無謀な工程でも「YES!」植民地だったアジアでの建築施工管理

海外の建築現場に順応する方法とは

アジアやアフリカなど海外の建築現場を数多く経験する中で、私が特に苦労したのが「言葉」「歴史」「道具」の3つです。

建築現場では現地人とのコミュニケーションが必須となるため、いかにその国に順応していくかが、海外赴任する建設技術者には求められます。

そして、時には思いもよらぬ事態に遭遇するのも、海外の建築案件ならではと言えます。

海外の建築現場における現地語の必要性

海外の建築現場では、私も言葉には苦労しました。英語なら何とかなりますが、まだ多くの国では現地語です。

しかし、それはそれでどうにかなります。絵を描いたり、表情一杯に全身でジェスチャーしたり、コミュニケーションをとろうと必死になれば、何とか施工方法を伝えることはできるわけです。

ただ、そうした説明が終わった後で、現地のみんなから拍手喝采を浴びることになると、「俺はこいつらに馬鹿にされてんのか?」と、正直ムッとする時もたまにあります。が、そんな場合は「こんな経験、海外じゃなきゃ有り得ない!」と自分に言い聞かせることにしています。

とにかく海外の建築現場で必須なのは、「おはよう」「ありがとう」「元気ですか?」「また明日!」という挨拶。その次に、作業員の名前を覚えることがかなり大事です。私は現地の方々の顔の特徴と名前をノートに書き、常に持ち歩いて名前を覚えるようにしています。そして自分の名前は、ヘルメットに大きく書いて、現地の方々に覚えていただけるように努めています。

タイの建築案件で「アンタラーイ!」

海外の建築現場でも日本と同様、安全と工程が最も重要です。

なので「なぜヘルメットをかぶらなきゃいけないのか?」「いつまでに工事を終わらせなきゃいけないのか?」という、安全と工程の2つに関しては、毎日喋ってるうちに、現地語でも話せるぐらいに、毎日毎日繰り返すことになります。

例えば、タイの建築案件ではこんな事がありました。

ローリングタワーの移動を作業員4~5名でやっていた時、タイ人のスタッフたちは下ばかり見て、上を見ていませんでした。すぐ先には、高架の電線が横たわっていて、このまま行くと電線に引っ掛かってしまう・・・それを見た途端、私は思わず「アンタラーイ!」と大声で叫びました。「危ない!」と怒鳴ったわけです。

私の言葉を聞いた彼等はとっさに立ち止まり、高架電線を持ち上げる棒を用意して、どうにか事故を免れました。

この件に関しては私自身、「良くぞ、現地語がとっさに出たよな」と、今でも思っています。もし現地語をしゃべれなかったら大惨事になっていたことでしょう。


建築現場で「植民地」という歴史を考えさせられる

海外での建築施工の現場で、言葉と同様に大切なのは、その国の歴史です。東南アジアのほとんどの国は、戦争と植民地の経験があり、アフリカの国々は独立後50~60年しか経っていないところがほとんどです

そして、ありがたいことに、どの国も親日派で、なかには驚くほど日本人と感性が似通ってる国もあります。日本の企業が現地に進出し発展できたのも、その事実を抜きにしては語れないと思います。

しかし、日本とは違った歴史的背景に驚かされることも少なくありません。

私には、建築現場で働く中で、その国の「植民地」という暗い歴史について、深く考えさせられたことがありました。

工事現場では、日本人が現地の方々にあれこれと指示を出すのですが、 明らかに「それは無理だろう」と思えるような事でも、ほとんどの作業員が2つ返事で「YES!」と答える現場がありました。

そこで私は「無理なら無理で、ちゃんと自分の考えを言った方がいい!」と忠告しました。すると、そのとき彼等の一人が、こう小声で言ったのです。

「植民地時代にNOと言ったら、すぐに殺されたから・・・」

無論、年齢的にも彼自身の体験ではなく、そんな話を聞いていただけだしょう。が、思いもよらぬ衝撃的な返事に、私は何も言えませんでした。

目を離したら消える工事道具

海外の建築現場では、工具に関しても苦労します。

ハッキリ言って現地には工具は何もないと思ってたほうがいいでしょう。現場で用意されるモノも、せいぜい日本の一般家庭にあるような大工道具です。

しかも、それを朝配って夕方帰る前に回収するのですが、ちょっと目を離すと、すぐ消えてしまいます。私も日本から差し金を持って行きますが、本当に3分間でも目を離したら、もう無いと思ってたほうがいいです。

街中には、中古の様々な道具や工具を売ってる店があり、皆そこへせっせと持って行ってしまうのです。釘一本さえ、その辺に落ちてる釘を真っすぐに直して使うのも珍しくありません。

しかし、彼等の生活や一日の賃金など考えると、正直なところ、一概に責められないよなぁと感じることもあります。

現地教育を惜しむ日本の大手ゼネコン

さらに、道具や工具を使いこなす教育を受けている人間は、ほんの一握りしかいません。 そんな事情が現場の進捗を遅らせ、図面通りに造ることを困難にします。

どの国でも日本同様、作業員のレベルにも差があり、この作業は絶対に失敗できないというような時は、ちょっと奮発して、高い賃金の連中を使います。

が、日本の大手5社のゼネコンでさえ、そんなことは滅多にしません。可能な限り安く使える作業員、サブコンを使ってるのが実情です。それを補うための準備をすれば、多少レベルの低い作業員でも、十分に仕事をこなすことは可能だと思いますが、残念ながらそんな工夫をしようとする会社はほとんど見受けられません。

そもそも、「現地の彼等も仕事は出来る!」と思ってる日本人技術者が少ないという現実があります。同じ人間なのでそんなに大差はなく、ちょっと手間暇をかけて教えれば、彼等でも十分仕事はできるのではないか、と私は思っています。そう思いませんか?

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工学部建築学科卒業後、A建築設計事務所に入所。その後、自ら設計事務所を立ち上げるが、設計だけでは良い建築は出来ないと判断し、施工会社に入社。それ以後、現場中心の仕事している。 設計事務所時代から海外案件が多く、現在も海外の案件に関わる事が多い。地球の上を這いずり回っているという感アリ。設計と施工に関わる年数が半々。 海外の建築現場の実態を中心に経験談を共有します。
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