阪神高速道路の港大橋で実用化した、AGV(資材搬送台車)「EGmobile」

阪神高速道路の港大橋で実用化した、AGV(資材搬送台車)「EGmobile」

資材搬送は人力からロボットへ。港大橋・揖斐長良大橋で実証された、川田工業の現場特化型AGVの実力

赤いトラス橋として知られる阪神高速道路の「港大橋」。その鋼床版大規模修繕工事の現場で、ある小さなロボットが、静かに、しかし確実に建設現場の景色を変えようとしている。川田グループの基幹事業会社である川田工業株式会社が開発したAGV(資材搬送台車)、その名も「EGmobile」(イージーモバイル/商標登録出願中)だ。

これまで、橋梁の狭い検査路における資材運搬は、作業員にとって過酷な重労働だった。今回、EGmobileが導入された港大橋の現場では、約2万個にも及ぶ補強部材や高力ボルトを運搬する必要があったが、検査路には縦断勾配があり、さらに2mおきに高さ1.4mの梁(はり)が立ちふさがる。作業員が重量物を持ちながら、何度も頭を下げて梁をくぐらなければならない作業は、身体的負担が極めて大きく、常に怪我のリスクと隣り合わせだった。

港大橋

こうした「現場の苦役」を解消するために生まれたのがEGmobileだ。導入効果は劇的である。従来の手押し台車(積載50kg)に対し、EGmobileはその倍となる100kgの運搬能力を実現。作業効率を2倍以上に引き上げただけでなく、作業員の身体的負担と接触災害のリスクを大幅に低減させたのである。

昨今、搬送台車は倉庫や工場など多様なシーンで活用が進んでいるが、港大橋のような車道直上にある検査路での導入は一筋縄ではいかない。今回の実用化は、川田工業が長年培ってきた建設現場の機械化・ロボティクス技術の結晶とも言える成果だ。川田工業は今後、多様な現場や環境で利用可能な製品へと進化させていく方針で、社内での利用拡大を図るほか、外販も検討していく構えだ。

今回、EGmobileの実用化に至るまでの経緯や今後の展望について、開発責任者である川田工業 橋梁事業部 開発部 知能機械チーム担当部長の池田俊雄氏、同チームのクリシュナムラ・スバークリシュ氏、三毛タッカー・ローリー氏に話を聞いた。


夜間工事と交通規制の低減へ、現場が生んだソリューション

右から、川田工業 橋梁事業部開発部 知能機械チーム担当部長 池田俊雄氏、同チームのクリシュナムラ・スバークリシュ氏、三毛タッカー・ローリー氏

建設業界は、労働者の高齢化や担い手不足、労働時間の上限規制に加え、さらには猛暑やゲリラ豪雨などによる屋外作業環境の悪化など、多数の課題を抱えている。とくに現場においては、DXと人的作業を組み合わせたハイブリッドなアプローチが急務となっている。そうした中、かねてよりロボティクス技術の現場活用について研究・開発を続けてきた川田工業が、これまで培ってきた要素技術を融合し、現場の作業環境に適したEGmobileの開発に至った。

EGmobileは、港大橋の鋼床版大規模修繕現場で2025年の猛暑中に稼働した。港大橋は、1974年に完成した大阪府大阪市港区海岸通3丁目と住之江区南港東9丁目を結ぶ全長980mの赤いトラス橋。大阪港に架かり、阪神高速道路の一部を構成している。

同現場の検査路には縦断勾配があり、さらに2mごとに高さ1.4mの梁が設置されているため、頭部をぶつけるリスクが高く、くぐる際に作業員の身体へ大きな負担がかかっている。EGmobileの活用は、こうした作業負担の大幅な軽減につながっている。

高さ1.4mの梁をくぐる様子

「今回の港大橋の補修工事では、小さな部品の取替工事が多く、より人手が必要な現場と言える。上下2車線があり、通行規制をすれば渋滞が発生し、経済損失も生じてしまう。また、車両が走行している道路の直上で作業するため、物の落下を防止しつつ工事を実施する必要がある。そこで夜間工事や交通規制の低減を目的として、資材搬送台車の開発を進めてきた」(池田氏)

港大橋の補修工事

EGmobileの寸法は、W630mm × D646mm × H500mm、本体質量は53kg(バッテリ含まず)。駆動輪にはクローラを採用しており、けん引質量(目安)は100kg(路面等の環境による)、最大速度は0.6m/sとなっている。本機の特徴は、検査路の側面に貼付した走行テープと距離を保ちながら自動走行(レーザー誘導)するほか、ラジコンによる手動操作を選択できる点だ。リモート端末での状況確認が可能で、高さ・幅・重量などの物理的制約を考慮した設計に加え、防塵防滴機能も備えている。また、クローラ駆動であるため、段差や床面の振動があっても走行が可能となっている。

走行中のEGmobile

アバターロボットの『移動体』の技術を応用

川田工業は2020年からさまざまな技術開発に本格的に取り組んできた。開発のポイントには、「『作業をロボットやAIに変えるべきもの』と『将来にわたって人が引き継ぐもの』について適切に棲み分けを行う」こと、そして「単なる省人化や無人化ではなく、『将来の人への新しい職域創出を念頭に置く』」という2点を据えた。

2020年、この技術開発の一つとして、川田工業、川田テクノロジーズ、芝浦工業大学の3者は、建設現場のテレワーク化に向けたアバターシステムの共同開発を開始した。これは、人手による橋梁の測定業務などをリモート化し、建設現場の生産性や品質の向上とともに、労働力不足の解決を目指すものだった。

このシステムでは、移動型作業ロボットと遠隔操作端末、計測器を高速通信で連携させている。アバターロボットを現場で活用する際の技術的な課題抽出を目的に、四国地方の橋梁架設現場で検証試験を実施し、操作性を確認するため、鋼橋の現場塗装部の品質管理で行われている塗装膜厚の測定を遠隔で実施した。

遠隔で実施した塗装膜厚測定のようす

その結果として、アバターロボットによる現場のテレワーク化を推進するためには、①通信インフラの普及、②操作性の向上、③ロボット環境の現場志向の充実など、他分野での技術開発の推進と社会情勢の変化に歩調を合わせることで課題が解決することが判明した。

「ちょうどこの頃、コロナ禍の最中で現場のテレワーク化を検討しているときにアバターロボットが生まれた。これ以降、個別の要素技術を次々と確立してきたが、この技術の『移動体』の部分に適用したのがEGmobileだ」(池田氏)


交通規制を「100%削減」。揖斐長良大橋での実績

EGmobileの実力は、港大橋に先駆けて導入された国土交通省近畿地方整備局の「揖斐長良大橋」(三重県桑名市)の補修補強工事で、すでに実証されている。揖斐長良大橋は三重県桑名市に位置し、国道23号(名四国道)の一部として、揖斐川と長良川に架かる橋梁である。長さは1,039.9m、14連の単純平行弦下路鋼ワーレントラス橋という構造だ。

この工事での課題は、国内有数の交通量があるため交通規制の影響が大きいこと、そして橋長約1kmの並列2橋という長大な施工延長において、約3.2万m2の吊り足場材や150kgの補強部材196個といった大量の資機材を運搬する必要があったことだ。

国道23号揖斐長良大橋の補修補強工事

従来の橋梁への資機材運搬は、橋面からクレーンで荷下ろしを行う方式であったが、同工事のケースでは延べ100日間の交通規制が必要となり、吊り足場上を人力で長距離運搬する場合、推定約1,200人日の労働力が必要となる試算だった。そのため、実工事では橋面の交通規制が不要な荷取りの方式を採用。荷取りステージを設け、吊り足場上で橋梁全長の資機材搬送を実施することにした。

吊り足場の中に荷取りステージを設けた

そこで「搭乗運搬台車」と「自動運搬台車」の2機種の自走運搬台車を自社で開発し、模擬足場上で段差、養生シート上や登坂などにおける積載走行性能を検証した上で実用化した。これがEGmobileの”初号機”であった。

搭乗運搬台車は、電動カートに平台車を連結したもので、最大積載量は500kgに達する。搭乗操縦とタブレット操作による遠隔操作が可能で、最大10枚(重量420kg・床面積31m2に相当)のパネル式足場の床材を搬送した。

搭乗運搬台車

一方、自動運搬台車は、前後各1対の電動クローラで操舵する最大積載160kgの平台車型AGVである。工事の補強部材を載せて足場上を走行し、足場吊りチェーン間や空頭650mmの既設桁下を通過できる低床かつコンパクトな車体で、リモコン操作と磁気テープ誘導による自動走行を実現した。

自律運搬台車

自走運搬台車2機の導入効果は劇的であった。社会環境面への効果として、橋面の交通規制を100%削減した点が挙げられる。公開情報に基づき社会環境や交通価値を推計したところ、渋滞車両約57.1万台、渋滞車両のCO2排出量約1,700tを回避したことになる。また、交通渋滞による経済損失の試算では約6.4億円の抑制効果が確認された。

生産性も大幅に向上した。交通規制を抑制した年度末の1ヶ月間に資機材供給を継続できたことで、作業可能月数は7ヶ月間から8ヶ月間に増加し、換算すると稼働率が14.3%も向上した。同路線の隣接工事と相互の工程に左右されることなく稼働率を維持でき、さらに交通規制および解除作業に費やしていた合計150時間の作業待機も削減された。また、従来の手押し台車による搬送では、積載150kgの台車の段差を乗り越える際の補助や、前輪の横滑りを軌道修正するための搬送補助者が必要で、搬送速度も相対的に遅かった。一方、搭乗運搬台車は操作者1人で搬送が可能で積載量も大きいため、搬送効率は約400%向上した。これにより、作業人員は約90%省人化された。なお、現在の運用では積載数量は最大積載荷重の70%程度であり、満積載に近付けて運用すればさらなる効果向上が見込まれる。

安全性については、橋面から主構外側へ荷取りする基本計画では、トラス斜材間にクレーンブームを挿し込む必要があったが、自走運搬台車の導入によりこれを回避できた。その結果、斜材への接触、重機転倒や隣車線の走行車両との接触事故のリスクが解消された。さらに、互いに死角となる橋面と吊り足場上との間で行っていた荷取り作業も減少し、施工の安全性が向上した。また、従来の手押し台車では、台車に隠れた前方床面が見えず、補助者も後ずさりで台車を引くため、つまずきによる転倒や接触災害のリスクがあった。これに対して自走運搬台車ではこれらのリスクがなく、台車を押し歩く身体的負担も解消されるといったメリットがあった。

「人の作業の省人化・効率化に効果があり、本来であれば通行規制により発生していた渋滞も回避できた」(池田氏)

このように、自走運搬台車を揖斐長良大橋の補修補強工事現場に導入したことで、社会的な環境・経済効果に加え、工事現場の生産性および安全性の向上効果を実証できた。ここでの自社開発と現場運用で得た経験が、港大橋で導入した「EGmobile」の開発につながったのである。

ちなみに、本現場での詳細内容については、土木学会の2024年度「全国大会第80回年次学術講演会」において、「自走運搬台車を用いた工事現場内の資機材搬送」というタイトルで発表された。

「力仕事はロボット、マネジメントは人間」の未来へ

開発を主導した3名は、実は土木系ではなくロボティクスの専門家である。もともとはグループのカワダロボティクスに在籍していたが、川田工業へ転籍し、池田氏が基本設計とマネジメント、三毛タッカー氏が電気系統、クリシュナムラ氏がソフトウェアを担当し、それぞれの専門性を生かしてプロトタイプを完成させた。

彼らが所属する「知能機械チーム」は、実用化を見据えた「製品開発チーム」や「事業支援チーム」とは異なり、未来を見据えた研究開発を担う部隊だ。今後は、自分たちだけで完結させるのではなく外部とも協業し、製品版の開発を加速させていくという。

「橋梁上での荷物の搬送は正直なところ、作業員にとって負担の大きい作業だが、誰かが担わなければならない。これからの建設現場は、力仕事はロボットに任せ、人間はそのマネジメントを担う。そんな役割分担ができる未来に向けて、開発を加速させていきます」(池田氏)

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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