有名な観光地であり、地すべり地帯でもある
新型コロナウィルスの影響で、昨年は実家帰省を断念した。
まったく家から出ずに、完全にステイホームすることもできたが、もしかすると、抑うつ状態になったり運動不足になるかもという懸念があったので(という言い訳)、近場に出かけようと思い立った。そこで、箱根にある大涌谷まで、久しぶりに足を運ぶことにした。
大涌谷へは、小田原駅より小田急線、箱根登山鉄道、箱根ケーブルカー、箱根ロープウェイを乗り継いで行くことができる。あるいは、小田原駅よりバスが運行されているので、そちらでも可能だ。
大涌谷は有名な観光地でもあるが、同時に「地すべり地帯」でもある。実は、地すべり地帯であるということは、あまり知られていないようだ。なぜ地すべり地帯なのかというと、その歴史にヒントがある。
大涌谷は、「大涌沢地すべり」と呼ばれる地すべり地帯であり、火山性地すべりによってできたところである。かつては死者を出したこともあり、規模はかなり大きい。これまでにも何度か地すべりを起こしており、古くから地すべりの調査や対策工事が行われている。
トップの写真からも、対策が行われていることがお分かりいただけるだろう。グラウンドアンカーや砂防堰堤などの対策工が、かなりの数実施されている。また、Googleマップなどで見てみると、全景や対策工などがよくお分かりいただけると思う。
大涌沢地すべりの全景 / Googleマップ
堰堤が何基も設置されているし、山腹工であるブロック積みの数は数えきれない。観光地で、多くの人が訪れる場所ということもあり、これだけたくさんの対策工が行われているのだろう。
また、下流には主要道路や温泉地帯もあるので、大きな災害が起きないようにしている。対策工としては、アンカーやブロック積み、堰堤以外にも、横ボーリングによる排水や繊維補強吹き付け法面も行われている。
現在は立ち入り禁止のため、対策工ができない
大涌沢地すべりは、現在も対策事業の真っただ中である。しかし、最近は工事ができていない。その理由は、火山ガスである。かなり濃いガスが噴出していることから、うかつに中に入ることができないのだ。ロープウェイで展望台に行くことは可能だが、そこから下に降りることはできない。
さらに、平成27年には火山活動が一時活発化し、地震や小規模な水蒸気噴火が起きるなどしたため、立ち入りが制限された。それ以降、かなり濃い火山ガスが発生するなど、高温の水蒸気が噴出するようになり、対策対象箇所へ立ち入りができなくなっている。
現地に行けばわかるが、詰め所と思われるような建物や設備が黄色く染まっている。また、このときの活発な火山活動が影響したのか、ブロック積みのいたるところにひび割れが入っている。ひび割れというより、積まれているブロックがずれているのだ。他の場所では、なかなかなお目にかかれない光景である。
土木の仕事に関わった人が見たら、「なんだこれ?」となるのではないだろうか。箱根ロープウェイに乗って、上から見てもブロックがずれているのが分かる。最初は、すべっているためにこうなっているのかとも思った。しかし、調べてみるとどうやらそうではなく、過去の活発化した火山活動が影響しているようだ。
ということは、火山活動が活発になると、地すべりが発生する可能性がある。箱根は活火山でもあるため、本来はすぐさま対策工に取り掛かりたいところだろう。しかし、今は火山ガスの濃度が上昇しているため、工事ができない。まずは、火山活動がもっと沈静化するのを待つ必要があるが、できるだけ早く対策工を行ってもらいたいところである。