2025年、建設技術者は約11万人の人手不足
建設技術者の人材紹介事業を行うヒューマンタッチ株式会社は、2025年までの建設技術者の人材不足問題について独自試算をまとめた。
それによると、建設技術者は2015年の31万人から24.3万人と、今後10年間で6.7万人減少し、2025年時点では本来必要とされる人数よりも、およそ11万人超が不足するという。一方で、ICT導入などの生産性向上などが進めば、建設技術者の不足数は6万人弱まで縮小し、およそ5.5万人分の需給ギャップが改善すると結論づけた。
「建設業界の企業経営者は、働き方改革と生産性向上の複合的な取り組みによって、労働者確保と労働環境の向上を推進することが非常に重要」と語る同社の髙本和幸社長に、今後の建設技術者の人材需要について伺った。
2025年の建設投資額は横ばいか微減
——2025年の建設技術者不足を試算した理由は?
髙本和幸 当社が今後も建設技術者の人材紹介事業を行う上で、そもそも建設技術者の需要動向がどうなっていくのか、未来予測を立てる必要がありました。
それから個人的には、昨年話題になった講談社現代新書の『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(河合雅司著) を読みまして、日本の未来は楽観できないなと。日本の生産人口は2015年対比で2025年には558万人減少するといわれていますが、建設技術者の減少はかなり深刻になると懸念して、当社なりに試算してみたわけです。
現状のままでは、2025年に建設技術者113,750人が不足する
——データの試算方法は?
髙本 建設経済研究所の建設市場レポート、厚生労働省の雇用動向調査、そして社内データをもとに予測を立てました。現在でも建設技術者は不足していますが、2015年の段階で有効求人者数と有効求職者数の差は約4万7,000人。2015年の実際の就業者数は31万人でしたので、2015年に必要とされた建設技術者数は約35万7,000人という計算です。
今後、建設技術者が増える要因としては、他産業からの転職、建設系学校からの若者たちの入職が考えられますが、一方、建設技術者が減少する要因としては、毎年1%が他産業へ転職するほか、65歳での定年退職など約6万7,000人が減少すると推測されます。それを差し引くと建設技術者数は2015年の31万人から、2025年には24万3,000人に減少するという推計です。
2025年時点での必要な建設技術者数予測値は、2015年とあまり変わらない約35万6,000人なのですが、実際の就業者数の予測は24万3,000人、つまり、約11万4,000人が不足するという危機的な状況になるわけです。
建設業界の投資が減少すれば、建設技術者不足はそれほど深刻ではありません。しかし今後、新築現場が減少しても、橋梁、トンネルなど社会インフラの老朽化や、マンションの老朽化を考えれば、維持修繕の工事が増加するため、2025年の建設投資額は横ばいか微減にとどまると考えられます。
建設技術者の人手不足5.5万人分を改善する生産性向上
——建設技術者不足に必要な対策は?
髙本 国も建設業界も全力をあげて取り組んでいる「生産性向上」です。国土交通省はi-Constructionなどで生産性を20%向上させ、必要人数を減少するという取り組み展開しています。生産性が向上しなければ、働き方改革による残業削減や週休2日制の導入によって、むしろ必要とされる建設技術者の人数が増加する可能性もあります。もっと建設技術者が不足するかもしれないというわけです。
建設業の労働時間を年間製造業の平均レベル(1,958時間)とした場合、生産性を20%向上できたと仮定すると、必要な建設技術者の人数は約30万1000人となり、約5万8,000人の不足に留まります。生産性向上をしない場合のシミュレーションより約5万5,000人分も改善します。より改善するためには、さらなる技術革新・ICT導入で生産性を25%~30%アップしなければなりません。
生産性向上すれば、建設技術者の人材不足数は58,475人まで縮小
——25%~30%の生産性向上は可能ですか?
髙本 20%アップの目標達成は相当厳しいと思います。ただ、大手ゼネコンを中心に技術開発も進んでいるので希望もあります。土木、建築それぞれの現場で、安全管理や点検検査、現場経験の少ない若手職員の業務支援など、さまざまな新技術を試験導入しています。たとえば、建設業の未経験者でも「スマートグラス」を現場で着用すれば、熟練技術者のアドバイスを受けながらスムーズに作業を進められるようになるかもしれません。ドローンやICT建機だけではなく、建設現場の生産性向上の余地はまだまだあると思います。BIMやCIMでもAIの活用で、上流から省人化が進められていくと期待しています。
しかし、独自アンケートによると「建設ICTについて具体的な情報を持っている」と回答した建設技術者は3割に満たず、まだ、建設業界全体に浸透しているとは言えません。そこで教育事業を担ってきた当社としても、建設技術者向けにCPDS認定セミナーを定期的に開催しているところです。
工期平準化と建設技術者の定年延長
——生産性向上のほかにも人手不足対策は?
髙本 今回のシミュレーションでは65歳定年で計算していますが、思い切って70歳定年にすれば、さらに建設技術者の不足をおさえることが可能です。
2016年の建設技術者の平均有効求人倍率は4.76倍。建設業界全体の離職率は39.7%と高く、長時間労働と休日出勤が問題で、現役世代の延長が求められます。現在、多くのゼネコンでは60歳が定年で、再雇用で65歳まで働く方が多いです。まだ65歳まで定年延長しているゼネコンはそれほどありません。しかし、建設技術者はすでに高齢化しており、31万人の従事者のうち、55歳以上が31.4%です。将来的には65歳定年は避けられませんし、さらに70歳までシニア層の活躍が必要になってくると思います。
——65歳以上は健康上からも現場に入りにくいのでは?
髙本 今はそうですが、バイタルデータによる心身状態の管理も可能になってきていますので、本人の自己申告だけではなく、ITを活用した健康管理で安全性を担保できるようになっていくと思います。そこまで安全・健康管理を強化していけば、若者に対しても建設業のイメージアップや入職促進に効果がでてくるはずです。もちろん安全・健康管理への取り組みと同時に、女性が働きやすい環境、年収の向上などで離職率を減らす必要もあります。
——工期の平準化も必要?
髙本 工期の平準化については、発注者と受注者の間に意識の乖離があります。工事が集中していることで現場監督が多忙になっています。ゼネコンが適正な工期で受注して、現場監督や技能労働者として働く方々の週休2日を確保することが重要です。それであふれた業務について省人化・効率化する検討が必要です。発注をかける側が全体的なバランスを取ることで現場監督にも負担がかからない仕組みが理想的ですが、国、地方自治体、デベロッパーなど発注者が工事発注をすりあわせすることは至難の業です。ここの交通整理は今後の課題でしょう。
建設技術者の転職理由と人材流動性
——建設技術者の人手不足の中、人材紹介会社の存在意義は?
髙本 インフラや建物の老朽化対策、災害復旧など、重要な責務を負っている建設技術者の人材不足は日本の根幹を揺るがす大問題だと思っています。ですから、せめて今現在、建設技術者として働いている方々は他業界に流出させてはいけないという想いが強いです。そこで、人材紹介会社の役割は大きいと考えています。
残業100時間、土曜出勤が当たり前、給与も低い、という状況では建設業界そのものに嫌気がさし、他業界に転職してしまう可能性があります。そういう方々に対して、もっと働きやすく、給料が高い転職先を提供していくことで、建設業に人材を留めたいと考えています。
——建設技術者の転職理由で多いのは?
髙本 「年収を上げたい」という希望が一番多いです。今の技術で正当に評価され、年収を上げることへの期待感が強いですね。一方、残業を多くしたいかと言えばそうではなく、残業歓迎という建設技術者は年々減少傾向にあります。ライフワークバランスが取れた範囲での年収アップを希望される技術者が増加傾向にあります。
——年齢別に転職意欲に違いは?
髙本 転職希望者の年齢は年々あがって40代~50代の建設技術者が増えています。スキルや経験が伴っていれば、この年齢でも正社員としての転職が成功するケースもあります。正社員でなければ、65歳以上でも企業とマッチングするケースはあります。若い建設技術者ほど残業時間の多さに不満をもっています。35歳以上の建設技術者はそれほど働き方への不満はなく、給与面での不満が大きいです。
——今後の建設技術者の転職動向を予測すると?
髙本 数年前に比べると建設技術者の転職は当たり前になりつつあります。人材の流動性は今後も加速化していくと予測しています。転職市場が活性化すれば、建設技術者の待遇も上がり、建設業界全体としても明るい未来につながると思います。今後は、ICTや働き方改革に取り組む会社と、そうした活動に熱心でない会社の二極化が広がっていくと予想できます。熱心である会社は建設技術者の人材確保も優位になっていくでしょう。