大京穴吹建設の施工管理システム「D-SHIP」導入と働き方改革

大京穴吹建設の楢舘舜(ならだてしゅん)氏(左)と小林俊博氏(右)

大京穴吹建設の施工管理システム「D-SHIP」導入と働き方改革

大京穴吹建設の働き方改革

建設業界にも「働き方改革」の波が押し寄せている。

大京穴吹建設を擁する不動産大手の大京グループは、いち早く2016年12月に社長直轄の「職場改革プロジェクト」を立ち上げ、より働きやすい職場環境を実現するため、全社員で職場の課題を洗い出してきた。2018年7月9日~8月10日には、新たな取り組みとして「時差Biz」「テレワーク・デイズ」にトライアル参加。「働く時間」と「働く場所」の選択肢を増やし、働く意欲や生産性の向上を目指した。

大京グループの工事事業部門である大京穴吹建設も、施工品質管理システム「D-SHIP」を穴吹カレッジサービスと共同開発し、2018年度から全ての建設現場で運用開始した。

「時差Biz」と「D-SHIP」を実際に活用した大京穴吹建設の楢舘舜氏(リニューアル事業部営業三部湘南企画課)と小林俊博氏(東日本施工管理部施工管理5課)に話を聞いた。


東京都主催の「時差Biz」を全国展開する大京グループ

本来、「時差Biz」は東京都が行っているものだが、大京グループでは全国展開している。この試みはグループ人事部が部署ごとに募集をかけ、希望する部署が実施。楢舘氏の上長は「フレキシブルに積極活用して欲しい」と部下に指示を出し、楢舘氏は2回「時差Biz」を活用した。

建設技術者の働き方改革は、施主の動向によって難しいとされてきたが、まずは「時差Biz」を活用した楢舘氏の話を聞いてみよう。

――普段の労働時間について教えてください。

楢舘 平日は朝9時に出勤し、17時半に退勤するのが定時です。書類作成などの業務で残業になる場合もあります。他のゼネコンと大京穴吹建設が異なるのは、指定休日となっている土曜日・日曜日にお客様への提案業務が多く入る点です。

大京グループが管理しているマンション管理組合を中心に、大規模修繕工事や給排水設備等の改修工事を提案します。お客様のご都合に合わせ、土日は朝10時から、遅い時間ですと夜6時から打ち合わせの予定が入ることもあります。代わりに火曜日や水曜日に振替休日を取得しています。

――大規模修繕工事が増えているからですか?

楢舘 そうですね。消費税の増税が予定されていることによる駆け込み需要の増加も理由の一つだと思います。また、2020年東京五輪の開催前にマンションを綺麗にしたいという狙いもあるのではないでしょうか。

――時差Bizを使った感想は?

楢舘 11時出勤、19時半退勤として使いました。私の担当エリアは横浜市ですが、通勤電車内では座ることもできました。別の社員の中には、退勤後のプライベートの時間を増やすために、30 分早く出社して30分早く退勤した者もいました。

――時差Bizの課題点とかはありますか?

楢舘 私は3〜4棟のマンション大規模修繕工事を管理しています。もし「時差Biz」を使った日に、お客様から「9時からすぐ来て欲しい」という要請があれば、すぐ対応できないのではないかと懸念していました。実際にはお客様からの呼び出しはありませんでしたので良かったですが、「もしものときは、お客様対応を変わってもいいよ」という仲間もいて、心強かったです。

――ゼネコン技術者がフレキシブルに時間を使うのは難しい?

楢舘 たしかに、ゼネコンの技術者は、お客様によって時間の使い方が決まることが多いです。自分の好きなように時間を使うのは難しい。ただ、時差Bizを活用することによって、精神的にゆとりが生まれ、次に頑張るための原動力にもなります。

ストレスが溜まっている中での見積書や提案書の作成業務は、時間をかけてもなかなか進みませんが、時間を自分の思うように使用できるのであれば、意欲と生産性が向上します。

――見積書や提案書はテレワークでも可能だと思いませんか?

楢舘 そうですね。私もモバイルパソコンが付与されれば、いつでもどこでもチャレンジしていきたいです。将来的にはモバイルパソコンを全社員に付与する方向で進んでいますし、テレワークもトライアルで実施しています。今後、社員へのヒアリングを通して、問題点の改善につとめることで、さらに働きやすい環境になっていくと思います。


施工品質管理システム「D-SHIP」で働き方改革

次は、施工品質管理システム「D-SHIP」を導入した建設現場での働き方改革について、施工管理業務を行っている小林氏に聞いた。

施工品質管理システム「D-SHIP」を操作する小林氏

――施工品質管理システム「D-SHIP」を導入した背景は?

小林 大京穴吹建設でも他のゼネコンと同様、建設技術者が不足している傾向にあります。修繕工事の規模にも大中小とあるので、すべての現場に技術者が常駐することはできません。そこで現場運営を効率化するため、ICTの出番となります。

大京穴吹建設では、2017年10月から帳票やワークフローを一元管理する施工品質管理システム「D-SHIP」を導入しました。2018年4月以降に着工した、全ての大規模修繕工事の現場で運用しており、今後は協力会社での運用も順次スタートしていく予定です。

D-SHIPのログイン画面

――施工品質管理システム「D-SHIP」の機能は?

小林 「D-SHIP」は、個人のログインIDとパスワードを入力すると、個々が管理している現場名が表示されます。現場名をクリックすれば、工程の上流から下流へと工事項目ごとにチェックシートが出てきます。その作業が済み次第、協力会社さんが自主検査を行った結果を確認できるので、その場にいなくてもタブレット上で現場の進捗状況がリアルタイムに把握できます。

もし現場でチェック漏れや不備があっても、現場監督がコメントを入力するだけで、現場関係者への指示になります。

「D-SHIP」導入で社内情報共有もスムーズに

――「D-SHIP」導入以前の現場とどんな変化が?

小林 従来の施工管理は、書面記録、メールや電話でのやりとりが中心でした。書類作成や現場整理などの作業負担が大きく、協力会社とのコミュニケーションが煩雑になっているという課題がありました。また、それが現場監督の業務量を増やし、残業が発生する要因になっていました。マンションの大規模修繕工事でも協力会社は多岐にわたります。

しかし、「D-SHIP」導入によって、メールや電話を使わないで各種データを水平展開できるようになり、非常に省力化につながります。現場監督が「D-SHIP」を使えば、現場に加えて社内や協力会社とも簡単に情報共有できます。

――「D-SHIP」導入の手応えは?

小林 軌道に乗れば、必ず生産性は向上すると確信しています。ただ、浸透させるまでの産みの苦しみがあります。まだ操作に慣れていない現場監督もいます。システム的にも今はまだ現場からの意見をもとに断続的に改良を重ねている段階です。

「D-SHIP」は写真管理もできるので、将来的には工事完了後、マンション管理組合への引き渡し資料も作成できるように、さらにバージョンアップしていく予定です。引き渡し資料の作成業務は、マンション大規模修繕工事の現場監督が悩んでいる作業の一つですので。

多忙な現場監督も「D-SHIP」で働き方改革

――多忙な現場監督の働き方改革につながりそうですね。

小林 私の現在の担当物件は4棟です。以前は現場に行かないと伝えきれないこともありましたが、「D-SHIP」では現場に行かなくとも指示・伝達できるようになり、現場効率が捗っています。

――今後の「働き方改革」に何を望みますか?

小林 労働時間に関しては、選択できる幅が広まれば嬉しいです。時間や曜日に限らず、なかには「もっと働きたい」という方もいます。各個人が希望する働き方ができるよう、選択肢を増やして欲しいですね。

・・・まだ建設業界での働き方改革は始まったばかり。施工管理技士などの現場監督の苦労が報われ、家庭サービスやメンタル面が充実することを願うばかりだ。

建設現場はICTを活用すれば、もっと効率的に働けるなど、環境の余地は大きい。大京グループの「時差Biz」「テレワーク」「D-SHIP」でのチャレンジを応援したい。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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