建設職人甲子園 決勝大会が開催
2019年4月14日、栃木県宇都宮市で「第4回 建設職人甲子園 全国決勝大会」が開催された。
建設職人甲子園は、建設職人の価値を高め、子供たちが憧れる建設業界にすることを目的に、2014年に設立された「一般社団法人 建設職人甲子園」が開催しているイベントだ。
(一社)建設職人甲子園では、東京・神奈川・埼玉・千葉・栃木・大阪・九州・群馬・東北と9地区で、日頃から経営者・職人向けのセミナーや勉強会などを開催している。
この(一社)建設職人甲子園が開催する最も大きなイベントが「建設職人甲子園 全国決勝大会」。
職人の技術を競う大会ではなく、職人たちが胸に抱いている仕事や会社、業界に対する想いを熱く訴えるプレゼンテーション大会である。観客たちにより多くの気づきと学びを提供した企業が優勝を勝ち取ることができる。(第3回大会の様子はこちら)
第4回大会では、セミファイナルを突破した総合建設業のタムラ建設(栃木県那須塩原市)と水道・リフォーム工事業の松倉設工(埼玉県加須市)が決勝の舞台に上がった。
涙ながらに社員に謝罪するタムラ建設社長
タムラ建設からは、(一社)建設職人甲子園の理事長も務める鈴木誠社長が登壇。
建設職人甲子園の理事長でもある、鈴木誠氏
鈴木社長は7年前に2代目として社長に就任。就任直後は先代の遺志を引き継ぎ、地域密着の路線を取っていた。
しかし、売上が下がる恐怖や不安から、鈴木社長は先代の理念から離れた方向へと歩みを進めていく。ローコストの商材に手を出したり、地域密着を謳いながら県外の工事も請け始め、社員の心も離れていったと回想する。
売上至上主義に陥った過去を「自分は狂っていた」と涙ながらに猛省し、社員と顧客に謝罪。「もう一度、地元から一番愛され、頼りにされる建設会社を目指していく」と、新たな決意を表明する。
松倉設工の松倉邦昌氏
続いて登壇した松倉設工は、社長と若手社員2人の3人で営む設立3年目の小さな水道・リフォーム工事業者。3人が対話形式で掛け合いながら、会社の成長戦略を語っていった。
若手社員の2人は「毎日同じことの繰り返しで、現場に行くのが嫌だった」と本音を吐露する。松倉社長も2人が気を遣っていることに気付いていた。
しかし、新事務所の建設を契機に社長と2人の距離は縮まっていき、松倉社長は2人を幸せにすることが自分の使命だと気付く。
途中、若手社員の2人は緊張のあまり言葉が飛んでしまう場面もあったが、3人がフォローし合いながら無事に思いを伝えきった。
バックホウを操作する子どもと操作を教える職人
当日は、プレゼンテーション大会のほかにも、職人の仕事を子どもたちに体験してもらう「こども建設王国」も開催。
左官体験や鳶体験、重機の操縦体験などがさまざまなブースが開かれ、子どもたちは職人の仕事にのめり込んでいた。
さらに、プレゼンテーション大会後のステージは一転、ライブ会場に。人気アーティストたちが曲を披露し、大会をいっそう盛り上げた。
DOZAN11氏(元・三木道山)の名曲「Lifetime Respect」が披露され、盛り上がる会場
熱狂の裏で…建設職人甲子園のリアルな事情
今年も熱狂のうちに閉会した「第4回 建設職人甲子園 全国決勝大会」。
大会の興奮冷めやらぬ中、この日をもって2年間の任期を終え勇退する理事長の鈴木誠氏、専務理事の中山晋吾氏、事務局長の松尾勇貴氏の三役に集まっていただいた。
アツいプレゼンが繰り広げられた裏で、どのような苦労があったのか。プレゼン大会さながらリアルを語ってもらった。
左から松尾勇貴事務局長、鈴木誠理事長、中山晋吾専務理事。三役は第4回大会をもって勇退。プレッシャーから解放され、テンションも高め
――お疲れ様でした。今年の「第4回 建設職人甲子園 全国決勝大会」はどうでしたか?
中山専務理事 昨年、幕張メッセで開催し、6,000人を動員した「第3回 建設職人甲子園 全国決勝大会」と比較すると、今年は規模が縮小しました。
ですが、プレゼンテーション大会やこども向けの職人体験ブースといった基本コンテンツは、昨年と大きく変わることなく開催できました。
それに、今年は野外にも職人体験ブースを開き、実際に建機を動かすこともできたので、全体として悪くはなかったのかなと思います。
――大成功だった?
中山専務理事 いや、反省点も多いですね。特に、全国決勝大会のメインイベントであるプレゼン大会にエントリーする企業の数が昨年よりも減少したことは大きな課題として残りました。
松尾事務局長 今年はエントリー企業が少なかったので、地区大会を開催しませんでした。
昨年は、全国7地区で開かれる地区大会(予選)を勝ち上がってきた各地区の優勝企業が、全国決勝大会の舞台でプレゼンテーションを行い、日本一を競いました。
ただ、今年開催した地区大会は九州地区のみ。それ以外の関東6地区は、地区ごとに予選を開催するのではなく、”セミファイナル”と一括りにして予選を行いました。
しかも、九州地区大会の優勝企業が全国決勝大会を辞退することになったので、全国決勝大会のステージに上がってプレゼンテーションを行ったのは、セミファイナルを勝ち上がった2企業だけとなりました。
――エントリーが減った要因は?
中山専務理事 本業もある中で、モチベーションを維持し続けるのが難しいからでしょうね。「全国決勝大会のステージに立ってプレゼンしたい」と思ったときの熱い気持ちも、大会当日まで長い間が空くと気持ちも切れてしまいますから。
エントリーから全国決勝大会当日までのプロセスは見直すべきだと感じましたね。
嫌でも社員と向き合うことになる「建設職人甲子園」
――「建設職人甲子園」の活動を通して感じたことは?
鈴木理事長 今日は運営だけでなく、私も全国決勝大会のステージに立ちプレゼンを行いました。
セミファイナルも含めて、プレゼン大会の準備をしていて気付いたことは、”会社の問題は、社長の問題”だということです。
会社で起こっている色々な問題も、ちゃんと社員と向き合って話せば「そんなことだったの?」というささいなことも多いなと感じました。
――鈴木理事長も、ステージで反省の弁を述べていましたね。
鈴木理事長 プレゼンの準備を進める過程で、嫌でも社員や会社と向き合うことになります。これこそが建設職人甲子園のプレゼン大会に参加する最大の意義だと思います。
中山専務理事 私も過去にプレゼンしたことがありますが、社員との対話の機会は圧倒的に増えましたね。
たとえプレゼン大会に出場せずに、観客席から見るだけでも気付きは多いと思います。「うちはどうなんだろう」とあらためて考える機会になるのではないでしょうか。
「〇〇建設Presents 建設職人甲子園」にはしたくない
――「建設職人甲子園」の活動はボランティアですが、正直運営はキツい?
鈴木理事長 今日は三人とも”完徹”だからキツいね(笑)。
中山専務理事 昨日から一睡もしてないね(笑)。
――本業と並行するのは大変?
松尾事務局長 そうですね。本業もやりながら、「建設職人甲子園」の活動をするのは体力的にもキツいですよ。
ただ、鈴木理事長が掲げた目標に「参加企業の全社黒字化」というものがあるんです。「建設職人甲子園」での活動に傾倒し、本業の経営が悪化するのは本末転倒で、一番やってはいけないことです。
なので、本業と「建設職人甲子園」の両立は、会員全員が意識しています。
鈴木理事長 少なくとも、私たち理事会社は1円でもいいから意地でも黒字にしようという話はしていますね。
――資金面での苦労は?
鈴木理事長 今日の「第4回 建設職人甲子園 全国決勝大会」の予算は1,000万円です。今年は宇都宮開催でしたが、都心部だと会場費だけでかなり掛かるので…正直大変です。
松尾事務局長 運営資金については、今は「見返りがなくても応援したい」と言ってくださったスポンサーにサポートいただいています。数にすると40社弱ですね。
――大手企業からの協賛の話はない?
鈴木理事長 むかし、某大手ゼネコンから大口の協賛金のお話もあったんですが…お断りしました。
――どうして?
松尾事務局長 協賛いただけることは大変ありがたいことですが、一方で「スポンサーに流される大会はやらない」と決めていたからです。
あまりに大きな協賛金をいただくと、大会の方針もスポンサーの意向に従わなければなりません。すると、職人が主体となり作り上げていくという「建設職人甲子園」の本旨から逸れてしまいますから。
なので、「〇〇建設Presents 建設職人甲子園 全国決勝大会」という形には、今後もなりません。
鈴木理事長 正直、協賛金を受け取るか悩んだけどね(笑)。
松尾事務局長 「〇〇Presents」という冠を付けることはできませんが、来年の第5回大会からは建設業界の大手企業ともタイアップしていきたいですね。
「第5回 建設職人甲子園 記念大会」はどうなる?
――次回は2020年、第5回の記念大会ですが、何か変わりますか?
鈴木理事長 私たちは第4回大会をもって退任しますが、次の理事長はまだ決まっていないので、方針は未定です。
私は初代理事長のやり方を引き継ぎ、ひたすら目の前のことに取り組んできただけですが、新理事長を迎えての第5回大会は、内容も一新するかもしれないですね。
松尾事務局長 来年は、「誰に対して、何をやるか」も明確にしていかなければならないでしょうね。
昨年の第3回大会から、開催地の教育委員会を通じて、地元の子供たちに無料チケットを配布し、子どもの集客に力を入れてきました。
なので、昨年も今年もたくさんの子どもが来場してくれましたし、併設した子供向けの職業体験ブースも盛況でした。
こうした取り組みは、子どもたちに職人の仕事への興味・関心を持ってもらうためにも素晴らしいことだと思います。ただ…。
――ただ?
鈴木理事長 メインイベントのプレゼン大会は、子どもがターゲットではないですから。
子どもたちにも楽しんでもらえる大会を目指すならば、高校の文化祭と体育祭のように趣向を分けてもいいかもしれません。
文化祭的なプレゼンテーション大会と体育祭的な職人の技術を競う大会を別々に開いたり…。退任するので今後の方針に口出しはしませんが、建設職人甲子園にはまだまだ色々な可能性が拡がっています。
中山専務理事 「第1回 建設職人甲子園 全国決勝大会」で開催したのはプレゼンテーション大会のみでしたが、第3回、第4回と年数を重ねるにつれ、職業体験ブースを併設したり、アーティストによるライブを開催したりと、だんだんと形も変わってきています。
私たち3人は第4回大会をもって役職から離れますが、次のメンバーが来年の「第5回 建設職人甲子園 全国決勝大会」をより面白い大会にしてくれると思います。ぜひ期待していてください。