「設計者から指名されて一人前」原寸図の世界

原寸図の描き方

原寸図は誰でも描けるわけではない。実績、知識、人柄、そして工程管理、コスト管理ができ、 かつ職人から慕われている人でなければいけない。年齢でいうと、40代後半が相応しい頃合いだろうと個人的に思う。

設計会社側からも、その協力会社が施工するのであれば、この人をよこしてくださいと指名される場合がほとんどである。まさにその人は会社の宝だ。

まだCADのない時代は、A1用紙に手書きで、作成者の特徴のある図面を描いたものだが、 CADで描いた図面は、なにか味気ないと感じる向きが今だにあるのも、原寸図ならではである。

原寸図は現場事務所で作成したい

原寸図の作成は、木工事乗り込みから逆算して、図面承認、材料手配、加工、搬入の順に、 必要日数を予測して、早めに取り掛かる。 元請さんの現場事務所の邪魔にならない場所を借りて図面を描ければ最高だ。詰所でもいい。 会社の事務所ではなく、現場事務所だと、工程や平面図の変更などの情報がいち早く知る ことができる。また、所長さんやJV職員さんとの意思疎通などメリットが多い。

原寸図は何を基本に描くいえば、平面詳細図と展開図と、その工事を請負う施工協力会社の見積書である。やはり儲けなければならないので、実行予算内で納め、安く早く安全に、が基本である。図面作成に並行して、材料の見本も早めに提出し、設計者に検討していただく。

加工工場を所有している協力会社であれば、その特徴を生かした原寸図を作成しなければならない。材料を外注する場合でも、その会社の加工技術があるので、その特徴を生かした図面を作成する。現場に搬入した材料が原寸図と違うようでは問題になる。

分かり易い原寸図を描く

組立、取付方法も原寸図に描かねばならない。使用する金物も、取付ける方法も、原寸で描く。図面を見るのは大工職人である。分かり易い図面にしないと、その都度、職人さんから現場に来てくれと呼び出しを喰らうことになる。100人を超える職人さんを相手にしなければならないこともあるから、誰が見ても分かる図面を描く必要がある。

寸法が入り組み、見にくい図面は論外である。必要以上の寸法はかえって間違いのもとになる。図面のど真ん中に、柱の断面図を一個描いても、なんら差支えない、それが原寸図だ。

職人さんがミスると、必ずと言っていいほど、「図面が見にくいからだ」と言訳をする。そこで口喧嘩となっては今後の仕事に影響を及ぼすので、ぐっと我慢だ。 自分の負担を減らすためにも、分かり易い図面を心がけることである。

ただし、誰が見ても分かる図面を描くには経験がいる。失敗した経験、苦い経験が生かされるというわけだ。

原寸図の打ち合わせ

まだ設計者との第一回打ち合わせ用の図面を描いている段階でも、寸法を入れておかないと、立体的展開を想像できないので、次の段階に進まない。設計者との第一回打ち合わせは、担当の設計者はもとより、現場所長も出席する場合もあるし、設計事務所の社長も出席する場合もある。いかに重要な図面であるかが分かると思う。

でも主役は、図面を描き、施工する協力業者の現場代理人兼職長である。この人の描いた図面一枚一枚を、皆で検討していくのだ。打ち合わせは深夜にも及ぶ過酷な状態となり、夜食を食べながらの打ち合わせとなることもある。

図面の枚数も多く、その日では完了しないので、設計事務所側も、ホテルを予約して、万全の体制で臨むこともある。翌朝9時から再開となり、設計事務所は「さあ、やりますか」と腕をまくる。主役の現場代理人さんは、フラフラ状態である。私もフラフラだ。こうして第一回目の原寸図打合せが終了した。次回の打ち合せ日時を決めて、お開きとなる。次回は施主様にもご出席を願い、実物の見本や3D映像にて説明せなばならない。修正図面作成、 追加図面作成、3D作成と超忙しい。ついでに職人の手配もせなばならないのが現場代理人だ。

第二回打合せは、原寸図、見本、3D映像を揃え、施主(旅館の女将、社長様など)の出席のもと、前回の出席者も交え、打ち合せ会議が開催される。そこで女将からイメージ違うとの意見がでれば、全てが やり直しとなる緊張の一瞬であるが、努力が認められて晴れて承認されれば安堵となる。神経がプッツンと音をたてて切れるんじゃないかと思う瞬間だ。

これで造作材発注、加工となる。原寸図を元に加工図を作成するのであるが、簡単に言えば、 原寸図に加工番号を記入するだけである。図面の材料一本一本に番号を書き入れ、数量表を作成するのだ。長さ、幅、高さ、材種、本数、部屋の番号を記入する。材料を現場に搬入する時に部屋を間違えないよう、最新の注意を払い、数量表を参考に部屋に運び入れるのだ。大工さんに、原寸図と数量表をセットにして渡し、間違いがないように作業を開始していただく。予備の材料は一本もありませんので、よろしくお願いします!

芸術品の原寸図もある

他にも原寸図を利用して、下地の軽鉄材の位置や、畳、建具、PBの貼る位置、コンセントの位置、 浴室、便所のタイル割りなどの割り付け、空調吹き出し口の位置、部屋入口の土間の石貼、 火災報知、スプリンクラーの位置、左官工事、塗装工事などを各専門業者の施工図作成に反映させ、 取り合いに不都合の無いように、検討調整してもらう。

場所によっては同時作業か、先に先行工事をしてもらうなど、工程管理にも利用される。竣工してからも、メンテナンスなどの対応にも利用できる。原寸図をA3に縮小して製本し、技術資料として保管する会社もある。手書きの場合で有名な数寄屋建築の原寸図は、芸術品としての価値さえある物もある。

原寸図の世界は奥が深いのだ。

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中学を出て大工になる。ふとしたことで正社員ではないが、大手ゼネコンの社員となり頑張る。入った部が有名人や社長の高級住宅、寺社建築を手掛ける部署であった。周囲が頭の良い人ばかりなので、それにつられて自分も一級建築士、建築施工管理技士に合格する。その後、住宅メーカーやゼネコンなどに転職。今は生産設計などを手掛けている。
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