国土交通省住宅局住宅政策課の三浦紘平課長補佐

国土交通省住宅局住宅政策課の三浦紘平課長補佐

【国土交通省】「住生活基本計画」が閣議決定。災害の激甚化や「2050年カーボンニュートラル」に対応した住宅政策の展開へ

「住生活基本計画」策定で何が変わるか

政府はこのほど、今後10年間の住宅政策の方向性を示す「住生活基本計画(全国計画)」を閣議決定した。

ポイントは3点。第1に新たな日常への対応と住宅産業全体のDX、第2に頻発化や激甚化する自然災害に対応する施策、第3に「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた施策などを明記している。

具体的には、コロナ禍での新たな日常に対応する二地域居住等の住まいの多様化・柔軟化の推進や安全な住宅・住宅地の形成などを強調している。

次に、環境や省エネ関連では、長期優良住宅やZEH ストックの拡充、LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の普及を推進し、さらには住宅の省エネ基準の義務付けや省エネ性能表示に関する規制などの更なる強化を検討していくという。

「住生活基本法」を具体化するため策定された中長期計画「住生活基本計画」は今回、どのようにブラッシュアップしたか。国土交通省住宅局住宅政策課の三浦紘平課長補佐が解説する。

新たな「住生活基本計画」策定の背景

2006年6月に「住生活基本法」が施行された。国は同法に基づき、計画期間を10年とする「住生活基本計画」を定め、5年単位で随時見直しを行っている。2020年度はこの見直しの時期に当たるため、2020年度末に新たな「住生活基本計画(2021年度から向こう10年間)(全国計画)」を閣議決定した。

まず、現在の住生活をめぐる現状と課題がどのようなものであるか、俯瞰してみよう。

1つ目の「世帯の状況」では、子育て世帯数が減少する一方、高齢者世帯数は増加しているが、今後は緩やかな増加となる見込みである。2つ目の「気候変動問題」は、政府が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を宣言したこともあり、対策が急務となっていることを盛り込んだ。3つ目は「住宅ストック」であり、旧耐震基準や省エネルギー基準を達成していないストックが多くを占めており、性能を向上させる必要がある。また、既存住宅流通は横ばいで推移しており、中古住宅の売買が活性化していない現状もある。これを活性化する必要があるほか、居住目的のない空き家が増加している課題もある。

また、4つ目では「多様な住まい方、新しい住まい方」を盛り込んだ。働き方改革、コロナ禍を契機に、テレワークを活用して地方郊外に引っ越す動きや複数地域での居住も増えており、国も推進していく。5つ目の「新技術の活用、DXの推進等」では、コロナ禍を契機に非接触の動きも高まっている。たとえば工務店と施主のようなBtoCや、工務店と建材事業者とのBtoB契約の場面での、デジタル化を推進する。そして6つ目のテーマとなったのが、「災害と住まい」だ。近年、災害が頻発化、激甚化しており、特に水害が問題になっている。そこで政府では、流域全体を俯瞰して治水対策を実施する「流域治水」という考え方を導入しているが、住まい方についてもこの考え方を踏まえていく。

これらの課題に対応するため、「社会環境の変化」「居住者・コミュニティ」「住宅ストック・産業」の3つの視点から、①新たな日常、DXの推進等、②安全な住宅・住宅地の形成等、③子どもを産み育てやすい住まい、④高齢者等が安心して暮らせるコミュニティ等、⑤セーフティネット機能の整備、⑥住宅環境循環システムの構築等、⑦空き家の管理・除却・利活用、⑧住生活産業の発展の8つの目標を設定し、今後10年間で、施策を総合的に推進していく。

新たな「住生活基本計画」の概要(2021年3月19日に閣議決定)


DX、激甚化する災害対応を新目標に

国土交通省は今回提起した8つの目標を具現化することになるが、大きな注目点は「社会環境の変化」の視点に基づく、

  1. 「新たな日常」やDXの推進等に対応した新しい住まい方の実現
  2. 頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まい方の確保

の2つの目標だ。この目標1と2を具体的に見ていく。

目標1. 「新たな日常」やDXの推進等に対応した新しい住まい方の実現

(1)国民の新たな生活観をかなえる居住の場の多様化及び生活状況に応じて住まいを柔軟に選択できる居住の場の柔軟化の推進

(基本的な施策)

  • 住宅内テレワークスペース等を確保し、職住一体・近接、在宅学習の環境整備、宅配ボックスの設置等による非接触型の環境整備の推進
  • 空き家等の既存住宅活用を重視し、賃貸住宅の提供や物件情報の提供等を進め、地方、郊外、複数地域での居住を推進
  • 住宅性能の確保、紛争処理体制の整備などの既存住宅市場の整備。計画的な修繕や持家の円滑な賃貸化など、子育て世帯等が安心して居住できる賃貸住宅市場の整備

(2)新技術を活用した住宅の契約・取引プロセスのDX、住宅の生産・管理プロセスのDXの推進

(基本的な施策)

  • 持家・借家を含め、住宅に関する情報収集から物件説明、交渉、契約に至るまでの契約・取引プロセスのDXの推進
  • AIによる設計支援や試行的なBIMの導入等による生産性の向上等、住宅の設計から建築、維持・管理に至る全段階におけるDXの推進

(成果指標)

  • DX推進計画を策定し、実行した大手事業者の割合 0%(2020年)→ 100%(2025年)

目標2.頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まい方の確保

(1)安全な住宅・住宅地の形成

(基本的な施策)

  • ハザードマップの整備・周知等による水災害リスク情報の空白地帯の解消、不動産取引時における災害リスク情報の提供
  • 関係部局の連携を強化し、地域防災計画、立地適正化計画等を踏まえ、
    ・豪雨災害等の危険性の高いエリアでの住宅立地を抑制
    ・災害の危険性等地域の実情に応じて、安全な立地に誘導するとともに、既存住宅の移転を誘導
  • 住宅の耐風性等の向上、住宅・市街地の耐震性の向上
  • 災害時にも居住継続が可能な住宅・住宅地のレジリエンス機能の向上

(2)災害発生時における被災者の住まいの早急な確保

(基本的な施策)

  • 今ある既存住宅ストックの活用を重視して応急的な住まいを速やかに確保することを基本とし、公営住宅等の一時提供や賃貸型応急住宅の円滑な提供
  • 大規模災害の発生時等、地域に十分な既存住宅ストックが存在しない場合には、建設型応急住宅を迅速に設置し、被災者の応急的な住まいを早急に確保

(成果指標)

  • 地域防災計画等に基づき、ハード・ソフト合わせて住まいの出水対策に取り組む市区町村の割合を5割(2025年目標)とする。

「社会環境の変化」の視点での目標

目標1について、三浦課長補佐は「大手住宅事業者とは、注文戸建て住宅を中心におおよそ年間3,000戸以上供給している事業者を想定しています。各社にDXの計画を策定していただき、2020年を基準に評価していきます。今後5年間でこれまで以上にDXを推進してほしいと考えています」と話す。

また、目標2については、先日、流域治水関連法(特定都市河川浸水被害対策法等の一部改正法)が国会で成立しましたが、同法により新設された「浸水被害防止区域(いわゆる浸水レッドゾーン)」や、従来の建築基準法に基づく「災害危険区域」の更なる指定を進め、豪雨災害等のリスクの高いエリアにおける住宅立地を抑制していくこと等により、災害に強い住まいを目指すことを示している。

「地方自治体では防災・まちづくり・建築等の部局が分かれており、これまで連携が十分に意識されていませんでした。防災部局で策定されている地域防災計画等をもとに、部局間連携の下でハード・ソフト一体となった住まいの出水対策に取り組むよう政策誘導をはかるとともに、国土交通省内でも住宅局と都市局、さらには内閣府防災との連携を強化します。(三浦課長補佐)

高齢化、子育て対策にも注力へ

目標3以降は、施工面に限定し、ほかは割愛し解説していく。

目標3.子どもを産みやすい育てやすい住まいの実現

(1) 子どもを産み育てやすく良質な住宅の確保

(基本的な施策)

  • 民間賃貸住宅の計画的な維持修繕等により、良質で長期に使用できる民間賃貸住宅ストックの形成と賃貸住宅市場の整備

(成果指標)

  • 民間賃貸住宅のうち、一定の断熱性能を有し遮音対策が講じられた住宅の割合 約1割(2018年)→ 2割(2030年)

目標4.多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり

(1) 高齢者、障害者等が健康で安心して暮らせる住まいの確保

(基本的な施策)

  • エレベータの設置を含むバリアフリー性能やヒートショック対策等の観点を踏まえた良好な温熱環境を備えた住宅の整備、リフォームの促進

「居住者・コミュニティ」の視点での目標3,4

「民間賃貸住宅についても、子育てしやすい住まいの確保という観点から、更なる質の向上を目指すため、今回新たに成果指標を設けました」(三浦課長補佐)


住宅業界もカーボンニュートラルの取組み本格化

目標6.脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成

(1)ライフスタイルに合わせた柔軟な住替えを可能とする既存住宅流通の活性化

(基本的な施策)

  • 基礎的な性能等が確保された既存住宅の情報が購入者に分かりやすく提示される仕組みの改善(安心R住宅、長期優良住宅)を行って購入物件の安心感を高める
  • これらの性能が確保された既存住宅、紛争処理等の体制が確保された住宅、履歴等の整備された既存住宅等を重視して、既存住宅取得を推進
  • 既存住宅に関する瑕疵保険の充実や紛争処理体制の拡充等により、購入後の安心感を高めるための環境整備を推進

(2)長寿命化に向けた適切な維持管理・修繕、老朽化マンションの再生(建替え・マンション敷地売却)の円滑化

(基本的な施策)

  • 長期優良住宅の維持保全計画の実施など、住宅の計画的な点検・修繕及び履歴情報の保存を推進
  • 耐震性・省エネルギー性能・バリアフリー性能等を向上させるリフォームや建替えによる、良好な温熱環境を備えた良質な住宅ストックへの更新
  • マンションの適正管理や老朽化に関する基準の策定等により、マンション管理の適正化や長寿命化、再生の円滑化を推進

(成果指標)

  • 既存住宅流通及びリフォームの市場規模 12兆円(2018年)→ 14兆円(2030年)
  • 住宅性能に関する情報が明示された住宅の既存住宅流通に占める割合 15%(2019年)→ 50%(2030年)

(3)世代をこえて既存住宅として取引されうるストックの形成

(基本的な施策)

  • 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、
    ・長寿命でライフサイクルCO2排出量が少ない長期優良住宅ストックやZEHストックを拡充
    ・ライフサイクルでCO2排出量をマイナスにするLCCM住宅の評価と普及を推進
    ・住宅の省エネルギー基準の義務づけや省エネルギー性能表示に関する規制など更なる規制の強化
  • 住宅・自動車におけるエネルギーの共有・融通を図るV2H(電気自動車から住宅に電力を供給するシステム)の普及を推進
  • 炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、CLT(直交集成板)等を活用した中高層住宅等の木造化等により、まちにおける炭素の貯蔵の促進
  • 住宅事業者の省エネルギー性能向上に係る取組状況の情報を集約し、消費者等に分かりやすく公表する仕組みの構築

(成果指標)

  • 住宅ストックのエネルギー消費量の削減率(2013年度比)※ 3%(2018年)→ 18%(2030年)
    ※ 2050年カーボンニュートラルの実現目標からのバックキャスティングの考え方に基づき、規制措置の強化やZEHの普及拡大、既存ストック対策の充実等に関するロードマップを策定
    ※ 地球温暖化対策計画及びエネルギー基本計画の見直しにあわせて、上記目標を見直すとともに、住宅ストックにおける省エネルギー基準適合割合及びZEHの供給割合の目標を追加
  • 認定長期優良住宅のストック数 113万戸(2019年)→ 約250万戸(2030年)

「居住者・コミュニティ」「住宅ストック産業」の視点での目標

 

「住宅ストック・産業」の視点での目標

「既存住宅が円滑に流通する社会に変えていくためには、既存住宅の性能に関する情報が分かりやすく提示される必要があり、長期優良住宅のような良質かつ性能が明確な住宅を増やしていく必要があります。また、住宅を「つくって終わり」ではなく、管理や維持修繕も非常に重要であり、そうした点を建築時点から意識していただくことが大切です。さらに、ストックの質を高めるために、適切なリフォームや建て替えについても施策を推進し、新築・既存双方に対する取組により、ストックベースで長期優良住宅の比率を上げていきたいと考えています」(三浦課長補佐)

また、菅義偉首相は2020年10月26日の臨時国会で、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しているが、「宣言を踏まえて、ZEHの普及拡大により、住宅分野での消費エネルギーを減らしていきます。LCCM住宅は、建築から解体までトータルでのCO2をマイナスにするものですが、こうした一歩進んだ住宅の普及も行っていきます。」(三浦課長補佐)

加えて、4月1日から「建築物省エネ法」が本格改正され、小規模(床面積300m2未満)非住宅・住宅では、省エネルギー基準適合を努力義務としたほか、建築士から建築主への説明義務を新たに設けている。「住宅の省エネルギー基準の義務づけや省エネルギー性能表示に関する規制など更なる規制の強化も、今回の計画の非常に大きなポイントで、具体的な中身の検討を開始したところです。」(三浦課長補佐)

目標7.空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進

(2)立地・管理状況の良好な空き家の多様な利活用の推進

(基本的な施策)

  • 空き家・空き地バンクを活用しつつ、古民家等の空き家の改修・DIY等を進め、セカンドハウスやシェア型住宅等、多様な二地域居住・多地域居住を推進

目標8.居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展

(1)地域経済を支える裾野の広い住生活産業の担い手の確保・育成

(基本的な施策)

  • 大工技能者等の担い手の確保・育成について、職業能力開発等とも連携して推進。地域材の利用や伝統的な建築技術の継承、和の住まいを推進
  • 中期的に生産年齢人口が減少する中で、省力化施工、DX等を通じた生産性向上の推進
  • CLT等の新たな部材を活用した工法等や中高層住宅等の新たな分野における木造技術の普及とこれらを担う設計者の育成等

(2)新技術の開発や新分野への進出等による生産性向上や海外展開の環境整備を通じた住生活産業の更なる成長

(基本的な施策)

  • AIによる設計支援やロボットを活用した施工の省力化等、住宅の設計・施工等に係る生産性や安全性の向上に資する新技術開発の促進
  • 住宅の維持管理において、センサーやドローン等を活用した住宅の遠隔化検査等の実施による生産性・安全性の向上
  • 官民一体となって我が国の住生活産業が海外展開しやすい環境の整備

「住宅ストック・産業」の視点からの目標

「目標8については、現在、大工技能者等の確保・育成の支援を行っていますが、今後は厚生労働省の職業能力開発とも連携しながら取り組んでいくこととしています。また、住宅産業全体で見ると生産性向上や海外展開も重要な点ですので明記しています」(三浦課長補佐)


「住生活基本計画」に基づいたハウスメーカー、工務店への助言

最後に三浦課長補佐は、「住生活基本計画」により住宅業界が意識すべきポイントについて、次のように話す。

「新しい「住生活基本計画」の目標実現に向けては、民間事業者の皆様の役割が非常に重要ですので、皆様のご理解とご協力を賜りたいという思いがあります。特に、生産性向上や非接触の観点から、目標1のDXの視点は重要になっていきます。生産年齢人口が減少していくなか、設計から施工にかけて省力化を意識しながら取り組んでいただきたいと考えています。

また、今後、住宅を建築する際には、目標2の災害を常に意識していかなければなりません。台風や地震に強いといった住宅単体の視点と、この土地に建てることが本当に安全なのかという立地適正という視点の両面を住宅業界全体で意識しながら災害リスクと向き合っていくことが必要です。

さらに、目標6の「脱炭素社会」や「カーボンニュートラル」の実現は新たな取り組みになりますが、この大きな潮流は不可逆的なものとなるでしょう。事業者の皆様には前向きに取り組んでいただきたいですし、国としてもしっかりサポートをいたします」

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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