踊り場を迎えた建設業界。新型コロナで大手減収、零細倒産がじわり

踊り場を迎えた建設業界。新型コロナで大手減収、零細倒産がじわり

踊り場を迎えた建設業界。新型コロナで大手減収、零細倒産がじわり

好況から一転、見通し不透明な建設業界

東京五輪工事や都市部の再開発で長らく好調を維持した建設業界の景況感は踊り場を迎えたようだ。

五輪関連の工事が終了し、新型コロナウイルス感染拡大の影響などでスーパーゼネコン4社の2021年3月期の連結売上高は合計で前期比7,482億円減と2011年以来、10年ぶりに減収に転じる見通し。非上場の竹中工務店も2020年度(第83期)決算によると、売上高・当期利益ともに減収・減益のため、スーパーゼネコン5社いずれも2020年度の売上高は減収の可能性が高い。

こうした減収の理由について、株式会社東京商工リサーチ 情報本部情報部の永木緋鶴さんは「東京五輪工事も完了し、都心部の再開発も一服感が強まったところに、新型コロナウイルスの感染が拡大。2021年3月実施のアンケート調査でコロナの『影響が継続している』と回答した建設会社は5割にも及び、コロナ破たんも増えつつあるからです」と語る。永木さんにコロナ禍における建設業の動向と、今後の見通しについて解説してもらった。

※なお、数字やデータに関しては、特に断りがなければすべて東京商工リサーチの調査を活用した。

新型コロナで建設業の好景気がピークアウト

建設業界は、アベノミクスによる財政出動、東日本大震災による復興工事、都心部での再開発、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」などにより官公工事の需要が旺盛で、春を謳歌していた。

この好景気も東京五輪工事が終われば一服するとの観測はあったものの、ポスト五輪の再開発工事案件が次々と浮上し、さらに好景気は続くとの見方もあり、ゼネコン首脳も一時期、楽観論が漂っていた。

そこで水を差したのが新型コロナウイルスだ。中国からの資材調達に依存していたハウスメーカーや工務店は、戸建てやマンション工事等を継続することができなくなり、その後、日本国内での新型コロナ感染拡大や緊急事態宣言が全国に拡大したことで、スーバーゼネコンや準大手ゼネコン、ハウスメーカーなどが次々と工事を中断、建設業界に衝撃が走った。

その後も、デベロッパーや施主から着工計画見直しなどが出始め、2021年3月の建設業者のアンケート調査では「影響が継続している」が47.1%となり、ほぼ半数が影響を受けていることがわかった。実は、2020年2月の第1回調査では、建設業で「すでに影響が出ている」との回答はわずか5.8%に留まっていた。つまり、当初は楽観的な見方だったのだが、徐々に影響が拡大していったわけだ。

「コロナ禍における建設業のアンケート」調査

永木さんはこの調査結果について、「ただし、これまで新型コロナウイルスの影響を受けていない企業も4割以上もあります。つまり、建設業界内で二極化しています」と分析する。

建設業界における新型コロナウイルス関連倒産数は、4月21日時点で114件(負債1000万円以上)。「飲食店、アパレル業、宿泊業が倒産の中心でしたが、建設業もコロナ禍での倒産が増えており、売上の減少、営業活動の停滞などで影響を受けています。今後も新型コロナの収束が見通せない中、倒産のケースが増えてくると考えています」(永木さん)


スーパーゼネコン5社の売上高も減収の見通し

それでは、売上や受注ではどのような影響を受けたか。

まず、スーパーゼネコン5社(鹿島、大成建設、大林組、清水建設、竹中工務店)は揃って減収の見通しだが、それでも公共工事に強いゼネコンは微減に留まったところもある。民需の落ち込みを公共工事が支えている構図だ。

その中で今、準大手や中堅ゼネコンでささやかれていることが一つある。本来、中堅ゼネコンが受注する工事を、準大手が食い込み、準大手が受注する工事をスーパーゼネコンが受注しているというものだ。工事自体減少しているため、パイを食い合う状態にあるわけだ。

ゼネコン大手4社の売上高推移

ゼネコン4社繰越工事比較

この流れについて、永木さんは「ゼネコンには、民間の投資停滞を懸念しているところもあります。コロナ禍の長期化で、積極的な再開発を推進する動きは鈍化するかもしれません。」と見ている。

こうした民需の減少の観測により、公共工事の取り合いもすでに始まっており、建設業界の受注動向は今後かなり不透明だ。

約7割の建設業者で、売上減が1年続いている

また、前年の同じ月と比べて売上高が減少した「減収企業率」にも注目したい。緊急事態宣言下の2020年5月が最も深刻で、「減収企業率」は84.6%の建設業者(756 社中640社)に達した。直近の2021年2月でも73.8%(474社中、350社)で、未だ7割以上の企業が前年を割り込んでいる。つまり、約7割の建設業者で売上減が1年続いており、経営体力の疲弊も予想される。

「建設業以外の市況が悪化していく中で、民間の建設投資への意欲が減退しました。そこで工事計画の延期が発表され、受注や工事着手が遅れ、ゼネコンも当初予想から売上・受注高が後退し、影響が広がりました。新型コロナウイルスの収束も見通せない中、影響が長期化する可能性もあります」(永木さん)

小泉政権から民主党政権にかけて、建設業界は長い氷河期に入り、公共も民需も冷え込んだことで、激しい仕事の取り合いとなり、ダンピングが横行した時期があった。ある準大手ゼネコンの首脳は「(コロナ禍による)ダンピングの再来は業界的にも好ましくない」とした上で、「やはり、選別して工事を受注する姿勢は保ちたい。それには川上からの提案力を施主に示すことが重要だ」と語る。

この時期は建設業界では多くの職人が退場し、中小・零細企業も廃業した。新型コロナウイルスの影響が長引けば、工事計画のさらなる延長も考えられる。こうした流れに備え、スーパーゼネコンから準大手、中堅、中小に至るまで、受注提案力を磨いているのが実情だ。

また、幸いなことに公共工事に恵まれているのが前回の氷河期と異なる点だ。国は「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」に引き続き、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を閣議決定。5か年の事業規模は約15兆円程度に上り、うち国土交通省は9兆4000億円程度を活用し、重点的・集中的に53の対策を講じる。そのため、地方建設業で公共工事を中心としている事業者はかなり潤うだろう。

加えて、先日の土木学会の声明にもあった通り、”流域治水”も大きなプロジェクトとなる。国土交通省は、全国109の一級水系と12の二級水系で策定された「流域治水プロジェクト」の内容を一斉公表したが、一級水系全体の事業規模は約17兆円だ。

さらに、新たなシーズとして”脱炭素”も浮上している。あるマリコン大手は「洋上風力発電はブルーオーシャン。惜しみない投資をしつつ、戦略的に他社との差別化を図る」と意欲を示した。特に、菅義偉首相は2020年10月26日の臨時国会で、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言し、現在、全閣僚が一丸となり、成長戦略会議等での議論も重ねていることで、各ゼネコンの洋上風力発電の事業強化の後押しにもなっている。


新型コロナが建設業の休廃業・解散を加速させる

ただし、民需に依存しているゼネコン、工務店などは苦しい局面が続く。そこで中小零細建設業、工務店などは廃業を検討し始めたところが出始めた。

調査では2020年8月から廃業検討率をアンケートの設問に加えている。建設業で8月に廃業を検討する可能性が「ある」と回答したのは6.2%(1,316社中82社)。10月は最も高い6.6%(1,319 社中 87社)を記録している。

建設業「廃業検討率」

この数字について、永木さんは「全産業と比較して、建設業の廃業検討率は低いと感じられますが、社数の多い建設業は地域の経済の一翼を担い、サプライチェーンも形成していることから、廃業動向は地域経済への影響も大きいため、要注意です」と話す。

かねてから地域建設業は、地域の防災面で大きな役割を果たしているが、「休廃業、解散」が増加すれば災害対応区域に空白地域がますます拡大することになる。2018年4月に実施した全国建設業協会の「災害対応空白地域調査」によると、空白地域は全市区町村(1,714)の11%となる187市町村であることが分かった。災害対応の空白地域の拡大が、一層懸念されている状況にある。

災害対応空白地域の状況 / 出典:全国建設業協会

また、2021年1月の「2020年『休廃業・解散企業』動向調査」によると、全体で4万9,698件(前年比14.6%増)。うち、建設業は、8,211件(構成比16.5%、前年比16.8%増)となっており、大幅に増加した。2020年の企業倒産が、コロナ禍での政府や自治体、金融機関の資金繰り支援策が奏功し、7,773件(前年比7.2%減)と2年ぶりに減少したことを見れば対照的だ。

「元々、建設業界の廃業率は高いですが、経営者や従業員が高齢化し、かねてから廃業を検討していたところに、新型コロナウイルスの影響が長期化した中で、事業継続を諦めた構図が見て取れます」(永木さん)

休廃業・解散した企業の代表者の年齢別(判明分)では、70代が最も多く41.7%。高度成長時代に起業して、必死に働いてきたが、体力的にも限界を感じ、余力のあるうちに「休廃業、解散」を選択したケースが多いようだ。しかも、中小零細企業は社長=オーナーという構図も多く、廃業の決断は社長次第であるため、社長がやる気を失ったときに会社も壊死する。

元々、中小・零細建設業、工務店は、経済状況の良かった高度成長やバブル時代に起業し、それで波に乗ったケースも多い。しかし、新築戸建ても減少し、先行きの見えない中、休廃業する中小零細建設業や工務店も増えている。

必ずしもこれらすべてが赤字企業というわけではなく、休廃業、解散企業の約6割が黒字企業。2020年に後継者難で倒産したケースも建設業では85件(前年比70.0%増)あり、一部では「中小企業」の社長不足という声も聞こえる。

休廃業、解散の増加は従業員の雇用にも関わってきており、本来であればスムーズな事業継承やM&Aによるバトンタッチが望ましいが、建設業の場合、従業員全体の高齢化の問題もあり、すべてがスムーズにうまくいかない事情もある。


相次ぐゼネコンの大型倒産

そんな中、公共工事を主体とするゼネコンの破たんもあった。たとえば、江東区に本社を置いていた株式会社創真は、受注のほぼ100%を公共工事が占め、都営住宅や庁舎などの建物建築や、東日本大震災以降は耐震補強工事などが堅調に推移し、2020年6月期は過去最高となる完工高21億9751万円をあげていた。

しかし、親密な取引関係にあった東京・足立区の「奥井建設」が破たんし不良債権が発生。さらに、コロナの影響で民間工事が減少し、これまで民間主体だった工事業者が公共工事の受注を積極化するなどして事業環境が悪化。2020年12月21日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。

また、富山県下有数のゼネコンである相澤建設株式会社は、官公庁や民間企業、一般個人などから受注を確保し、注文住宅をはじめ店舗、飲食店、病院、学校など幅広い業種の物件を手掛けていた。バブル期の1991年2月期にはピークとなる完工高45億9874万円を計上していたが、2020年2月期には完工高18億8034万円にまで減少していた。

それでも現場を多数抱えていたが、関連会社の温浴施設や焼肉屋などが新型コロナウイルスの影響を受けてグループ全体の業績が急速に悪化。資金繰りも限界に達したことから、事業継続を断念。2021年4月5日、富山地裁へ破産を申請した。相澤建設のケースは、本業に専念していれば事業継続が維持できたと想定されるが、事業の多極化がアダになった形だ。

民間の投資意欲の減退、工事の延期などに要注意

現在、国の支援制度等で倒産こそ減少しているが、工事量は2021年度も減少するとの観測もあり、その窮状が次第に顕在化している。2回目の緊急事態宣言により投資意欲の減退、民間工事の計画見直しや延期の影響を懸念も続いており、コロナ禍で経営基盤が減退した建設業の休廃業・解散、倒産も現実味を帯びている。また、地域や雇用などの影響が懸念される。

「これからも設備投資の減退感が強まると、建設業の停滞感や不況感も強まるのではないでしょうか」(永木さん)

コロナ禍では、旅行業界・飲食業界への窮状がクローズアップされるが、今後、建設業界の動向も一層注意したい。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。