現場マネジメント、舗装の魅力、やりがいとは?
NEXCO中日本の進める新東名6車線化事業(御殿場〜浜松いなさ)で2本の舗装工事を手がける舗装工事大手の株式会社NIPPO(東京都中央区)の現場には、24名のスタッフがいる。この中には、以前紹介した3名のドボジョのほか、3名の外国籍の女性もいる。
新東名6車線化事業(NEXCO中日本HPより)
この職場を取り仕切るのが工事事務所所長の三輪素理(みわ・もとまさ)さん。NIPPOに入社して18年間、主に高速道路の舗装工事を手掛けてきた同社エースの1人だ。建設現場にも働き方改革が押し寄せる昨今、三輪さんが取り組む舗装工事の現場マネジメントとはどのようなものなのか。舗装の魅力、やりがいなどを含め、話を聞いた。
やっぱり現場に出たい
――やはり「舗装をやりたい」ということで、NIPPOに入社したのですか。
三輪素理(みわ・もとまさ)さん
三輪さん NIPPOに入る前は、大学院で舗装系の研究室にいて、アスファルトの劣化の研究などをやっていました。舗装に関連する会社に入ろうと思っていたので、どうせなら一番大きな会社にしようということで、NIPPOに入社しました。
入社時点では、研究職に就きたいと思っていましたが、入ってから「やっぱり現場に出たい」と考えるようになりました。実際に現場に出ているうちに、現場に居着いちゃった感じです(笑)。
――これまでのお仕事はどんな感じですか。
三輪さん 最初の2年間ぐらいは、四国の出張所勤務になり、ゼネコンさんの外構工事とか、国土交通省や県など発注の舗装工事を担当しました。その後、東海環状自動車道の舗装工事の現場のほか、いくつかの現場を経験しました。
本社に戻って、応札支援業務の担当になり、技術提案の資料作成などを行いました。再び現場に戻って、愛知県内の新東名高速道路の新設工事の現場のほか、富山のほうで補修工事などをやって、現在の新東名6車線化工事の現場に入ったという感じです。高速道路の舗装工事が多いですね。
舗装は最後のお化粧。美しく仕上げたい。
――高速道路の舗装の施工管理は、一般道路とは違いますか。
三輪さん 一般道路と比べ、車両が高速で走るので、より平坦性が求められる点ですね。舗装を平らにするのは、マニアックな技術で、機械を操作する際には、いかに同じスピードで、同じ厚さで均すかが命みたいなところがあります。「鉄は熱いうちに打て」と言いますが、舗装も材料を供給するタイミングが数分でもズレると、平坦性が確保できなくなるので、材料を運ぶロジの確保などもシビアになってきます。そういったところへのこだわりが、平坦性の数字として現れてきます。
平坦性の確保には、いつも苦労します。どことは言えませんが、以前自分が施工管理した高速道路を走るたびに、「ここはちょっと失敗したなあ」と感じることがあります(笑)。
――舗装現場の魅力、やりがいはなんでしょうか?
三輪さん 舗装について、一般の方々はあまりイメージできないと思いますが、舗装工事に入る直前の高速道路の様子を見ると、とても道には見えないと感じると思います。土工部分なんかは、平らに土を盛っているだけだし、見た目は更地に近いです。トンネル部分も、覆工はしていますが、地面はやはり更地状態なんです。
三輪さんが手掛けた新東名高速道路新城舗装工事(引渡し時)
共同溝や排水設備、ガードレール、監査廊など、道路を供用するのに必要な部分は、舗装工事に入っているんです。つまり、一般の方々が道路だと思う部分は、だいたいわれわれ舗装会社が行っているんです。舗装の仕事は道路を仕上げる仕事という点で、魅力、やりがいを感じています。道路の最終形をつくり上げるので、達成感も大きいです。
発注者さんから、舗装という仕上げの段階まで来たので「あとは頼んだよ」という空気を感じることもあります。こちらから「ここはこうしましょう」と発注者さんに提案すると、それが通ることも珍しくありません。「ものづくり感」を味わうこともできます。
三輪さんが手掛けた新東名高速道路新城舗装工事(完成時)
道路が供用開始する段階では、ゼネコンさんはもう現場にはいません。開通イベントなどは、舗装会社が協力して行うことが多いんです。工事を最後まで見届けることができるのも魅力です。あと、土木工事に比べ、舗装工事は勝負つくのが早いので、飽き性に向いているかもしれません(笑)。同じ現場に5年もいることはまずないですから。
舗装工事は、地域住民、ユーザーさんに近いところがあります。例えば、国道だと、沿道の住民がユーザーさんであるわけです。舗装工事が終わりに近づくと、「キレイな道ができたね〜」などと声をかけられることがあります。モノがほとんどできあがっている段階なので、ユーザーさんも率直に喜んでくれるわけです。意外とそういうところが、舗装会社の面白さだと思っています。
――自分が理想とする舗装のイメージとかはありますか?
三輪さん それはありますね。私だけでなく、舗装の人間は皆それぞれ理想のイメージを持っていると思います。変な言い方になりますが、舗装は「最後のお化粧」みたいなところがあるので、「化粧である以上、美しく仕上げたい」という気持ちはあります。
1つ上の人の仕事を見ながら、考えて仕事をしなさい
――現場のマネジメントで心がけていることはありますか。
三輪さん 事務所の社員には、「次につながる経験をする現場にしたい」という思いでいます。私は社員に対して「与えられた役割の1つ上の仕事を見ながら、日々考えて仕事をしなさい」と言っています。自分に与えられた仕事、指示されたことだけやっていると、次の立場になったときに、ちゃんと役割を果たせないことがあります。それは仕事のイメージができていないからです。上司なり先輩なりが、なにを考えて仕事をしているのかについて、多少なりとも理解しつつ仕事をしていくことによって、成長していってもらいたいと思っています。
それと、「やり方は問わない」です。もちろん到達点は伝えますが、どういうアプローチでいくかは、できるだけ社員本人が自分で考えてもらうようにしています。自分で考えてこそ、経験したことになるからです。わからないことは聞いてもらって全然OKですが、基本は「自分で考える」です。
あとは、作業員さんに対する指示の出し方ですね。こちらが意図していることがちゃんと相手に伝わっているかどうかについては、気をつけて見ています。ちゃんと伝わっていないと、だいたい間違ったモノができちゃいますので。若い社員で多いのが、「私はちゃんと言いました」という言い訳ですが、しばしば「それではイカンでしょ」と注意しています。言うだけでなく、相手がちゃんと理解したか確認する必要があります。最終的には、できあがったモノを見て確認する必要があるわけです。ここをちゃんとやっておかないと、安全面でもトラブルにつながりかねません。
いずれ人が機械を操作できない時代が来る
――現場社員に求めるスキルとしては、なにを挙げますか?
三輪さん やはり、経験とコミュニケーション能力ですね。それと知識です。なにより対人スキルは高いモノが必要です。
――NIPPOではICTの開発も進めていますが。
三輪さん 機械を自動制御する技術は、今後現場でより必要になってくると考えています。舗装機械を操作する熟練の技能者は、今本当に少なくなっているからです。例えば、路面などを整地するモーターグレーダーという機械があるのですが、これを上手に操作できるオペレーターさんは、ほとんど存在しないのが現状です。NIPPOにはまだ操作できる人間はいるのですが、地元の舗装会社さんではほとんどお目にかかれません。
ICTでモーターグレーダーを制御すると、未熟でも、そこそこ操作できるわけです。逆に言えば、ICTがないと、いずれ機械が動かせなくなる時代が来ます。アスファルトフィニッシャーという機械も、そうです。自動制御がないと、若いオペレーターさんは、うまく扱えません。
時間外労働を減らすには「分業」しかない
――現場での「働きやすさ」について、どう取り組んでいますか。
三輪さん 時間外労働を減らすには、「分業」しかないと思っています。今すぐに完全週休2日にするのは現実的ではありません。現場の仕事量が減るわけではないので、まずは個人の仕事量を減らさないことには、働き方改革は夢物語で終わってしまいます。分業するためには、属人的な仕事を減らす必要があります。現場では、担当者しか仕事の内容がわからないというモノがスゴく多いんですが、それを複数の人間で共有したりすることで、最小限まで減らしていくわけです。今、そういうことに取り組んでいるところです。
現場では、工期的にキツくなると、土日に出勤する必要がどうしても生じます。分業ができていれば、全員出勤する必要はなく、代替要員を確保することができます。土日に出勤する社員は、平日に代休をとることができます。
――作業員さんはどうですか。
三輪さん 作業員さんには「土曜日も働きたい」という思いがある場合もあります。その理由には、日当などの待遇の問題もあるのですが、遠方から現場に来ている作業員さんにとっては、出稼ぎ感覚があるので、休むより働いたほうが良いということもあるわけです。彼らにしてみれば、土日が来るたびに帰るわけにもいかないというわけです。工期的な部分、作業員さんの稼ぎを考えると、土日完全閉所は難しいです。
――完全週休2日の実現は、なかなか難しいところですね。
三輪さん そうですね。有無を言わさず「ウチは完全週休2日します」と宣言するのも一つの手だとは思いますが、作業員さんは、その日休まずに、別の現場で仕事をするということもあり得ます。
ドボジョ3名に”贈る言葉”
左から、三輪さん、増谷さん、中川さん、寄川さん
――今現場にいる3名のドボジョにメッセージをお願いします。
三輪さん 寄川さんは、彼女が新入社員のときに同じ現場で働いた仲で、仕事の進め方などを指導したことがあります。NIPPOの女性の土木総合職では、彼女が第一人者です。このままスクスクと育ってもらって、切り拓いていって欲しいと思っています。できるだけ早い時期に、現場所長をやってもらいたいですね。
中川さんについては、彼女はもともと研究職希望でしたが、ウチの現場では、工事担当としてちゃんといくつかの施工班を任せています。最初のころは、勝手がわからず苦労したと思いますが、真面目にコツコツと取り組むタイプなので、この間に非常に成長したと感じています。この現場だけでなく、他の現場でもさらに経験を積んでもらいたいと思っています。現場を経験したからこそ、研究に活かせるアプローチもあると思うので。本人はイヤがるかもしれませんけど(笑)。
増谷さんは、まだ現場に入ったばかりなので、今まさに頑張っているところだと思います。幸い、上に2名の女性の先輩もいるので、うまく使ってもらって、彼女の後輩にもうまくバトンタッチしていってもらえるような存在になってほしいです。寄川さんとは違うタイプだと思うので、周囲とうまくコミュニケーションをとって、自然体で仕事に臨んでいってもらえればと思っています。