「平成30年7月豪雨」による小田川堤防決壊の様子(岡山県倉敷市真備町) / 写真提供:国土交通省 中国地方整備局

「平成30年7月豪雨」による小田川堤防決壊の様子(岡山県倉敷市真備町) / 写真提供:国土交通省 中国地方整備局

「都市計画法」と「都市再生特別措置法」の改正で、日本の”まちづくり”はどこへ向かうか

「防災力の高いまちづくり」が目指す先とは

頻発・激甚化する自然災害に対応し、まちなかにおけるにぎわいを創出するため、安全で魅力的なまちづくりの推進を図る「都市再生特別措置法(都市再生法)」や「都市計画法」が改正された。

法改正により新設・拡充された、災害レッドゾーンでは一部を除き新規開発原則禁止(都市計画法)、立地適正化計画の強化(防災指針制度の新設)(都市再生法)、災害ハザードエリアからの移転促進(同)などの3施策などで防災力の強いまちづくりを目指す。

また、国は市町村の防災指針の検討に対する省庁横断でワンストップの相談対応や支援などを行う「防災タスクフォース」も設置し、これまでに二回の会合を開催している。コンパクトシティの取組と併せ、防災指針の作成を通じて都市の防災や減災に意欲的に取り組む「防災コンパクト先行モデル都市」として17都市が名乗りをあげており、その取組状況の発信がなされている。

防災力の高いまちづくりは一体、今後どのような方向で進むか。国土交通省都市局都市計画課の小林侑課長補佐が解説する。


都市計画法と都市再生特別措置法 改正の背景

国土交通省都市局都市計画課の小林侑課長補佐

政府は、都市再生法や公共交通活性化再生法に基づき、都市全体構造を俯瞰し、居住機能や医療・福祉・商業等の都市機能の誘導と、公共交通の改善と地域の輸送資源の総動員で持続可能な移動手段の確保・充実を推進する「多極ネットワーク型コンパクトシティ」を推進中だ。

国土交通省は、必要な機能の誘導・集約に向けた各市町村の取り組みを推進するため、立地適正化計画の作成・誘導施策の実施等を予算措置等で支援している。各市町村が作成している都市再生法に基づく立地適正化計画は、2020年7月31日時点で、542都市が具体的な取組みを行い、うち339都市が計画を作成・公表している。

「平成30年7月豪雨」では、西日本を中心に広域的かつ同時多発的に、河川の氾濫、がけ崩れなどが発生した。岡山県・倉敷市真備町では、浸水のおそれがある地域の宅地化が進んでいることが明らかになった。

また、コンパクトシティを推進する立地適正化計画に基づく居住誘導区域でも課題が生まれた。たとえば福島県・須賀川市では、「令和元年台風19号」の豪雨により、居住誘導区域内で浸水被害が発生した。「自然災害の激甚・頻発化を踏まえ、居住誘導区域に居住を誘導する以上、安全・防災の対策をしっかりと取っていく必要がある(小林課長補佐)」

これまでにも、がけ崩れ、出水、津波などの災害危険区域、土砂災害特別警戒区域、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域、津波災害特別警戒区域を「災害レッドゾーン」と定義し、これらの地域では住宅等の建築や開発行為等の規制がなされている。

また、浸水想定地域、土砂災害警戒区域、都市洪水想定区域、都市浸水想定区域、津波災害警戒区域、津波浸水想定区域を「災害イエローゾーン」と定義し、建築や開発行為等の規制はないものの、区域内の警戒避難体制の整備が求められている。

都市計画運用指針では、原則としてレッドゾーンについては、居住誘導区域の設定に含まない方針とし、イエローゾーンについても熟慮し、居住を誘導することが適当でないと判断された場合、原則として居住誘導区域に含めないとの考えを示している。なお、レッドゾーンについては、令和3年10月以降は居住誘導区域に含めないことが政令で規定されることとなっている。

現時点でも、レッドゾーンについては居住誘導区域内からほぼ除外されているが、イエローゾーンについては、約9割近くの242都市に浸水想定区域が含まれている現実がある(令和元年12月時点)。

頻発・激甚化する自然災害に対応した「安全なまちづくり」 / 国土交通省

特に、浸水被害は一度広がると広範囲に拡大する一方、河川沿いに形成している都市も数多くあり、浸水想定区域を一概に含めないという方針とするとまちづくりを成立しないという現実がある。

このような背景も踏まえつつ、頻発・激甚化する自然災害に対応するため、法改正がなされた。

都市計画法と都市再生措置法の改正内容

それでは、法改正の中身を見てみよう。

2020年6月に都市計画法と都市再生特別措置法が公布。防災の視点では、頻発・激甚化する自然災害に対応するため、「災害ハザードエリアの開発抑制」「移転の促進」「立地適正化計画の強化」の3点を中心に、安全なまちづくりのための総合的な対策を講じることになった。詳細は次の通りだ。

1.災害ハザードエリアの開発抑制(開発許可の見直し)

  • 都市計画区域全域で、災害レッドゾーンについては、住宅等(自己居住用を除く)に加え、自己の業務施設(店舗、病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場等)の開発を原則禁止。
  • また、災害イエローゾーンに該当する浸水ハザードエリア等についても、安全上や避難上の対策許可を条件とし、市街地調整区域における住宅等の開発許可を厳格化する。

2.災害ハザードエリアからの移転の促進

  • 市町村による防災移転支援計画(市町村が、移転者等のコーディネートを行い、移転に関する具体的な計画を策定し、手続きの代行等を実施)

※別途令和2年度の予算措置において、防災集団移転促進事業の要件緩和(対象要件を10戸から5戸に緩和し、災害が起こる前に高台等の災害リスクの低いエリアへの移転を促進)がなされている

3.立地適正化計画の強化(防災を主流化)

  • 立地適正化計画の居住誘導区域から災害レッドゾーンを原則除外(都市計画運用指針に示していた考えを新たに政令に規定、令和3年10月施行)。
  • 立地適正化計画の居住誘導区域で行う防災対策・安全確保策(避難路、防災公園の避難地、避難施設の整備、警戒避難体制の確保等)を定める「防災指針」を各市町村が作成。

「防災指針」とは、防災の観点を取り入れたまちづくりを加速させるため、立地適正化計画の記載事項として、新たに居住誘導区域内の防災対策を記載するもの。指針作成にあたり、防災まちづくりの将来像や目標等を明確にし、ハード・ソフト両面からの安全確保対策を位置付けることが重要となる。

国交省都市局は、防災指針の作成を支援するガイドラインとして、「立地適正化計画作成の手引き」に関係する内容を盛り込み、9月29日に改訂した。各市町村においては災害リスク分析や課題への対応策について様々な観点が盛り込まれた同手引きの内容を踏まえ、実効性のある「防災指針」の作成を期待されている。

「手引きでは、イメージ図を用いながら、洪水、土砂災害等の災害リスクがある箇所と課題の抽出から、課題に対する取組方針設定、具体的な対応策の検討といった防災指針の作成における一連の考え方を示しており、手引きを活用し、災害上の課題をしっかりと抽出し、防災指針の検討を企図した内容になっています(小林課長補佐)」

「防災指針作成のためのガイドライン」の概要 / 国土交通省

国は、各市町村が作成した「防災指針」に位置づけられた避難路・避難場所の整備や、災害ハザードエリアにおける施設の移転などの防災・減災対策を財政面等から支援し、防災まちづくりの推進を図る。

「手引き等についてはウェブを活用し、全国の地方自治体に説明会を実施しました。先行モデル都市における防災指針検討の具体的な事例や、防災・減災の取組に活用できる支援制度などの情報発信・水平展開を行っており、各市町村が早期に防災指針を作成できるよう情報の充実に努めています(小林課長補佐)」


17の防災コンパクト先行モデル都市が名乗り

かねてより、関係府省庁を挙げて市町村におけるコンパクトシティの取組を強力に支援するため、「コンパクトシティ形成支援チーム」を設置している。

また、頻発・激甚化する災害に対して、居住等の誘導をはかる地域の安全を確保しつつ、都市のコンパクト化をより推進するため、同支援チームのもと、防災に関与する部局で防災タスクフォース(以下、防災TF)を2020年7月10日に設置した。市町村に対する省庁横断、ワンストップの相談体制として、「防災指針」の作成や指針に位置付けた施策推進等を支援する。

構成員としては、座長が、国交省都市局都市計画課長がつとめ、原則として防災関連の施策を担当する関係省庁からなる。役割は、「防災指針」の作成にあたっての考え方や、まちづくりでの防災対策の検討にあたって、どのような知見や制度が活用できるかについてワンストップで相談対応する。

次に、「防災指針」の作成の手引き等をとりまとめるとともに、各市町村による防災対策の検討・実施を各省庁の関係部局が連携して、支援する。ほかの市町村が防災指針を作成するにあたり、参考となるモデル都市の形成と、その取組の状況を横展開する。

防災TFでは、都市の防災・減災対策を意欲的に取り組む都市であり、2020年度中に「防災指針」を市民への提示や作成・公表を目標としている都市のことを「防災コンパクト先行モデル都市」としている。

ほかの自治体が「防災指針」を検討・作成するにあたり、先行事例として模範・参考となるよう、取組み状況の段階的・定期的な公表が可能な都市である

災害ハザードの情報の入手等にあたり、河川管理者等との連携が整っていることなどが条件。指定されたのは次の17都市だ(2021年1月1日現在)。

  • 青森県・七戸町(※)、岩手県・二戸市、山形県・南陽市、福島県・郡山市、須賀川市、栃木県・宇都宮市、茨城県・ひたちなか市(※)、埼玉県・秩父市、神奈川県・厚木市、京都府・福知山市、大阪府・高槻市、忠岡町、岡山市・倉敷市、福岡県・久留米市、熊本県・熊本市、益城町、宮崎県・日向市

※令和2年11月20日の第2回防災TF会議で追加。その他は第1回会議で選定。

法律上、立地適正化計画を作成できる地方自治体は、約1,370。うち2025年までに600の都市で防災指針を作成することを目標に据える。

防災コンパクト先行モデル都市の選定状況(第2回防災TF会議資料) / 国土交通省

2020年9月の防災タスクフォース会議では、「防災コンパクト先行モデル都市の取り組み状況(マクロ・ミクロの災害リスク分析)」の資料を提示した。

この資料をどう読み解くべきか、小林課長補佐はこう解説する。

「モデル都市でマクロ・ミクロの観点から災害リスクの分析をした結果、概ね洪水と土砂災害についていずれの都市においても関連があり、ところによっては、内水被害の懸念が顕著なところや、沿岸部の都市では高潮や津波の懸念が大きい状況です。たとえば七戸町では高瀬川があり、近隣には役場の支所や、病院のような重要な施設もあります。浸水のおそれのある範囲は広範囲ではないものの、浸水被害や土砂災害の危険性がある箇所について、マクロとミクロの観点から、リスクを確認しています。

また、指定避難所から500m範囲を示してみると、河川沿いの浸水想定区域の範囲で近隣に避難所がない地域があることが見えてきます。そこで、この地域に新たに避難所を設けるのか、それとも早期の避難を実施するための手段を講じるかなど、避難における課題に体操する取組を考えていく着眼点になります。最終的な取組方針は地域の実情も踏まえた自治体の判断となりますが、まずは地域の災害リスクをしっかり把握し、これを対策に生かしていくことが肝要と考えています」

青森県七戸市における検討状況の例(第2回防災TF会議資料) / 国土交通省

このほか、郡山市では、浸水想定区域に中心部である郡山駅周辺も含まれており、阿武隈川と逢瀬川の合流点付近にあたる浸水リスクの高い地域に総合病院もあり、令和元年台風19号では浸水被害が発生していることを踏まえると、郡山市の課題の一つと考えられます。また、宮崎県・日向市は津波の浸水想定が広く分布するなど、各都市によってそれぞれの災害条の懸念があり、今後、各市町村が防災指針を作成するにあたっては、様々な災害についての検討が行われている各モデル都市の取り組み状況が参考になると思います」

福島県郡山市における災害リスクの分析事例(第2回防災TF会議資料) / 国土交通省

まちづくりの今後の展開

第2回防災タスクフォース会議では、都市局だけではなく、構成員である水管理・国土保全局、道路局、住宅局、内閣府、消防庁の予算支援等の施策も「パッケージ施策」として合わせて公表している。

各モデル都市からそれぞれ事情は異なるものの課題となる災害リスク分析の結果が示されている。年度末までに、引き続き防災タスクフォース会議を開催し、課題に対する取組方針等の検討状況や、モデル都市の「防災指針」のとりまとめ状況を確認し、これらの内容も踏まえ「立地適正化計画作成の手引き」の充実も図っていく。

これからのまちづくりは防災力が求められる。まずは、17の防災コンパクト先行モデル都市がリスク分析し、次に対応策を検討し、一部の都市では2020年度末までに防災指針を策定する。その後、各市町村が防災指針に基づいた具体的な対応策を実施していくにあたっては、今後、ゼネコン各社もこの防災力をにらんだまちづくりに参画することも想定される。

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