「関東DX・i-Construction人材育成センター」内の現場実証フィールドでは、ICT建機を活用した無人化施工も実習できる

「関東DX・i-Construction人材育成センター」内の現場実証フィールドでは、ICT建機を活用した無人化施工も実習できる

「インフラDX人材」の育成へ。関東地方整備局が「関東DX・i-Construction人材育成センター」を設立

発注者・受注者双方のインフラ分野のDX推進へ

2021年は国がデジタル庁を設置するなど、コロナ禍を機にビジネスや業務を革新するDX(デジタルトランスフォーメーション)があらゆる局面で進んでいる。

国土交通省は2016年から、建設現場にICTを活用し、生産性向上を目指す取り組みである「i-Construction」を推進しており、2025年までに建設現場の生産性を2割向上することを目標に据え、省人化や作業効率化に注力している。土工から始まったICT活用工事も、舗装工、浚渫工、地盤改良工と徐々に拡大。さらに、2021年度は構造物工、路盤工、海上地盤改良工へと拡大を見せている。

そこで重要なことは、インフラ分野のDXを担う人材の育成だ。国土交通省関東地方整備局は、千葉県・松戸市の関東技術事務所構内に「関東DX・i-Construction人材育成センター」を設置、地方自治体を含む発注機関や建設会社の技術者を対象に、インフラ分野のDX推進を担う人材育成に本腰を入れている。

国土交通省関東地方整備局関東技術事務所の杉山純副所長に人材育成センターの動向や今後の展開について話を伺った。

インフラDX人材の育成はこれからが本番

「関東DX・i-Construction人材育成センター」の研修室でインタビューに応じた国土交通省関東地方整備局関東技術事務所の杉山純副所長

――「関東DX・i-Construction人材育成センター」では、どのようなことを行っているのですか?

杉山純氏(以下、杉山副所長) この「関東DX・i-Construction人材育成センター」は、インフラDXやi-Constructionの推進を担う人材を育成するため、2021年4月に設置しました。

ここでは、地方自治体等を含む発注者や民間技術者をターゲットとして、BIM/CIMに関する座学の研修のほか、3D-CADやVR、MRを活用した実習、レーザースキャナーやトータルステーションを用いたICT測量実習、ICT建機を用いた無人化施工の実習など、実務的な研修も行います。

具体的に説明しますと、BIM/CIM研修の入門編ではBIM/CIMを活用する意義や国土交通省での取組み状況などの講義を行い、実践編ではBIM/CIMを活用するスキルを持った技術系職員の育成を目的として、3D-CADなどのソフトウエア操作演習を主体とした実習を行います。

i-Construction研修では、地方自治体を含む発注機関の職員を対象に、ICT活用工事の工事監督を通じて受注者への適切な指導ができる技術者育成を目的として、ICT施工技術の概要、監督・検査のポイントについて講義や、ICT活用工事に必要なICT測量機器を用いた起工測量、3次元設計データの作成、出来形計測データから出来型帳票(ヒートマップ)作成までの実習を行います。

その他にも、民間技術者も対象とした、ICTアドバイザーによる「ICT施工WEBセミナー」を開催しています。

国土交通省として一番重要だと考えているのは、建設生産プロセス全体で3Dデータを活用しイノベーションを起こすことです。現状ではDXへ取り組む人材やICTを使いこなせる人材が不足しているため、発注者、民間技術者それぞれに必要な研修を実施していきます。

「関東DX・i-Construction人材育成センター」研修室

――受講者は、どのような方が多いのでしょうか?

杉山副所長 2021年度の6月、9月と11月に地方自治体等の発注者及び民間技術者を対象に開催した「ICT施工Webセミナー」では、建設業が38%、コンサルタントが25%、測量12%、製造・販売・レンタルが8%、公務員・団体が15%でした。また、役職別では、管理職以上の層の方が38%と強い関心を持っておられます。

ICT施工Webセミナーのアンケート結果

講師には、ICT施工を手掛けられている技術者として、関東地方整備局のICTアドバイザーに行って頂きました。このICTアドバイザー制度とは、関東地方におけるICT施工の普及促進を目的として、建設会社や発注者が持つ疑問点や課題などについて、経験者からアドバイスをしていただける方々であり2020年度より活動して頂いております。

今回のICT施工WebセミナーやICTアドバイザーへの技術相談が中小建設会社のICT施工へ取り組むきっかけとなればと思います。


ICT活用工事により作業時間は3~4割の縮減

――建設技能者・技術者の高齢化もあり、生産性の向上は必須になりますか。

杉山副所長 2016年9月に開催された「未来投資会議」では、「建設現場の生産性革命」に向けて2025年度までに生産性を2割向上させる方針が示されました。

この「建設現場の生産性革命」では、公共工事の現場で測量へのドローンの活用、施工検査に至る建設プロセス全体を3次元データで連結するなど、新たな建設手法の導入により、かつての3K(きつい、汚い、危険)と言われたイメージを払拭することで、多様な人材を呼び込み、人手不足を解消し、全国の建設現場を新3K(給料が良い・休暇がとれる・希望がもてる)という魅力のある職場として、劇的に改善を図っていく方針です。

実際のところ、ICT施工では労務の縮減効果が出ており、工事全体となる起工測量から電子納品までの延べ作業時間は、土工事や河川の浚渫工事では約3割縮減、舗装工事では約4割縮減効果が見られています。

その一方で、地域を地盤とする中小建設会社では、ICT活用工事を経験した企業数は、直轄工事受注企業全体の半数に留まっており、地域を地盤とする企業への普及の必要があると認識しています。

――民間だけでなく、地方自治体の土木技術者の不足も深刻ですね。

杉山副所長 ええ。例えば、橋梁や路面の点検等を土木技術者でない方が担当しなければならない実情もあります。事務職の方でも公共工事の発注手続きや監督業務を担当する方もいらっしゃいます。そのため、インフラDXや土木技術の知識を身につけなければ、発注者として対応することがいっそう難しくなっていくかと思います。

とくに今、ICT活用工事は大手ゼネコンから、中小建設会社へと広がりを見せています。その際、市町村の発注者もICT施工についての知識を持つことが重要です。地方自治体職員のレベル向上についても、当センターの重要な役割の一つであると認識しております。

「簡易ICT活用工事」で、中小建設会社にもICT施工を浸透させる

――今後、DXを現場単位でどう進めていくべきでしょうか。

杉山副所長 i-Constructionでは、ICT施工を行いやすい現場やトップランナーの企業から取組みを行ってきましたが、現在は工種の拡大、小規模現場への適用、さらには中小建設会社にも取り組んでいただく方向で、徐々に広がりを見せています。将来的にはさらに裾野を広げ、あらゆる現場でICT施工が当たり前に行われるようになることを期待しています。

そのために、国土交通省では簡易ICT活用工事もスタートしています。一般的なICT活用工事の流れは、3次元起工測量、3次元設計データ作成、ICT建設機械による施工、3次元出来形管理等の施工管理、3次元データの納品までをすべて実施するのが通常の流れですが、一方でハードルも高いです。

簡易型ICT活用工事の解説

そこで、3次元設計データ作成、3次元出来形管理等の施工管理や納品での活用は必須として、3次元起工測量やICT建設機械による施工は従来型を使うことも選択可能にし、できる部分だけでもICT施工を進めていくことを趣旨として、簡易ICT活用工事を進めています。

ICT施工未経験の中小建設会社の皆様にもICT施工Webセミナーを受講して頂き、簡易型ICT活用や全項目でのICT活用等、現場の実状をふまえた効果的な活用が進むことを期待しています。

インフラDXを一般の方々へ広める

――さらに、インフラDXを広めていく方法としてはいかがでしょうか。

杉山副所長 関東技術事務所構内には建設技術展示館があり、ここでは一般の方々でも新しい技術に「見て触れて知る」ことができます。来場された学生らは展示を見て、先端的な技術に驚かれることもあります。こうした側面からも将来の担い手確保や、一般の方と建設技術の橋渡しの役割も果たしていければと思います。

建設技術展示館に最新のインフラDX技術を体験できる「DXパーク」も開設

建設技術展示館には多くのICT技術も展示されているほか、現在、「Society5.0を実現する新技術」、「防災・減災・国土強靱化、インフラ長寿命化技術」をテーマに様々な技術が展示されている(写真提供:関東技術事務所)

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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