「優秀な所長ほど、追加工事の金額が多い」「厄介な設計者がいない」建築屋が見た土木

測量設計コンサルタントの図面、数量表が信用できない!

私は建築メインの人間だが、土木の経験もある。建築側の視点から土木で驚いたことを書く。偏見も入っているかもしれないが、私が思っていることである。

まず、測量設計コンサルタントの作成した図面、数量表が信用できないことがあった。明らかに寄せ集めの図面で、コンサルが外注に丸投げしたのは明らかだ。CADの種類が違うので、線の太さや種類も統一されていない。文字も統一されていない。よくもこんな図面を恥ずかしげもなく公にするな、と思った経験がある。

問題は構造図の数量だ。こうなると何も信用できないので、再数量拾いとなる。二度手間だ。この手間をコンサルに請求したいところだが、現場所長が掛け合ったもののムダだったようなので、その仕事はこっちに回って来ることになる。

設計図はだいたい4~5年前に作成されるので、大分時間が経過している。設計図は発注図となり、建設会社が入札で受注し工事を請負うのだ。その発注図と数量表がそのまま使用できればいいのだが、なにせ自然相手である。長い年月で地形が変化している。特に河川は洪水などで、川底や右岸、左岸がえぐられ、大きく変化している。つまり発注図は基本設計で、現場で実施図、施工図を作成しなければならないのだ。最後は現状に合った完成図を作成する。

追加工事の金額が多いほど優秀な所長

土木では追加工事の金額が多いほど優秀な所長らしい。公共工事であるから、請負金額の増減はないと思うかもしれないが、土木は違う。そして請負金額は増えることはあっても、減ることはない。会社にとっては臨時ボーナスみたいなものだ。コンサルにも見落としはあるし、現状に即した安全側の追加工事もある。そこが現場所長の腕の見せどころだ。

外注の私は、所長の要望に応えた資料、図面を作成しなければならない。 時にはヘルメットを被り、現場に出かけて寸法を測って来る場合もある。地形の変化は当たり前なので、請負会社が手配した測量会社が、設計図と同じ位置で再測量する。川があれば、川底まで測量する。大きい川だと船を出し、浅い川だと海パンで測量する。

今はCADがあるので、図を重ね合わせると一目瞭然、設計図との違いがわかる。そこで増減が発生し、国土交通省地方整備局河川事務所出張所との協議になる。増減数量を明らかにして、その箇所を図面化する。OKなら数量拾いと見積書作成となり、追加工事契約となる。

しかし構造物に増減はない。構造物は新たにその場所に造るので、増減などあるはずがない。だからコンサルの数量表は正善説に当てはめれば、そのまま使用できるものでなければならない。しかし実際は、所長が型枠数量を拾い出したら違ったというコンサルも存在する。まったく迷惑な話だ。


建築と違って厄介な設計者がいない!

土木は建築と違って厄介な設計者がいないことは良い点だと思った。余計な気をつかう必要がない。建築の場合、設計者の承認を得ないと一歩も進まない。イジめるために、わざと決めない設計者もたまにいる。現場との折り合いが悪いと、設計者は腹いせに決めないのだ。

土木の場合、役所に協議を申し込み、確認のハンコをいただければOKである。確かな書類と図面を提出しなければならないが、人ではなく書類で、お役所さんだから、書類のコツさえ覚えれば大丈夫。役所も書類がそろっていれば指摘されることもないので、 ハンコを押してくれる。

基本は「早く、安く、安全に」

土木現場は基本を学ぶ最適な環境だ。施工図の基本は皆さんご存知のように、「早く、安く、安全に」である。

特に仮設計画での工事は、安く、 安全に、が基本中の基本。請負会社の施工計画をもとに所長の指示で作成していく。とにかく重機、ダンプが大きい。搬入、搬出のトレーラーの軌道の確認、鋼矢板打ち込み計画、 仮締切り計画、工事用道路をどのように造るか、盛土数量計算、クレーン配置計画、制作ヤードの大きさ、工事看板、お知らせ看板設置個所、近隣住民説明会資料、 用地関係、公害関係、安全対策関係、工事用道路関係、仮設備関係、建設副産物関係、工事支障物件、薬液注入関係など、全て施工図がいるし、役所との協議、確認が必要だ。 こんなに土木現場が忙しいのかと驚いた。その他にも写真管理 、気象管理、河川だと水位管理、全て毎日のデータを記録する。

写真の数も半端じゃない。国土交通省対応の写真管理ソフトがあるが誤魔化しがきかない。撮影日時まで細かく出るから、撮り直しもきかない。デジタルデータなので工夫する気になればできるかもしれないがバレる。失敗は許されないので、写真担当の職員は相当神経を使う。

撮影日時や、場所、物、書き間違いは許されない。私は写真データをパソコンに取り込み、整理して張り付ける担当をしたことがあるが、工事の流れが分からないとできない仕事なので、現場での経験が必須だ。写真の項目も多い。写真を見てみると、黒板の傾きも大事。傾いていると良い印象を 受けない。文字の綺麗さも重要だ。

看板も制作会社に発注するが、工事名所が違う場合が あるので要注意だ。確認しないこちらが悪いのだが、相手も人間である、間違いを犯す。制作会社も多くの取引先があるので間違うのだ。しかしこちらは間違いでは済ませれない。現にそんな失敗があり、修正に多額のお金をかける羽目になったことがある。

建築屋から土木屋へのエール

土木の現場は日々、自然災害との闘いだ。 台風、大雨、地震などに現場が遭遇する場合もある。実際に私も遭遇し、せっかく造った仮締切が濁流で破壊され、流されたこともあった。大洪水である。朝、現場に行ったら跡形もない。土砂が全て流された。

所長に聞いたら、今拾いに行っているとか。「へえ、拾いに行くのか」などと、感心したものだ。また一から作り直しだ。今度は補強をして、二度と流されない仮締切を造らないといかん。人命にかかわる。早速、役所に報告書と追加工事の申請書作りである。タダでは転ばないのが土木だ。建築より面白い。

と昔話が続いたが、専門分野以外の工事を経験するのも、たまには良いものだ。新鮮な気持ちになれる。

そう思いませんか?

ピックアップコメント

土木(公共工事)の受注額追加、そんな甘いものじゃないです。現場の状況が変わって金額が上がる説明をしてもお金を出せないと。でも工期内に終わらせて、です。一体見積もりや入札は何だったのかと思う。今は役所も民間のタチの悪いタイプの元請けと変わらない気がします。

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中学を出て大工になる。ふとしたことで正社員ではないが、大手ゼネコンの社員となり頑張る。入った部が有名人や社長の高級住宅、寺社建築を手掛ける部署であった。周囲が頭の良い人ばかりなので、それにつられて自分も一級建築士、建築施工管理技士に合格する。その後、住宅メーカーやゼネコンなどに転職。今は生産設計などを手掛けている。
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