建設技能者の評価を「業界で統一」 建設キャリアアップシステムとは?

建設業振興基金 建設キャリアアップシステム事業推進センター副長の田尻直人さん

建設技能者の評価を「業界で統一」。建設キャリアアップシステムとは?

建設キャリアアップシステムへの期待

建設技能者の資格経験などを“業界統一ルール”で登録する「建設キャリアアップシステム」の運用がいよいよ2018年10月からスタートする。初年度で建設技能者100万人、5年後の2023年にはすべての建設技能者約330万人の登録を目指す。

従来、建設技能者のスキルに対する評価は、企業や現場によってまちまちだったが、「建設キャリアアップシステム」の普及によって、賃金などの評価が正確になると期待される。また、ゼネコンの現場監督にとっても、書類作成の大幅な軽減が期待される

しかし、そもそも「建設キャリアアップシステム」とはなんだろうか。建設専門紙ではうるさいぐらいに報道されているが、現場第一線で働いている方々の多くは業界新聞や建設雑誌など読んでいないだろう。「建設キャリアアップシステム」という言葉自体が初耳の建設技能者もいるはずだ。

そこで私自身も全容がつかめていない「建設キャリアアップシステム」の中身について、実際の運用機関に聞いてきた。インタビューに応えてくれたのは、一般財団法人建設業振興基金の建設キャリアアップシステム事業推進センター副長、田尻直人さんだ。


建設キャリアアップシステムって何?

――そもそも「建設キャリアアップシステム」とは何ですか?

振興基金 建設技能者1人ひとりの資格、社会保険の加入状況、現場の就業履歴などの情報を登録・蓄積する仕組みです。建設業界全体として同じルールで登録・蓄積されることが大きなポイントです。

――導入の最大の狙いは?

振興基金 今後、「建設キャリアアップシステム」の情報をもとに、建設技能者の能力や経験を正当に評価し、処遇改善につなげる環境を整備していくのが狙いです。

建設技能者はさまざまな会社の現場を渡り歩くので、評価の基準がわかりにくく、経験・技能が賃金に反映されにくい側面もありました。

建設キャリアアップシステムで若手人材を確保

振興基金 建設業には「33対11」というキーワードがあります。建設業界で働く人の33%が55歳以上、その一方で、建設業界の将来を担う29歳以下は11%。つまり、ベテラン3人に対して、若手が1人しかいないのが、今の建設業界です。

――少子高齢化が著しいですね。

振興基金 ええ、ベテランは10年~15年後には間違いなく引退するので、建設現場を担う人が圧倒的に不足するおそれがあります。

建設業界全体として、資格取得や技術研鑽など努力している建設技能者をしっかり評価しているぞ、というメッセージを発することが、将来の担い手を確保する上で重要なんです。

――いったん建設業に入っても、他産業に転じてしまう若者も多いですよね?

振興基金 高校卒業後に建設業界に入職する方の離職率は、3年間で43%にも上ります。離職の原因として、休日が少ないことなどが指摘されますが、「建設業界で働き続けるとしても、キャリアの方向性が見えない」という意見も多いです。

若手もベテランも持続的に働きやすい環境づくり、それが「建設キャリアアップシステム」の狙いです。

――建設技能者以外に、現場監督にも導入メリットはありますか?

振興基金 現場管理の効率化につながります。社会保険加入について「建設キャリアアップシステム」では現場に入る前のシステムへの登録段階で確認できるので、現場所長の負担も軽くなります。また、現場では書類管理等の事務作業が煩雑になっていると問題になっていますが、 「建設キャリアアップシステム」を活用していただくことで、施工体制台帳や作業員名簿の作成の手間やミスを削減できると期待されます。

様式についても、建退共の証紙を交付する際の就業実績の確認に使う様式が共通化されるなど、今後、書類の統一化に資するはずです。


建設キャリアアップシステムのカードとは?

――建設キャリアアップシステムの使い方は?

振興基金 まず建設技能者が必要な情報を登録すると、建設キャリアアップカードが個々に交付されます。事業者登録をした元請事業者が現場にカードリーダーを設置し、建設技能者が現場に入場する際、そのキャリアアップカードを読み取らせることによって、日々の就業が記録・蓄積されます。

ゼネコンや下請会社などの事業者は、それぞれの立場によって、いつどこの現場で従事したのかといった実績や、保有資格、社会保険の加入状況についても確認できるようになります。

――現場に入場する際、毎日カードを読み取る?

振興基金 はい。日々継続的に情報を蓄積することにより、今後実現が期待される能力評価基準とあいまって、建設技能者のスキルがどのレベルに到達しているかも確認できます。日本全国すべての建設現場で導入することを目指しています。

――これで建設技能者の賃金も上がる?

振興基金 「建設キャリアアップシステム」によって、建設技能者の客観的な評価が可能となるので、処遇改善にもつなげていくことが期待されます。

そのために今、国土交通省の検討会で、建設技能者の技能レベルについての評価基準を検討している段階です。職種ごとに4段階にランク付けする方向で検討されていますが、これが実現すれば、将来的にはキャリアアップカードも4種類に区分する可能性があります。スキルが上がると、最終的にゴールドカードにランクアップするイメージです。

――最初、キャリアアップカードは一種類?

振興基金 いえ、一般の建設技能者の通常カードと、登録基幹技能者(※)向けのゴールドカードに区分して、2種類で運用をスタートします。

※基幹技能者制度は、平成8年に専門工事業団体による民間資格としてスタート。平成20年1月に建設業法施行規則が改正され、新たに「登録基幹技能者制度」として位置付けられた。

同年4月以降に国土交通大臣が登録した機関が実施する登録基幹技能者講習の修了者は、登録基幹技能者として認められ、経営事項審査においても評価の対象となった。

――「建設キャリアアップシステム」を導入すると、会社にとってもメリットはありますか?

振興基金 はい。先ほど、事業者にとっても現場管理の効率化につながると言いましたが、「建設キャリアアップシステム」によって蓄積される情報は、技能者個人を評価するだけでなく、専門工事会社の施工能力を「見える化」して、優れた建設技能者を雇用する専門工事会社の評価にもつなげていくことが国土交通省を中心に検討されています。

能力評価制度の検討結果は、高い技能・経験を有する建設技能者に対する公共工事での評価につなげていくことが想定されており、「建設キャリアアップシステム」が統一のプラットフォームとして普及すれば、建設技能者の地位向上にもつながっていくはずです。


建設キャリアアップシステムの登録料金はいくら?

――「建設キャリアアップシステム」は、利用料金がかかるんですか?

振興基金 システムの開発費用については、各業界団体からいただいた出えん金で対応します。システムの運用費用を利用料金として、利用者にご負担いただきます。建設技能者の方には登録料としてインターネット申請で2,500円、郵送・窓口申請で3,500円。登録有効期間は10年です。

――事業者の登録料もかかる?

振興基金 元請会社や下請会社など事業者の登録は5年ごとですが、事業者の規模は様々ですので、資本金によって登録料は11段階に分けています。資本金500万円未満は3,000円で、500億円以上の大企業は120万円です。

――今増えてきている「一人親方」の扱いは?

振興基金 一人親方は、事業者でもあり、技能者でもあります。なので、建設技能者としての登録は有料ですが、事業者登録は無料としています。

――毎年の利用にも利用料金がかかりますか?

振興基金 情報の管理や閲覧に必要となる管理者IDは、1IDあたり年間2,400円になります。また、元請事業者としてシステムを利用する場合には、技能労働者が現場で就業履歴を蓄積する際、1人1回3円の現場利用料がかかります。ですから、20人の建設技能労働者が50日就業すると、3,000円の現場利用料になります。

例えば、事業者が資本金2億円、年完工高20億円、管理者ID取得数が1つであれば、簡単な前提を置いて試算すると、年間の利用料金は56,400円ほどの負担です。元請としての工事がなければ、14,400円程度と試算されます。

――カードリーダーの値段は?

振興基金 現場によっては、すでに現場の入場管理のために、カードリーダー機を設置しているところもありますし、さまざまな機種が市場で流通していますので、カードリーダーの指定はありません。安いものだと3,000~5,000円でも購入可能だと思います。ただ、「建設キャリアアップシステム」に対応して動作確認できたカードリーダーを今後ホームページに公開する予定です。

今秋から本格運用する建設キャリアアップシステム

――今秋の導入までの流れは?

振興基金 平成28年度に実施された特別講習を受講した登録基幹技能者1万人には、登録受付を先行的に4月から開始しています。一方、一般の建設技能労働者については、5月上旬から郵送申請、6月13日からインターネット申請を受付けています。そして6月下旬からキャリアアップカードの交付をスタートします。

――事業者の登録は?

振興基金 事業者についても、5月上旬から郵送申請、6月13日からインターネット申請をそれぞれ開始しています。手続きが完了すればIDを交付します。秋以降から始まる運用開始と同時に、現場単位の登録も開始します。

専門工事業者は作業内容、建設技能労働者の立場(職長)などの施工体制をシステムに登録しておくと、カードを読み取った際、より具体的な就業履歴が蓄積されるようになり、ゼネコンも確認できます。

――現場監督が「建設キャリアアップシステム」の普及に貢献できることは?

振興基金 全ての現場で就業履歴を蓄積していくためには、現場の登録やカードリーダーの設置はもちろんですが、現場監督自身の現場管理の省力化のためにも、専門工事企業に対して、施工体制の登録をお願いしていただきたいです。

――今後、「建設キャリアアップシステム」に登録しないと、建設技能者は現場に入れなくなりますか?

振興基金 「建設キャリアアップシステム」は、現場の入退場を管理するシステムではなく、建設技能者の就業履歴を蓄積するのが狙いですから、目的が異なります。しかし、個々のゼネコンが、現場に入場するすべての建設技能者に登録要請を行うことはあると思います。

――最後に「建設キャリアアップシステム」をこれから普及させていくにあたっての抱負を。

振興基金 「建設キャリアアップシステム」は、建設技能者のキャリア形成を後押しする仕組みです。これまで建設技能者の経歴を証明する手段がありませんでしたが、「建設キャリアアップシステム」によって、どの現場で経験を蓄積してきたか証明できます。

建設技能者も頑張っただけ評価される時代をつくっていく上で、「建設キャリアアップシステム」は、建設産業の「統一インフラ」です。今後、さまざまな提案が各業界団体から寄せられて、どんどん進化していくと思います。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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