件数をこなさなければ、知見も溜まらない
――施工に適用できる技術開発などは?
安江 細かな技術開発までは進展していません。ただ、こういう構造であれば対処はこうしなければならない、といったパターンも見えてきました。リノベーションの件数を重ねていく中で、パターンに沿った施工方法の知見が日々増えているんです。たとえば、水回りを変更する時は、一定の範囲内でないと不具合が発生する、などの具体的なデータも溜まってきています。
リノベーション会社も色々ありますが、知見を貯めるにはある程度の件数が必要です。リノベるでは年間約700件超の物件を提供しているので、いろんなパターン・トラブルに対する対処方法がわかってきていますし、それが施工力にも活かされています。
――協力会社に登録されている工務店の技術向上、品質向上についてはどうお考えですか?
安江 パートナー企業とは、社内の担当と一緒に案件を進めていくカタチですが、工務店によって得意、不得意な技能がありますので、社内で教育チームを結成し、改善を共に行っていきます。
――協力会社に登録されている工務店の年齢層は?
安江 現場監督で言えば、40~50代。若い方は少ない印象があります。工務店は育成と採用に苦慮しているようです。時間はかかると思いますが、現在、海外人材も含めた多能工人材の育成を進めています。施工現場で活躍できるよう、技術を身につけるスキームをつくろうと動き出しています。
リノベーションでは多能工が必須
――多能工を育成する目的は?
安江 リノベーションは一つの工種だけではなく、多くの工種が同時に入らないと工事が進まないんです。一つの現場でも6、7種類の工種の技能を持つ建設職人が数回に分けて入るのですが、一つの工種が欠けるだけでも工事が進みません。
たとえば、大工が工事を進めようとしても、「電気工事の職人さんが終わっていないから、これ以上進めないよ」ということが起こりうるんです。その点で、特にリノベーション工事では、多くの工種の技能を持つ多能工がいることは極めて有用です。多能工がいると工事現場の潤滑油になり、スムーズに現場が流れていきます。
一つの工種をきっちりと行う職人さんはもちろん大事ですが、たとえば、大工や仕上げの職人さんに職能を広げてもらえたら、さらに力になるでしょう。そんな教育制度も検討しているところです。
――若者が建設職人の仕事に入職したいと思わせる動機の一つに賃金があると思いますが。
安江 そのためにも、まずは業務効率を進めることが第一です。建設業でもテック化が進展しており、従来1件しかできなかったことが2件できるようになれば、生産性は向上します。
また、施工に付加価値をつけるという方法もあります。若い方に建設職人の世界を目指してもらうためには、仕事の価値を高めていくことが必要です。
しかし、規格化が進み、決まりきった作業をするだけの建設職人になってしまうとつまらないですよね。ですから、身に付けた技能をしっかり活かせることが必要なんだと思います。私たちも職人の技能を活かせる設計を考えるとともに、その技能がお金に変わっていく道をつくってあげないといけません。現場仕事は、大変な仕事ですが、やりがいのある仕事ですし、建物をつくることはとても楽しいですから。
――現場の生産性向上も大事ですね。
安江 建築現場は連絡や確認事項が多いので、それを減らすだけでも業務はだいぶ軽減できます。例えば、現場に行かなくても、監督が工事の現場を確認できる世界が到来しようとしているので、よりスムーズに現場を管理しやすくなるでしょう。
また、工務店は資材調達がとくに大変ですが、設計側で決めた建材がそのままダイレクトに発注できれば、大工は身一つで現場に入ることができて、資材が現場に揃っているようになり、作業に集中できます。今は、現場の状況を写真でやり取りして進捗状況を確認するところまで導入が進んでいます。近い将来、作業が終わったら写真送付とともにタスク終了報告もできるようになるはずです。

リノベる。桜ヶ丘ショールームの施工の様子
リノベーションという流れは、20年程前に始まり、10年程前から広がり始めてきました。しかし、リノベーション特有の技術はまだ生まれていません。最近では、工事規模の大きいリノベーションも増えており、まだまだ多くの課題があります。解決する手段として新技術の開発もありますが、これには一定の会社規模が必要です。私たちは、トップランナーとして、今後その分野を強化していきたいと考えています。