木造をアートにした「ROBRA」が大反響
三菱地所ホームは、木造建築でより自由なデザインを実現する「Flat Mass Timber構法(FMT構法)」を開発。同構法を導入した木造注文住宅ブランド「ROBRA(ロブラ)」が、木造をアートの領域にまで広げたことで、大きな反響を呼んでいる。
「これから着工件数が減少していく中、新たな市場を模索し、デザインに感度の高い富裕層をターゲットにしていく」と語る三菱地所ホーム株式会社 商品開発部部長兼商品開発グループリーダーの石川一氏に、FMT構法開発の秘話について話を聞いた。
設計事務所に負けないオリジナル構法目指す
三菱地所ホーム株式会社商品開発部部長兼商品開発グループリーダーの石川一氏
――FMT構法を開発した経緯は?
石川さん まず、日本の住宅着工市場は少子高齢化で縮小し、また新型コロナの影響により今後2年間で着工棟数が減少するとの予測があります。そこで、より魅力ある木造注文住宅を提供し、新たなターゲットへの訴求を目指したことが背景の一つです。
次に、当社は戸建て住宅をメインに事業展開していますが、従来の木造軸組工法や2×4工法の定型工法では、構造上の法規制が多く、海外のような自由な設計を行うことはハードルが高かったんです。三菱地所の関連事業推進室CLTユニット統括も兼務している関係で、ヨーロッパやカナダを訪問し、海外では相当自由な設計をしていると感じました。そこで、新構法を開発し、多様な要望に応えていくことが重要ではないかと考えました。
今の住宅購入層はSNSなどを通して様々な建築に触れ、目も肥えています。世界的にも有名な建築は木造が中心で、カスタマーは専門家でなくとも建築や住宅に詳しく、感度も高い時代です。デザイン中心に満足される木造注文住宅を提供したい思いもありました。
最後に、企業としてSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、地球温暖化防止や国土保全につながる森林資源の循環利用に取り組んでいくためです。
――何から着手した?
石川さん お客様のニーズが多様化しているため、2×4工法だけでなく、木造技術の「デザイン」に圧倒的にこだわり、他社や設計事務所のRC提案に負けないオリジナル構法を目指すところから始めました。
海外ではオール木造はほぼなく、特に応力が掛かる接合部は鉄やRCを上手にミックスして使うことが主流になっているので、ハイブリッドとしながらも適材適所で木にこだわりました。
自由度の高い設計が実現するFMT構法
――FMT構法の概要は?
石川さん 木と鉄骨によるハイブリッド構法で、壁や梁などの構造要素が空間内に出てくることが少ない、シンプルで頑丈な造りとなっています。平面的に配置された壁が少なく、出っ張った梁がないスッキリとした構造体を実現し、フラットな空間ができあがります。
また、外観デザインについても、各層を捻ったような動きのあるデザインやキャンチを活かした箱体が飛び出したデザインなど、自由な建物形態が実現できます。
「ROBRA」の構造躯体
構造壁と構造スラブは、ヒノキを使った集成材厚板パネルとなっています。松を使うとヤニが表面に出て、ソファなどの家具を汚す可能性もあるので避けました。ちなみに、「ROBRA」の第一号モデルハウスを東京・世田谷区にオープンしていますが、高知県産材のヒノキを使っています。
また、鉄骨梁は通常、床を支えるため通常下にありますが、上に配置したことが大きな特徴です。室内空間で梁が出っ張るとすっきりしませんし、天井のあらわしを考えた時に、下に梁材があると途切れてしまうので、それで上に配置しました。
「FMT構法」の施工現場。梁のないフラットな天井と大空間
接合部では基本、ボルトやドリフトピンなどを使用しています。2×4工法では、釘やビスを多用します。ただ、今は職人不足が進行しているので、めり込みがないように釘を使うと施工管理に時間がかかります。その点、接合の部分はボルト、ナット、ドリフトピンで納めるほうが施工管理をしやすいメリットがあります。
木造軸組工法や2×4工法のように小断面を連続的に並べるのではなく、小断面部材を束ねた高い性能を持つ大断面部材をランダムに点在配置することで、効率的でシンプルな構造架構と自由な建物形態が実現しました。
さらに、大断面部材の性能を最大化する鉄骨部材のハイブリッド化で、シンプルな構造架構でありつつも、堅牢な建築物ができあがりました。これら様々な観点をまとめ、2019年10月に特許も取得することができました。
デザインに感度の高い人に訴求
――「ROBRA」は、やはり富裕層向けになるのでしょうか。
石川さん 従来の木造注文住宅よりも価格的には高くなるので、やはり富裕層向けになるかと思います。コンセプトは、「木造をアートにする」ことですから、富裕層の中でもデザインコンシャスの高い方向けになります。
従来の注文住宅では満足できない方は、設計事務所にRC造建築を依頼されます。しかし、設計にアンテナを張っている方は、21世紀は木造の時代が来ているということをよく理解されています。感性が高く、意匠にこだわりたい方にお届けできればと考えています。
――「ROBRA」第一号モデルハウスが東京・世田谷区に誕生しましたが、反響は。
石川さん 9月5日にグランドオープンし、現時点で2カ月が経ちましたが、反響は非常に高く、設計をお願いしたいという案件も5~6件あります。モデルハウスの訪問者数も多く、お金にゆとりがあり、設計に意識が高い層から大きな反応がありました。
モデルハウスの形状のデザインも大胆にしましたが、当社の技術力のフラッグシップをオープンにしたいと思いがありました。このモデルハウスのデザインそのままを建てるお客さまはなかなかいらっしゃらないと思いますが、ここまでの設計自由度が実現できることを見せたかったんです。
「ROBRA」建築事例イメージパース
――設計はどの部署が担当される?
石川さん 当社の「オーダーグラン設計室」のメンバーが設計対応します。自社の設計メンバーをどれだけ高く評価するかは難しいですが、木造建築の常識を覆すデザインと、高い設計技術により、お客様の要望にこたえる設計が実現できると自負しています。
――施工はいかがでしょうか。難易度も高そうですが。
石川さん 鉄骨造のような作り方なので、ボルトとナットの接合部分を間違えなければ、実はそれほど難易度が高い施工ではないんです。工事については鉄骨鳶を抱えている協力会社と連携して行います。
FMT構法を公共工事にも導入
――FMT構法は非住宅工事にも適用できると思いますが。
石川さん ええ。非住宅系の案件も進んでいます。現状では、耐火建築のスペックは持っておりませんし、建築物に適用する計算方法である「構造計算ルート3」にはまだ対応しておりませんので、今後、5階建てくらいの中層建築を普通に提案できるような技術開発や耐火性能試験を行いたいと考えています。現状、準耐火性能は持っておりますので、3階建てや防火地域ではない場所であれば商業施設としても建築できます。
実際に、FMT構法と2×4工法のハイブリッドによる賃貸と店舗を合わせた用途の建築計画も進んでいます。国も公共建築物の木化を進めておりますので、公共工事についてもFMT構法や2×4工法を駆使しながら、うまく提案できるような体制を整えていければと考えています。
今は、木造だからできないという時代ではありません。これまでは、S造やRC造でなければ不安という声がありましたが、店舗ではコンビニや銀行も木造で建て替えられるようになっているので、営業面も含めて、市場の拡大を目指していきたいと思います。