代が来るのだろう。つまり、全てが機械任せになる日がいずれ来る。
感情の起伏に合わせて機械が何かを判断できるはずもなく、優柔不断な人の気持ちなど最初から度外視で様々な判断が行われていく。その結果、建築は人間の感情の入り込む余地のない、理屈だけで考えられたモノになるだろう。
そんな時代になったら、私のような人間は真っ先に弾かれ、素直に機械の判断に従える人だけが世の中の中枢を担うようになるのだろう。私には到底納得できないことだが、それが”時代の流れ”というものなのだろうか。
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