ICT土工の採用と週休二日の現場実現
国土交通省や建設関連団体が積極的に進めている「建設業の生産性向上と働き方改革」。中でも、「i-Constructionの推進」と「週休二日制の導入」は改革の大きな柱となっています。大手ゼネコンで組織される日建連では、週休二日推進の専門部署を設置するなど、将来の建設業の維持と発展に向けて、具体的な取り組みを始めています。
今回、訪れた現場は、平成30年度に国土交通省東北地方整備局の局長表彰を受けた「平成28年度 丸山地区道路改良工事」。
青森市内の建設会社としては初めてとなる「ICT土工の採用」と「現場の週休二日」を実現した工事について、ICT導入のメリットや課題、週休二日実現への苦労など、工事を受注された株式会社木村建設にて、監理技術者/阿部雅彦さん、現場代理人/秋村一成さんに伺いました。
地方の建設会社が取り組んだ生産性向上と働き方改革。ぜひ参考にしてください。
東北地方整備局局長表彰 平成28年度丸山地区道路改良工事
——今回の工事の概要について簡単にご説明ください。
一般国道7号(青森環状道路)の安田地区交差点改良事業として、平成26年度から工事が実施されており、本道路改良工事はその第四期工事となります。
一般国道7号青森環状道路の青森インターから安田交差点間は、交通量が24,412台/日(H22道路交通センサス)と多いにもかかわらず、暫定2車線区間のため、ピーク時の走行速度低下が著しく、また渋滞に伴う追突事故も発生しています。
今回の工事は、山側を拡幅し、下り車線側を2車線化することで、渋滞の緩和と事故低減を図るものです。
工事名 | 平成28年度 丸山地区道路改良工事 |
工事概要 | 道路改良、道路土工、法面工、排水構造物、構造物撤去工事 等 |
発注者 | 国土交通省東北地方整備局 青森河川国道事務所 |
工期 | 平成29年3月31日~平成29年10月10日 |
受注者 | 株式会社 木村建設 |
施工場所 | 青森県青森市大字三内字丸山地内 |
請負金額 | 111,672,000円(税込) |
監理技術者 | 阿部 雅彦 |
現場代理人 | 秋村 一成 |
——今回の工事で特に重視したこと、また大変だったことは何でしょうか?
当たり前のことではありますが、安全管理には気を使いました。具体的には「ダンプトラックの安全管理」「高圧送電線への安全対策」「作業員の熱中症対策」を行いました。
ダンプトラックの安全管理
掘削によって発生する約16,000m3の土砂を19km先の残土受け入れ地(青森市浪岡)まで運ぶためには、往復3,700回走行する必要があり、走行時の事故防止を目的に、以下の安全対策を実施しました。
安全運転の垂れ幕
① 朝礼時、運転手各自に安全運転宣言書へ署名してもらい、日々の安全運転への意識向上を図った。
② 走行ダンプへ通常より大きな垂れ幕(前面)及びマグネット板(背面)を取付け、安全運転を心がけるよう第三者への見える化を図った。
③ 全車にドライブレコーダーを貸与し、走行時のデータを記録に残すことにより、もらい事故や走行時のトラブルを防止した。
④ 過積載防止のため、ポータブル車両重量計にてダンプトラック全車両の重量確認を実施し、安全走行の徹底に努めた。
高圧送電線への安全対策
切土部に高圧送電線が走っているため、作業時は常時監視員を配置して注意喚起しました。また、高圧電線への接触やバックホウのブームが旋回時に施工区域を超えることを防ぐため、「バリヤー警報装置」も設置し、事故防止に努めました。
バリヤー警報装置
バリヤー警報装置2
作業員の熱中症対策(休憩所の快適化)
夏場の工事となるため、現場内の熱中症対策には留意しました。その他に取り組んだのが、休憩所の快適化です。休憩中にスマホを操作したい若い作業員も多いので、フリーWi-Fiを設置しました。この取り組みは作業員からも高評価でした。
フリーWi-Fiの設置
フリーWIFIの設置2
マシンガイダンスによる施工
——今回の表彰理由に「ICT活用工事」がありますが、具体的にどのようなICT技術を導入されたのでしょうか?また、導入によってどのようなメリットがありましたか?
マシンガイダンスによる法面整形
主なものは、レーザースキャナーによる3次元測量および出来形管理と3D-MG(マシンガイダンス方式)バックホウによる切土掘削および法面整形です。
レーザースキャナーによる起工測量は、現地を3次元でとらえるため、取りこぼしが少なく、基準点から2点確認できればどの位置からも測量できることから測量時間を大幅に削減できました。また、測量士プラス補助作業員1名で行うことができ、コストの縮減にもつながりました。
マシンガイダンスによる施工では、法面整形時に天端部のみ丁張をかけましたが、その他の丁張作業を省略し作業の効率化が図れました。また切土法面整形でも通常の掘削作業でも、ソフトの設定で1cm~2cm単位での浅目の切込みが可能となるため、オペレータも余裕をもって作業することができ、結果として手戻りもありませんでした。
——今回のICT活用を通じて、次の工事への課題もありましたか?
オペレータの手元画面
まず、レーザースキャナーとソフトを保有している測量会社が県内に少ないことが挙げられます。結果として割高なレンタル料金が設定され、経費の面からは積極的に採用できないことが考えられます。今回の場合は、ギリギリの経費として会社が認めてくれたので何とかなりましたが。
マシンガイダンスによるバックホウの操作については、経験の浅いオペレータには難しいかもしれません。掘削勾配や角度等が数値とアニメーションで表示されるのは良いのですが、経験の浅いオペレータでは、表示される画面ばかり気になって、逆に作業効率が落ちてしまうのではないでしょうか。
今回は法面整形の実績のあるベテランのオペレータを選抜して作業をしていただきました。最初は、表示される数値に対する不安もあったようですが、事前の2週間程度の練習で慣れていただくことができました。マシンガイダンス搭載のバックホウや付随する基地局設置のための費用もまだまだ割高なので、これから普及して価格が下がるといいと思います。
——現場の週休二日に積極的にチャレンジしたそうですが?
今回の工事は、発注時に「週休二日制による工期内休日日数56日」と明記されていたため、それに基づいて工程表を作成しました。ただし、掘削と土砂運搬作業はどうしても工程がタイトになるため、その期間のみ第2、第4土曜日を休みとする週休二日にさせていただきました。
本工事の工期が雪のない期間であったことも、週休二日を実施できた要因のひとつだと思います。青森の場合は、場所によっては3月~4月まで雪が残っている地域もあります。その心配がなかったことで、週休二日の計画ができました。
——今後も週休二日を実現していくための課題はありますか?
工事の週休二日が必ずしも作業員の週休二日と直結していない点は課題だと思います。青森市内の建設業者の多くは変形労働時間制で就業日を決めているため、現場の休業日イコール作業員の休日にはなりません。
作業員が日給月給制である以上、稼働日の減少が所得の減少につながっては、協力会社の理解を得るのは難しいと思います。今回も協力会社には、本現場の休止日には他の現場を手配してもらうことで対応していただけたので、週休二日を達成できましたが。
これから若い人たちが建設業界に興味を持っていただくためには、こうした給与体系を変えていくことが必要ではないでしょうか。今回の週休二日実施によって、私自身も休日の予定が立てやすかったですし、これからも可能な限り週休二日にこだわっていきたいと思います。
監理技術者としての心構え
——阿部さんが監理技術者として工事を担当する際に日頃心がけていることは?
阿部雅彦さん(監理技術者)
阿部 常に評価される工事をしたいと考えています。そのために新しい工事を受注するたびに、何かひとつでも新しい試みをしようと心がけています。
実は以前、継続工事の計画書を発注者に提出する際に、前の工事を参考にして計画書を提出したところ、担当者に「前と同じやり方では評価されませんよ」とストレートに言われ、ショックを受けたことがありました。
その時から、常に新しいことを採用できないかという意識を持つようになりました。今回、ICT土工や週休二日といった新しいチャレンジができたのも、そうした心がけによるものだと思います。これからも積極的に新しいもの、新しい方法・考え方を採り入れたいと思います。
——秋村さんが若い技術者(下請け専門業者も含め)と接する際に心がけていることは?
秋村一成さん(現場代理人)
秋村 私自身、今の若い技術者の人たちとどう接したらいいのか試行錯誤しているという感じですね。私たちの若いころは、先輩に質問すると怒られるので、先輩のやっていることを「見て盗む」ことが求められました。今は、最初に答えを教えてあげないといけません。答えを教えてから、何故それが必要かを伝える。そうしないとなかなか理解してもらえないかもしれません。
建設業だけではないと思いますが、若い人たちは、納得したことでないと動こうとしないタイプが多いようです。また、自分から質問していくタイプも少ないかなと思います。個人的には、どんどん質問して欲しいとは思っているんですけどね。頼られるとうれしいですし。
木村建設の若い技術者たち
今回の取材では、木村建設さんの若い技術者の方々にもお話しを聞くことができました。これからの建設業界を支えていく人たちの思いを紹介します。
左から山口大樹さん、鳴海臣彦さん、三戸泰也さん
——鳴海さんは今回の工事にも携わったそうですが、ご自身が参加した工事が局長表彰を受賞されて、どんな感想を持ちましたか、また、今回の経験から今後の現場監理に活かせると思ったことはありますか?
鳴海 今回は高圧送電線の安全管理を担当しました。自分自身土木工事は未経験だったのですが、初めての土木工事で、局長表彰を受けるような工事に携われたことを大変うれしく思います。また、今回の経験で安全面の重要性を再認識させられました。今後自分で現場を持った際は、この工事で学んだことを積極的に取り入れ、良い現場を作っていけたらなと思います。
——三戸さんと山口さんもまだこれからいろんなことを学んでいくと思いますが、これから建設業界で良い仕事をしていくにあたり、どんなことを心がけていきたいと思っていますか?
三戸 私が心がけたいことは、ひとつの事故で命を落としかねないので、安全第一で作業し、安全管理を徹底していくことです。また、現場を動かしていく上で、職人さんなどとのコミュニケーションが大切なので、作業の打ち合わせ等をきちんと行い、現場の安全と明るい作業環境を提供し、より良いものを造っていきたいと思います。
山口 工事関係者や地域の住民とのコミュニケーションを大切にして、事故なく工事を完成させたいです。今の現場のような道路改良工事であれば、自動車や歩行者が安心して通行できるような道路を造っていけるように心がけたいです。
おわりに
日建連は週休二日の実現へ向けてさまざまな取り組みを行っています。しかしながら、大手ゼネコンでさえ、その実現には越えなくてはならない壁がいくつもあります。
そうした建設業界の中で、地方の建設会社が実現したICT活用と週休二日の実践。さらには、実際に経験してみて課題に思ったことなど、参考になれば幸いです。
【取材協力・資料提供】
株式会社 木村建設 http://www.kimken.co.jp/
※この記事は、一般財団法人 建設業技術者センターが運営する建設技術者のためのコミュニティサイト『ConCom』の記事を一部編集のうえ転載したものです。