リノべる株式会社 東日本リノベーション本部 設計・施工部部長の安江浩氏

「規格化され、決まりきった作業をするだけではつまらない」 “リノベる”が提案するリノベーション時代の新しい施工像

年間約700件超のリノベを手掛ける”リノベる”の設計・施工戦略

マンション・戸建てのリノベーションを手掛けるリノべる株式会社は、お客様に寄り添った自由度の高い設計で知られている。だが、その設計を受け止める施工や職人部隊についてはあまり知られていない。

リノベるの施工の強さの秘訣は、パートナー企業がプライドを持って施工している点にある。年間約700件超のリノベーション物件を生み出し、そこで新たな知見を得られることで様々な施工方法のナレッジを蓄積し、その積み重ねから最適な施工方法の選択を可能にしている。

職人の育成でも、多能工にフォーカスし、リノベーション施工のキープレイヤーとして活用する取り組みを進めている。幅広い分野をカバーすることのできる職人を育成することで、スムーズな施工が実現する効果もある。さらに、大手との連携を進め、まちづくりなど新たなステージへもチャレンジしている。

今回、リノべる株式会社 東日本リノベーション本部 設計・施工部部長の安江浩氏に、リノベーション時代の設計施工の戦略を聞いた。


自由な設計を楽しむ文化

――リノベるの事業方針を教えてください。

安江 日本では、約8割の方が新築住宅を購入しますが、新築マンションであれば、資産価値は20年で約半値まで低下すると言われています。海外と比較して新築偏重型であることは否めません。また、この人口減少の時代では、住む人が減っていくことは避けられず、空き家問題は今後益々深刻さを増していくでしょう。

中古住宅を有効活用し、新たな価値を加えて着実に資産化することで、中古住宅の流通を活性化し、ストック型社会への転換を目指すことで、私たちのミッションである「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」を実現できるのではないか、と考えています。

またリノベーションは、資産性という観点から見た合理的なメリットと、感覚的な楽しさという両方の良さがあるので、それをもっと広めていきたい。リノベるでは、かしこく素敵な暮らしを具現化していくための多様な選択肢、ライフスタイルを提案しています。そうした提案を通して、もっと住まいや暮らしを楽しみ育んでいく、豊かな暮らしや豊かな住文化の形成に貢献ができたらと考えています。

――リノベるは、設計の自由度が高いですね。

安江 そうですね。リノベるでは、物件探しから顧客へのサポートをしますが、まず事前に「どんな暮らし方をされたいですか?」という質問をしているんです。その回答によって住まわれるエリア、物件の広さや間取り、内装、家具も変わってきますから。それらをトータル的にプロデュースすることで、ワンストップサービスとして提供しています。

住まいは一見、土地はここで、規模はこのくらいで、と画一的に決定していくものと思いがちですが、お客様一人ひとりにヒアリングすると、多様な住まい方の答えが返ってくるので、それに寄り添っていくと自然と自由な設計になるんです。

リノべる。本社ショールーム

――自由度の高い設計を受け止める施工部隊も大変だと思いますが、施工の強さの秘訣は?

安江 施工はパートナー企業と一緒に手掛けています。簡単なものではありませんが、それをポジティブにとらえてくれるパートナー企業も多く、中には、「決まった建物をつくるのはもう飽きたよ」という意見をいただくこともあるんです。毎回、違う設計図に沿って、プロとしてのプライドと共に施工することの楽しさを感じながら携わってくださる方もいらっしゃいます。パートナー企業もやりがいをもって、メンバーの一員として参画くださることが、施工部隊の強みです。

――パートナー企業は、施工の際にどんな工夫をされていますか?

安江 どれだけ先を読めるかがカギになりますね。棚一枚をつくるにしても、一般的に出回っている建材を使えば特に問題は起きにくいんです。これがお客様の理想に近づけるために建材も自由に選択していった場合には、反りや割れが出る可能性がある、などの課題が生じることもあります。また、躯体の壁の状況など解体してみてわかることも多いので、途中で仕様変更が必要となることもあります。

ただ、それを全て諦めてしまうとお客様らしい暮らしを提供できなくなくなります。予見できる部分については事前に顧客にしっかりと説明し、納得した上で進めていくことと、都度、社内の担当と連携し柔軟に対応すること。これがすごく大事だと考えているため、徹底しています。

――今後、建材会社などと連携して新建材の開発も考えられるのでしょうか?

安江 将来的にありえると思います。リノベーションは本来、環境に優しいものですが、実際には内装を壊して、ゴミも大量に排出していますから。もっとゴミを出さずに済んだり、建材も再利用できるようになれば、より環境に優しいビジネスになっていくと考えています。


件数をこなさなければ、知見も溜まらない

――施工に適用できる技術開発などは?

安江 細かな技術開発までは進展していません。ただ、こういう構造であれば対処はこうしなければならない、といったパターンも見えてきました。リノベーションの件数を重ねていく中で、パターンに沿った施工方法の知見が日々増えているんです。たとえば、水回りを変更する時は、一定の範囲内でないと不具合が発生する、などの具体的なデータも溜まってきています。

リノベーション会社も色々ありますが、知見を貯めるにはある程度の件数が必要です。リノベるでは年間約700件超の物件を提供しているので、いろんなパターン・トラブルに対する対処方法がわかってきていますし、それが施工力にも活かされています。

――協力会社に登録されている工務店の技術向上、品質向上についてはどうお考えですか?

安江 パートナー企業とは、社内の担当と一緒に案件を進めていくカタチですが、工務店によって得意、不得意な技能がありますので、社内で教育チームを結成し、改善を共に行っていきます。

――協力会社に登録されている工務店の年齢層は?

安江 現場監督で言えば、40~50代。若い方は少ない印象があります。工務店は育成と採用に苦慮しているようです。時間はかかると思いますが、現在、海外人材も含めた多能工人材の育成を進めています。施工現場で活躍できるよう、技術を身につけるスキームをつくろうと動き出しています。

リノベーションでは多能工が必須

――多能工を育成する目的は?

安江 リノベーションは一つの工種だけではなく、多くの工種が同時に入らないと工事が進まないんです。一つの現場でも6、7種類の工種の技能を持つ建設職人が数回に分けて入るのですが、一つの工種が欠けるだけでも工事が進みません。

たとえば、大工が工事を進めようとしても、「電気工事の職人さんが終わっていないから、これ以上進めないよ」ということが起こりうるんです。その点で、特にリノベーション工事では、多くの工種の技能を持つ多能工がいることは極めて有用です。多能工がいると工事現場の潤滑油になり、スムーズに現場が流れていきます。

一つの工種をきっちりと行う職人さんはもちろん大事ですが、たとえば、大工や仕上げの職人さんに職能を広げてもらえたら、さらに力になるでしょう。そんな教育制度も検討しているところです。

――若者が建設職人の仕事に入職したいと思わせる動機の一つに賃金があると思いますが。

安江 そのためにも、まずは業務効率を進めることが第一です。建設業でもテック化が進展しており、従来1件しかできなかったことが2件できるようになれば、生産性は向上します。

また、施工に付加価値をつけるという方法もあります。若い方に建設職人の世界を目指してもらうためには、仕事の価値を高めていくことが必要です。

しかし、規格化が進み、決まりきった作業をするだけの建設職人になってしまうとつまらないですよね。ですから、身に付けた技能をしっかり活かせることが必要なんだと思います。私たちも職人の技能を活かせる設計を考えるとともに、その技能がお金に変わっていく道をつくってあげないといけません。現場仕事は、大変な仕事ですが、やりがいのある仕事ですし、建物をつくることはとても楽しいですから。

――現場の生産性向上も大事ですね。

安江 建築現場は連絡や確認事項が多いので、それを減らすだけでも業務はだいぶ軽減できます。例えば、現場に行かなくても、監督が工事の現場を確認できる世界が到来しようとしているので、よりスムーズに現場を管理しやすくなるでしょう。

また、工務店は資材調達がとくに大変ですが、設計側で決めた建材がそのままダイレクトに発注できれば、大工は身一つで現場に入ることができて、資材が現場に揃っているようになり、作業に集中できます。今は、現場の状況を写真でやり取りして進捗状況を確認するところまで導入が進んでいます。近い将来、作業が終わったら写真送付とともにタスク終了報告もできるようになるはずです。

リノベる。桜ヶ丘ショールームの施工の様子

リノベーションという流れは、20年程前に始まり、10年程前から広がり始めてきました。しかし、リノベーション特有の技術はまだ生まれていません。最近では、工事規模の大きいリノベーションも増えており、まだまだ多くの課題があります。解決する手段として新技術の開発もありますが、これには一定の会社規模が必要です。私たちは、トップランナーとして、今後その分野を強化していきたいと考えています。


NTT都市開発らと提携し、まちづくりにも参画

――リノベるは、NTT都市開発など大手企業と提携していますが、スタートアップ企業と大手が提携する意味はどこにあるとお考えですか?

安江 大手と連携し、大規模プロジェクトについて様々な施工を経験していくことで、新たな可能性を見いだせると考えています。提携については責任も感じていますが、先ほど申し上げたような人材や技術開発、品質確保などを伸ばしていくことは、トップランナーとしてやっていく責務があると感じています。

――各社との提携で、まちづくりへの参画も進むのではないでしょうか?

安江 今、まちづくりについては企画から参画するという関わり方が増えています。例えば、株主である東急所有の築21年の学校施設を、徳島県のアンテナスポットとして、レストランやマルシェを備えた宿泊施設にリノベーションした例があります。サブリースで得た収益の一部を隣接する区立公園の再生に投資し、老朽化した公園を再生し、エリア価値の向上を見据えた取組みも行いました。

また、NTT都市開発との業務提携を行いました。NTTグループの保有資産の利活用を共同で手掛けていく予定です。保有資産を多く持っている企業ですので、シナジー効果を発揮できると期待しています。私たちは不動産業界、金融業界とも関わりが多いですから、様々な提携の在り方が考えられます。

――話は変わりますが、安江さんが建築に興味を抱いたきっかけは?

安江 大学は建築専攻ではなかったのですが、在学中に近代建築史の講義を受け、興味を持ったことが建築の世界に飛び込んだきっかけです。大学卒業後に昼間はアトリエの設計事務所でバイトをしつつ、夜は建築設計の専門学校に通いました。

専門学校を卒業後は、首都圏で9坪ほどの狭小な注文住宅をつくりたいという顧客に対応する設計事務所で設計業務を行っていました。その後はオフィス設計もやってみたいという意欲もわいてきて、オフィスパーテーションを製作する会社の設計部門に転職しました。

この会社では、「増床したい、もしくは移転をしたいのでレイアウトを考えて欲しい」や「リフレッシュスペースをつくるので、原案を考えて欲しい」などの要望に対して、いろいろ提案してきましたね。

結果、住宅とオフィスの両方を経験しましたが、やはり身近な住宅に興味を惹かれ、リノべるに入社し、今に至ります。

――あえて、リノベーション設計に意欲を持った理由は?

安江 最初の職場の設計事務所は首都圏の注文住宅設計でしたが、都心部に注文住宅を建築するには、土地を入手することから始めなければなりません。でも、やっぱりそれは難しいことで、別の手段で住宅を提供する方法がないかと模索していた時に、リノベーションと出会いました。

建築設計では内装空間をつくることが好きだったので、だったら自分のやりたいことがリノベーションで実現できるな、と。

――仕事で心がけていることは?

安江 顧客にしっかりと情報伝達をし、共通認識を持ってもらうことが大事ですね。そのためにも、メリットとデメリットの双方を丁寧に伝えることを心がけています。自分の作りたいものを一方的に押し付けるのではなく、あくまでジャッジするのは顧客ですから。

――リノベるには、どういう方が向いている?

安江 リノベるはスタートアップ企業なので、挑戦意欲や新しいものを生み出していくことに価値を感じる方、また社会のどこに課題があるのかを見つけ出して、それに対してチャレンジする人材が向いていると思います。

そのためにも、会社としても社員の働き方を大切にしています。豊かな暮らしの実践者であることが、お客さまへの豊かな暮らしの提案につながりますから。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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