【i-Constructionの本音5】i-Constructionを加速させる「PRISM」とは?

i-Constructionの本音 向う先はどこへ

i-Constructionもすでに4年目を迎え、今年のスローガンは「貫徹」と言われている。

貫徹とは、「志・方針・考え方などを貫き通すこと。最後までくじけずに続けること。」(デジタル大辞泉)である。

では、i-Constructionがその志を最後までくじけずに続けるためには、何が必要なのだろうか?

今回は、i-Constructionはどこに向かうのか、どこに行かねばならないのかを考えてみたい。

建設業界における千載一遇のチャンス

そもそも建設業界にi-Constructionのような「転換のチャンス」が訪れたことが、かつてあっただろうか?

この機会を千載一遇のチャンスと捉えられるかどうか、そしてチャレンジができるかどうかが、本当の意味での大きな転換になるだろう。

今、各人に必要なのは、“やらされている感”から脱却し、自分のこととしてi-Constructionの本質である「現場の生産性を上げる」という意志を持つこと。つまり、マインドチェンジである。

みなさんには、ぜひ、このi-Constructionという絶好のチャンスをモノにしてほしい。


i-Constructionのチャンスを活用する「PRISM」

i-Constructionのチャンスをさらに活用するために、PRISMという制度が国土交通省を中心に動いていることをみなさんはご存知だろうか?

PRISMとは「Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM」の頭文字と最後の文字を取ったもので、PRISM(プリズム)と呼ばれている。

平成28年12月に総合科学技術・イノベーション会議と経済財政諮問会議が合同で取りまとめた「科学技術イノベーション官民投資拡大イニシアティブ」に基づき、平成30年度に創設された制度である。

600兆円経済の実現に向けた「科学技術イノベーション」の創出に向け、官民の研究開発投資の拡大等を目指す。

詳細は内閣府のPRISMに関する説明をご参照願いたい。

PRISMに関する説明Webサイト / 内閣府

国土交通省のPRISM実施の結果

このPRISMでは、内閣府が予算を捻出し、3分野への研究開発を推進する。

3分野とは、

  • 革新的サイバー空間基盤技術
  • 革新的フィジカル空間基盤技術
  • 革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術

われわれ建設業にいちばん関係するのは「革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術」である。

応募された方もいらっしゃると思うが、その取り組み内容と結果も国土交通省のサイトで公開されている。

このPRISMの背景を含めた取り組み状況を真摯に受け止め理解することが、実は生産性向上の数値を正しく出すためには重要なポイントである。

PRISM実施の結果公開サイト / 国土交通省


PRISMの公募 対象技術Ⅱ

2018年のPRISMでは、2つの技術について公募がなされた。

対象技術Ⅰ:データを活用して土木工事における施工の労働生産性の向上を図る技術

対象技術Ⅱ:データを活用して土木工事における品質管理の高度化等を図る技術

公募されたのが2018年の7月で、この公募に対象技術Ⅰでは応募32件のうち19件が選定され、対象技術Ⅱでは応募22件のうち、14件が選定された。

対象技術Ⅱの「品質管理の高度化」は、多くの技術で従来施工では認められていない技術を使って、品質向上を図れるかどうかを確認するものである。受注者が積極的にICT技術を導入し、現行の規制緩和を促すことを目指している。

まだ現行の規制によってICTを効率的に活用できていないケースもあるため、生産性向上への取り組みとして、とても期待できるものである。

PRISMの公募 対象技術Ⅰ

対象技術Ⅰは、労働生産性の向上を図る(計測する)技術。

公募では次のように書かれていた。

土木工事の施工において、データを取得し、当該データを活用して新技術等を試行することによりコンクリート工(橋梁、ダム、トンネル)や土工等の労働生産性の向上(作業員の省人化、施工時間の短縮(休日の拡大等))を図る技術の提案を求める。

PRISMの説明資料 / 国土交通省

ここでいう新技術とは、現場での労働生産性の基本である「誰が」「どこで」「何をしているのか」をデータとしてとりまとめ、そのデータをベースとして、新技術を活用することで、「誰が」「どこで」「実施していることが」「どのくらい効率化が図れるのか」を自ら実施して見せることである。

では、作業歩掛を含め、この取り組みを予算をつけてまで実施することを決断した国土交通省の目的は何なのか?

実は施工業者も含め、みんな気が付いているのだが、本当の歩掛は取れているようで取れていないのである。

1サイクルにこのくらいの人工がかかっていると、よく話を聞くが、それはその人がすべてのサイクルにおいて、ずっと立ち合い、自らの五感を駆使して、確認し記録した結果から割り出されているものである。

その数値が環境も違う現場で使えるのか、すべての数値が本当に公開されているのか、また技術者一人一人が自分の知識としてもっているのかと言われると、頭をかしげなければならない。

建設業とはまだそのような状況なのである。


現場状況を解析し、無駄を省く取り組み

下記の図をご覧いただきたい。

対象技術Ⅰ 現場における状況を解析し、無駄を省く取り組み事例 / 国土交通省

このようなデータを取るためには、現場の「今」(人やモノの動き)を正しく把握しなければならない。

正しい情報を取得することが重要であるため、対象技術Ⅰを積極的に実施する意義は大きい。数値化、見える化するというのは、人の忖度など一切考慮せず、機械的に出すための取り組みが重要なのである。

建設業界はそのような取り組みすら、まだ実施できていないのが実態であり、まだまだ「労働生産性の向上を図る(計測する)技術」への取り組みは多く実施することができる。

IoTや画像中心のAIについて、導入の敷居が下がってきている状況で、さらなる取り組みを進めなければならない分野であることに間違いはない。

ただし、連載4回目に書いたコストの考え方や歩掛の取り方など、従来のような建設業の考え方(公共積算と実歩掛りとの差が利益という短絡的な考え方)を根底から払拭しない限り、先進的な取り組みは行えない

たとえ、従来と同じ考え方で実施したとしても、そこから何かを学びとり、本当の意味で業務改善や、また新しい仕事のやり方、取り組み方を取得することは不可能である。

建設業はマインドチェンジが必要なのである。

建設業は今までのように「単に請け負う」だけでなく、自ら付加価値を加え、自ら提案し、自ら高みに向かう業界になりつつある。

決して昔のように「言われたことだけしていればよい時代」ではない。時代の変化とともに、今こそ自発的に変わっていかねばならない。

そんな取り組みにまで予算を出してくれる「日本」は、やはりすごいなと思う。

次回は、このような「変わらなければならない建設業」において、実は地方建設業のほうが適切に活動できるのではないかという内容をお届けする。

(つづく)

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バブル崩壊直前に施工会社に入社。施工会社では造成現場に従事し、測量をはじめ現場のノウハウを叩き込まれる。もちろん飲みにケーションなども叩き込まれ、土木の世界に引き込まれる。土木の世界に魅了されるも、もうちょっとスマートな施工管理がしたいと独学でICTを勉強し、社内で数々の変革を起こしたため異端児扱いになる。それでもめげず、どんどん独自ワールドを構築し、今や施工管理でのICT活用は当たり前。最近ではさらなるICTツールの展開や活用を進めるためワールドワードで情報収集中。
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