大京穴吹建設取締役の村上浩一氏

70歳の技術者も安心して働ける会社へ。大京穴吹建設の新制度「コンストラクション・ディレクター」とは?

資格保有者の定年を65歳に延長、再雇用で70歳まで働く道も

オリックスグループで工事事業を手掛ける株式会社大京穴吹建設は、1級建築施工管理技士や一級建築士などの資格を保有する”建築人財”の定年を 65 歳まで延長する「雇用延長制度」を2019年12月1日から導入した。

高齢化が進む一方、若手人材の獲得が困難を極めている建設業界では世代交代に悩むゼネコンも多い。

今回の人事制度の狙いや一連の働き方改革について、同社取締役の村上浩一氏に話を聞いた。

300社で工業高生15人の争奪戦

――まず、建設業界や大京穴吹建設の担い手に対する課題認識からお願いします。

村上浩一氏(以下、村上)  総務省の労働力調査によると、2018年時点での建設業就業者は、55歳以上の方が全体の34.1%、29歳以下の方が11.1%と高齢化が激しく、若年労働者の不足が顕著になっているという構造的な課題を抱えています。高齢者の活用や若年層の入職促進に向けた取り組みは不可避です。

建設業就業者数の推移 / 大京穴吹建設

事実、工業高校建築科の学生は進学するケースも増えており、ある工業高校では、建築科は1クラスしかなく、さらに就職希望者は15人のみでした。そこに、昔は採用活動をしていなかった大手ゼネコンも獲得に乗り出し、合計300社で15人の争奪戦を行うという状況だそうです

――若年層の採用は不変の課題ですね。

村上 当社は、全体で700名弱の規模ですが、入社3年以下の社員が約半数を占めます。現場で働く技術職は336名(取材時)で、技術者の資格保有率は60%です。会社が毎年5%ほどの成長軌道に乗っているため、中途キャリア採用を積極的に進める一方、2019年春には、大卒・専門学校卒・高卒を合わせて32名の新卒を採用しました。

ただし、若手から中堅層へのスムーズな移行については課題がありました。そこで当社で、安心して長く働いてもらえることを明確にメッセージとして発する必要がありました。外部の技術者の方にも「働くのなら、大京穴吹建設で働きたい」と思っていただくためにも、定年延長を打ち出しました。

高齢技術者の新職種「コンストラクション・ディレクター」とは?

――雇用延長制度の概要や目的は?

村上 この制度は、建築人財が長く安心して働くことができる環境を作るとともに、熟練社員からの技能伝承による若手建築人財の育成を目的としたものです。

具体的には、まず建築人財(一級建築士、1級建築施工管理技士)の定年を65歳に延長するとともに、定年後再雇用の限度を70歳に延長しました。加えて、60歳以降の役割を明確化するため、コンストラクション・ディレクター職(CD職)を新設しました。CD職では、原則として、各種工事の専任技術者(現場所長)の業務を担ってもらう予定です。

雇用延長制度の概要 / 大京穴吹建設

コンストラクションディレクターの給与水準 / 大京穴吹建設

――60歳になると給与が大幅に下がり、技術者のモチベーションも減退するイメージがありましたが、この制度だとまだまだ頑張れる方が多いのではと感じました。

村上 当然、それを目的としています。もちろん、単純に定年を伸ばすだけでは、身体的に厳しいのではと考えており、そのために新しく「CD職」を創設しました。こちらに該当する社員は、来年度で10人ほどですが、今回、社内に周知したところ、早速、数名から問い合わせがありました。

ただし、現在も現場所長などの業務を行っている方は、それを継続するわけですから、65歳定年のメリットがありますが、資格を保有してはいるものの、既に現場から離れている方にとっての「CD職」の在り方については、本社の関係部署含めて定めていく必要があります。

ちなみに、外部からいらっしゃるのも大歓迎です。60歳を迎えられても、巡回チェック、安全パトロールなど担っていただきたい仕事はたくさんありますから。

一方、新築工事では40~50戸のコンパクトマンションの受注を強化しており、今後年間工事高100億円を目指し、新築部門を成長分野としているため、ここでも人財ニーズがあります。

――これからの建設需要の見通しについては。

村上 マンション管理組合の方は労務費が高騰していると一部誤解されていますが、それは新築に限っての話です。改修工事は、東京五輪との需給バランスの影響を受けにくいと考えています。改修工事と新築工事では、材工の比率や職人が違いますからね。協力会社にヒアリングも行い、改修工事の職人の確保はできています。

オリンピック後は、新築から改修へ、職人が移行してくる期待もあります。しかし労務費は長期的には上がっていくため、生産性の向上が課題です。

改修工事では”4週6休”をほぼ達成

――「働き方改革法案」が順次施行されている中、御社の取り組みも注目されていますね。

村上 当社では、20 時になるとパソコンが強制的にシャットダウンし、月の残業が20時間を超えると上司と本人に警告が表示されます。こうした取り組みもあり、月平均の残業時間は 24 時間となっています(2019年3月期実績)。また、年間所定休日数は131日で、労働環境はかなり整ってきていると感じています。

――休日の確保に重点を置いた働き方改革ですね。

村上 当社のベースは不動産業にあるので、休日は業界他社よりも多いと思いますよ。また、手掛けている工事の約8割は既存マンションの改修工事ですが、改修工事は住みながらの工事のため、土日は工事をしないほうが好まれるのです。そのため、休日も設定しやすいです。

当社では年間に約40名をキャリア採用していますが、入社後のヒアリングやアンケートでは、「休みが取りやすくなりました」「残業時間が減りました」という回答が多かったです。

改修工事では、今のところ4週8休をにらみつつ、4週6休をほぼ達成しています。一方、新築工事は競合他社との競争やお施主様の意向もあり、4週5休と6休が混在しています。。

――建設業界でも女性が働きやすい職場をアピールしていますが、何か取り組まれていますか?

村上 ユニフォームを女性向けに変更したり、女性向けのトイレの設置、温水洗浄便座の標準装備などを実施しました。また、以前はフルハーネス安全帯も女性向けのものがなく、カッコ悪いとの声もあったため、女性が着けても安全かつ違和感のないフルハーネス安全帯を導入するなど、段階的に女性活躍の取り組みを推進しています。

――ほかに、独自の取組みはありますか?

村上 「コミュニケーション費用」として、社員一人あたり毎月3,000円を支給しはじめたところ、社員からの評判は良いです。

当社の業務は、グループの管理会社である大京アステージや大京コミュニティと連携しながら進めることが必須で、全国の拠点でもフロアやスペースを共有しています。社員間のコミュニケーションがとても重要です。なので、コミュニケーション費用を利用しての社内イベントや飲み会などを開催して積極的に交流してもらいたいです。

大京穴吹建設は「人の暮らしに直結した会社」

――話は変わりますが、売上面での今後の見通しは?

村上 当社の売上高は、約500億円です。そのうち当社の主力事業である大規模修繕工事の売上高は、2019年3月期(実績)が374億円で、2020年3月期(実績見込み)が390億円程度と堅調に推移しています。

大京穴吹建設の大規模修繕工事売上高の推移

2017年3月期 2018年3月期 2019年3月期 2020年3月期(見込)
金額 380億円 378億円 374億円 390億円程度
(グループ内部比率) 95.20% 94.80% 91.00% 94.20%
(グループ外部比率) 4.80% 5.20% 9.00% 5.80%

大京穴吹建設では、お客さまに早い段階から修繕の重要性や資金的な準備をご認識いただくため、早期に改修工事のご提案を行っています。そのため、新築10年程度での建物診断を自発的に行っており、実際に大規模修繕工事を実施するのが新築後12~14年程度になります。

また、当社のマンション修繕工事ブランド「Plusidea(ブラシディア)」で、ユーザーのニーズにマッチする形で、修繕工事に付加価値のある改修プランもご提案しています。

改修工事前 / 大京穴吹建設

改修工事後 / 大京穴吹建設

――大京穴吹建設で働くやりがいは?

村上 ユーザー側との距離感が近いことでしょうね。よく施工管理者から、「新築工事では、自分が手掛けた建物を誰がどのように、どんな気持ちで利用しているのかが見えにくい」という話を聞きます。施工管理者は、新築物件を引き渡したら、すぐ次の新築現場に向かうことが多いですから。

ですが、当社の主力事業である改修工事はそうではありません。まず今、住まわれている方の話を伺い、ともにプランニングしていく。潜在的なものも含め「思いをカタチにする」ことが仕事なのです。

もちろん、今ある物件を長持ちさせること自体に社会的意義があり、これもやはり技術者として大きなやりがいだと考えますが、それだけでなく、お住まいの方との距離感が近いことも大きな魅力です。工事の最中にも「今日もいい仕事してよ!」とお住まいの方から応援されますし、出来上がった時には「ありがとう。これでまだ長く安心して住めるよ」と、感謝の言葉を直接聞くことができるのです。

男性の技術者は居住者の方からバレンタインデーにチョコをもらうこともあります(笑)。居住者の方にとっては、自分の息子のような年頃の技術者に工事をしてもらうことに喜びも感じているようです。これは工事のしがいがあります。

私は求職者に対して、「大京穴吹建設は、工事を通じてお客さまに安心感を与え、マンションの価値を高め、建物をより長く維持するという工事サービスを行う会社です」と説明しています。

大京穴吹建設は、人の暮らしに直結している会社です。人が好きで、人に寄り添える方は当社がぴったりだと思います。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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