井上 剛介さん 国土交通省水管理・国土保全局 海岸室 企画専門官

井上 剛介さん 国土交通省水管理・国土保全局 海岸室 企画専門官

国交省海岸室配属になったからには、海のことを知るために「サーフィンを始めよう」と画策している井上剛介さん

先日、国土交通省海岸室長の室永武司さんの記事を出したところだが、「海岸室の若手職員にもインタビューしたい」とお願いしてあった。「イキの良い九州男児がいますよ」と、ご紹介いただけることになっていたのだが、誰かは知らされていなかった。

いざフタを開けてみると、以前「アツい男」として記事にした井上剛介さんその人であった。

「こんなこともあるんだな」と思いながらも、「これも縁だな」と思い直して、国土交通省海岸室で企画専門官となった井上さんに、海岸室の仕事のやりがいなどについて、再びアツく語ってもらった。

海岸室は、おもしろくて、特殊なセクション

――海岸室に異動になったのはいつですか?

井上さん 2024年4月です。

――企画専門官とはどういう役職ですか?

井上さん 仕事の内容としては、課長補佐と同じような立場です。海岸室長がいて、海洋開発企画官がいて、その下のポジションで、総務(法規)、企画、事業、管理の4つのラインのうち、企画ラインを担当しています。企画ラインでは、海岸行政に関する企画立案や、室内全体のとりまとめの仕事などをやっています。

――海岸室は初めてだと思いますが、どうですか?

井上さん はい、海岸室は今回が初めてです。海岸室は、企画立案、計画論、リスク情報、事業、管理、環境・利用、防災対応、法規など、海岸行政に関するすべてのことを一つの室で所管しているので、おもしろいセクションだなと思っています。

その一方で、昔で言う海岸4省庁、旧建設省、旧運輸省、農林水産省、水産庁の連携を常に取りながら、物事を進めていく必要があります。たとえば、気候変動への対応は、旧4省庁が連携して検討会を開催し、都道府県への通知などを行っています。そういう意味でも、特殊なセクションだと思っています。他省庁の違う文化に触れる機会があるので、それはそれでおもしろいですね。

――数年ぶりの本省勤務はどうですか?

井上さん 次は本省勤務と聞いたときは、「あ~、あの職場だよな」と思いました(笑)。実際に戻ってみると、以前勤務したときと比べ、働き方がだいぶ変わっていました。たとえば、メールやチャット、WEB会議といったツールを駆使して、上司の決裁を早く取れるようになっています。もちろん、能登半島地震の復旧の関係とか、短期的にドタバタすることはありますが、残業時間は、以前とはダン違いに少なくなってると感じています。

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出張の機会があれば、必ず手を挙げるようにしている(笑)

福岡のシンポジウムの集合写真(井上さん写真提供)

――前回お話を聞いた際のパターンでいくと、やはり全国各地の直轄事業などを回っていたりするのですか?(笑)

井上さん (笑)。まだ1年経っていませんが、直轄事業に関しては、これまでのところ、宮城、新潟、静岡の3つを回っています。直轄以外だと、権限代行事業を行っている能登半島や石川、秋田、福岡などに行きました。だいたい2ヶ月に1回ペースで、直轄や都道府県の現場を見て回っています。

――あ、やっぱり回ろうとしているんですね(笑)。

井上さん そうですね。出張の機会があれば、必ず手を挙げるようにしています(笑)。

――講演で福岡に行ったそうですね。

井上さん 九州大学主催のシンポジウムに行きました。福岡県が管理する糸島にある海岸の砂浜が年々なくなっているということで、行政としてどう対応するのかなどについて、お話ししました。このシンポジウムには、日ごろから海岸を利用している地域の方々も参加していて、スゴく日に焼けたサーファーの方もいらっしゃいました。ふだんはスーツを着た方々向けの講演が多いので、そういった方々とお話ししたのがスゴく新鮮で、楽しかったし、いろいろな発見がありました。

侵食の影響を受けている福岡・糸島の海岸(井上さん写真提供)

権限代行による能登半島地震復旧事業の調整役を担当

護岸の倒壊(井上さん写真提供)

――担当している主なお仕事はなんですか?

井上さん 私の主な仕事としては、能登半島地震を踏まえた海岸堤防の復旧と、気候変動を踏まえた海岸保全への転換があります。

令和6年の能登半島地震では、珠洲市周辺で浸水深4mほどの津波が発生し、広域にわたる浸水被害が発生しました。海岸管理者である石川県からの要請を踏まえて、大規模災害からの復興に関する法律に基づく権限代行により、現在国が海岸堤防の復旧工事を行っているところです。工事対象となる区間延長は約10kmとなっています。今回被災した場所には、水管理・国土保全局や港湾局、水産庁が所管する海岸も含まれているので、それぞれの省庁をはじめ、石川県や自治体などと調整しながら、工事を進めていく必要があります。

私はまさに、この全体調整の仕事をしています。

私が担当になったときは、被災から3ヶ月ほど経っていましたが、まだ本格復旧に向けたメドが立っていない状態でした。地震や津波で被害を受けた海岸堤防は土のうなどを使って応急復旧を進め、それと平行して本復旧に向けた準備を進めました。

本復旧に際しては、珠洲市の復興まちづくりと地域の方々の思いに寄り添いながら検討することが重要だと考え、珠洲市や地域の方々と意見交換しながら、復旧復興に向けた方針整理を進めてきました。その上で、2024年11月から、市や地元との調整が整った上戸地区において海岸堤防の本復旧に着手しています。

2026年の本格的な台風期までに本復旧工事完了を目指す

応急復旧(大型土のう等の敷設)完了(井上さん写真提供)

――被災地にはいつごろ入ったのですか?

井上さん 私が最初に被災地に入ったのは2024年6月でした。発災から6ヶ月ほど経っていたので、それなりにガレキの撤去作業などが進んでいるものと思っていたのですが、現場に行ってみると、発災後からほとんど手つかずといった状態でした。

地震により被災した家屋は原形をとどめずに倒壊していましたが、津波被害を受けた家屋は、家屋の構造は残っているものの、津波が壁を破壊して、さらにはその奥の壁も突き破り、津波が通った方向だけ筒抜けとなっていたことが印象的でした。そうした津波被害を受けた家屋や、建物に残る痕跡水位を確認しながら、被害状況を確認しました。

――本復旧完了はいつごろの見込みですか?

井上さん 水管理・国土保全局が工事を担当する地区は、全部で4地区あるのですが、発災から1年が経過した2024年末までに上戸地区と正院地区の工事に着手済みで、残りの2地区については、現在地元の方々などとの調整を鋭意進めているところで、それが完了次第、工事に着手する予定です。今のところの見込みでは、2026年の本格的な台風期までに工事を完了させることにしています。北陸地方整備局や工事を担当する能登復興事務所などと定期的に打ち合わせを行い、情報を共有しながら、本復旧工事を進めているところです。

――災害復旧に関わるのは初めてですか?

井上さん 本省において、平成30年西日本豪雨や令和元年東日本台風などの災害対応を行ったほか、その後岡山河川事務所に異動して災害を踏まえた治水計画づくりなどに携わったことはありますが、本格的に災害復旧に関わったのは、今回が初めてです。河川と海岸は復旧の考え方も違いますし、現場と離れた本省で関わることの難しさを実感しました。「こうしておけば良かった」と思ったこともありましたが、それも含めて勉強になっています。

砂の動きや波のメカニズムなど不確定な要素が多い

仕事中の井上さん

――気候変動を踏まえた海岸保全への転換とはどのような仕事ですか?

井上さん 気候変動と砂浜の関係でいくと、気温が2~4度上がると、全国の砂浜が6~8割が失われるという研究結果があります。本当にそうなるかは誰にもわかりませんが、気温上昇により、海面水位が数十cm上がり、台風なども強くなった結果、砂浜が失われると言われています。

サーファーをはじめ、散歩したりビーチバレーしたり、いろいろな方々が砂浜を利用しています。そういった方々のためにも、砂浜をしっかり保全するということで、私のラインでは、都道府県において気候変動を踏まえた海岸保全基本計画の見直しが進められているため、その検討にあたって技術的助言をしています。

――いわゆる河川屋が海岸の仕事をやることの意味について、どうお考えですか?

井上さん 河川と海岸はつながっているので、切っても切り離せない関係にあると感じています。当然、河川と海岸は連携しなければなりません。河川管理者が河川のことだけ考えて整備を行った結果、海岸に悪さをする可能性があります。海岸は水や土砂の流れの末端になるからです。海岸管理者の立場からすると、「河川でこうしてくれたら、ダムや砂防でこうしてくれたら」という思いがあります。そういう思いを持った職員が河川やダムのセクションに行くと、また違った解を出すことができるかもしれません。

私自身河川畑の人間ですが、今海岸を経験していることは、いずれまた河川の仕事をする上で、視野が広がる機会になっていると感じています。そういう意味でも勉強になっています。

――海岸ならではの難しさを感じることはありますか?

井上さん 河川は、堤防やダムといったカタチのある構造物でカチッと守りますが、海岸は、砂というカタチのないもので守る、自然のチカラで守るという違いがあると思っています。もちろん海岸でも堤防やブロックを使って守ることはありますが、河川のようにそれが前提にはなっていないということです。砂は、波によって動きが変わりますし、波のメカニズムの解析も困難なので、不確定な要素が非常に多いです。そういうところが海岸事業の難しさだと感じています。

「井上さんもサーフィンやりなよ」

プライベートで訪れた神奈川の鵠沼海岸(井上さん写真提供)

――海岸事業を進める上では、海岸の「利用者」のことも考える必要があるそうですが。

井上さん 海岸は日本全国津々浦々にあるわけですが、海岸ごとに景色や砂の質、波の高さなどが違うんです。私自身も息子と海水浴などで海によく遊びに行っているので、砂浜からの恩恵を受けています。そんな砂浜の環境を保全する仕事に携われることは、やりがいを感じますし、私の息子を含めた後世に残していくことに使命感を感じています。

とは言え、私自身毎日海岸を見ているわけではありません。福岡でお話ししたサーファーの方が「自分らは毎日海岸に来ているので、波の変化、砂浜の変化が感覚的にわかるんだ」とおっしゃっていましたが、スゴく説得力がありました。その方から「井上さんもサーフィンやりなよ」と言われました(笑)。

私は「なんでもやる性分」なので、サーフィンをやろうと思っています。家から海に出るまで2時間ぐらいかかるのが大きなネックになっているのですが、後日静岡出張の際にも別の方から同じことを言われたので、「これはやらんといかんな」と考えているところです(笑)。

広島にいたとき、太田川でサップをやっていました。サップをやると、堤防で眺めるよりも、川の状態がよくわかるんです。海も同じで、陸から眺めるのではなく、海の中に入らないとわからないことがきっとあるはずなんです。

本省にずっといて、エラそうなことを言うのではなく、実際の海を知ろうと努めながら、いろいろ吸収することが大事かなと感じているところです。海を知っているのといないのとでは、やはり説得力が違うと思うので。

――期待しています(笑)。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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