イラスト工事看板の人気者「工事評定点の高い会社ほど、ウチの看板を使ってくれる」

イラスト工事看板でシェアを伸ばす「プラスワン」のこだわり

プラスワン(徳島県板野郡松茂町)という会社がある。オリジナルイラストの工事看板製作などを手がける会社、と言うか個人商店だ。

事業主の島博之さんは、もともと土木資材の販売会社のセールスマンで、趣味でイラストを描き始め、高じて、商売を始めた変わり種だ。

「お客さんの喜ぶ顔が見たい」「イラスト工事看板で食えるのか」という恍惚と不安の中での独立だったが、設立から2年が経過した現在、「口コミで、どんどん仕事が舞い込んできている」と言う。

工事用看板にも当然、デキの「良し悪し」はあるわけだが、後発ながら、島さんの看板は、県内でシェアを伸ばしているらしい。

でも、「イラストは娘が描いている」と嘘をついている。

「工事撫子看板」がキャッチコビーのプラスワン代表 島 博之さん

工事看板の製作は商売になるのか?イラストにこだわる理由はなにか?良い工事看板の条件とはなにか?

ダンディーなヒゲがチャームポイントの島さんに話を聞いた。


発注者の「この看板良いわ〜」で「商売なるんちゃうか?」

5年ほど前、営業先のある建設会社社長から「現場アピールになる絵を描いてくれんか?」と頼まれた。その辺の紙にマジックで描いた絵を渡すと、気に入ってくれた。絵をコピーし、現場の仮囲いなどに絵を貼った。発注者からも「これ良いわ〜」とほめられた。現場周辺住民からも「わかりやすい」と高評価。その後何度も現場の絵をリクエストされるうちに、「商売になるんちゃうんか?」と思い始めるようになった。

もともとイラストを描くのが好きだった。営業で回っている際、商品カタログを渡しても、ロクに見てもらえないので、手描きイラスト入りのチラシを自ら作成。ひと目で商品のポイント、メリットがわかるよう工夫した。すると、チラシでアピールした商品が飛ぶように売れた。イラストが持つの威力、描く楽しさに気づいた端緒だった。

「イラスト看板で商売したい」という思いは募っていったが、1件数万円の稼ぎ。独立にはなかなか踏み切れなかった。島さんには、土木資材会社に勤める前、黒壇などの銘木を取り扱う会社を経営していた過去がある。創業時は18才。木材輸入が滞ったことなどから、35才で廃業。会社清算手続きなどで苦労した記憶が残ってることも、決断を鈍らせた。

ある時、「このままサラリーマンを続けても、つまらない老後しかないなあ」という思いがよぎった。娘も大学を卒業し、手がかからなくなったこともあり、「そんなに儲けなくても、好きな絵を描いて、お客さんが喜んでくれるなら」とついに重い腰を上げる。

「僕より絵の上手い人はいくらでもいる。僕より土木知識にある人もいくらでもいる。ただ、僕より絵がうまくて、土木知識のある人はそうはいない。何より僕が自信があるのは、発想の柔軟さだ。これは絶対的なもので、僕の強みはここにある。これがあったから独立に踏み切った」と振り返る。


「現場で工夫せんから、点数取れんのじゃ!」と顧客を一喝する営業スタイル

独立したものの、オフィスは自宅。顧客は前の会社の知り合い。新規営業する気はなく、PRはブログだけ。なんの成果もなく、2ヶ月が過ぎたあるとき突然、静岡県の建設会社から注文が入った。

「ん?注文?うわ!ようせんようせん」とパニックに陥り、初めての注文を断ってしまう。見た目の割に、気が小さい。「ブログしかやっていないのに、注文が来た。今思えば、ようこんなんで注文がきたなあ」と自分に感心する。

商売が軌道に乗ったのは、既存の顧客の口コミ。基本的に「こっちからこうしませんか、ああしたら良いですよ」と提案しない営業スタイル。例えば、顧客から「今回、点取れんかったわ。どないしょ?」などと相談を受ける。その時初めて「現場で工夫せんから、点数取れんのじゃ!」などと問題点を指摘するようにしている。

一旦口火を切ると、もう止まらない。地域住民などの理解を得るためにはどうするか。専門用語で説明しても住民には伝わらない。看板をイラスト化すれば、子どもにもわかるなどなど。アドバイスを取り入れた結果、良い点数が出る。感謝される。他の会社から相談が入る——という具合に、顧客を増やす。「おい島、ウチの現場で工夫できることなんかないか?」という相談があると、「しめた!こっちの世界に引っ張り込めた」と内心ほくそ笑むと言う。

イラスト製作は、自室の普通のパソコンで。島さんのイラストは、紫煙とともに生まれる。

その一方、「相談があっても、お金のことばかり聞いてくるお客さんとは、取引しない。ウチの看板がいかに良くて安いか、頭でパッと理解できる人でないと、長続きしない。チラシで説明して、反応がなければ、『この会社、レベル低いな』で終わり(笑)。追いかけたりしない」とシビアな面も。


看板デザインは打ち合わせゼロ。「僕が全部、勝手に決める」

看板デザインの決め方もシビア、と言うか風変わりだ。まず顧客との打ち合わせは一切しない。「全部僕が勝手に決める」。強制的な「お任せ」だ。「こだわり」か「わがまま」か、判断が分かれるところだ。

価格設定も独特で、イラスト入りもなしも価格は同じ。「イラスト入り看板を広めたかった」ねらいがあったからだ。中には、「時間がないので、絵はいらない」という客もいたが、「納期には間に合わせるが、なんとしても絵を入れる」と突っぱねたこともある。信じがたいが、これまでに顧客からのクレームはないと言う。

島さんお気に入りの女の子のキャラクター。名前はまだない。

「絵を描くたびに、これが自分の最高傑作だと思って出している」。意外にも、絵に対するこだわりは強い。自分の絵を見るたびに「常にこうしたら良かったと思ってしまう」そうで、「まだまだ自分にはノビしろがある」そうだ。顧客がブログを見て指定したイラストが気に入らず、新たに勝手に描き直したこともたびたび。「絵を書くのが好きというより、面白い絵を描くのが好き」と分析する。

ミニスカートの豊満な女子で賛否

島さんのデザインの考え方は、例えば河川工事の場合、他の看板が「河川工事をしている」ことを伝えるものであるのに対し、「河川でなにをしている」を伝える点に特長がある。イラストも、ブロックを積むとか土を取るとか、動きのあるもの、何をしているか伝わるものを描く。「看板は、お年寄りとか、子どもに興味を持ってもらうのが最優先」という思いがある。

この点、また評価が分かれそうなエピソードがある。国発注のある現場のため、ミニスカートを履いた豊満な女の子の警備員の等身大イラストを描いたことがあった。寝ている時にアイデアが浮かび、一心不乱に描いた。出来上がった実物は、職人などにはバカウケだったが、地元の教育委員からクレームがついた。奥さんにも「あんたのやっていることは、変態と紙一重だ」と苦言を呈される。看板は撤去に。ただ、島さん自身はまったく懲りず、むしろ「プロになれると確信した」と言う。ここまで来ると、良識ぶるのも、バカバカしくなってくる。


「その顔であのイラスト?」に嫌気、「娘が描いている」と嘘

島さんにとって悩みは、顧客から「その顔であのイラスト描いてるの!?」と例外なく驚かれること。何度も受け答えするのがジャマくさくなったため、現在は「娘が描いている」とウソをついている。「娘は美術大学を出ているので、ちょうど良かった」と話している。

「県内で点数の高い会社は、ほぼすべてウチのイラスト看板を使っている」と豪語する。「ただ、手放しでは喜べない」とも。イラスト看板が当たり前になると、「誰も喜んでくれない、誰もほめてくれない」からだ。なんともゼイタクな悩みだが、「お客さんの喜ぶ顔が見たい」という思いの強さが伝わってくる。

「ブログだけでも、注文はどんどん入る」と言う。不思議なことだ。ただ最近、「ブログしかないんかい。どういう会社や?」と言われるようになった。「しゃあないな」ということで、現在プラスワンのHPを作成中。ただ、今後仕事が増えても、人を雇ったり、設備を整えたりする考えはない。「仕事が忙しくなったら、日当払って、友達に頼む」と言う。「経理とか事務がじゃまくさい」からだ。

プラスワンのブログ
https://blogs.yahoo.co.jp/nadesiko3779/47191056.html

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