空調設備施工管理のお客とお金
どの商売や職種でも一緒だと思うが、客の要望と金・納期(待ち時間)は比例する。要望と納期を客の要求に近くすると見積もり金額は当然高くなる。一番わかりやすいのは、何日もかかる工事を短い工期で済ませて欲しいという要望だろう。
こちらとしても客の要望を叶えるのは当然だが、要望通りの工事をすると、どうしても見積もり金額は上昇してしまう。時間指定・曜日指定・日にち指定・空調機の設置場所、他業者との兼ね合い、などを網羅して見積もりを作るのはとても難しいことだが、長い工期の現場になればなるほど、上記の条件は、追加・変更されることが多く、その度にコストが発生してしまう。
そして客は、安く工事を済ませるために、要望、納期を妥協するか、見積もりの粗を探すことになる。
空調設備施工管理の赤字の現場
また、施工計画が変更になった場合も、コストがかさむ。余力がある現場であれば、どんぶり勘定でも問題ないが、客から見積もりを叩かれてカツカツの現場の場合は、工程を引き直すか、工事の計画を立て直し再見積もりをしなければ、赤字になってしまう心配もある。
室外機の設置場所を1階から屋上に変更したり、室内機の設置場所が急に変更になったり、平日昼間の工事の予定が土日祝日の夜間の工事に変わったり、テナントや周辺住民からの申し出によって音の出る工事が時間指定になったり、いろんな可能性がある。
実際、私も赤字になった現場を経験している。あれは、オフィスビルの空調機新設工事だった。アンカー打設工事を平日の日中に行うことになっていたが、いざアンカーを打ったところ、ある申し出を受けた。そのビルのテナントは24時間営業のコールセンターだったので、騒音が問題となり、協議の結果、アンカー打設工事を行うのは、朝8〜9時のみと決まった。アンカー打設箇所は計30箇所以上。アンカー打設工事は5日間におよんだが、工事金額が決まっており、追加見積もりもできず、赤字となってしまった。
また別の現場では、塩害仕様の室外機を設置することとなっており、納期に2ヶ月要することも記載していたが、工期が1ヶ月しかもらえなかったケースもあった。客先に再度説明しても、金額アップはできないの一点張り。「でも工期は間に合わせて欲しい」とのご要望。仕方なく塩害仕様を工場で作成せずに、メーカーで作成済みの室外機を分解し、塩害用の塗料を塗布。納期を2週間に縮め、工期を間に合わせた。コストが多く掛かってしまったが、その代わり客の要望は叶えることができた。赤字でも引き受けなければならない仕事があるのだ。
1日限りの現場でも泣きを見る空調設備の施工管理
もうひとつ、1日限りの現場でも、空調設備の施工管理技士は泣きを見ることがあるので紹介したい。高層ビルのオフィスビル内の空調機の洗浄作業の話である。
当初、見積もり・現場調査時には、対象の空調機は8台とされていたが、実際は12台だったという現場だ。しかも、洗浄しやすい空調機であれば簡単だが、この現場は天井カセット4方向形という洗浄作業が最も厄介な空調機だった。
空調機の洗浄作業を行ったことがある方はご存知だと思うが、天井カセット4方向形は他の空調機と比べとても大変である。まず、空調機自体を分解し、パネル、電装部、ドレンパン、ファンモーターを取り外した後、天井に空調機を釣らせた状態で養生を行い、洗浄を行う。1台あたり1時間以上かかる。この現場は8台なので、4〜5人で1日になる計算で見積もりを出していた。
業務用空調機の洗浄は家庭用の物と違い、金額も結構張る。そのため、客先は当日、空調機の台数を追加しても大丈夫だろうと考えていたようだ。しかし、職人からしたら、たまったもんではない。もちろん客には、8台しか対応できない旨を伝えたが、「少し残業すれば終わるだろう」とのたまうお客様。職人5人、私を含め6人もいるのだから、3組に分かれて洗浄すれば、4〜5時間で終わるだろうとお考えだ。
職人さんが一番嫌がるのは、追加の工事である。特に、行わなくてもいい作業を行うことを最も嫌う。
前日までに「12台に増えた」と伝えてくれれば、1日目6台、2日目6台と作業できたかもしれないが、テナントから1日で終わらせてほしいと言われているので、それも無理。しかも追加料金も払えないと言われたが、結局立場の弱い下請けは従うしかなく、12台の空調機洗浄を1日で実施するしかなかった。
それでも職人の方々には頭を下げ、自分も養生や分解などの手間作業を行い、なんとか終わらせることができた。
空調設備施工管理とお客様のご要望
客の中には、夜工事だろうが、土日祝の工事だろうが、工賃は変わらないと考えている方がとても多い。どのくらい「待ち」が出ても、工事が2日になっても、同じ工事なのだから1回分は1回分だろうと考えている客が多い。
特に修理作業の場合、お客様の理解を得るのが難しい。修理工事は緊急性が高く、修理後の見積もりになることが多いのだが、基本的には、初日に緊急対応(現状調査)を行い、後日、部品交換・修理という流れが多い。
しかし、緊急対応(現状調査)費を認めてくれないお客様が多いのだ。空調機といっても、とても多くの部品でできているし、現状を確認しないと治らないことが多いのに「見にきただけで?」とか「治ってないのに?」とか言われ、削られるのだ。現状調査日に部品を会社中で探し、その日のうちに修理しても、現状調査費というのは認めてもらえないのである。
「早く工事や修理をしてほしいが、なるべく安価で済ませたい」というのは、お客様の一般的な要望であるが、空調設備の施工管理からすると、なかなか複雑なのである。