今、老舗建築雑誌『建築知識』が面白い!
来年、創刊60周年を迎える建築実務の月刊誌『建築知識』。建築士や工務店に読まれている堅い雑誌というイメージが強い同誌だが、今年の12月号では、建築基準法などの建築法規を「萌え絵キャラクター」で表現し、物議をかもしている。
『建築知識』を発行している株式会社エクスナレッジは、『建築知識』の建築実務誌としてのスタンスを維持しつつも、マンネリ化を打破するという自由な社風もある。最近では、猫と家族が快適に住める「猫の家」特集を組み、45,000部が完売するなど、次々と新たな読者層を開拓している。現在、「萌えキャラ」を全面に押し出している12月号では、10代の男性が新たな購買層として増えているという。
『建築知識』がどこに向かおうとしているのか?『建築知識』編集部の吉田和弘さん、松尾えりかさん、そしてエクスナレッジ取締役副社長の三輪浩之さんに話を聞いてきた。
『建築知識』は、一級建築士、二級建築士に読まれている
『建築知識』編集部の吉田和弘さん
——『建築知識』の読者層は?
建築知識 『建築知識』の読者層は、一級建築士、ないしは二級建築士をすでに取得している方か、自身で事務所を立ち上げて勉強している方が多いです。公共工事に関わるような建設会社や設計事務所ではなく、小規模な建物に携わる設計者や地元密着型の工務店など、戸建て住宅産業にかかわる方々が中心です。年齢層は40代から50代の男性が多いです。設計事務所や工務店の社長、所長クラスが購読していて、それを若い社員に読ませているケースもあります。
——誌面づくりで意識している読者は?
建築知識 大学を卒業後、いざ実務に入ろうとしたら、家のつくり方が分らない、という30代前後の建築士の方々が学べるように意識しています。
最近、特に力を入れている特集のひとつに、建築確認申請を円滑に進めるための「法規」関連があります。 年間を通じて「法規」の特集は年1回。残りの11回は施工の進め方を教える内容や、設計のディテールで、戸建て住宅を建てる際の実務に役立つように工夫しています。
——木造住宅の記事にこだわる理由は?
建築知識 ほとんどの大学では、コンクリートや鉄骨造などの講義が多く、木造についてはあまり習いません。例外は女子大の住居学科ぐらいでしょうか。そのため、設計事務所などに入社しても、木造の家のつくり方が分らないという方が案外多いです。そこで『建築知識』は、そういった方々のために、木造住宅の設計に役に立つ実務雑誌として、家の作り方を丁寧に説明する内容になっています。現在、戸建て住宅(持家)は年間約30万戸ほど建設されていますから、読者層の裾野は広いほうだと思います。
建築基準法を「萌えキャラ」に擬人化した『建築知識』
建築基準法を「萌え絵キャラクター」に擬人化した『建築知識』(2017年12月号)
——建築基準法を「萌え絵キャラクター」に擬人化した12月号の狙いは?
建築知識 実は、最初の企画段階では、某有名アイドルグループ(名前に地名がつく)と一緒に建築を見て歩くという企画でしたが、あっけなくオファーを断られてしまいました。
そこで、次の企画をどうしようかとアイディアを考えていたところ、東京タワーなどの建築物や構造物を擬人化しているイラストレーターのモエストロさんの存在を知って、建築基準法などの建築法規を擬人化する企画がひらめきました。
——『建築知識』はお堅いイメージでしたが、ユニークな企画も通りやすい?
建築知識 以前にも『建築知識』ではアニメを表紙に起用したことがありましたので、「いけるんじゃないか」とすんなり通りました。
——擬人化で苦労した点は?
建築知識 建築関連の法規を理解すると、より楽しめるように、例えばキャラクターが手に持っているアイテムや、キャラクターのカタチ・大きさも、法律と関連性があるように工夫しました。キャラクターの細部にもこだわっているので、「これはこういう意味だったのか」と、法律を勉強しながら楽しんでいただける内容になっています。建築士や建築施工管理技士の方であれば、面白がっていただけると思います。
建築基準法を「萌え絵キャラクター」に擬人化した『建築知識』(2017年12月号)
——建築基準法を擬人化するのは難しかった?
建築知識 キャラクターを描く仕事は、モエストロさんをはじめ、擬人化が得意な6名のイラストレーターさんにお願いしました。当然彼らは建築のことは専門外ですので、建築基準法について編集部と何度もキャッチボールをしました。ただ、イラストレーターさんたちは普段から様々なモノを擬人化することに慣れているので、法規の理解も早く、編集部のイメージ通りに仕上がりました。企画から完成までには半年ほどかかりました。
——監修者から「萌えキャラ」に言及はあった?
建築知識 『建築知識』の監修は、フランスに本社を置く確認検査機関ビューローベリタスジャパンに依頼していますが、通常は文章や図面のチェックだけなので、はじめは「なんだ、これ」と思ったでしょうね(笑)。しかし、今回は「萌えキャラ」と法律が密接に関連しているので、「萌えキャラもチェックしてください」とお願いして、「このキャラクターが持っているモノは、この法規と合わないので変えてはどうか」というような指摘も頂戴するなど、「萌えキャラ」についてもしっかり監修いただきました。
『建築知識』が提案する「人が長生きする家」「猫のための家」
——今後、他にも面白い企画を考えている?
建築知識 「猫のための家づくり」という企画が昨年ヒットしたので、その第2弾として、「猫が健康で長生きできる家づくり」の企画を考えています。
――「萌えキャラ」擬人化の第2弾も検討する?
建築知識 社内で「次は美男子キャラでやりたいよね」という話がありましたが、読者層は男性が多いので、多少はリスクがあるかも知れませんね(笑)。ただ、新しい読者層も増えるかもしれません。
――今後の『建築知識』の編集方針は?
建築知識 『建築知識』は、来年で創刊60周年を迎えます。住宅設計を中心に扱っていますが、より良い住宅を建てるには、建築士や工務店の知見だけに留まっていてよいのかという危機感もあります。
仮に人間の平均寿命が70歳だとすれば、約40年は家の中で過ごしていることになります。ということは、住んでいる家の環境が人間に及ぼす影響はかなり大きいと言えます。2018年1月号では、住環境と人間の健康や寿命の関係に着目した特集を予定しています。「どういう照明が食事の消化や睡眠に良い効果を与えるか」「交通事故よりも家で事故死するケースが多い問題をどう解消するか」などのテーマを医師や健康の専門家にも取材し、「人が長生きする家」を提案したいと思っています。幅広い読者層を得ていくためにも、さまざまな企画にチャレンジしていきたいですね。