たくましく成長した若手職人
私はこれまで建築の施工管理が中心だったが、ここ2年ばかり安全専任の仕事をしている。同じ現場で長く働いていると、現場の人間の成長模様を見れる時がある。
1つ前に担当していた現場の話をしよう。
私がその現場に入ったばかりの頃(約1年前)、現場には若い作業員が居た。当時はまだまだ新人で、周囲のベテランの人たちからボロクソに言われていた。
だが、その彼は、1年間で見違えるほど成長した。顔つきは変わり、たくましく、しぶとい顔になっていた。
ボロクソに言われていた新人の姿はもうそこにはなく、周りの人間も彼を認めていて、扱いが一人前の職人並みになっていた。
この業界に限ったことではないだろうが、新人の頃は周りからの圧力に耐えられず、1週間足らずで辞めていく人も多い。私が知ってるだけでも、その現場では新人が5~6人居たが、残ったのは彼だけだった。
現場で垣間見えた、厳しい職人の世界
現場で聞こえてくる職人間の会話を聞いていると、若手が強烈な言い方をされているのをよく耳にする。
「馬鹿」「チョン」「間抜け」だの、そんなのはまだマシなほうで、何かをやると頭ごなしに怒鳴られるのが当たり前という日常が、2~3か月ほど続く。
確かにそんな言い方しなくてもいいのでは?と思うことも多々あるが、教えている当の本人は、決して悪気がある訳でも、いじめている訳でもない。
言い方がキツくなってしまうのは、「それくらいのことに耐えられないようでは、これから先とてもじゃないがついて来れないし、モノにはならない!」という”プロ意識が強いから”だろう。
それに、いじめに聞こえるような会話も、誰しもが通って来た道で、「歓迎会みたいなもんさ!」とベテランの職人が笑いながら言っていた。
確かに、危険が連続する現場作業の場合、優しい言葉遣いでは真意が伝わらないため、どうしてもキツイ言い方になってしまう、というのも一理ある。
ここで勘違いしてほしくないのは、それは教育ではなく悪質ないじめだと感じた、もしくは周りで見ていてそう感じた場合は、その現状を我慢する必要はない。絶対に周りの人に助けを求めてほしい。
いじめということではなく、職人としてのプロ意識を持ってもらうために、愛のある厳しい教えであれば、それはある一種の通過儀礼のようなモノで、大なり小なりどの業界どの業種でもあることではないだろうか。
後々聞いた話だが、どうやらその若手も「もうダメだ。もう我慢できない!!」と職長に何回も泣きついていたそうだ。その都度、「もう少し我慢して、もう少しだけ頑張ってみたらどう?」と何度もなだめすかしていたらしい。
現有勢力で現場を回すしかない
ちょっと彼が可哀そうだなと感じたことが1つあった。それは、彼が所属するその会社には、その彼と同年代の若手が居なかったことだ。
28歳の彼の上が、いきなり40代後半~50代、60代となり、気晴らしに世間話をできるような相手さえ居なかった。それを見ていたら、やっぱり会社や現場の年齢構成というのは大切だな!と感じた。
どの業界のどの会社にしても、理想通りの年齢構成で成り立っている会社は多くはないだろう。要は、現有勢力で乗り切るしかないというのが結論ではないだろうか。
どこの会社でも、現場で働く実際の作業は30~40代が中心で、次に50~60代、20代が数名いたら理想。これくらい年齢構成のバランスが取れていれば適材適所の配置ができるが、そうでない場合は、そのバランスが崩れ、どこかに無理が生じる。
それを皆でカバーし合って、補い合い、何とかしているのが実情で、どこの組織でも同じようなもんだろう。
上の人間次第で組織の体質が決まる
さらに組織の構成を考える際、年齢構成以外にも考えるべきことがある。それは、技術者たるもの、技術力を最優先で考えなければならないということ。
ただ、いくら実力主義だと言っても、年齢や経験に敬意を払い、人として常識を持って行動するのは当然のことである。
年長者に対する礼儀や態度は、一社会人として常識をわきまえなければいけない。だが、歴が長いからと言っても、自分より明らかに実力が上の若手に対しては、それなりの敬意を払ったり、態度や言葉遣いを正すことは大切だ。
それを上の人間はしっかり見て認識し、時には嫌われ役になってでも、言いづらいことや指摘はハッキリ言わないといけない。誤りを正し、正論を唱えないと、なぁなぁがまかり通るギスギスした、いい加減な組織になってしまう。
現場では様々な年齢や経歴の人間が一緒に働いている。年齢に関係なく、それぞれが最大限の実力を発揮し、バランスが取れた組織にするには、現有勢力でどうしたらいいのか?を考える必要がある。
それを考えるのは、会社の経営者や現場の責任者の仕事だと思う。上の人間次第で組織の体質が決まる。経営者や現場責任者は、お金の心配をするだけが仕事では決してないはずだ。