“建コンの就労環境=劣悪”ってイメージないですか?
建設コンサルタントで働いていると、ゼネコンやメーカーの知人から「建コンって大変なんでしょ」「よく頑張れるよね」と同情みたいなことを言われ、就活生からは「忙しいと聞きますが終電で帰れますか?」「土日は休みなんですか?」と質問される。
たしかに残業は多いし、繁忙期には終電、土日出勤もあるけど、どの職種も同じだろうし建コンだけの話ではないのにと思っています。
ですが、土木界隈の常識として、「建コンの就労環境=劣悪」のイメージが根付いているのは事実のようです。他業界に比べてどのくらい劣悪なのかというのは、ここでは触れません。それよりも、そんな”劣悪”な環境で働く社員は、どんな思いで仕事しているのかというほうが気になります。
「メチャクチャ忙しくてモチベーションは最低」なのか、はたまた「どんなに劣悪だろうが、それを上回るほどの魅力が建コンの仕事にはある」のか。「寝る間も惜しんで、技術者魂のもと仕事に没頭している」のか…。そのあたりが気になります(特に主戦力である若手社員の仕事観)。
そこで、建設コンサルタンツ協会が調査した資料がないか調べてみました。ですが、いくら調べても働く社員の仕事観に関する調査結果は見当たりませんでした。
就業時間の実態については、残業時間の推移や休日出勤の日数、退職者数や転職先など毎年詳細に調査しているのに、なぜか社員がどんな思いで仕事をし、何にやりがいを感じ、どんな働き方を志向しているのかといったことは調査されていませんでした。
働く社員の思いはすっかり置き去りにして、いかに残業時間を削減するか、いかに退職者を減らすかといった経営指標の改善にしか焦点が当たっていないのではないかと思ってしまいます。
これは由々しき問題だ。そう思って、建設コンサルタンツ協会に調査するようお願いしようと考えました。ですが、これは自分たち若手世代に関する問題なので、いっそのこと当事者である自分たちで調査すべきということになり、われわれ若手の会で独自調査することにしました。
それが、今回紹介する建コンで働く「若手の仕事観アンケート調査」です。かなり衝撃的な結果(私としては想定通り)ですが、その一部始終を紹介します。
一応お断りしておきますが、ここで紹介する調査結果は建設コンサルタンツ協会にも報告済みで外部開示されているので、決して暴露ネタではありません。
純度高い若手の声が集まった
「若手の仕事観アンケート調査」は、全国各地の建コン企業で働く20~30代の若手社員約1,200人の生の声です。
男女比は8:2。職種は技術系87%、営業系5%、事務系6%。やや技術系に偏っていますが、問題の根幹は技術系にあるので的確に現状を捉えるにはいいサンプルだと言えます。
おそらく、建コン業界でこれほど純度の高い若手の仕事観を把握した調査はないのではないでしょうか。この調査結果をもとに、新たな時代、新たな環境を生きる次世代が仕事に何を求めているのか、働くことにどんな欲求や熱望があるのかを明らかにしたい。そんな思いで調査結果を眺め、とりまとめました。
アンケート調査の概要
- 対象者 全国の建設コンサルタント企業所属の20~30代社員
- 調査期間 2017年8月25日(金)~9月4日(月)
- 調査方法 Web調査「Questant」で実施
- 回収 1,199人
回答者の属性
悶々と働いている若手の姿が浮き彫りになった
建コンの若手は現状の仕事に対して、どのように感じているのでしょうか? アンケートでは、次のような結果が得られました。
現状の仕事観は?(5段階評価で「とても感じている」、「どちらかと言えば感じている」の合計値)
調査結果から、「日常に忙殺されストレスを感じたり、頑張っても報われないことにしばしば無気力感を感じながらも、漠とだが、技術者としての成長や、仕事の社会的意義を感じ取り、なんとかモチベーションを保っている。また、将来にはっきりした夢や希望が持てず、いつかは転職という選択肢もよぎりながら、悶々と仕事をしている」という姿が浮き彫りになった。
現状の仕事への思いを端的に表現するとこんなところでしょうか。
個々の調査結果に着目し、もう少し補足してみましょう。
技術者は一人で複数の案件(5~6件が平均で、多い場合は10件くらい)を抱え、限られた時間の中でいかに効率よくこなすかという働き方をしています。また、発注者からの依頼や要求がひっきりなしで、ひたすら目の前の仕事に集中しなければなりません。そのため、心休まる時間もなかなか持てずストレスを感じているようです。
さらに、日常に忙殺されているが故、本来技術者の醍醐味であるはずの技術力や創造性を発揮するような時間的ゆとりがない(特に仕事をコントロールしにくい若手の場合はその傾向が強い)。そのため、仕事のやりがい、モチベーションの維持に苦労しています。
一方で、出来て当たり前、ミスがなくて当たり前という緊張感、緊迫感に常に晒されており、ひとたびミスがあると社内外からクレームがくる始末。感謝されたり褒められることは少なく、成長を感じる余裕はありません。また、頑張っても報われないことから無気力を感じることも多い。
さらに、土木バッシングや公共事業の先行き不透明感に加えて、旧態依然とした業界体質から来る閉塞感から、自身の将来に対するキャリアがはっきりせず、いつかは転職ということも頭をよぎりながら、悶々と仕事をしています。
…こう書くと、なんだか闇の部分しか見えてきません。もちろん自ら計画・設計したインフラが出来上がる瞬間は心躍りますし、長く後世に渡って役に立つものを手掛けているという誇りもあります。また、発注者が我々の成果に満足し、良くやってくれたと褒められることだってあります。
ですが、そんな光の部分も含めても、建コンで働く1,200人の結果は先のような実態だということです。これが、リアルなのです。
たとえ収入が減っても、自分のやりたい仕事がしたい
次に「志向する働き方は?」という質問に対する回答を見ていきましょう。
志向する働き方は?
この結果から、建コンの若手は「たとえ収入が少なくなっても、仕事とプライベートのバランスを取りながら働きたい。また、会社への帰属意識よりも、1人の技術者としての自分がやりたいことや、夢の実現、知的好奇心・興味関心ある仕事を通して成長することで、社会から認められる働き方」を志向していることが読み取れます。
より具体的に見ると、建コンの若手は自らの専門性を活かすことや、自らの技術や能力の向上につながる仕事をしたいと考えているようです。
また、たとえ収入が減ったとしても、自分のやりたい仕事(専門性が高く、大学や大学院で培ってきた知識や技術、業務を通して培った技術や能力を生かしたい)をしたいという傾向があります。
一方で、独立や起業、副業には関心が低い。これは、建コンの仕事が業務実績や資格要件等に縛られており、やりたい仕事をするには企業に所属していた方が得策という判断があるのかもしれません。
また、出世や昇進への意欲はそれほど高くなく、会社を発展させたいと考えている者は多くありません。これは、自分の専門性を高めることに仕事のウェイトを置いていること、プライベートや余暇の時間を十分確保したいと考えていることが要因でしょう。
さらに、仕事において自らが果たすべき役割や権限、責任が明確でないと不安に感じる場合が多い。これは2つの面から考察できそうです。
一つは、自分が担当する作業の量や範囲が明確でないと、それに係る時間を見積もることができず、どれだけ残業すればよいのか分からないといった不安があるからではないでしょうか。
もう一つは、自分が担当する仕事が、業務全体の中でどんな意味があり、どれほど重要かを理解し実感したいという欲求の現れかもしれません。
つまり、自らの仕事に意味(目的や目標)を見出し、それを成し遂げることに仕事の楽しさややりがい、成長を感じたいと考えているからだと思われます。
“社内”より”社会”から評価されたい
最後に、「やりがいを感じる仕事」に関する質問の結果を見ていきます。
やりがいを感じる仕事は?
社会的意義がある仕事や、新しいスキルやノウハウが身につく仕事、お客様(発注者やエンドユーザー)から感謝される仕事が上位にきています。
これは、先ほど述べたとおり、自分の仕事に社会的な意味を求める欲求や、自らの技術力や創造性を発揮したいという欲求の高さが理由として挙げられます。
一方で、根性や忍耐が養われる仕事にやりがいを求める者は極端に少なく、精神論だけで厳しい就労環境を乗り越えろとか言った途端にドン引きされるのがオチでしょう。
また、成果がすぐに出る仕事や目立つ仕事、社内で高く評価される仕事などもやりがいを感じない。短期的な会社目標の達成や社内評価を得ることに対して関心は低いようです。
こうしたことからも、目先の成果を求めるような”社内評価”が得られる仕事ではなく、たとえ時間がかかったとしても自らの技術力や創造性を発揮して社会課題を解決するような、”社会評価”を得られる仕事を志向していると言えます。
働くリアルを受け入れなければ、何も変わらない
アンケート結果を見てみると、建コンで働く若手は「自らの技術力や創造性を発揮して社会に貢献したい」という欲求が非常に強いことが明らかになりました。
しかし、現状は効率性を重視した働き方を強いられ時間的余裕がなく、理想と現実にギャップを感じていることも分かりました。
また、「自分の仕事に社会的意義を感じ取りたい」という欲求が高いものの、公共事業バッシングやインフラ不要論など世間の目が冷たく、自らの仕事が社会から認められているのか、自分は社会に貢献できているのかという疑心暗鬼に陥っているのではないと考えられます。
さらに、志向する働き方としては社内評価より社会評価を得たいと考えており、企業の成長に貢献するというより、一人の技術者として自らのやりたいことや夢の実現の中を通して成長し、かつワークライフバランスを優先しながら、自らの価値観にあった働き方を志向していることが分かりました。
このように書くと、上の世代からは「若手世代だけが思っていること」、「我々世代は時間を惜しまず歯を食いしばって頑張ってきたんだからそれに従うべき」、「今の若手は甘えている」という反論が聞こえてきそうです。
ですが、そんなことを言っていては何の解決にもつながりません。今の若手世代の考え方が良いか、悪いかという議論ではなく、このリアルは疑いようのない事実です。
であるならば、それを受け入れ、流れに逆らうことなく、どう向き合っていけばよいかを考える方が圧倒的に建設的です。
建コンで悶々と働いている若手がモチベーション高く働くためには、何が必要なのでしょうか? 新しい時代に果たすべき社会貢献とは、担うべき事業は、技術者一人ひとりのキャリアは、働き方は、どうあるべきなのでしょうか?
次回の記事では、これらの点について深堀してみたいと考えています。
余談1 「最近の若い者は…」発言の真相
「最近の若い者はけしからん、昔の俺はもっとすごかった」という話は、ずいぶん昔から同じことが言われているようです。ある記事では、古代エジプトの頃からある言葉とも伝えられています。
仮にですが、もしそれ(若者の能力が低下し続けていること)が本当なら、今頃われわれ人間は年々スケールダウンし続けていることになりますよね。そうするととっくに絶滅しているでしょうね。
ですが我々は生き延びているし、昔に比べはるかに豊かな生活を送っています。ということは、我々は年々スケールダウンしているのではなく、その時代、その環境に合わせてアップデートし続けていることになります。
ダーウィンだって、「強い者が生き残るのではなく、賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である」と言ってますもんね。そう嘆く”おっさん”は、時代の波に乗り遅れているだけかもしれませんね。
だからこそ、自分より若者、年下を肯定するところからスタートしないといけないのではないかと思います。
余談2 就活生はリアルを求めている
私は、採用担当をしていることもあって、この調査結果を、建設コンサルタンツ協会主催の就職セミナーや、会社インターンシップでありのままを説明するようにしています。
私は、「就活生に対して闇の部分を隠したまま入社してもらっても、ミスマッチですぐにやめてしまうことになる。それは学生にとっても、企業にとってもお互い不幸なこと。であれば、光の部分だけでなく闇の部分も含めて、リアルを伝えることこそが本質である」と考えています。
一部の上司からは、「業界・企業に来ない学生が増えたらどうするんだ」といった批判も受けました。ですが、何度も自分の思いを伝え、承諾をもらいました。
結果的に、就活生にはメチャクチャ刺さったようです。「うわさでは知っていたがリアルな実態が聞けてよかった」、「業界や会社が抱えている問題に真摯に向き合っているんだなと信頼感が増した」などなど。就活生はリアルを求めているんだと実感しました。
もちろんその裏には、リアルを知って志望を取り下げた学生もいると思います。ですが、学生に入社してもらってもすぐに去られては本末転倒です。建コン業界や企業にとって、「担い手確保」は喫緊の課題です。就活生にリアルを伝えるという点は、一つのヒントになるのではないでしょうか。
そもそも建コンへの就職が公務員、半官半民、ゼネコンまたはメーカなどに就職できなかった人たちの腰掛なのだから、この結果は然もありなん。創造性などと言う前に、見積依頼は条件をしっかりと定義して出して欲しいし、成果品も間違えだらけのものを直前に提出するのではなく、協議を都度進めながら確認させて欲しい。上位コンサルでさえ、上記のことができていない。そういったことを指摘したら、若手の社員はすぐ別の人がでてくる。それが建設コンサル業界の実情(個人の感想)。