航空基地での除雪隊経験談
今月4日、札幌や函館などで初雪が観測されました。北国では毎年雪深い光景が広がっているのは、皆さんもメディアを通じてある程度認識されていると思います。
北国の建設業者は自治体から委託を受けて、冬季は道路等の除雪作業を行っています。
過去私が勤務していた海上自衛隊は、積雪が毎年ある青森県むつ市と八戸市に所在する2つの航空基地と京都府舞鶴市に所在する1つの航空基地で概略11月中旬から3月中旬までの間、施設職域の隊員を中心に除雪隊を編成し、主に航空基地の滑走路を中心に除雪を行っています。
自衛隊は常に即応態勢を維持しなければならないことから、どのような状況においても航空機を飛ばせるようにしなければなりません。そのため飛行場の除雪は任務遂行のための重要なミッションなのです。
今回は、私が勤務した京都府の航空基地での経験談をお話したいと思います。
除雪隊の体制
青森県と京都府の基地は、滑走路の規模や降雪・積雪量の違いから除雪隊の編成が違います。除雪機材についてはプラウやマスター、油圧ショベル等を使用することは同じなのですが、当直体制が異なります。
青森県の部隊は3直体制で編成されています。すなわち3日に1回が除雪当直になります。一方、京都の部隊は2直体制、すなわち2日に1回が除雪当直となるのです。
青森県と比較すると、どうしても降雪・積雪量が少ない京都府舞鶴市は配置される除雪隊の人員が少ないので仕方がないところはあります。しかし、2日に1回の当直というものはなかなか精神的に休めないところもありました。
除雪作業発動の基準
除雪作業を発動(行う)基準については、当然のことながら積雪量で判断されます。青森県の航空基地の基準は失念してしまいましたが、京都府舞鶴市の部隊では積雪3cmが除雪作業発動の基準として定められていました。
積雪を測定するのは除雪隊ではなく気象観測を専門に行っている気象班が行っています。気象班から除雪隊指揮官に連絡がきて、除雪隊指揮官から航空基地指揮官の了解を得て除雪作業を行う、という流れとなっています。
この除雪隊指揮官は、基本的にその日の除雪当直の施設職域の幹部自衛官が担っています。
京都府舞鶴市の気象特性
舞鶴市の航空基地の降雪に係る気象特性は、概ね夜中12時から1時頃に降りはじめ、夜中2時から3時頃に積雪3cmになることが経験上多かったです(平成25年頃の経験です)。
また、前日夕方に気象班に今後の降雪見積を確認してもなかなか当たらないことが多かったのも事実です。舞鶴で長年勤務し、定年退官後も再任用で気象予報官をされていた幹部自衛官の方が言うには、「舞鶴は気象予報官泣かせ」というくらい気象予報が当たらないことが多いそうです。
そのため、積雪予報3cmの際には基地内の除雪隊待機所で仮眠をとりつつ気象班からの連絡を待つも、空振りだったこともちょいちょいありました。
除雪隊出動
私が舞鶴で勤務していた期間で、除雪隊が出動していた回数の全体の3分の2近くが私の当直の時でした。それぐらい私は雪に好かれていたようです。
積雪3cmを超えると航空機を格納庫から出すことが難しいらしく、積雪3cmになりそうな時点で気象班当直から私に電話がかかってきます。通例のごとく夜中2時頃に待機室の電話が鳴り、その電話を受けて私が除雪隊の隊員を起こし、除雪車両の暖気をするよう指示します。
そして航空基地指揮官に除雪を行う旨の了解を電話で得たのち、管制塔当直に電話をかけ無線を常時とれるよう要請します。除雪隊員は各々、無線の電源を入れて待機室を出て車庫にある自分の担当車両に乗車します。それから管制塔を含めた無線通話の試験を行います(海上自衛隊ではレディオ・チェックといいます)。
そして除雪作業を開始します。舞鶴の航空基地では除雪要領が3パターンあり、作業出発前に除雪パターンを除雪隊員に指示します。除雪作業中、除雪隊指揮官である私は何をしているかというと、基本的には除雪隊指揮所から除雪作業の状況を監督します。
ただし、指揮所の場所から一部の場所が死角になるため私は原則、外に出て除雪状況を監督していました(降雪時の夜中は本当に体の芯まで冷えます)。
出典元:海上自衛隊第23航空隊HP(除雪作業)
当初は滑走路及びエプロンを中心に除雪車両を戦力投入しますが、隊員の出勤用のメイン道路も並行して除雪をします。滑走路がオープンになっても隊員が出勤できなければ意味がないからです。基地内の除雪作業が終わるのは、概ね朝7時から8時くらいです。
降雪が続くと滑走路とエプロンは除雪車両を交代で走り続けさせ、積雪させないように配慮します。舞鶴は日の出とともに降雪が弱まる傾向があるので、明け方で概ね任務完了し、次の当直に残雪処理等を引き継ぎます。
当直明けの現実
余談ですが、除雪当直明けのコーヒーは格別です。夜中から起きているのでテンションマックスです。しかし、残念ながら当直を交代しても業務のある隊員はそのまま継続して任務に従事します。
休める隊員は仮眠室で午前中は休ませ、午後から業務についてもらいました。ここが自衛隊のブラックなところであり、非常に残念なところです。現在はどのようになっているかはわかりませんが、当時はこのような勤務状況でした。
私も除雪後の報告や通常勤務があったため、除雪当直明けで休めたためしはありませんでした。今から思うと、文句を言いつつ仕事をしてくれていた部下の方々には頭が下がる思いです。
今回は、海上自衛隊の除雪隊についてお話ししましたが、現場では事故が起こることもあります。機会があれば、今度はそのお話もしたいと考えています。