左から、SHINMEI GROUP 若潮野球部の山崎伸代表、一建設の松岡尚輝氏(SHINMEI GROUP若潮野球部 所属)、一建設 生産管理本部 人材開発部 部長の菊地修一氏

左から、SHINMEI GROUP 若潮野球部の山崎伸代表、一建設の松岡尚輝氏(SHINMEI GROUP若潮野球部 所属)、一建設 生産管理本部 人材開発部 部長の菊地修一氏

現場とグラウンドの「二刀流」が未来を拓く。一建設が支える野球選手の新たなキャリアパス

飯田グループホールディングスの中核企業である一建設株式会社(堀口忠美社長)は、 2023年8月から東京都足立区軟式野球連盟1部リーグに所属する社会人野球チーム「SHINMEI GROUP 若潮野球部」(山崎伸代表)のオフィシャルスポンサーを務めている。2025年8月18日には同チームへ新ユニフォームを寄贈し、9月16日にそのお披露目会を開催。会では、10年にわたる両者の人材交流や、一建設が2014年から推進している技能者の正社員化の取組みも紹介された。

両者は約10年にわたり人材交流を続けており、一建設は、高校・大学で野球に打ち込んできた選手たちが社会人になっても競技を続けられるよう、技能職の正社員として受け入れる体制を整備。現在18人の社員が「SHINMEI GROUP 若潮野球部」の一員として活躍しており、この取組みを通じて、競技と仕事の両立を目指す選手たちを支援している。

山崎代表は、「紺の一種である“勝色(かちいろ)”は、縁起の良い色だ。この“勝色”のユニフォームを身にまとい、オフィシャルスポンサーである一建設とともに、東京都大会優勝、そして全国大会出場へ向けて戦っていく」と力強く意気込みを語った。また、一建設 生産管理本部 人材開発部 部長の菊地修一氏は、「『SHINMEI GROUP 若潮野球部』に所属しながら当社で働く社員も増えている。彼らは平日、住宅づくりの現場に従事し、日曜日には野球という“もう一つのフィールド”でプレーしている。このたびの新ユニフォーム寄贈を機にサポート体制をさらに強化し、選手の皆さんが安心して野球に打ち込めるよう、今後も継続的にバックアップしていく」と述べた。

建築現場とグラウンド、 2つのフィールドで夢を追う選手を支える一建設と「SHINMEI GROUP 若潮野球部」の挑戦を追った。

「野球を続けたくても、仕事がない」

スポンサー締結後の野球用具の贈呈式の様子

SHINMEIGROUP 若潮野球部は「シンメイグループ」が運営をしている東京都足立区軟式野球連盟1部リーグに所属している社会人野球チーム。創部55年を超える歴史のあるチームで、全日本軟式野球連盟の「天皇賜杯」「国民体育大会」などの全国大会出場を目標に活動し、元プロ野球、大学野球、高校野球で本格的にプレーをしていた若手からベテランの選手達が、勝利を目指す。特徴は、人と人の繋がりを大切にするチームであり、仕事あっての野球を前提に、礼節、道徳といった社会人、人間として基本的な部分を学びながら日々活動を展開中だ。

山崎代表は、新ユニフォームのお披露目会で次のように語った。

「高校や大学で活躍する選手は多いが、誰もがプロ野球選手になれるわけではない。野球に打ち込んできた選手にとって、プロや社会人野球への門は狭く、野球を続けたくても就職先が見つからないという悩みがあった。ドラフトで指名されることは東京大学に合格するよりも難しいと言われるが、仕事をしながら野球を続けたいという希望者は多い。そんな中、2014年に一建設からタイアップのお声がかかった」(山崎代表)

その後、一建設に就職し、仕事をしながらSHINMEI GROUP 若潮野球部でプレーを続ける選手が増加。平日は正社員の技能者として建築現場で働き、日曜日はグラウンドで選手として活躍する、「技能者と野球の二刀流」で活躍するメンバーは18人に及ぶ。

「屋外の暑い中での仕事も問題なくこなし、離職率も低い点は評価されている点だと思う。野球選手が直面する大きな課題は、引退後のセカンドキャリアだ。そこで選手には『手に職』をつけることを薦めたところ、一建設の正社員技能者として実力を伸ばす選手が増えてきた。野球界は口コミが広まるのが早く、私が一建設とタイアップしていることが知られるようになると、各高校・大学の監督から選手を推薦していただくようになり、来年は7人の入社が決まり、再来年の候補も決まりつつある。当初は、私どもの方から青森県から九州まで各監督のもとへ挨拶に伺っていたが、今では先方からお声がけをいただくようになった」(山崎代表)

とくに各校の監督が魅力を感じているのは、一建設へ入社できるという点だ。中には、「本当に一建設に入社できるのでしょうか」と念を押す監督もいるという。実際に、これまで野球一筋だった選手たちも、一建設へ入社後に技能を習得し、今では家庭を持ち、幸せな暮らしを築いているケースも少なくない。

この取り組みに自信を深めた山崎代表は、心配する各学校の監督や親御さんに対して、「私どもに預けていただければ、しっかりした将来の道筋を示し、一人前の社会人として自立できるよう支援します」と断言することで、安心してもらっていると話す。もちろん100%の保証はないが、離職率が低く、社会人としての基礎が身についた人間性豊かな選手が多いことも事実で、「主人は野球と仕事にいつも一生懸命です。いいご縁をいただき、ありがとうございます」といった選手の配偶者からの感謝の言葉も寄せられたというエピソードも披露された。

SHINMEIGROUP若潮野球部は、これから軟式野球界においてもっともレベルの高い権威ある大会「天皇賜杯」出場を目指し、奮闘中だ。一建設にこれまで正社員技能者として入社した選手は約40名。ただし年齢的に30歳を超える頃になると選手としては引退し、正社員技能者としての仕事を続け、安定したセカンドキャリアが形成できる点が大きな魅力だ。「仕事と野球の両立を可能にしたのが一建設とのタイアップのお陰だ。これからも一建設にひとりでも多くいい人材を確保していきたい」(山崎代表)

「手に職」が拓く野球選手のセカンドキャリア

野球用具の贈呈式での山崎伸代表

質疑応答では、野球選手のセカンドキャリアの厳しい現状についての質問が出た。

「安定した職に恵まれないのが現状だ。解説者やキャスターの仕事があればまだ恵まれているほうで、それでも月に2本程度と不定期なことが多い。そうした中、定期的な収入と社会保険が確保できる就職先はないかという要望が、部員や各学校の監督から寄せられていた。私もそんな働き口を探していたときに、一建設からタイアップのお声がけをいただいた。一建設では、技能職であっても正社員のため、給料も安定的で、各種保険や年金も完備されている。率直に申し上げて、このような条件はなかなかないのが実情だ」(山崎代表)

最近では、猛暑の中でも活躍できる技能人材を輩出していることが知られるようになり、「一建設だけではなく、うちにもお願いできないか」と別の建設会社から声がかかることもあるという。技能職の人材不足は今後も続くと予想され、こうした貴重な人材に関心を寄せる建設会社が増えているからだ。

こうした人材獲得競争が激化する中、技能職の動向について一建設 生産管理本部 人材開発部 部長の菊地修一氏が解説した。冒頭、菊地氏は「人材開発部としては、ものづくりが好きな方、手に職をつけたい方、体力があり体を動かすことが好きな方、そして社員として規則を守り、礼儀を重んじる方を求めている。一方、『SHINMEI GROUP 若潮野球部』は、経験豊富な部員を確保し、また平日の活動がないことで選手には安定した就職先で長く野球を続けてほしいという希望を持たれている。両者の想いが合致したことで、約10年前から人材交流を続けてきた。今回、新ユニフォームを寄贈し、大学・高校野球に打ち込んできた皆さんが、社会人になっても野球を続けられる環境をさらに充実させることになった」と話した。

野球用具の贈呈式での菊地修一部長

一建設は2014年から、木造住宅の建築現場で活躍する大工をはじめとする技能者の正社員化を推進している。その目的は、従来の徒弟制度に代わる新たな人材育成モデルとして、正社員化による一貫した教育・訓練体制を構築し、技術と知識の確実な継承を目指すことにある。若い人材を安定的に雇用し、長期的な視点で育成することで、無理のない世代交代を進めているのだ。現在ではベテランと若手がともに働ける環境が整い、現場全体の底上げにつながっている。正社員化により、技能者の定着率が高まり、現場の作業効率やチームワークが向上。さらに、プレカットや施工管理といった新技術との連携も進み、生産性の向上を実現している。

2025年9月1日現在、一建設の技能者は、大工工事108人、基礎工事76人、タイル・左官工事10人、クロス工事5人、外壁工事3人、屋根・雨どい8人、外構工事15人の合計225人。このうち、SHINMEI GROUP 若潮野球部に所属している社員は18人だ。

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【一建設】10年前から大工などの技能職を正社員化。次世代の育成にも成功

同社が想定しているキャリアプランは、最初の3年間、指導員のもとで安全・品質に関するOJTを受けながら基本的な知識・技能を習得。その後、一通りの知識・技能を身につけて工期内に工事を完成できる能力を養う期間を含め、約8年で見習い期間を終える。一人前に成長すると、請負工期内で工事を完成させ、後輩の育成も可能な人材となる。さらに、建築施工管理技士1級若しくは2級建築士を取得すれば技術職へジョブチェンジも可能。ベテランになると、広範な知識を基にクレームやリフォームにも対応できるようになり、3~5工種にわたる安全・品質・班員の行動管理を任されるようになる。

「私は、足立区などのエリアで現場監督を務めていた経験から、大工の高齢化を肌で感じていた。とくに首都圏の3階建て工事では高齢の大工が施工している現状を目の当たりにし、早いうちから若い世代へ技術を継承し、次代を担ってほしいという願いをかねてより持っていた。今後、とくに都心エリアでの社員化率を増やしていきたい」(菊地部長)

「スポーツと技能職は相性がいい」この成功モデルを他のスポーツへ

プレスへの質疑応答に回答する菊地修一部長と山崎伸代表

今後は、構築してきたカリキュラムと明確なキャリアパスを土台に、さらに多くの技能者を正社員として迎え入り、人数の拡大を図り、主に新卒や若手採用を強化し、現行の225名から、将来的には300名、さらには350名と段階的に増やすことを目標にする。ちなみに、一建設の2024年度の売上高は、分譲戸建住宅事業が約2,861憶円(約80.6%、マンション事業が約322億円(約9.1%)、注文住宅事業が約76億円(約2.1%)、その他事業が約291億円(約8.2%)の構成で、合計約3,551憶円だ。

「今回は、『SHINMEIGROUP若潮野球部』とのつながりで野球部員の方を技能職正社員が実現したが、もしつながりがあれば、他のスポーツチームでも行っていきたい。スポーツと技能職は、フィジカルやメンタルの両面で相性がいい」(菊地部長)

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ドラッグストアエリア責任者から木造戸建ての現場監督に転身。入社わずか9ヶ月で25件の現場を担当するまでに成長
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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