全国に先駆け、ドローン技術者を養成
国土交通省が建設業の生産革命を目指し進めているi-Construction。今やその取り組みが無視できない状況になってきている。
土木ばかりではなく建築現場にも活用が促されているICT技術の活用術を知っていないと、施工管理技術者として取り残されるのは必然だ。
i-Constructionの取り組みの中でも、中枢を担うのはドローンの活用といっても過言ではない。出来形管理など直ぐにでも導入できる技術もある。
このドローン技術者を養成するため、全国に先駆けて「熊本県ドローン技術振興協会」を立ち上げた上村雄二郎理事長に、ドローンにまつわる現状と課題を聞いてみた。
熊本県ドローン技術振興協会 上村雄二郎理事長
■Profile
上村 雄二郎(かみむら ゆうじろう)
ドローン操縦機種:S1000、S900、S800evo、F550、F450、Phantom2.3.4 等多数、資格:陸上単発飛行機操縦士免許・特殊無線技士免許・アマチュア無線4級免許・特定操縦技能審査員免許・衛生管理者、ラジコン操縦歴50年以上、熊本空港小型機会会長・NPO法人スーパーウイングス副理事長、早稲田大学法学部卒。
日本初、パイロットがドローン協会設立
上村理事長は、安全なフライトの実現に日々、邁進する。
平成27年8月に「熊本県ドローン技術振興協会」を設立した当初から、一貫して〝安全〟を打ち出す取り組みには、自身がパイロットという特殊な事情もある。
熊本県ドローン技術振興協会の会員数は個人も含め現在、204社にのぼり、協会の果たすべき役割は増すばかりだ。
今や建設産業ばかりではなく、様々な分野で活躍するドローン。その活用の可能性は未知数だという。
——熊本県ドローン技術振興協会の設立背景は?
上村 いま全国で行われている色々な安全教育は、ドローンを売るメーカーとかがやっています。私たちは航空法が分かるパイロットでつくった協会なので、理事も全員パイロット。みんな教官クラスです。
空に関しては航空法が分かっているプロですから、説得力がある訳です。みんなラジコンとかが好きな連中です。パイロットって飛ぶのは何でも好きです。
そんな中で、ドローンはものすごくためになるという話をしています。ただ、今の状態だったらやりたい放題。ドローンは中国製ですし、法律もないですし。
そういうのが飛行機と同じ空域を飛ぶという大変なことが目の前で起きています。本当は国がやらなければいけないことですが、熊本だけでも安全に飛ばして上手く仕事に使っていただこうということで協会を設立したわけです。
講習会に使われているドローンはファントム4。3D測量も可能だ。
——異業種間の交流が盛んなようですが、その辺も想定して立ち上げたということですか?
上村 協会というのは、同業者が集まって利権を得るというような側面もある訳ですが、ドローンに関しては業種が定まっていないのが現状です。今からドローンがどんな風に広がっていくのかわかりませんし、ものすごく世界が広がるということです。
当初、どういう組織にするかについては定まっていませんでした。個人的にドローンを使った測量をやっていましたので、スタートはコンサルの人たちとやろうと考えていました。
ただ、将来的にドローンは映像の世界も含め使う世界がものすごく広がっていくので、だったらパイロットでつくろうということになったわけです。
国を待っていたら安全教育は間に合わない
——こうした団体の全国での活動状況はいかがでしょうか?
上村 実は4~5年前まではドローンという言葉さえなかった時代です。まだ、マルチコプターと呼んでいた時代ですので。ドローンという言葉が広がったのはここ2年ぐらいではないでしょうか。
パイロットによるドローンの協会というのは、全国どこを探してもありません。うちだけです。そんな中で、大分は県主導で協会をつくりました。現在、うちの協会を参考につくるということで、手を組んでいるところです。
これだけのスタッフなら全国展開してもおかしくはありませんが、それは私のやる気だけでしょう。と言っても民間には限界があります。
空の世界というのは国がきちんと主導権を握って指導しないとダメなんです。でも、それを待っていても間に合いません。
ですから熊本で始めたのは、先に安全教育をするだけの団体として動きましょう、ということです。うちでは物も売りませんし。
——安全講習や技術指導を積極的に開催されていますが、前例のないことに取り組む中で、何を参考にしておられるのでしょう?
上村 実は5年前に飛行機の免許が2年に1回、実技試験が課される更新制度になりました。それまで飛行機のライセンスは健康診断がOKだったら一生モノでした。
これまでは国土交通省の試験官がライセンスを取得する時だけ、試験をしていたのですが、2年に1回の実技試験となると試験官が足りない訳です。
講習会のテキスト、資料は自前。飛行機試験官の取得時に使ったものだという。
そこで民間人に試験官の国家資格を取得させてライセンスの更新制度をスタートさせました。私も実技の試験官の一人です。
その国家資格のための勉強を全部やってきたものですから、その時使った安全教育の資料が山ほどありました。それを講習会などで使っています。
ドローン技能認定制度で50人以上の取得実績
——航空法の知識などかなり高度な専門分野を学ばなければならないようですが、これからどうなるのでしょう。対応が難しいですね。
上村 ドローンの世界は、やっている人たちから見ればすごいと思っていますけど、全体から見ればほとんど小さなものです。
インターネットで投機の対象とか、儲かるとかの話題になっておりますが、そんなことはありません。オペレーターもそこのことが分かっていません。
そんな状態なのに平気で飛行機と同じところを飛ぶものですから、非常に危ないんです。ですけど今からドローンは、大化けします。
ちょうど国土交通省が昨年、技能認定制度をスタートさせたので、うちも一番に手を上げました。既に50人以上の人が取得しています。
——ドローンの活用状況はいかがでしょう。活用にはコスト面も含め難しい面もあると思うのですが。
上村 熊本県内に限って言えば熊本地震で被災した阿蘇の工事現場はほとんどドローンが活用されています。
全国的には大規模土木というのは、全部ドローンを使っています。工事の進ちょく状況を調べるとか、映像の分野というのは当たり前です。
コスト面では、今われわれが使っているファントム4で20~30万円。何にでも十分使えると思います。カメラも4K動画が撮れますし、仕事ではこのタイプが一番飛んでいます。測量の3Dも可能です。そういう指導もやっています。
地方の企業は今からといったところです。i-Constructionへの参入は、ただ写真を撮れば終わりではありませんので、結構ハードルが高いとしか言えません。飛ばす技術、カメラの知識、データの整理が出来ないと入れません。
ただ、コンピューターの技術が進化して簡単になってくると、われわれも元請けは無理でも下請けで入る可能性は出てくると思います。それとi-Constructionまでは望まないけれど、同じ精度で自治体の工事や民間工事をやってくれないかという話もあります。
例えば、図面だけ欲しいといった場合にもドローンで大丈夫かと。活用としては、河川や道路の一般土木、メガソーラーなどに適用できると思います。コンサルさんの依頼だったのですが、球磨川の支流で荒瀬ダムが撤去されたので水がなくなった個所の図面をドローンで作成しました。今から色々どうなるかというのは、使う方の工夫次第です。
講習会では安全なフライトについて徹底指導する
建設業での活用、ドローンは大化けする
——建設業で具体的な活用法があれば教えてください。
上村 建設業での活用のひとつとして、ドローンはコンピューターで自動飛行するものですから、定点観測が出来ます。出来高を映像で撮って、それを3次元データ化する。
例えば、空中の1点で止めて、毎月同じ日時で撮影し3次元データを作成すると、出来高管理が簡単です。もちろん3次元データですので、精度管理もできます。これを月末の報告書に付けて提出する。阿蘇はほとんどそうですね。
——特性を生かすことが出来るならば、もっと色々な活用法があるようですね。
上村 ドローンの良さというのは、自動飛行が出来ると言う事なんです。大きいドローンでは、高圧鉄塔の電線を引っ張ってつなげています。
カメラを赤外線に替えることで、ビルや大型構造物の非破壊検査もやれます。メガソーラーの検査もドローンでやっています。
考えてみると、今人間がやっているところは、ほとんどドローンで出来るのではないでしょうか。要するに人間がやることで何かできないかというアイディアさえあれば広がります。