株式会社タカミヤ 取締役常務執行役員経営戦略本部長の安田秀樹氏

株式会社タカミヤ 取締役常務執行役員経営戦略本部長の安田秀樹氏

「足場業界のAmazonになる」 業界の常識を打ち砕くタカミヤの”仮設機材の総合プラットフォーム構想”

建設現場の足場は従来、枠組足場を用いることが多かった。そして、その足場はよほどのことがない限り、30年~40年と使用する。つまり、足場レンタル会社は、できるだけ長く同じ足場を使用すれば利益を確保できるという経営方針が長く続き、こうした視点が足場業界の保守化を促してきたのは否めない。

しかし、株式会社タカミヤ(髙宮一雅社長)は、旧態依然の枠組足場からいち早く離脱し、足場の規格などを、安全面・施工面・管理面から全面的に洗い直した次世代足場「Iqシステム」を開発、普及促進につとめた。現場監督や鳶工事業者からの高い評価を受け、タカミヤの成功を目の当たりにした足場業界各社は驚愕し、この動きに追従。今や次世代足場は業界のスタンダートを固めつつある。逆に、枠組足場にこだわりを強くする足場レンタル企業は経営上、苦境に陥っている。

そのタカミヤの次の一手として注目を集めているのが、「タカミヤプラットフォーム」だ。2023年5月の決算説明会で発表し、今後は、仮設機材の総合プラットフォーマーとしてDXを推進。建設業界が持つ課題解決を図っていく。

次々と足場業界の常識を打ち砕き、新たな戦略を発表するタカミヤ。同社取締役 常務執行役員経営戦略本部長の安田秀樹氏にその戦略の中身について話を聞いた。

いち早く枠組み足場を”捨て”、次世代足場に集約

――御社の概要と全体の戦略像の解説からお願いします。

安田秀樹氏(以下、安田氏) 当社はもともとリース・レンタルから始まった会社です。その後、足場メーカーを傘下にし、さまざまな商品開発が可能になり、足場業界ではスタンダードとなった次世代足場の「Iqシステム」を開発しました。

従来の鳥居型の枠組足場は重量があり施工性が悪く、高さも170cmだったため職人が腰をかがめて作業していたのが現状でした。「Iqシステム」は、階高が190cmと高さがあり、腰をかがめることなく作業可能で、職人の負担が軽減します。また、枠組足場では人の墜落・転落、あるいは物を落とす事故事例も多かったですが、床面に隙間を無くすことで人の墜落・転落、物の飛来・落下の防止につとめました。

現在は。大手ゼネコンをはじめとする施工会社から次世代足場やシステム足場のご依頼をいただいています。当社の成功により、各メーカーも次世代足場の流れに賛同される動きも活発化しています。

旧態依然の枠組足場(左)と、スムーズに歩けるタカミヤ開発の次世代足場「Iqシステム」(右)

――当時、次世代足場「Iqシステム」は、足場業界で大きな反響を呼びましたね。

安田氏 次世代足場登場以前は、各レンタル会社は多くの枠組足場を保有し、足場の償却済みのレンタル会社は枠組足場を現場にレンタルするだけで儲かる仕組みでした。その一方で経年化した足場の安全性が懸念されることから、各メーカーに「枠組足場に代わる画期的な次世代足場を一緒に開発しましょう」と呼びかけましたが、多額な投資がかかることから一部のメーカーを除き大半のメーカーから賛同を得られませんでした。

そのため、独自に足場メーカーを傘下に入れ、次世代足場を開発し、当初は販売ではなく自社のレンタルストックで現場に提供し、従来からあった枠組足場から全て入れ替えをしました。自社の仮設工事現場でこの「Iqシステム」を投入し、職人や現場監督からは大変好評の声が得られ、現在に至っています。次世代足場の開発や普及促進を最初に実施したのがタカミヤであるとの自負があります。

隙間・段差なしで廊下のような歩きやすさ

――御社の躍進は、枠組み足場を捨てて、次世代足場に集約したところから始まりました。

安田氏 あの当時、足場業界からは、「タカミヤの考えでは失敗する」という声が大多数で、社内からも反対の声もありました。しかし、髙宮一雅社長が強く進め、次世代足場への切り替えを断行しました。当時で約100億円かかりましたが、現在これだけ次世代足場が普及したことを考えると、髙宮社長の決断は正しかったと思います。

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――足場業界はメーカー、リース、専門工事会社と数多いですが、他社比較での優位性はどの点にあると考えますか。

安田氏 同業他社の比較では、当社はレンタル、メーカー、販売、技術、開発の各部門を持っているため、仮設工事では材工一式で請け負うことが可能です。仮設にまつわる業務についてはワンストップですべて提供可能な企業はタカミヤグループだけです。360度、顧客に対してサービスを提供できる点が他社と比較して優位性があると考えています。

――御社の強みといえば、顧客であるゼネコンと良好な関係をもとに、「Iqシステム」の進化を図ってきたと考えますが、いかがでしょうか。

安田氏 土木・建築含めて、各ゼネコンと現場に向けた仮設工法や商材の共同開発を推進してきました。これは開発と技術部門が内製化している点が大きく、ゼネコンからの共同開発についても多くの要望が寄せていただいております。


「タカミヤプラットフォーム」でAmazonの世界観を具現化

――そこで足場業界が注目しているのが御社の次の一手です。

安田氏 現在のハード面(次世代足場)のシェアは約35%ですが、次世代足場がスタンダード化していくにつれ、次の戦略として「Iqシステム」のユーザーに対してアプリケーションの充実に踏み切りました。iPhoneをイメージしていただくと分かりやすいのですが、まずは統一したハードを普及し、そこにさまざまなアプリケーションを追加することで、ユーザーはiPhoneを手放せない環境となっています。同じ世界観を足場業界でつくりたいのです。

そこで、前中期計画からデジタルによる各種サービスを検討し、2023年5月の決算説明会で「タカミヤプラットフォーム」を発表しました。サービスの入り口では、次世代足場「Iqシステム」を購入いただき、「タカミヤプラットフォーム」に預け入れた顧客に対して、より高付加価値なサービス提供を行っていきます。

具体的には、当社のインターフェース「OPERA」を活用していきます。「OPERA」はこれまで、電話やFAXでの仮設機材の受発注対応や配送車両の手配などを、Webで24時間365日対応するというオーダーシステムとして展開してきましたが、ここに今後色々なメニューを追加してプラットフォームポータルとしていくイメージです。

「タカミヤプラットフォーム」をインターフェース「OPERA」に集約

現在、様々なアプリケーションやサービスを開発しながら、プラットフォームへと実装している最中です。たとえば、購入機材の管理・整備を代行する「OPE-MANE(オペマネ)」サービス、「Iqシステム」をユーザー間で売買できるデジタル市場「Iq-Bid(アイキュー-ビッド)」などは、従来の足場業界にはなかったものです。ほかにもさまざまなソリューションを提供していますが、今後はタカミヤプラットフォームをこれら全てのサービスの入り口として集約し、顧客は「OPERA」上で様々なサービスを利用することが可能になります。

そして、最終的には足場業界でAmazonや楽天のような世界を具現化するのが「タカミヤプラットフォーム」構想です。我々はこの「タカミヤプラットフォーム」で顧客とWIN-WINの関係を構築していくために、プラットフォームに賛同される企業のアカウントを増やしていくつもりです。

――壮大な構想ですね。

安田氏 当社はこれまで、足場など仮設機材の「開発・製造」「販売」「レンタル」「設計・施工」「管理・物流」の5つの事業を中心としたフロー型ビジネスを行ってきました。しかし今後は、「タカミヤプラットフォーム」を通じて、ソフト面とハード面の両軸を完備した新規サービス・コンテンツを提供し、外部環境に左右されないストック型ビジネスへの転換を図ります。そして、DXにより足場業界のビジネスモデルを変革し、従来の業界を一変させる破壊的なイノベーションを実現していきます。

――足場業界のゲームチェンジャーになる、と。

安田氏 従来の足場業界とは戦う領域が全く異なります。単に足場を自社で保管し、現場にレンタルするビジネスモデルはいずれ淘汰されていくでしょう。レンタル会社はプラットフォームに入ることで在庫管理が不要となり、営業だけ行えば事業が回っていきます。在庫が不要となれば、足場レンタルを新規事業として新たに参入される企業が現れる可能性もあるでしょう。

プラットフォームで足場レンタル会社再編の呼び水に

――プラットフォームに参加する顧客のイメージは、足場レンタル会社が主になるのでしょうか。

安田氏 当社がプラットフォームへ最初に参加を呼び掛けたのが、足場鳶工事業者です。足場の機材を保有し、現場で組立・解体を行っている足場鳶工事業者は、材料管理の大変さを理解されているためです。煩わしい機材管理は当社に任せていただき、自社は職人の手配や営業に専念すれば、経営的にも望ましいかたちになります。賛同いただいた鳶工事業者は「Iqシステム」を購入いただき、プラットフォームに入っておられます。

足場業界の営業スタイルは、同業他社も含めて営業スタッフが現場に足しげく通い、工事所長や現場監督と人間関係をつくってから見積もりを提出し、最後にいくら値引きするかが勝負の世界でした。結局、営業スタッフにとってはどれだけレンタル価格を安くするかの話ですから、仕事は面白くないんです。プラットフォームの普及により、付加価値を売る営業スタイル、つまり顧客の課題を解決する提案型営業に大きく変わっていくと考えています。

さらにゼネコン各社にもプラットフォームに賛同いただきたいと考えており、中堅ゼネコンの中にはプラットフォームに入られている企業もあります。また、将来的には同業のレンタル会社、あるいは別の領域から足場事業に参入したいとお考えの周辺領域企業の方々もターゲットになると考えています。

――地方のレンタル会社にも参画のメリットはあるのでしょうか。

安田氏 今、従来の枠組足場に特化されているレンタル会社は、枠組足場が経営的に足かせになっています。特に地方のレンタル会社の中には投資余力がないため、今もかなりの数の枠組足場を保有されています。

プラットフォームに入っていただくことで投資を最小限に抑制しながら、次世代足場で仕事ができる環境が整いますので、地方レンタル会社に対しても積極的に参加をお願いしていくつもりです。足場業界全体が次世代足場に切り替わっていく流れは止められませんから、これから業界の再編が起きてくると思います。その再編の受け皿としてタカミヤは大きな役割を果たしていきたいと考えています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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