“ミスキャンパス”が社会の課題を解決する
凸版印刷株式会社(本社:東京都千代田区)には、「キャンパスラボ」というユニークなプロジェクトがある。
キャンパスラボとは、2015年3月、当時大学生だった中山柚希さん(現キャンパスラボ代表・プロデューサー、凸版印刷社員)が各大学のミスキャンパスの友人らとともにスタートさせた、ミスキャンの女性(学生)がメンバーとなり、社会課題に主体的に取り組むプロジェクトチーム。10代・20代の若年層のマーケティングから商品開発、PRやプロモーション立案まで一貫して考え、企業や自治体と共創し課題を解決する。
これまで石川県加賀市の観光コンテンツ企画、神奈川県の風しん撲滅プロジェクトPR、東京都文京区の学生ボランティア機運醸成などを手がけてきた。
キャンパスラボは何を創り出してきたのか。建設業界とのコラボは? いろいろ話を聞いてきた。
ミスキャングランプリを逃したことを機に発足
ラボの発起人であり、代表・プロデューサーを務める中山柚希さんは、青山学院大学に在学時、自らミスキャンに出場した経験がある。その結果、惜しくもグランプリを逃した。「悔しさや自分への嫌悪感などに悩まされた」という。
そんなとき、たまたま企業と一緒に商品開発をする機会があった。社会人とビジネスとして関わっていく中で、「女性マーケティングという新たなチャレンジの場に立つことができました」と振り返る。
2015年3月、都内のミスキャンなどに声をかけ、7名のメンバーでラボを立ち上げた。このときから凸版印刷のオフィスを借り、同社のプロジェクトとして活動を始める。
同社のサポートのもと、初代リーダーとして、自治体や企業と共創し、若年層向けの商品開発や啓発プロモーション企画など、様々なプロジェクトに携わった。
イチジク製薬とミスキャンのコラボ
学生時代にイチジク製薬株式会社と取り組んだ「カラダの中からキレイラボ」では、若い人に向けたセルフケアとして、「便秘」を問題提起し、早く治す大切さの啓発活動を行った。
メンバー自身、開始時点では便秘解消に対する意識はそれほど高くなく「そもそもなぜ便秘を解消する必要があるのか?」という疑問を薬剤師にぶつけるところから企画がスタートした。
薬剤師と話をしていく中で、実は子どもの便秘が社会問題になっていることや、若い女性でも便秘を「自分ごと化」していない人が多いこと、自分が便秘だと気づかず放置している人がいることがわかった。
また、便秘が「肌の調子」や「体臭」にも強くかかわっていることを知り、「便秘解消や腸内環境を整えること=美容に関わること」も含めて、「カラダの中からキレイ」になることの重要性を実感した。
その後、メンバー自身が1日に1.5リットルの水を飲むなど、自ら腸内環境改善チャレンジを行って発信したり、女性が楽しく便秘解消に取り組むための便秘解消スムージーレシピを研究することを通じて、「同世代にどのようにして伝えていくかを考え、実践しました」と語る。
さらに、若い世代が目に留める、人に話したくなる便秘解消啓発アドトラックを企画し、メンバー自らがアドトラックに乗車し啓発活動を実施。
それまでSNSなどに登場する機会が少なかった「イチジク浣腸」や「便秘」に関する情報が拡散。メディアなどにも取り上げられるようになった。
2016年1月、キャンパスラボが企画した便秘解消啓発アドトラックに自ら乗車し、啓発活動を行った。
アドトラックには、イチジク製薬より新年のご挨拶として着物を着た女性がお年賀を渡すグラフィックと、『新年に「つまらない」ものですが。』というコピーが書かれている。謙譲語の「つまらない」を、お腹の中が「詰まらない」と、また「謹賀新年」を「謹賀新”便”」と掛けている。
また、運転手席と助手席のドアには、外から見ると座席に座っているのではなく黄金の便器に座っている様に見える工夫をし、助手席にキャンパスラボのメンバーが座り若い女性へイチジク浣腸をPRした。
「単にSNSなどを使って呼びかけをするのではなく、ミスキャンが本気で社会課題を学び理解し、ミスキャンがリアルターゲットかつインフルエンサーの視点で、わかりやすく、かつ若い世代に興味を持ってもらえる形で伝えていくことがラボのこだわりであり、強みです」と語る。
凸版印刷の新規事業としてラボを発展継続
キャンパスラボの活動は順調に拡大していった。中山さんは自分の視野を広げることができ、周りのメンバーの成長や変化を肌で感じた。「より多くのミスキャンにラボを通してやりたいことを見つけてもらいたい、女性が楽しく輝けるきっかけを作る仕事をしていきたい」と思うようになった。
卒業が近づくにつれ、「卒業後もラボの活動を続けたい」という思いが強くなり、凸版印刷への入社を考え始めた。学生団体に場所や時間を貸す懐の深さに魅力に感じ、自分のやりたいことを実現するための場として同社を選び、入社した。
凸版印刷はキャンパスラボを同社の新たな事業の一つとして位置づけ、中山さんが開発・運営を担当している。同社は印刷業のみならず、若年層向けの商品開発やPR戦略などを様々な企業・自治体から委託されている。
神奈川県とコラボした「風しん撲滅作戦」
その中で、リアルターゲットと直接議論しながら企画を創っていく「共創マーケティングソリューション」としてラボの価値を感じており、「社会課題に向けた学生連携にもさらなる可能性を感じている」としている。
社会と若い世代を繋ぐオピニオンリーダーに
キャンパスラボは「ミスキャンが世の中を変える」をスローガンに掲げ、現在社会課題への取り組みを基軸に置いている。
「地域魅力創出ラボ」、「セルフケアラボ」、「キャリアデザインラボ」の3つのテーマに分かれる。地域魅力創出ラボでは、自治体などとコラボし、観光、食、文化、伝統など地域の魅力を若者視点で見出しながら商品開発やPR立案などを行う。
単にイベントや広告などに露出するだけではなく、どのような切り口でPRすれば共感が得られるか企画の段階から参加し、若年層に受け入れられやすいSNSや動画などと連動したパッケージでのプロモーションも展開する。
地域魅力創出ラボ以外にも、セルフケアラボとして風しん撲滅などの啓発活動や、若者に向けたキャリアデザインラボとして文京区とボランティア機運醸成にも取り組む。
プロジェクト設立に際しては、案件、課題などに応じて、専任メンバーで構成されるプロジェクトチーム(○○ラボなど)を編成する。
これまでに手がけたプロジェクト(コラボ企業・自治体)は次の通り。
▽鹿児島県観光ツアー企画「もぜ!かごんまラボ」(鹿児島県・南薩観光)▽石川県加賀市観光コンテンツ企画「いかが?加賀ラボ」(加賀市)▽海の京都若年層誘致企画「海の京都遊び隊」(海の京都DMO)▽地域の特産物を用いたふるさとの香り商品開発「香実ラボ」(株式会社ZITEN)▽環境対策としての打ち水文化啓発「ひんやり江戸ラボ」(東京都)▽ビーチマナーアップ啓発企画「SMART BEACH ラボ」(逗子市・鎌倉市・葉山町)▽神奈川県風しん撲滅啓発プロモーション「風しん撲滅作戦」(神奈川県)▽学生ボランティア機運醸成「ホップ!ステップ!バックアップ!ラボ」(文京区)他多数
近年「SDGs」への取り組みを積極的に取り組む企業・自治体が多く見られるが、生活者における企業・自治体の取り組みに対する認知・理解・参加としては、課題を抱えるものが多い。
そんな中、キャンパスラボはターゲット視点で若年層生活者に対するコミュニケーション施策を考え、彼女たち自身がアンバサダーとなって啓発PRまで一貫して担うことができる。
「今後もキャンパスラボは、若い世代に共感される企画力・発信力を高めながら、様々な社会課題に取り組み、社会と若い世代を繋ぐオピニオンリーダーとして活動を広げていきます」と力を込める。
建設業の魅力を若い女性に発信してみたい
そんな中山さんにとって、「建設業のイメージ」はどのようなものだろうか?
「そもそも建設業はどのような仕事なのか、イメージできていない学生が多いと思う。建設業に限らず、学生はなかなか各業界の商流を知る機会が少ない。
特にB to Bなど直接自分が関わることの少ない企業・業界に対してはイメージできていない学生が多い。就職活動でも、CMや店頭などで目にし、普段の生活の中で学生自身がお客さんとして親しんでいるメーカーなどに注目が集まりがちだと感じる。
建設業においても、学生が直接的に建設に関わる機会が少ないため、身近に感じにくい業界だと思う」
そこで、「キャンパスラボなら、建設業界をどうPRするか」聞いてみたところ、
「一言で建設業界といっても、学生がイメージするのは現場作業がほとんどで、あまり建設業界の職種を理解していない。設計や土木やメンテナンス、設備、さらにはITを活用した技術や情報システムなど、幅広い業務があり、それぞれの仕事内容や働き方、やりがいなどをきちんと伝えていく必要がある。
建設業で働く女性を増やすため、実際に建設業で働く女性の姿を見せていくことが業界・職種の理解につながり、学生が建設業界を進路の選択肢に入れるきっかけになると思う。リアルターゲットであるキャンパスラボの学生が建設業で働く女性と対談し、建設業における女性の働き方やその魅力を学び、同世代の女性に向けて発信していきたい」
「また、『働く』という観点以外でも、建設業がより生活者にとって身近なものとなるような商品の認知拡大にも取り組んでみたい。近年では省エネや防災の機能をもつ建材も増え、建材が人々の持続可能な暮らしの助けにもなっている。
ラボで商品の認知拡大のためのPR企画を行い、商品理解を通して建設業のイメージを向上し、建設業をより身近に感じてもらうための取り組みにチャレンジしたい」
という答えが返ってきた。
最近、女性の土木技術者が増えてきたと言われるが、女性にとって、建設業は「まだまだ敷居が高い」のが現状だ。
若者、女性にアピールしたいが、どうすれば良いのか。頭を悩ませている建設会社や団体は、一度キャンパスラボに相談してみたらどうだろうか。既存の建設業界の中からは、まず出てこないようなユニークなPR方法、ソリューションを提案してくれるかもしれない。