新・建設業地方創生研究会 事務局長の矢部智仁氏(合同会社 RRP 代表社員)

新・建設業地方創生研究会 事務局長の矢部智仁氏(合同会社 RRP 代表社員)

ただつくるだけでは生き残れない。地域ゼネコンが請負から脱却し、「まちづくり企業」へと進化すべき理由

地域ゼネコンは長きにわたり、インフラ整備や維持管理などの公共事業を通じて、地域社会の安全・安心を支える「地域の守り手」としての役割を果たしてきた。しかし現在、地方自治体の財政逼迫や市民ニーズの多様化により、公共サービスを取り巻く環境は激変している。行政単独での地域課題解決が困難になりつつある今、地域ゼネコンには「公民連携型事業」への積極的な参画が求められている。

そうした中、(一社)新・建設業地方創生研究会(安成信次代表理事)が設立された。同研究会には、「まちづくりを担う建設業」を目指す地域ゼネコンが集結。最新情報の共有やデザインビルド型実務の学習などにより、従来の「受注請負型」から「企画提案型企業」への転換を図るため、PFI・PPPへの挑戦やまちづくりへの参画を通じて、地域に不可欠な存在となるためのプラットフォームだ。

2025年12月、東京ビッグサイトで開催された「JAPAN BUILD TOKYO-建築・土木・不動産の先端技術展-」では、同研究会事務局長の矢部智仁氏(東洋大学大学院 公民連携専攻客員教授、合同会社RRP 代表社員)が登壇。「変われ地域ゼネコン。新・建設業地方創生研究会の取り組み」をテーマにセミナーを開催し、大きな反響を呼んだ。本稿では、地域ゼネコンが進むべき未来を示した同セミナーの内容を詳報する。

“必然的”に進展する「公民連携事業」と研究会の役割

セミナーのようす

講師を務めた矢部智仁氏は、1987年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社リクルートに入社。建設・不動産業界の販促支援や「リクルート住宅総研」所長を経て、業界動向調査や政策提言に従事してきた。

2013年には東洋大学大学院公民連携専攻へ進学し、翌年に修士号を取得。「建設・不動産業こそが、公民連携を通じて地域課題を解決できる」との確信を持ち、2016年からは同専攻の客員教授として人材育成に尽力している。現在は、2021年に設立した合同会社RRPの代表として、また国土交通省PPPサポーターとして、PPP・PFI手法の導入・活用を促す啓発活動を全国各地で展開中だ。著書に『変われ!地域ゼネコン―先進18事例に学ぶ新・建設業2030』(日経BP)がある。

矢部氏が事務局長を務める「新・建設業地方創生研究会」には、北海道から九州まで約60社の地域ゼネコンが正会員として参加。さらに、それらを支える不動産会社、管理会社、人材派遣会社、システム会社などが賛助会員として名を連ねる。主な活動は、毎月1回の視察やセミナーだ。注目の公民連携プロジェクトがあれば現地へ赴き、視察がない月でもWEBセミナーを開催。経営者だけでなく社員も参加可能で、ノウハウの共有を行っている。「国土交通省や内閣府の地方創生推進事務局関連のキーマンにもアドバイザーとしてサポートいただいており、官民双方の視点から学べるのが特徴だ」(矢部氏)。

セミナーで矢部氏は、地域ゼネコンが直面する現状と打開策について、①地域ゼネコンを取り巻く環境経営環境変化、②地域独特の課題の解決・解消、③地域ゼネコンが課題解決に対して手を挙げて、地域に貢献する、④今後注目を集め、ビジネスを自分でつかむスモールコンセッションの4点を解説した。

まず言及したのは、経営環境の激変だ。事業環境の変化を捉えるには、人口動態や世帯構造、地域の建設投資額といったマクロ指標に加え、為替変動による資材価格の高騰、残業規制といった制度変更など、多角的な視点が必要となる。マクロで見れば、建設投資額自体は上昇傾向にあり、仕事量は確保されているように見える。しかし、その「中身」は劇的に変化している。特筆すべきは「インフラの老朽化」だ。高度経済成長期(1960~70年代)に集中的に整備された道路、橋梁、トンネルなどの社会インフラは、今後10年で建設後50年を一斉に迎える。これらをいかに修繕し、長寿命化させるかが喫緊の課題となっている。

建設後50年以上経過する社会資本の割合(国土交通省)

しかし、高度成長期と決定的に異なるのが「人口構造」だ。少子高齢化により社会保障費が増大する一方で、建設投資の必要性は高まるというジレンマにある。 地方自治体の歳出は、人件費、社会保障費、公債費(借金の返済)、そして公共施設の維持修繕費の「4大支出」で手一杯であり、新規事業に回す予算はほとんどないのが実情だ。

そこで浮上するのが「公民連携(PPP/PFI)」という手法である。矢部氏は「民間資金とノウハウを活用するアプローチが不可欠になった。既存の公共施設を延命させる公共施設マネジメントや、コンパクトシティという新たな都市計画方法を採用したインフラの更新が必要だ」とその意義を強調した。

「PFIは大都市のもの」は過去の話。年間1,000件の巨大市場に

具体的には、PFI法に基づき民間資金を活用して公共施設を整備・運営する案件が急増しており、ここ数年は年間1,000件を超えている。「おそらく2025年度もこの1,000件ペースのトレンドは続くだろう」と矢部氏は予測する。

PFI事業の実施状況(内閣府)

ここで重要なのが、「PFI/PPPは大規模自治体の話ではない」という点だ。矢部氏は内閣府のデータを基に、2013年度と2023年度のPFI案件の変化を比較した。人口20万人以上の市区町村では、実施団体数が52から76へ、件数は82件から215件へと格段に増加した。注目すべきは小規模自治体の伸び率だ。人口10万人~20万人の規模では実施団体が39から73へ、件数は52件から127件へ倍増。さらに人口10万人未満の小規模自治体においても、実施団体は90から256へ、件数は104件から297件へと約3倍の伸びを見せている。 今や、指定管理者制度やPFI手法を用いて民間の活力を導入することは、自治体の規模を問わず「時代の趨勢」となっているのだ。

また、地方自治体にとっても「まちづくりにおける公的不動産(PRE)」の活用は大きなテーマである。PREとは、国や自治体が所有する土地・建物を指す。PREを民間に開放することで地域の経済活動や人的交流が活発になる。「既存ストックの利活用とまちづくりはセットになっている」と矢部氏は指摘しつつ、「行政から指示されたとおりにつくる地域ゼネコンから脱皮して、自ら仕事を生み出すフィールドとして、PREの活用は可能性に満ちている。『ものづくり・運営・維持管理』のノウハウを持つ地域ゼネコンに新たなビジネスチャンスになる」と公的不動産の再活用には地域ゼネコンの挑戦が不可欠と語る。

「2030年問題」を解決するのは、官民の役割分担

地域建設業におけるもう一つの深刻な課題が、人材不足だ。長期的な投資減少と高齢化により就業者数は減少し続け、技術継承や災害対応力の低下が懸念されている。有効求人倍率は約5倍と全産業平均を大きく上回り、正社員の過不足状況を示す「正社員過不足判断D.I.」も高止まりが続く。

この状況は、2030年に向けてさらに加速する。パーソル総合研究所と中央大学の「労働市場の未来推計2030」によれば、2030年には7,073万人の労働需要に対し、供給は6,429万人にとどまり、「644万人もの人手不足」が発生すると予測されている。

2030年には644万人の労働者が不足すると推計 (パーソル総合研究所)

矢部氏はこの危機に対し、視点を変える必要性を説く。 「今と同じ働き方を続けていては、圧倒的に人が足りなくなるは明らかだ。解決策は『やらなくていいことをやめる』、そして『自分でなくていい仕事は外注化する』ことだ。これは行政も同じだ。行政サービスの外注化が進む背景には、行政側の労働者不足もある。行政の業務を民間が引き受けることで、地域に新たな経済循環が生まれる。民間のサービスとして実施することで収益を生み、地域を元気にする」と、地域ゼネコンによる公民連携への挑戦が、地域の活性化につながると強調した。

地域に人を呼び込む、澤村・加和太建設の先行事例

続いて矢部氏は、地域ゼネコンが「若手から選ばれる産業」へと変貌するための具体的なモデルとして、先行する2社の事例を紹介した。

1社目は、滋賀県高島市の「株式会社澤村」だ。2025年9月期売上高68億円の同社は本社の近くで、地域産品や小売店を巻き込んだ「マルシェ(市場)」を立ち上げた。「暮らしをゆたかにする」をコンセプトに毎年10月に開催されるこのイベントは、単なる商業活動を超え、地域コミュニティ形成の場として定着している。建設会社が建物だけでなく「まちの賑わい」そのものをデザインした好例だ。この成功により、地域に活力を生み出す事業のオファーが舞い込むようになったほか、採用面でも劇的な変化が起きた。建設技術者だけでなく、地域づくりやコミュニティ運営に関心を持つ多様な人材が集まるようになり、「採用に困ったことがない」と言えるほどの人気企業となっている。

株式会社澤村のマルシェ

2社目は、静岡県三島市の「加和太建設株式会社」だ。「世界が注目する元気なまちをつくる」を目標に掲げ、建設業に加え、宅地開発、商業施設運営、公共施設整備など多角的に展開している。特筆すべきは、地元初のPFI事業として参入した「道の駅 伊豆ゲートウェイ函南」の運営だ。年間来場者数190万人を超える人気施設へと成長させた背景には、建設業の枠を超えた取組みがある。PFI参入にあたり、物販や飲食サービスを担う人材を自社で新たに雇用し、ソフト面も自前で展開したのだ。「提供されるサービスまで自社で作り上げ、成功させた点に大きな意義がある」と矢部氏は高く評価する。

加和太建設が運営する「道の駅 伊豆ゲートウェイ函南」

「スモールコンセッション」が地域ゼネコンの未来を拓く

講演の総括として、矢部氏は国土交通省が推進する「スモールコンセッション」について解説した。これは、廃校や古民家など地方自治体が保有する小規模な遊休不動産を、民間事業者の創意工夫で再生させる官民連携事業だ。事業規模は数億円から10億円程度と小規模だが、PFI法の枠組みにとらわれず、あらゆる手法で空間を経済活動やコミュニティの場に変える取組みである。 矢部氏はこれを、経済学者シュンペーターが定義した「イノベーション(新結合)」になぞらえて評価する。

出典:第3回 スモールコンセッションの推進方策に関する検討会(2024年3月)

「利活用の新提案」や「官民の役割の逆転」という観点において、地域を知り尽くした地域ゼネコンや不動産業者こそが、最も強みを発揮できるプレイヤーである。こうした事業を通じて、街が元気になれば、地域ゼネコンの持続可能性も高まる。さらに、澤村や加和太建設の事例が示すように、地域課題の解決や未来創造に貢献するまちづくり事業は多様な人材を惹きつけ、採用難の解決にも直結するだけでなく、次の事業につながる好循環が生まれる。この2社は、まさに地域ゼネコンが目指す「新・建設業」を実践する企業と言える。

「地域ゼネコンが持続的に仕事を獲得するためには、公民連携や民間活用プロジェクトへの参画が肝要であり、それが人材採用という大きな果実にもつながる」。矢部氏はそう結論づけ、地域ゼネコンが新たな領域へ挑戦する重要性を強調した。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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