タイトなスケジュールの多い通信工事の現場

「5G元年」を支える“黄金の人差し指”とは?大正時代から続く通信インフラ会社の「菊池涼介」

5G通信工事の第一線、三保電機の技術者インタビュー

2019年は「5G元年」と呼ばれる。世界各地で次世代通信規格”5G”の商用サービスが開始するからだ。日本でも5G基地局の開設に向け、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天の4社が総務省に開設申請中。2020年の商用開始に向け、通信工事が本格化していく。

日進月歩の勢いで技術革新が進む通信インフラ業界にあって、三保電機株式会社(本社・広島市)は1926年(大正15年)に「三保電機商会」として鳥取県米子市で創業。以来、90年以上もの間、通信インフラの設計・施工・保守を基盤とする通信事業で技術と実績を培ってきた。

2015年には本社を広島市へ移転。現在ではNEC販売特約店として音声ネットワーク、OA・通信機器、無線設備、医療・福祉ネットワーク、セキュリティ、水処理装置、PCリプレイソリューションなど、対応業務も多岐にわたる。

三保電機株式会社広島事業本部技術部 丸本友宏部長(44歳)

三保電機の技術部門リーダーとして、有線電話通信工事を専門に26年のキャリアを重ねてきた、広島事業本部技術部の丸本友宏部長に、通信工事の難しさややりがい、技術者に求められるスキルについて話を聞いた。


「有線電話通信工事」一筋で26年

――三保電機に入社された経緯は?

丸本友宏 私は広島県廿日市の宮島出身で、地元の県立宮島工業高等学校の電気科を卒業しました。1993年に新卒入社したのが、NECの販売特約店で通信電話設備を主体に弱電関係の工事などを請け負う、中国電設工業株式会社です。

浄水場での現地調整試験

入社後は、有線電話通信工事の現場で経験を積みました。電話通信工事といえば、NTTさんが屋外で行う電柱や光ケーブルの現場をイメージする方が多そうですが、私が担当するのは企業のオフィスや店舗などの屋内の電話交換機と呼ばれる設備の設計、施工、保守です。システムの更新を頻繁に行う法人顧客が多かったので、いつも忙しく動きまわっていましたね。

16年勤務した頃、NEC出身で当時、中国電設工業と三保電機の社長を兼任していた小松忠司社長が、三保電機の組織を継承して独立されることに。この時はまだ鳥取県米子市に本社を構えていた三保電機が2009年に広島支店を開設するということで、「小松社長についていこう」と移籍に踏み切りました。早いもので、それから10年目を迎えました。

――現在の三保電機の業務内容は?

丸本 主力業務はNECの販売特約店として、通信・放送ネットワークシステム全般をはじめとするITネットワーク統合ソリューションの設計・構築・保守です。近年は「太陽光パネル」や「水処理装置(エルセ)」の提案による環境対策事業にも取り組んでいます。

三保電機はもともと米子で古い歴史をもつ会社でしたが、小松社長の会社となって広島地区の仕事が増えたことから2015年に本社を広島へ移転しました。現在では福山、東広島、宮崎のほか、東京にも拠点を開設して販路拡大を進めています。

入社時に比べ、仕事内容も拡がりましたが、有線電話通信工事を主体とする現場の技術部門を管理する私の役割は変わりません。

仕様は固まらないのに工期が迫ってくる恐怖

――丸本さんの仕事は?

丸本 電話通信工事の場合、通常は営業のスタッフが仕事を取ってきて技術部隊にバトンタッチする流れが一般的です。ただ、私の場合は自分で営業して仕事を受け、現場の施工も自ら行うケースが多かったみたいですね。

いわゆるセールスエンジニアではないけれど、施工の段取りなど技術のことがわかる自分が最初から客先で意向を聞いておけば、要望に対してレスポンスも早く返せますし、急な対応や変更に関しても責任が持てますから。

――これまでの工事で苦労されたことは?

丸本 通信関係の工事は仕様を詰めていくのに時間がかかって、なかなか機器の手配が出来ないとか、まだ仕様が固まっていないのにシステムの切り替え日に合わせた工期がどんどん迫って来る、なんてこともよく起こります。受注して引き渡すまでの日程をお客さんから指定され、工期が短い時はいつも頭を抱えてしまいますね。

むかし一回だけ「どうしようか?」と思って夜眠れなくなったことがありました。その時の現場は、ただでさえ工期が短かったのですが、設備を切り替える2週間前に大幅な仕様変更となり、それまでの仕様に基づいて作り上げてきた資料や準備が全部ムダに。ゼロからのスタートになったんです。

発注元の突発的な事情で不可抗力なので、私がいくら悩んでもどうにもならないことなのですが。結局、なんとかやり切りましたけど、精神的にはかなりしんどかったことを今でもよく覚えています。


ケーブルしごきで手に入れた「黄金の人差し指」

――短い工期で仕様変更はキツイですよね。現場の作業で何かエピソードは?

丸本 エピソードというほどではありませんが、現場に追われていた若い頃の私の右手人差し指は皮がカチカチでした。通信用のケーブルを切断する際は、ひたすらしごいてやらないとニッパーでうまく切れないんですよ。

毎日、ケーブルの芯をひっぱり出したり、皮を剥く作業で酷使するので自然と指の皮も固くなったわけですが、「通信工事のプロフェッショナルの手」になれた気がしたものです。

通信工事のプロフェッショナルの証「黄金の人差し指」

最近は広島事業本部の技術部隊の人員も増え、大きな工事の段取りを私が組んで、あとは部下と分担することが多くなり、ラクをしているせいか皮の硬さが取れてすっかり柔らかい人差し指になってしまいましたけど(笑)。

通信工事の技術者は”5G”の知識が必須

――三保電機技術部の今後の課題は?

丸本 小松社長の体制になってから受注案件が変化してきました。それまでは企業のオフィスなどの有線系の設備工事が主体でしたが、市町村の防災無線設備や消防設備、光ケーブルの敷設工事といった無線関係を受注することが増えてきたんです。

有線から無線へ、屋内から屋外へと工事の幅が広がると、必然的に技術的な対応も変わってきます。そのため、有線系の工事については有線分野を得意とする私たち広島事業本部の技術部隊が引っ張り、無線系の工事については米子支社の技術部隊が力を発揮するシフトで対応しています。

屋外での工事風景

米子の技術部は元来、無線工事に強いメンバーだったので、とりあえずお互いの強みを生かしているのですが・・・。無線関係の仕事は都心部より郊外の現場が多く、地域で言えば、広島県北部、島根、鳥取までエリアが広がっており、人手が足りなくなっているのが現状です。

小松社長からは「広島と米子の技術部隊をシャッフルして三保電機の技術部隊を一つのくくりとすることで、情報共有や相互の協力会社の調整などを活発化させ、効率の良い活動をするように!」と指示を受けています。

――具体的には。

丸本 広島事業本部の技術部は立ち上げ時の2人から現在は9名に増えています。技術部メンバー全員のスキルを上げる必要があります。そのためにも、まだ独り立ちできない部員をどう一人前に育てていくかが当面の課題です。

併せて、これからは全員が現場をこなす能力プラスアルファを身に着けなければならないと考えています。電話設備ひとつとっても、工事技術だけでなくパソコンやネットワーク関連に精通する知識を持っていない人間は、おそらく取り残されていくはずです。

事実、三保電機ではまもなく導入される携帯電話の5G基地局の設置工事を手掛けていく予定です。そのため、データ量や通信速度の違う5Gを扱うための基礎知識は不可欠です。きちんと勉強しておかないとまず対応できません。

技術部は繁忙期を除き、原則として月一回ミーティングを行うことにしています。机上の勉強から実技講習会まで、部員から毎回リクエストを聞いてテーマを決めています。全員がレベルアップできるように、より実践的で実のある内容にしていきたいですね。


「NEC」vs「富士通」マツダスタジアムで因縁の戦い

――現場のリーダ―として多忙な日々の息抜きは?

丸本 企業のオフィスの工事が多い関係で、土日や夜間の出勤も多々あります。ただ、自分としては仕事で忙しいほうが気も張っているので、暇なときより体調が良い気がしますね。唯一の趣味といえば、33歳くらいからNEC中国支社の野球チーム「C&C WARS」のメンバーとして11年続けている草野球です。

このチームは、広島商業軟式野球部出身の小松社長がNEC中国支社長時代に監督として創設されたものです。毎年秋にマツダスタジアムで、ライバルメーカーの富士通中国支社の野球チームと「因縁の対決」を行っています。

ライバル同士の伝統の一戦?打倒、富士通!

来年で30回目となる伝統の一戦の戦績は、悔しいことに我々の12勝14敗2分け。ただ、このところ負けが込んでいたのを昨年脱出したので、次も必ず勝ちます(笑)。

ちなみに私の守備はセカンドで、背番号は広島東洋カープで二塁を守る名手、菊池涼介選手と同じ33番です。3月から11月までは仕事が入らない限り、毎週土曜日の練習や試合に参加しています。趣味や息抜きというよりも、もはやルーティンです。

(※ここで三保電機の小松忠司社長が登場)

三保電機株式会社 小松忠司社長

――仕事から趣味まで、丸本さんの人生に多大な影響を与えてきた三保電機の小松社長ですが、最後にひとことエールを。

小松 細やかな地域密着型のサービスの提供を目指す三保電機にとって「技術力は商売の要」。丸本部長が率いる技術部の存在が大きなウエイトを占めていることは言うまでもありません。

今後は有線工事が得意な広島本社、無線工事が得意な米子支社の両方の技術部の優れた機能を統合して、よりパワーアップした三保電機の技術部隊を作って欲しいですね。

一方、私がNEC在籍時に創設した野球部でも、年に一度の因縁の富士通との対戦でここ3年連続ヒットを記録するなど、彼は素晴らしい活躍をみせてくれています。まさに「三保電機の菊池」といって過言ではない(笑)。仕事も野球も大いに期待しているので、まだまだ頑張って結果を出してください!

三保電機の会社概要

三保電機株式会社(本社・広島県広島市)は、1951年10月設立(創業は1926年)。資本金1,000万円。従業員47人。年商20億円。通信機器販売及び請負工事(設計、施工、修理、保守)、コンピュータおよび関連機器販売、太陽光発電システム等の環境対策設備の販売・施工を手掛けている。

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経済情報誌の記者として20余年活動した後、不動産会社の宣伝企画室長などを経て独立。現在はライター業のほか、企業の広報宣伝・販促企画全般、企業紹介テレビ番組のリサーチ業務を手掛けている。広島市在住。
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