インフラ整備は、発注者と受注者との共同作業だ。
建設現場では、国発注の工事の場合、建設監督官と施工業者(現場所長、監理技術者、現場代理人)の共同作業だと言える。一般論として、この関係がうまくいかないと、良いモノ、良いインフラをつくるのが難しくなるらしい。折しも、いわゆる働き方改革(残業時間の上限規制)の波が押し寄せる中、建設現場における発注者と受注者との健全なコミュニケーション、円滑なコラボレーションがこれまで以上に強く求められているように思われる。
ということで、建設監督官と一緒に話そうシリーズとして、建設監督官と監理技術者などの方々とのグループインタビューを連載してみることにした。その第2弾として、土佐国道事務所発注の南国安芸道路八流橋下部P2工事の現場を取り上げる。
福井 佑一郎さん 土佐国道事務所 建設監督官
濵田 英嗣さん 株式会社新創 監理技術者
玉渕 正人さん 株式会社新創 現場代理人
高規格道路の橋脚工事の現場
現場の状況(土佐国道事務所提供、2024年12月時点)
――福井さんは建設監督官になられてどれぐらいですか?
福井さん 2024年4月からで、建設監督官としてはこの現場が初めてです。
――濵田さんは、土木の現場は長いのですか?
濵田さん 30年ぐらいです。
――こちらの現場の進捗はいかがですか?
濵田さん 2024年12月時点で30%というところで、やっと軌道に乗ってきたかなというところです。
工事着手前の状況(土佐国道事務所提供)
現場代理人登用で、若い社員のスキルアップ狙う
――玉渕さんは現場代理人ということですが、どういったお仕事をされているのですか?
玉渕さん こちらの現場が初めての現場代理人です。なにかしらの協議の書類を作成したりですとか、作業員さんたちの仕事のダンドリといった感じになります。
――入社何年目ですか?
玉渕さん 6年目です。
――橋脚の現場経験はあるのですか。
玉渕さん 2箇所目です。
――初めてということですが、現場代理人という仕事はどうですか?
玉渕さん やはり責任があるので、緊張感がありますが、やりがいも感じます。
――濵田さん、玉渕さんを現場代理人に起用した意図はあったのですか?
濵田さん 当社には、30才代の社員があまりいません。20才代の上となると、私を含めた40才代になります。会社の方針として、若い世代を育てないといけないというのがあります。当社の他の現場でも、若い社員を現場代理人にして、スキルアップしてもらうということをやっています。
「先輩たちは教えるのがうまいなあ」
――初めての現場代理人はどうですか?
玉渕さん 初めての仕事もあるので、先輩に教わりながら、仕事をしていますが、一方で、この現場には後輩もいるので、「どう教えたらいいんだろう、難しいなあ」と思いながら、教えています。「先輩たちは教えるのがうまいなあ」と実感しているところです(笑)。
――年配の職人さんに指示出しするのは、シンドいといったことはありますか?
玉渕さん やっぱり、最初は抵抗がありましたね(笑)。でも、業務上必要なことですので、そこはしっかり指示出しするよう、気をつけているところですし、最近は慣れてきました。
建設監督官としての残業はボチボチ(笑)
福井さん
――いわゆる働き方改革への対応について、こちらの現場はどうですか?
福井さん 発注当初から土日閉所、完全週休2日でやってもらっています。ICT施工もやってもらっていて、工事の時間短縮にも取り組んでもらっているので、働き方改革には対応してもらっていると考えています。ただ、どうしても土日に現場を動かさないといけないときは、代わりに平日を閉所にしてもらったりすることはあります。
――建設監督官というお仕事の働き方改革はいかがですか?
福井さん 書類の簡素化や遠隔臨場などの取り組みにより、昔に比べかなり超勤は減ってます。しかし、土佐国道事務所は工事件数も多く、他事務所に比べると残業は多くなってますが、定時で仕事が終わるよう日々努めているところです。
――残業は少ないということでよろしいですか?
福井さん ボチボチです(笑)。
「残業しない」という意思がないと、ダラダラ仕事をしてしまう
濵田さん
――濵田さん、働き方改革への対応はいかがですか?
濵田さん 会社からは、時間外労働を少なくして、4週8休で回すよう言われています。現場のほうはと言うと、昔であれば、社員2〜3人ほどで回していたような現場に、今は、若手も含めて4〜5人で回すようになっています。社員の役割分担を明確にすれば、若い社員でもこなせるだろうということで、やっているところです。
やはり、社員一人ひとりが「残業はしない」という明確な意思を持ってないと、ダラダラ仕事をしてしまうので、ICT施工を取り入れて、時間短縮の大事さを伝えたりしながら、残業を減らすよう取り組んでいるところです。
――職人さんはどうですか?
濵田さん 4週8休を織り込んだ単価で契約して、職人さんが困らないようにしています。
昔はなんでそんなに残業していたのか
――ICT施工としてはどういったことを実施していますか?
濵田さん 最初に掘削があったので、若い社員がまず3Dデータをつくって、そのデータをもとに掘削しました。3Dデータをつくっておけば、あとはバックホウと作業員さんがやってくれるので、われわれ社員は他の作業に回れたので、便利になったし、丁張り作業も省略できたので、かなりラクでした。
ICT施工については、当社も他社に遅れないようにということで、取り入れられるものは取り入れていこうというのが、当社の方針です。
――残業は減りましたか?
濵田さん 減りましたね。昔はなんでそんなに残業していたのか、逆に不思議です(笑)。
――玉渕さん、現場の働きやすさはどうですか?
玉渕さん みなさんフレンドリーな感じで、働きやすい職場だと思っています。働くべきときはちゃんとやって、あとはワイワイやるという、メリハリのついた感じです(笑)。
マンネリ化で社員の気持ちがユルむのが、やっぱりコワい
――この現場で、安全衛生管理上、とくに気をつけていることなどはありますか?
福井さん 2024年の夏はスゴく暑かったので、熱中症対策には一番気をつけました。現場に来たら、みなさんに声掛け、挨拶するようにしました。シンドそうな人がいたら、そこで気づけるからです。
あとは、これはどこの現場でもやっていることですが、立会や週1回の安全点検で、危ないところはないかチェックするということです。幸い、私の現場では事故は起きていません。
濵田さん 社員の安全意識が低かったら、職人さんも油断してしまいます。社員の気持ちがユルむことがないようにということは、常に心がけています。やっぱりマンネリ化がコワいので、ふだんのコミュニケーションの中で、ちょっとイヤな感じがしたときに、言うべきときに言うという感じですね。
熱中症対策は、一番は空調服ですね。あとは、製氷機やウォーターサーバーを置いたり、栄養ドリンクやアメを常備したりといったことをやりました。
「こうやったほうが安全やないかえ?」
玉渕さん
――玉渕さん、安全衛生管理はしっかりやっていますか?
玉渕さん 私はまだ経験が浅いので、作業手順について、作業員さんから「こうやったほうが安全やないかえ?」と提案されることがあります。そこは柔軟に対応するようにしています(笑)。
私自身も、夏は空調服をつけて現場に出ていましたが、それでも大変でしたね(笑)。水分をこまめにとるなどの対策も講じましたので、大事には至らなかったです。
とにかく住民に直接会って話を聞くスタイル
――現場でコミュニケーションをとる際、気をつけていることなどはありますか?
福井さん 現場を進めていくにあたっては、どうしても懸案事項や問題点などが出てきます。施工者さんからなにか連絡があったら、極力すぐに回答するようにしています。
すぐに回答ができない場合は、「いついつまでに回答します」と期限を定めて回答することにしています。とにかく「現場がとまらないように」ということを気にかけて、対応することにしています。
現場近隣に住宅がありますが、この現場で幸い地元要望が入ったことはありません。ただ、この現場に車両が出入りするため、国道の通行を一時的に止める必要があったときに、「急に止められた」と連絡いただいた方はいました。
ちなみに、私が担当している他の現場では、しばしば地元要望が入る現場があります。地元要望のお電話が入ったときは、私がすぐにその住民の方のところに行くようにしています。とにかく直接お会いしてお話を聞くという姿勢ですね。
私はコワい人間ではありません(笑)
――濵田さん、コミュニケーションについていかがですか?
濵田さん 福井建設監督官は、私と年が近いので、話しやすい方です。書類処理や回答などもスピード感があって、総じて対応が早いので、スゴく頼りになっています。
現場のコミュニケーションのために、特別なにかしているということはありませんが、誰かとすれ違うときにちょっと話しかけるとか、私、魚釣りが趣味なのですが、同じ趣味を持った人が現場に数人いるので、魚釣りの話をしたりとか、そういう感じでコミュニケーションをとっています。
私が若いころは、現場に見た目のコワい人がいましたが、今は少なくなったような気がします。私も、コワい人間ではありません(笑)。
――玉渕さんとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
濵田さん 玉渕くんが新入社員のとき、私と同じ現場だったので、お互い慣れていると思います。親子ぐらい年は離れていますが、それはあまり関係なく、和気あいあいとやっています(笑)。
作業員さんから「かわいがられる」現場代理人
玉渕さん(中央前)と濵田さん(右)と作業員さんたち(土佐国道事務所提供)
――濵田さんから見て、玉渕さんはどういう人ですか?
濵田さん マジメですね。コツコツやるタイプです。見た感じもそうでしょ(笑)。
――玉渕さん、コミュニケーションで気をつけていることなどはありますか?
玉渕さん 作業員さんらと積極的に会話をするようにしています。仕事のときでも、話しかけやすい雰囲気づくり、関係づくりを心がけています。
濵田さん 作業員さんのほうも気を使って、玉渕くんによく話しかけていますよ(笑)。
――俗に言う「かわいがられている」感じで?
濵田さん そうです、そうです(笑)。
建設監督官からイイ感じに対応していただける
――玉渕さん、濵田さんはどういう上司ですか?
玉渕さん スゴく頼りになる上司です。たとえば、なにかわからないことがあって相談したときに、「こうやったらえいがやない」とか「こっちのほうがわかりやすいがやない」という感じで、優しく丁寧に教えていただけます。
――福井さんとのやりとりはどうですか?
玉渕さん 最初は緊張して話せなかったですが、イイ感じで対応していただいていますので、最近は、協議書類の確認といったことなどについて、お電話でしっかりやりとりさせていただいています。
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憧れの建設監督官に「やっとたどり着いた」
――福井さん、建設監督官という仕事の魅力はなんですか?
福井さん 今は、この現場も含め、17件の工事を担当していますが、新しいものをドンドンつくっている現場を担当しているということで、スゴくやりがいを感じながら仕事をしています。やはり、目の前で構造物がドンドンできあがっていくのが魅力ですね。
先輩から「建設監督官が一番楽しい職務だ」と聞いていたので、建設監督官には憧れていました。今は、「そこにやっとたどり着けたな」という気持ちです。
比較的工事規模の大きな工事を担当させていただいているので、当然責任も重いですが、それも含めて、やりがいを感じながら、仕事ができています。地元の方々や施工業者の協力を得ながら、詰所の他のメンバーたちとチームを組んで仕事をするのは、建設監督官ならではの仕事だと思いますね。
シンドかった仕事が終わった瞬間が、一番の魅力
――濵田さん、土木の現場の魅力はなんですか?
濵田さん 構造物が完成して、「終わった」という瞬間が一番の魅力です。それまでに暑かった、寒かった、シンドかったという過程があっての終わりなので、格別ですね。
――玉渕さんはどうですか?
玉渕さん 私の場合は、子どものころから橋脚などの建設工事を見ていたので、「こういう仕事をやってみたいなあ」と思っていました。それで高校も農業土木科に行きました。それで土木の会社に入りました。
濵田さんも言われましたが、最後に構造物、モノが完成したときは、スゴく達成感を感じます。「やり切ったなあ」ということで達成感があるのが、魅力です。