大東建託による「CLT工法の需要創造戦略」
近年、デベロッパーやゼネコンが続々とCLT工法への参入を果たしている。
木造が賃貸住宅工事全体の8割を占める大東建託も例外ではなく、最近では情報発信施設「ROOFLAG(ルーフラッグ)賃貸住宅未来展示場」を江東区東雲にオープン。三角形大屋根部分に大スパンのCLTを採用し、注目を集めた。
2020年6月には、岩手県でCLT工法を用いた住宅の第1号棟も完成。今後、CLT工法に注力していく姿勢が伺える中、「賃貸住宅ではCLT工法を活用し、新たな需要を創出していきたい」と語る、大東建託株式会社の技術開発部 技術開発課兼環境企画課の大久保孝洋課長にCLT工法普及の戦略を聞いた。
独自CLT工法を開発し、初の商品化に成功
――CLT工法の研究開発を始めた経緯は?
大久保孝洋氏 国内におけるCLT工法は、この5年間で注目を浴び、普及に期待が掛かっている工法です。海外では20年以上も前に開発され、現在は(一社)日本CLT協会が普及促進のため、さまざまな活動を展開しています。
ただし、日本への導入当初は法整備も進んでおらず、設計すらできなかった状態でしたし、ツーバイフォー工法のように国として工法が確立している状態ではなかったので、設計にあたっては実験データを検証しながら、設計・施工してきた経緯があります。
このような状況下で開発を進めてきたのには理由があり、当社の年間住宅供給数の8割が木造建築ですが、木造建築の高さは、3階建てまでが一般的です。
4階建て以上になると、他社のRC造やS造と差別化できる工法が必要だということで、「木造で耐火に優れたCLT工法を導入すれば、新たな市場を創造できるのでは?」というマーケティングから着手し、開発を進めてきました。
大東建託の「ROOFLAG(ルーフラッグ)賃貸住宅未来展示場」。三角形の大屋根に大スパンのCLTを採用
「ROOFLAG(ルーフラッグ)賃貸住宅未来展示場」の内観
――研究開発の進展は。
大久保 独自に開発した耐火外壁と接合金物をCLTと組み合わせることで、他社にはない優位性のあるCLT工法を開発し、中層建築への適用を可能にしました。
構想から4年掛かりましたが、国内初の商品化にも成功しています。それが木造4階建て賃貸住宅「Forterb(フォルターブ)」で、すでに販売も開始しました。
商品化した「Forterb(フォルターブ)」
他社でもCLT工法での木造建築を施工していますが、話題性を狙ったスポット建築に限定されている印象です。単純にコストだけを考えれば、RC造で建築できますので。
当社の強みは商品化にあり、間取りやデザインなどいくつかのパターンをつくり、設計の手間や人件費を削減した点にあります。プレカット工場でのデータも流用することができますし、構造設計でのロスも限定的です。
これをスポット建築で設計や構造計算を行うとさまざまなロスが出ますが、当社が一括して規格化・工業化を提案することで、ロスを低減できたことに商品化の意味があると考えています。
オリジナルの接合金物と耐火外壁で、機能と施工性を両立
――他社のCLTとの違いは?
大久保 技術的な一番の違いは、オリジナルの接合金物を独自開発し、接合部の強い強度と変形性能を実現したことにより、地震に強い構造である点です。
また、CLTは4階建ての規模になると公に規格化された金物がなく、各社で独自開発する必要があります。その際、当社では現場の省力化と品質の安定化に焦点を当て、開発を行いました。
また、職人の腕により、施工の品質が左右されては困りますので、誰がやっても同じ強度を維持できるように、工場ではCLTにオリジナル金物一式を工場で組み立て、ピンを差し込むだけの「ドリフトピン仕様」とすることで、現場での作業時間を大幅に短縮※できるようになっています(※海外で使用されている従来の金物を用いた工法と比較した場合)。
CLT接合部のオリジナル金物
デザイン面では、「Forterb(フォルターブ)」は木目を活かしています。耐火外壁は被覆をしなければならないので、手間が掛かります。そこでなるべく凸凹を無くしたキュービックなデザインを採用し、一方でガラス手すりなどで縦と横のデザインを強調することで、外観の自由な表情と木のぬくもりを演出しています。
また、木造とはいえマンションですから、エントランスにはこだわり、高級感のある仕上げにしています。
高級感のあるエントランス
――耐火性は?
大久保 4階建て以上は1時間耐火構造が必要で、躯体を耐火被覆材で覆う必要があります。そのため、屋内側にはプラスターボードを二重張りとし、屋外側は繊維混入セメント板を二重張りとすることで、火災が発生してもこの被覆により、木部が炭化して強度が失われる現象を防ぐことができます。この仕様で個別に大臣認定を取得しました。
この耐火外壁の組み合わせは工場で施工することが可能になり、現場の作業削減が実現しています。接合金物と耐火外壁の組み合わせが、国内では大きく突出した技術であり、工期短縮や現場の簡易施工に貢献していると自負しています。建て方は早く、ツーバイフォー工法と同じスピードで進みます。
CLTなら施工も容易に
――施工面での具体的な特徴は?
大久保 ツーバイフォー工法と比較すると、ピンや釘を打つ量は圧倒的に少なく、外壁の固定化は早く進みます。
工場で耐火外壁をパネル化し、現場に運搬して組み立てます。ただし、道路側からの施工となるため、トラックと揚重機が必要です。
海外のCLTは高さが3mクラス、長さは12m規模です。それをレッカー2台で吊るため問題ありませんが、日本では道路交通法上、こうした大きいものは運べないので、パネルの大きさは海外よりも小さくなります。しかし、3.6mのCLTでも重さは1t近くになりますから、揚重機での吊り上げ計画は非常に難しい。
組立の習熟度については、およそ1回程度行えば当社の協力会社は十分に要領を得られるレベルです。1人知識のある番頭役の技能者が指示を出すことができれば、あとは経験の浅い作業者でも十分に施工が可能です。
――現場で施工した感想は。
大久保 ツーバイフォー工法の延長感覚で施工すると大変ですね。パネルの重量はありますし、スピードは変わらないにせよ、慣れない金物も使いこなさなければなりません。初めての工法での施工で生みの苦しみや抵抗感があるのは事実です。ですが、普及を目指すにはこの課題を乗り越えていかなければなりません。
ただし、比較対象はツーバイフォー造ではなく、RC造です。例えば、同規模のRC造で施工するには、躯体工事で多くの職人と多様な職種が必要になりますが、CLTであれば圧倒的に少ない人数で、かつ大工のみで施工できるので、優位性があると思います。
CLT工法の技術的な弱点は「遮音性」
――商品化までの検証は?
大久保 2019年の春に、独自に開発したCLT工法での実大棟3階建てを建設し、施工性に加えて入居後の居住性、たとえば遮音性や断熱性などの基本性能も検証しています。また、「暖かいか涼しいかなどは、自分で体感してみるべき」という社命を受けて、実際に私が住みながら検証しています。
施工性と居住性を検証するため実大棟を建設
――CLT工法の優位性や、逆に欠点は判明しましたか?
大久保 CLTは密実な木の塊です。コンクリートの1/13、鉄の1/440の熱伝導率であるため、断熱性に優れ、夏の夜も寝苦しくなく、冬は足元から暖かさを感じることができます。通常のRC造であれば当社の場合、150mmの壁に25mmのウレタンを吹き付けますが、CLT自体に断熱性が確保されているわけです。
一方で遮音性ですが、これがCLT床を共同住宅で採用する場合の課題ととらえています。210mm厚のCLTを床に用いた場合でも、重量音に対して太鼓のように響いてしまうため、海外では、砂を100mm以上敷いてタイルを張ったりするなどの工夫がされています。
そこで当社では、これまで当社が培ってきた在来工法での遮音技術を応用し、床にはCLTを採用せずに在来の梁で構成することとしました。集成材の梁+床合板+当社オリジナルの遮音材を用いることにより遮音性を担保しています。
地盤によってはRC造とコストが逆転する
――RC造と比較した際のコストは?
大久保 単純にRC造と比較すると、まだ少しCLT造のほうが高いです。それでは、なぜ商品化したかと言えば、地盤の条件によってはコストが逆転するからです。
CLTの建物荷重はRC造と比較して60%ほどで、建物下の杭設計が圧倒的に有利になります。場所にもよりますが、RC造で建築すると50mの杭を打たなければならない地盤でも、CLTであればベタ基礎も可能です。
――現在、木造が8割、RC造が2割ですが、このシェアが変わる可能性は?
大久保 現状のシェアに加え、新たにCLTの需要を1割、創造する考えです。ですから、本当は11割としたい気持ちがあります。当社にとって、CLT工法に注力するのは、新たな需要の創造が目的です。
RC造に比べCLT工法を取り入れれば荷重が少ない分、地盤に対して有利になるため、これまで他社がRC造では建てられなかったところに、当社のCLT工法で新たな提案の機会、さらには市場を創っていきたいと考えています。
――施工性や居住性以外に、CLT工法を採用すべきアドバンテージは?
大久保 解体にあります。現在、相続対策で既存の建物を解体し、新築マンションを建築する動きもありますが、一般的なRC造のマンションを解体すると、建物の大きさなど条件にもよりますがおおよそ1億円かかります。かなり大きな負担となりますので、子や孫に安心して相続してもらうためには、解体の点でもRC造よりも木造のほうがライフサイクルコストを考えると有利です。
「木造よりRC造」というイメージを乗り越え、年間施工100棟を目指す
――6月に、CLT工法を用いた住宅の第1号棟が岩手県に完成したが、今後の展望は?
大久保 この建物は、当社の協力会社の社員寮です。ツーバイフォーのパネル工場の会社で、CLT工法の開発もサポートしていただき、実験的な材料も使いながら、検証も兼ねて施工した経緯があります。寒い地域ですから、断熱性の高いCLT住宅は住み心地が良いと思います。
CLT工法は家賃アベレージが高い地域に適用できると考えています。まだまだ追いついてはいませんが、首都圏を中心に年間100棟の施工を目指しています。
一般的には木造とRC造を比較すると、RC造が上位というイメージです。それを乗り越えていくにはまだまだ時間が掛かります。今後は、まずは社員研修を通してCLTのメリットや当社の優位性などを社内に浸透させ、CLT工法が優位性を発揮できる地盤の場所を開示することにより、販売促進につなげていきたいです。
――CLT工法を普及させるにはどうすればいい?
大久保 住宅品質確保促進法(品確法)の改正や、設計の手順の告示化ができていけば、設計がしやすくなり、普及にもつながると思います。今回、オリジナル金物や耐火外壁の施工方法などの大臣認定を取得しましたが、これを告示で済ますことができれば、もっと普及していくと思います。
また、法律面に限らず、CLT工法の設計をできる人が限られているので、CADのような設計ソフトが広まっていくことも大事です。それらに対しての補助金や改正法による後押しがあれば、発展が期待できると思います。
あとは、他社も含めて次々とCLT実用建物を増やしていかなければ、材料が安くなりません。林野庁にも継続的に補助金を出していただきたいと期待しています。
CLTを活用し、公共事業にも参入?
――公共建築への導入は考えている?
大久保 当社は民間工事が主で、これまで公共事業を手掛けていませんが、今後はPFI事業でチャンスがあれば公共事業にも取り組み、街の脱炭素化にも貢献していきたいと考えています。
私は環境企画課長も兼ねておりますが、CLT工法は環境と相性がいい。CO2排出削減効果も高く、持続的な森林環境保全が実現します。「Forterb(フォルターブ)」は、「令和元年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰」と「脱炭素チャレンジカップ2020 環境大臣賞金賞」をそれぞれ受賞し、技術開発とともに環境面も評価されたという実績があります。
ただし、受賞がしたくて取り組んでいるわけではなく、環境に貢献できる工法だからこそ、会社の主力事業としていきたいという思いが強いです。CLT工法への取り組みはこれで終わりではなく、さらに二の手・三の手に取り組み、この続編をリリースできるよう今、取り組んでいますので当社の今後の取り組みにご期待ください。