橋梁点検でドローンを活用するシステムを展開する株式会社FLIGHTS(フライト、東京都渋谷区、峠下周平社長)と、容易に近接しにくい個所へのロープを使った近接目視を主力にしている特殊高所技術(京都府京都市、山本正和社長)は、5月16日に業務提携を開始した。
両技術は、お互いの強いところを生かし弱いところを補える組み合わせとなり、点検品質は確保して、点検業務の効率化や、コストの抑制が実現できると期待されている。これまできちんと整理されていなかった、ドローンとロープのそれぞれが得意とする点検範囲を明確化することで、適切な組み合わせ方法を検討して標準化を図る考えだという。
技術を相互補完すると、品質と効率そしてコストで相乗効果
――フライトさんは橋梁点検でドローンを活用するシステムを展開され、点検品質の要となる精度管理においても定評がありましたが、今般、ロープを用いて人が近接目視する特殊高所技術さんと業務提携を開始されました。
峠下社長 そうなんです。これまできちんと整理されていなかった、ドローンとロープのそれぞれが得意とする点検範囲を明確化することで、点検の品質を確実なものにしながら業務を効率化する適切な組み合わせ方法を検討して標準化を図り、安全で確実な点検業務を促進していこうと提携しました。
当初は、ドローン点検と特殊高所技術を代表とするロープを用いた点検は、競合技術として認識されているものと考えていました。しかし、ドローン点検の適用実績が増えるにつれて、ドローンだけでは点検が難しい個所があり、ドローンとロープそれぞれが得意な個所の点検を担うと、それが弱いところを相互補完するかたちにもなって、品質や効率、そしてコスト面では相乗効果が生まれる、両技術を適切に組み合わせることは、全体に良い結果につながるという考えに至ったことが背景にあります。
メンテナンスサイクルも2巡目後半となり、点検の品質と効率において、それぞれの点検技術の得手不得手が分かってきて、ドローンで取得する画像点検に向く範囲、特殊高所技術のような人に頼る範囲というのが、点検の技術開発や現場などの当事者に近いところで仕事をしている人たちのなかには分かってきていまして、この知見を生かした技術の効率的な使い方とかミスマッチの是正とかが今、必要とされてきているのかな、と実感しています。
それでちょっと建設コンサルタントさんの領域になるのかもしれないんですけれども、情報の非対称性はまだやっぱりドローンの側にある状況ですから、ぼくたちのほうから点検範囲を明確にして、最適な技術の組み合わせや運用の情報を提供していくのが、点検業務の効率を上げ、コストも合理化しながら、安全で確実な点検業務を実施していくのに必要かなと思っているんです。
--そうなんですね。技術のミスマッチとかが続くと、インフラの安全安心に直結するだけに、いろいろ大変そうです。
峠下社長 そうですね、心配しています。近年よくあった定型パターンとして、「上部工もドローンで点検できます」という契約をされた発注者さんが、1年やってみて、「点検できませんでした」となって、旧来のやり方へ揺り戻すみたいな、ドローンを活用した点検への期待値が落ちちゃった、ということが本当によくあったんですね。
これからもっと技術が進展して、ドローンでできる範囲も増えていく可能性はありますが、それは発展段階の現状に即した運用の積み重ねの先で実現できることだと思うんです。
なので、もともと、ぼくたちロボティクス業界は、国土交通省さんが示されてきた「人手と財源の不足が懸念されるなか、どうやってインフラの安心安全を担保していくか」という社会問題の解決に向けて、点検技術とシステム開発にも取り組んできた側面もあるので、近年の実装でたまってきた知見を生かしてミスマッチの是正にも取り組んでいかないと、ドローン技術が社会問題の解決に役立てられていくという未来感が遠景に退いてしまうのかなということも心配なんです。
――フライトさんの機体やシステムはかなり上位種で、カメラも高性能なものを載せていますし、また静止して画像を撮影できるとか、画像の精度管理を徹底されているとか、点検品質に対して業界には信頼感があったように感じるんですけれども、それでもドローンでの画像点検に不向きな部位は残るということですか?
峠下社長 そうですね、逆に精度管理が確実にできる部位に特化して効率的にやってきたので、その結果として信頼感が得られているとも言えますよね。
国土交通省さんも点検支援技術で代替することに関して、人と同等の品質を担保するために、点検品質はメンテナンスサイクルの要なので当然といえば当然なのですが、「点検支援技術使用計画」の明示や精度管理計画などを求めています。
手順の概要としては、受注者もしくは発注者が現場条件や構造、設置状況などを十分に把握したうえで、「点検支援技術の性能カタログ」から技術の特性および仕様を勘案し、技術を選定し選定理由と活用範囲、活用目的を「点検支援技術使用計画」として明示したうえで、点検業務発注者へ協議するという流れになります。「点検支援技術使用計画」には、対象部位・部材・変状、活用範囲、活用目的、活用程度、使用機器と選定理由、そして精度管理計画を含む必要があります。精度管理計画には点検支援技術の誤差要因や精度を満たすための条件を明確化することが求められています。
弊社はこの精度管理に非常に厳格に取り組んでいまして、橋梁を主力にされている老舗コンサルタントの大日本コンサルタントさんと協業してドローンによる橋梁点検システム「FLIGHTS橋梁点検システム」を作ってきた経緯もあって、専門的かつ実務的な知見を入れて精度管理アプリの開発をしているんですね。ですので、後ほどご説明しますが、AIに学習させる画像の量も膨大ですし、開発も「ドローンでこういう画像が撮影できるので、それを橋梁点検に生かすにはどうするか」というのとは逆で、「橋梁点検に必要な要素を満足する画像とはどういう画像か、それをドローンで取得するにはどういう技術を生かしてシステム化すればいいか」という目的から逆算するかたちで取り組んでいるんです。
それでもやっぱり現状では、ドローンで確実な精度管理ができるのは、コンクリートのフラットな面で明るい場所、つまりコンクリート橋脚などに限られるんですね。他の場所も同様に静止して撮影はできますけれど、橋梁点検に必要なクラスの精度管理を満足するには、照度が足りないとか課題が残るんです。
コンクリート橋脚面はドローン、支承部などは特殊高所技術で
――ドローンと特殊高所技術でどう分担しますか?
峠下社長 ドローンと特殊高所技術を併用することにより、お互いの強みを生かし、お互いの弱みを補い合うことで点検精度を維持しつつ点検の効率化を達成します。
ドローンが活用できる範囲では、ドローン点検に置き換えることで点検効率をアップできますので、弊社のドローンはコンクリートのフラットな面を精度ならびに効率よく点検していくのが得意ですので、コンクリート橋脚を最も得意としていまして、そこは弊社のドローンが担います。一方、上部工や支承部のように、構造が複雑で照度が確保できない部材や、打音診断でないと判断できないコンクリートのうきの確認、鋼部材などはドローンでは難しく、特殊高所技術が点検を担います。人が近接することで例えば支承付近とかでは堆積物の除去もできます。
――今後ドローンの範囲が広がっていくことはありますか?
峠下社長 建設コンサルタントさんからは上部工をドローン点検してほしいというご意見をよくいただきます。現在使用しているMatrice 300 RTKはカメラを上向きにつけることも可能なドローンになるので対応できるように開発は進めておりますが、あくまで精度管理ができることを前提に開発を進めています。そのため対応できるだろう領域として、ラーメン橋のPC箱桁を対象に開発を進めています。
これまで点検で求められる精度を安定的に確保したうえで、そうした部材を点検していくのはなかなか難しい状況にありました。今はまだ研究開発の段階なのですが、弊社は写真を撮るときには画像精度を確保するため1枚1枚ホバリングして止まったうえで、静止撮影できることも強みにしていて、そこにDJI社のZenmuse P1というセンサーの中では1番大きい上位種のフルサイズセンサーを積んでいるので、ラーメン橋のPC箱桁部分には今後は可能性が出てくるのかなと思って取り組んでいます。
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