QC活動のモデル現場が稼働
良質なコンクリート構造物の建設と高い施工管理技術をもつ人材育成を目的に、熊本県で「県南コンクリート構造物品質確保推進協議会」が立ち上がったのが2017年4月。
ちょうど時を同じくして、熊本県最南部の水俣市に本社を置く坂田建設株式会社に1級土木施工管理技士として勤務する河路博は、大規模砂防ダム整備工事の監理技術者として動いていた。
下流の民家や九州新幹線新水俣駅をはじめとする公共施設群を守るという、重要な役目を担う砂防ダムは、堤長73m、堤高11.5mの規模。熊本県のQC活動(クオリティー・コントロール/品質改善、前回の連載第2回を参照)の対象工事となり、モデル現場的な立ち位置として注目された。
坂田建設株式会社で監理技術者を務める河路博氏
「QC活動の前提は、『当たり前のことを当たり前にやる、共通仕様書に書かれていることをきちんとこなすこと』です。山口県が開発した「施工状況把握チェックシート」は、それを文章化しているだけにすぎません。
会社としても、QC活動へ積極的に取り組んでいこうという方針でした。当時、社長は熊本県建設業協会芦北支部長としての立場もありましたから。芦北支部全体で各企業の監督的立場の技術者を集めて勉強会を開くなど、研修を重ねていました。
我々技術者にとっても、コンクリート構造物の品質が向上することは、結果的に表彰制度などの評価に繋がるのでやりがいも感じています」(河路)
芦北支部の技術者が集まり研修を重ねた
QC活動の効果歴然も、1.5倍の作業員が必要
河路は、1級土木施工管理技士の資格を取得して30年になるベテラン技術者だ。これまで数多くの土木構造物を手掛けており、優秀な施工技術者に与えられる「熊本県優良工事等表彰」を2009年と2014年に受賞した経歴を持つ。
この砂防ダムの工事は、年度ごとに3工区に分けて発注されているため、QC活動以前の構造物もある。河路は、QC活動を行う前と後の品質の違いに目を見張った。
「以前の構造物の品質が悪いというわけではないのですが、QC活動後の仕上がりは確実に良くなっています。この砂防ダムの現場では、QC活動の成果が時系列に表れています。
今では、QC活動は監督技術者だけでなく、現場社員にも当たり前のように浸透してきています」(河路)
一方で、課題もある。
「砂防ダムの現場は、初めてのQC活動で不慣れだったからなのかもしれませんが、コンクリート打設時の作業員に積算の約1.5倍の人数を要し、作業員を集めるのに苦労しました。これからの現場は、高齢化や人材不足などの心配もあります。QC活動を水平展開するには、人員確保の問題を考えなければなりません」(河路)
積算に反映されないコスト、品質とのバランスに課題
品質とコストは常に対峙する。河路とともにこの課題に対処してきたのが、坂田建設で常務を務める坂田圭一だ。坂田は熊本県建設業協会芦北支部でも、運営委員としてQC活動の指揮を執る。
坂田は支部全体の技術力アップと土木構造物の品質向上に向け、日々邁進する。だが、品質とコストのバランスというジレンマに陥っている。
坂田建設の坂田圭一常務
「QC活動で当たり前にやらなければならないことが、積算に反映されていないことが問題です。施工状況把握チェックシートには、『コンクリート打込み作業人員に余裕を持たせているか』、『予備のバイブレータを準備しているか』などのチェック項目がありますが、これらのコストは積算に含まれていないのです。
イニシャルコスト(初期投資)も必要ですし、私たちも企業として利益を出さなければなりません。QC活動を推進するには、必要なコストを当たり前に反映するという発注者側の責務も伴うのではないでしょうか」(坂田)
コンクリート打設の難しさを発注者にも理解してほしい
坂田は、QC活動によってコンクリート打設の難しさを一層痛感していた。だが、その難しさを発注者に理解してもらうことは大変な作業だった。
しかし、手をこまねいていても先には進まない。「どうにか、コンクリート打設に掛かるあらゆるコストを数値化してデータベース化できないか」。
熊本県建設業協会青年部で運営専務という肩書も持つ坂田は、九州各県の青年部が集う九州建設青年会議の協力のもと、7~9月の夏季現場を対象に施工規模、打設時間・人数などはもちろん、休憩時間などの細かい数字も盛り込んだ500件以上の現場のサンプルをまとめ、九州地方整備局に提出した。「夏場のコンクリート打設に、いかに苦労しているのかをわかってほしい」との思いだった。
「サンプルを集計すると、いかにQC活動にコストが掛かっているかが表に出ます。これは、建設産業の高齢化、職人不足と同義だと思います。この実情が積算に反映されれば、従業員の給料に上乗せすることもできます。
今後は、このサンプルを県・市町村へ波及することも視野に入れ、地域の建設産業を残すための手立ての一つとして考えています」(坂田)