「プチプチ」シェア1位の川上産業と、建設業界の「意外な関係」
包材メーカーの川上産業株式会社(本社・東京)は、1967年の創業以来、半世紀にわたり「プチプチ(気泡シート)」を作り続けてきた。「プチプチ」の商標登録を持ち、国内シェアは50%を占める。
プチプチの活用法は、割れ物を包むだけに留まらない。川上産業は4年前、コンクリートを包んで養生するためのプチプチ「モイスチャータックプチ」を開発。
発売当初こそ、建設業界の関係者たちから懐疑の目を向けられたが、その養生効果と施工性の高さから、今では大手ゼネコンをはじめ、多くの建設業者が使用する大人気製品となった。
プチプチと建設業。一見すると全く関係のない二つの要素をどう結びつけ、現場監督たちがこぞって使いたがる画期的な製品にまで昇華させたのか?
「コラボレーター」という肩書きを持ち、プチプチの新たな可能性を日々模索し続けている、川上産業の森島敏之氏に話を聞いた。
安藤ハザマとコラボ「アクアカーテン」で建設業に参入
「最初はコンクリートのことは何もわからなかった」と笑う森島氏
――「プチプチ」と建設業は接点がなさそうですが、参入のきっかけは?
森島 川上産業が製造・販売している「プチプチ」は、引っ越しの時にお皿が割れないように包んだりして使用するもので、正式名称は「気泡緩衝材」と言います。
気泡緩衝材は世の中になくてはならないものですが、一方で今後大きく拡大することのない包材市場の展望を危惧していました。そこで「プチプチをほかの用途にも転用できないかな」と考えを巡らせていたんです。
そんな折、今から9年前になるのですが、間組さん(現・安藤ハザマ)から「プチプチをコンクリートの養生に使いたいんだけど」という提案いただきました。当時は、コンクリートのことなんてなんにも知らないので、本当に建設現場でプチプチが役に立つのか半信半疑でした。
ただ、元々、北海道や東北などの寒冷地や冬期の工事現場では、現場の方がホームセンターなどで「プチプチ」を買ってきて、養生中のコンクリートに巻いたり貼ったりして使用しているという話を聞いていたんです。なるべく費用をかけずに、コンクリートの品質を向上させるための現場の工夫ですね。
それから、私自身もコンクリートについて学びながら、間組さんとの共同研究が始まり、コンクリートの給水養生工法「アクアカーテン」を開発しました。
――アクアカーテンはどんな技術?
森島 アクアカーテンは、コンクリート表面にプチプチを張り付け、そこに水を流して湿潤養生するものです。トンネル覆工コンクリートの施工に特化した技術で、毎年20本を超えるトンネルで使用されています。
この技術の肝は、「二層品」のプチプチです。ちなみに、プチプチの平らな面を「バック」と呼び、丸く出っ張っている面を「キャップ」と呼びます。このバックとキャップからできているプチプチを「二層品」と言います。
誰もが一度はお世話になったことがある「プチプチ」(二層品)
コンクリートの表面にプチプチの「キャップ」面をくっつけ、コンクリートとプチプチの間の空気を吸引して負圧にすると、コンクリート面にプチプチがぴったりくっつきます。そして、プチプチのキャップによってできた隙間に水を流すと、コンクリート前面に均一に水膜ができ、水中養生と同じ養生環境になるという原理です。
コンクリートの養生は、湿潤と保温が2大テーマです。アクアカーテンはその両方を同時にこなせる高度な技術なんです。
あるゼネコンが開発した技術を、他のゼネコンも使用することは少ないですが、アクアカーテンは安藤ハザマ以外の大手ゼネコンも使っています。これは珍しいことだと思います。
コンクリート表面に直接貼れるプチプチ「モイスチャータックプチ」
――順調にアクアカーテンは現場に浸透しましたか?
森島 問題もありました。アクアカーテンは、施工指導も必要だったんです。川上産業はプチプチの提供はできても、施工指導まではできません。
そこで、「プチプチにコンクリート用粘着剤をつけて、直接貼れるようにしたら便利なんじゃないか」と考えてできたのが、進化したアクアカーテンである「モイスチャータックプチ」なんです。
モイスチャータックプチは施工指導が要らないので、現場で自由に貼っていただけます。
「モイスチャータックプチ」の見本。切ってサイズを調整し、養生中のコンクリートに直接貼れる
――モイスチャータックプチは、アクアカーテンと何が違うんでしょうか。
森島 モイスチャータックプチは、先ほど紹介した二層品のプチプチのキャップ側に、さらにもう1枚シートを乗せた「三層品」と呼ばれるものに、専用の糊(粘着剤)をつけたものです。
「施工の神様」の読者には釈迦に説法ですが、コンクリートは乾燥して固まるのではなく、セメントの成分と水が化学反応することにより固まります。そのため、適切な温度と湿度の下で養生されることが理想です。
隙間なく貼られた「モイスチャータックプチ」がコンクリートを保水・保温する / 川上産業
モイスチャータックプチは、三層からなるプチプチがつくる空気層がコンクリートを保温し、表面からの水分蒸発も抑制するので、効果的に保水養生することができるんです。圧縮強度、透気係数・吸水係数ともに向上し、外気の急冷却による表面ひび割れの抑制にも効果的です。
しかも軽量で、簡単にコンクリート面に貼り付けることもできるので、施工の省力化にも繋がります。
――モイスチャータックプチは独自で開発したんですか?
森島 実は、大手化学メーカーの3Mから共同開発のお誘いがあったんです。3Mが販売しているコンクリート保水養生
それで何度か試作を繰り返してみたのですが、プチプチと3Mのテープでは使われている樹脂が異なっていて、熱でくっつかなかったんですよ。プチプチはポリエチレン(PE)ですが、3Mのテープには別の樹脂が使われていました。
それなら「プチプチに3Mと同等の粘着剤を使用してコンクリートに貼ってみよう」ということになり、実際の現場でも施工してみましたが、費用の面で頓挫しました。
結果的には、これがモイスチャータックプチの着想に繋がり、川上産業が独自で開発することになったんですけどね。
「NETISってなに?」という状態で販売開始
――モイスチャータックプチの製品化にはどのくらい掛かりましたか?
森島 1年くらいですね。一番大変だったのは、糊メーカー探しでした。色々なメーカーの糊を試してみたんですが、型枠から外したばかりのコンクリートはまだべちゃくちゃしているので、なかなかくっつかない。
だけど、粘着力が強すぎると、プチプチをはがすときにコンクリートごと持ってきちゃう。それに、コンクリートは弱アルカリ性ですから、コンクリートの表面を痛めてしまうような成分の糊も使えません。ベストな糊を探すだけで、半年は掛かりました。
やっと糊が見つかり、製品化してからも苦労しましたね。売りたくても、ゼネコンや工務店との直接のお付き合いは全くなかったので、どうしたもんかと。プチプチのような包材は直接ユーザーに販売するのではなく、ディーラーを介すことが基本なので、とりあえず建設資材のディーラーに持って行ってみたのですが、「こんなもん売れん」と一蹴されました。
それで、建設業界の交歓会などに出て、少しずつ業界内に知り合いを増やしていって、直接ゼネコンに営業に行くようにしたんです。そこでも「NETISに登録してから来い」と門前払い。
そんなこと言われても、私たちは包材メーカーなので「ネティスってなに?」ってレベル(笑)。それからは、NETISの登録に奔走しました。結局、登録に1年くらい掛かったので、その間はほとんど売れませんでしたね。
NETISに登録してからは、「サンプルをお渡しするので、効果があったら使ってもらえませんか?」と繰り返しゼネコンに提案を続けました。その結果、販売量は1年目は5,000m2程度でしたが、2年目に20,000m2、3年目には200,000m2と、3年のうちに約40倍になりました。
今では、全くお付き合いのない業者さんからも「モイスチャータックプチを使いたいんだけど、どこで買えるの?」と全国の営業所に直接問い合わせがくるようになり、ようやく知名度が拡がってきたなと実感しています。
――一番最初にモイスチャータックプチを使ってくれたのはどこですか?
森島 某スーパーゼネコンです。私としても大手ゼネコンのほうが営業に行きやすかったんで。中小の建設業者だと、窓口も担当も決まっていないことが多いですから。
大手だと部署が建築と土木に分かれていて、さらにその中でも担当が細分化されているので、ピンポイントでアポを取って紹介できましたね。
一方で、先ほど話したように、地方の中小建設業者だとホームセンターでプチプチを買って使ってもらっていたんですが、大手ゼネコンだとプチプチが養生に使えるということを知っている人は少なかったんです。
なので、「じゃあ1回使ってみようか」という段階まで大手ゼネコンの担当者を説得するのは大変でした。
――モイスチャータックプチは、どういう現場で使われているんですか?
森島 コンクリート橋脚の下部工の養生が9割を占めますね。残りの1割がトンネルです。
トンネル内に敷き詰められたモイスチャータックプチ / 川上産業
――モイスチャータックプチは、どこで買えますか?
森島 自社のネットショップもありますが、モイスチャータックプチは包材と異なりユーザー直販がほとんどですので、弊社の営業所に直接ご連絡いただいています。
最近では、建設資材のディーラーからも「モイスチャータックプチを取り扱いたい」と問い合わせがあります。ディーラーたちは、ゼネコンから「モイスチャータックプチある?」と聞かれるみたいです。
「プチプチ」は川上産業の登録商標
――川上産業では、創業からずっとプチプチを作り続けてきたんですか?
森島 川上産業は、1968年(昭和43年)の創業です。当時は「エア・バッグ」という商品名で、プチプチ(気泡シート)を販売していました。ですが、1990年代から自動車の「エアバッグ」が急速に普及したので、名称変更を余儀なくされたんです。
そこで、2代目の川上肇社長が「気泡シートは、潰すと”プチプチ”と音が鳴るから、『プチプチ』ではどうか」と提案したんです。あまりに突拍子もない名前で、役員会では一蹴されたそうですが、最終的には当時の会長の鶴の一声で「プチプチ」に決まりました。
かわいらしいハート型の「はぁとぷち」は世界初の技術。プレゼントの梱包に人気
非常に呼びやすく、親しみやすい名前だったこともあって、結果的に「プチプチ」という呼び方は市民権を得て、一般的になりました。1994年には商標登録もしているので、実はみなさんがプチプチと呼んでいるものは、本来は川上産業の気泡シートだけを指すんです。他社の気泡シートには、それぞれ別の名称があるんですよ。
――プチプチにはどういった歴史があるんですか?
森島 気泡シートは、1960年頃にアメリカのシールドエアー社が初めて開発しました。当初は壁紙に使ったり、庭のプールに浮かべてゴミが入るのを防ぐために使っていたなど、いくつか説があります。その後、緩衝能力に優れているからと梱包材としても使われるようになったんです。
それから、シールドエアー社製の気泡シートの製造機械を大手化学メーカーの宇部興産が日本で初めて購入し、「エアーキャップ」の名前で発売しました。1年後、川上産業でも独自に製造機械を開発して、販売を開始しました。宇部興産は大手ですし、しかも川上産業は後発です。
そこで、川上産業ではオーダーに応じた様々なサイズのプチプチを用意したり、小回りの利くこつこつとした営業戦略を続け、今では気泡シートでトップシェアとなりました。
――ところで、プチプチってどうやって作るんですか?
森島 たこ焼き器を想像していただくと分かりやすいです。丸いへこみがたくさんありますよね。そこに柔らかいフィルムを乗せて、丸いへこみからバキュームでフィルムを吸うと半球状になります。
この部分が「キャップ」です。この上から、もう1枚フィルムを乗せて、2枚のフィルムを熱で融着させると、キャップに空気の入った「プチプチ」ができるんです。これは、一般的な二層品のつくり方ですね。
ちなみに、モイスチャータックプチで使用している三層品は、二層品のキャップの上にもう1枚フィルムを乗せて熱で融着させるとできあがります。
「ミズノ」と「プチプチ」がタッグを組み、建設業界に進出
――ほかに面白いコラボ製品は。
森島 今、大手スポーツ用品メーカーのミズノが販売している吸湿発熱素材「ブレスサーモ」と「プチプチ」がコラボした、新たなコンクリート保温養生シートを開発しています。
ブレスサーモは、人の肌から常に発散されている微量な水分(水蒸気)を吸収して発熱する素材で、防寒用のアパレルやアンダーウェアなどに使用されています。
つまり、コンクリート中の水分を利用してブレスサーモを発熱させつつ、プチプチで覆うことによって、コンクリートを保温養生する仕組みです。安藤ハザマの技術研究所での実証実験でも非常に良い数値を示しており、モイスチャータックプチよりも性能の高い製品となる予定で、特許も出願中です。
「ブレスサーモ」の素材。水蒸気を吸収して発熱する
――ミズノから声が掛かったんですか?
森島 最初は、発熱素材を使って、より高機能なモイスチャータックプチを作れないかと考えたことがきっかけです。まずはユニクロのヒートテックとコラボしようと考えたんですが、お断りされてしまいました。
そこで、たまたま私の家内の友人の御主人がミズノに勤めていたので、ブレスサーモとのコラボを提案してみたんです。ミズノも最初は半信半疑でしたが、ブレスサーモは2018年に25周年を迎えたタイミングで、新しい分野への進出も考えていたみたいで、すぐに話が進んでいきましたね。
ミズノは従来、野球用品が主力でしたが、子どもが減って競技人口も縮小傾向にあります。これまで培った既存技術を活用して、他分野にも事業を拡げたいという思いが強かったようです。
――ミズノも、建設業界と全く関係ないですよね?
森島 いやいや。今、ガテン系向けの服が一般の方にも人気じゃないですか。例えば、スポーツ専門店だと3~4万円するようなスキーウェアが、ワークマンだと1万円くらいで買えたりします。
逆に、ミズノでは職人向けのワーキングシューズやワークウェア、さらには熱中症予防の空調服を売ってるんです。しかも、人工芝の設計をやっていて、建築士の資格を持っている社員もいます。ミズノと建設業って、意外とつながりがあるんですよ。
――最後に、新しいコラボへの意気込みを。
森島 昔の私たちのように、ミズノもゼネコンの技術部に営業ルートなんてありませんし、コンクリートのことも分かりません。私も同行して、また地道にゼネコン回りから始めます(笑)。