割を食うのはいつも職人たち
私のいるプラント現場は、他のプラント同様、骨組みを鉄骨で造り、その間を電線管、各種ラック類、大小様々なパイプが縦横に走っている。
それらの取付のために、中間階に仮設の足場が設置され、その足場には安全のための手摺や巾木、案内表示看板や注意喚起の標識が至るところに取り付けられている。
鉄骨構造体や付属の支持金物等を塗装するのだが、まだ至るところに仮設材が設置されてる現状のまま塗装するのは塗装職人泣かせの仕事だ。
どうせやるなら、誰しも綺麗に塗りたいと思っているが、クランプが取りつき、そこからパイプが伸びていて塗れない箇所が多く、塗装が虫食い状態になるのは止むを得ない。とはいえ、仕上がりは段差が付き、どう考えても綺麗な仕上がりにはならない。
それを知ってて、塗装作業をする親方及び職人たちは「これじゃキレイには出来ねえよな!」と不満タラタラだ。
こんなことは、プラント現場だけではなく一般的な建築の現場でも日常茶飯事。最後に割を食うのは、いつも職人たちだ。
良い仕事をしようと思っている職人ほど、責任感が強いが故に、仕上がりに文句を言われたくないと思う。「よくもまあ、こんな酷い仕事をやるよな」なんて、絶対言われたくないだろう。
現場を管理する人間は、そんな職人の気持ちを汲んであげなければいけない。
「あなたたちの責任じゃないんですよ!」と、みんなの前で説明してあげなければいけない。
彼らのプライドを、守ってやらねばならない。
まともな職人ほど、嫌になって辞めてしまう
仕事に対し、良くても悪くても、正しい評価が出来る知識が管理者には必要だ。それが職人を育てると言っても過言じゃない。
反対に、知識がなく、ただ上から言われた工程通りにやればいいと思っている管理者は、職人の思いなど全く意に介さない。
職人も人間だから、やった仕事を褒められれば嬉しい。失敗したら、怒られるのは当然だ。
一番やる気を無くさせるのは、良くても悪くても全く反応がない管理者だ。反応も無い、評価も無いでは、まともな職人ほど嫌になってしまう。
昨今の職人不足は、単に職人のなり手がいないだけでなく、現場知識の乏しい管理者のせいでもあると考えている。建築の仕事に、職人の仕事に魅力がある、無いだけではなく、仕事そのものにやりがいを感じさせる対応が出来ていないのではないだろうか。
分からなければ、「分からないから教えて欲しい」と職人に聞けばいい。現場には何人もの職人がいるだろう。いろんな意見を聞くうちに、どれが正しいのかも分かって来る。
聞くのが嫌なら、自分で徹底的に調べることだ。知ったかぶりが、一番救いようがない。
そんな人間には、誰もついていかない。何も知らないくせに上から目線の管理者は、職人たちは「ハイハイ」と返事はするものの、誰一人この人のために頑張ろう!という気になるはずもない。
職人があきれるような図面は描くな!
マトモな職人は、図面を見て一瞬で相手の力量を推し量る。現場管理をする人間だけでなく、組織全体の実力という意味だ。
今の現場でも、そんな場面が数多くある。「本当はこんな図面渡したくないんだけどなあ」と、情けない思いで手渡すことも多い。
私が今の現場に来た時は、建築の仕事はほとんど完成しており、プラント敷地内の舗装道路、側溝、擁壁の設置作業がメインになっている。
建築図面に側溝が描いてあるが、何も考慮されていない。ただ絵が描いてあるだけで、寸法も何も入っていない。ド素人の図面だ。
コーナーは円弧で描かれている。そのまま解釈すれば、そこはコンクリート打設により円弧状の側溝になるはずだ。が、その中心点はおろか、その半径さえ記載がない。
こんな図面を見たら、「図面を描いた人間は、側溝などの外構工事を甘く見ている、ナメてるな」というのが一目で分かる。
だが、土木建築を請け負ったスーパーゼネコンの現場管理者も「コーナーはどうするんですか?」とさえ聞いてこない。予測はしていたが、通常の既成のプレキャストの側溝を切って繋げる程度にしか考えていないのだ。キレイにコーナーを造るなんてことは微塵も考えていない。
おそらく、この図面を見た土木職人は「ああ、この程度でいいんだな」と判断したに違いない。
金、工程、全てが決まった後に、私がとやかく言っても始まらない。図面に何も描いていないからと言って、土木職人が好きにやって良いわけでもない。
だが、こんな仕事を続けていれば、管理者と職人両者の技量が落ちていくのは自然の成り行きだ。まともな職人が育たず、職人不足になっているのは、ゼネコン、そして管理者の怠慢が一番大きい。
せめて、職人をやる気にさせ、「なるほどな!」と思わせるような図面を描く努力をして欲しい。
お絵描きレベルの図面を渡されてもね。施工上本当に必要な数字が書いてない図面ばっかり渡して来られてもねぇ。質問しても返ってくる言葉は「そうですね。図面通りにやって下さい」の一点張り。この業界も、もうダメだわって思ってしまうわな・・・(爆笑)