鹿児島の建設会社で2人目のドボジョ
以前、株式会社有迫組の久永善治社長の記事を出した。その中で、6年前に女性技術者を採用したという話があったが、その「おごじょ」(鹿児島弁で若い女性の意)は、萩原遥さん。地元の工業高校で土木を学んだ後、入社したドボジョだ。
同社初のドボジョであり、鹿児島県内の建設会社でも2人目というレアな存在だ。正直、実際に会うまでは、「せごどん」のようなゴツい女性を想像していたが、普通に可愛らしい女子だったので、いささか拍子抜けした。
それはともかく、はためには「女性ぼっち」な印象のある彼女が、日々どんな思いで働いているのか、興味を持った。とりあえず、いろいろと話を聞いてきた。
父親が土木技術者。しかも社長と同僚
――土木の世界に入ったきっかけは?
遥さん 父親が土木の技術者だったので、土木は身近な存在だったからです。もともと大学に進学するつもりはなく、高校を卒業したら就職するつもりだったので、就職率100%の鹿児島工業高校の建設技術系という学科に入学しました。
――有迫組に入社したのは?
遥さん 私の父親と有迫組の久永社長は、もともと同じ会社の同僚でした。その縁で、有迫組に入ったんです。後に父親に聞いた話では、市内の建設会社はどこも女性を敬遠していたそうで、久永社長に相談したそうです。
――お父さんは今も土木の仕事を?
遥さん 父親は今は公務員として、土木系の仕事をしています。転職したんです。
――就職先として、公務員は考えなかったですか?
遥さん 少しは考えましたけど、やはり民間企業が良いなと考え直しました。最初は、土木系の会社に就職する考えはなくて、普通の会社に勤めようと思っていたんです。両親に相談したところ、「せっかく工業高校を出てるのに、それはもったいない」と説得されました。
――工業高校に女子はいましたか?
遥さん 私を含め10名ほどいました。みんな就職していますが、施工管理は私だけで、ほかは公務員やコンサルで働いています。
子ども同然で「危なっかしい」
――有迫組で最初に経験した現場は?
遥さん 林野庁発注の桜島の治山工事の現場でした。2ヶ月ほどして、鹿児島市発注の道路改良の工事現場に移りました。
――最初のころはいろいろ苦労したでしょう?
遥さん そうですね。後から聞いたのですが、周りの方々は私のことを「危なっかしい」と思っていたそうです(笑)。女の子だし、10代だったので。私自身振り返っても、高校卒業していきなり現場に行ったので、子ども同然で、周りの方々は大変だったろうなと思います(笑)。「重いものは持たなくて良いよ」とかいろいろ気を遣ってもらったので、女性だから仕事がやりづらかったということはなかったです。
最初の現場のトイレは、男女兼用でした。仮設トイレを使ったことがなかったのもあって、ちょっとイヤでした。ただ、2つ目の現場は女子専用トイレを設置してもらったので、スゴく快適でした。とても嬉しかったです(笑)。今の現場には、私専用の快適トイレを設置してもらっています。スゴく広いので、本当に快適です(笑)。
――周りは男だらけですが、大丈夫ですか?
遥さん 高校のときから慣れているので、やりずらいとかはないです。
――残業は?
遥さん 最近はほとんどありません。午後5時ごろには片付けに入っています。
――休みはちゃんとれていますか。
遥さん はい、とくに不満はありません。休みが増えるのは嬉しいですけど(笑)。
――資格なんかもとっているんですか?
遥さん 昨年、2級土木施工管理技士をとりました。会社には女性の事務員さんがいるので、それだけで安心して仕事できています。
現場監督は「正直、イヤだった」
――現場監督は?
遥さん 同じく昨年、鹿児島市の下水道管の推進工事の現場監督をしました。会社から「現場監督どうだ?」と言われたときは、正直イヤでした(笑)。「自分にできるかな」という不安があったからです。ただ、いつかはしないといけない仕事なので、せっかくのチャンスだと思い直し、頑張ってみることにしました。
――実際はどうでした?
遥さん スゴく大変でした(笑)。先輩が補助についていただきましたが、下請けさんや発注者とのコミュニケーションが必要だったのですが、専門知識も求められるので。ただ、実際に現場監督をやったことで、いろいろ成長できたと思っています。
現在配置されている橋台下部工の現場で働く遥さん(写真:本人提供)
――他の現場でもドンドン現場監督をやりたい?
遥さん やりたい気持ちはあるんですけど、「お声がかかれば」というところですね(笑)。今でも、自分が現場の責任を持つとなると、緊張します。
――今後どういう仕事をしたいですか。
遥さん ICT施工とか新しい技術を使った現場には興味があります。ICTはラクだからです(笑)。以前入ったある現場で、測量のため、丁張りのクイ打ちをしたのですが、クイがたくさんあって、体力的にかなりキツかったんです。ヘトヘトになりました(笑)。ドローンとかで測量できれば、体力的にかなりラクになります。
自分の周りから建設会社のイメージを変えたい
――仕事について友達と話をしますか。
遥さん 私はおっとりタイプなので、現場で仕事をしていると言うと、「意外だね」と言われます。「作業員をコキ使っているんでしょ?」とも言われます(笑)。実際はそんなことはないですが。
周りの友達には、建設会社には厳しいイメージがあるようです。私は「みんな優しいし、やりやすい職場だよ」と説明しています。自分の周りからでも建設会社のイメージを変えていけたらなと思っています。
――「暑い寒い」には慣れましたか。
遥さん 全然慣れないです(笑)。高校の部活は吹奏楽部だったのですが、外練習というのがありました。真夏や真冬でも外で大きく音を出す練習をするんです。その経験があるので、なんとか頑張れている感じです。自分でも「根性あるな」と感心しています(笑)。
久永社長と談笑する遥さん
――お父さんと仕事の話をすることは?
遥さん ほとんどないです(笑)。ただ、私が初めて監督した現場の検査が終わったときに、ケーキを買ってくれました。父親の意外な一面を見れました。ふだんは私に興味がないという感じなのですが、「気にかけてくれてるんだ」と思いました。嬉しかったけど、照れくさかったです(笑)。
――出産、育児についてどう考えていますか。
遥さん 入社した時点で、会社から「積算を覚えろ」と言われています。積算ができれば、家庭ができても、オフィスで仕事ができます。現場仕事は、外の仕事は現場の都合に左右されますが、内業は仕事の融通がきくからです。
女性の場合、家庭ができたら会社を辞めるので、会社からイヤがられるという情報をネットで見たことがありますが、その点、今の会社は良い会社だなと思っています。